LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/8/28   新橋 Someday

出演:喜多+黒田+ハーディ
 (喜多直毅:vln、黒田京子:p、クリストファ・ハーディ:per)

 3人での顔合わせは初めて。なおかつ黒田とハーディは初共演だそう。
 インプロ中心と予想してたら、きっちりアレンジされた楽曲が多い。
 いや、ほとんどの曲はアドリブだったのかも。しかし耳へ届く音楽は、きれいに構築されていた。

 ジャンル分けが難しい。別に分ける必要ないか。
 ジャズというには、ダウンビートが強調されない。ラテンとも違う。広義のポップス・・・かな。
 とにかく聴いてて楽しいのは間違いない。一曲目から、かっかと体が熱くなった。

<セットリスト>
1.Everybody loves everybody
2.クレンジング・クリーム
3,Bat dance (vln+per)
4.機械の体
 (休憩)
5.リラのワルツ (vln+p)
6.ナオキチ・カリシラマ(vln+per)
7. 即興 (p+vln)
8.Op.34
9.心の板橋区

 仕切りは喜多かな。ステージへ上がったらまず、演奏前にオリンピック・ネタのMCをのんびりはじめた。
 今夜はトリオ編成を基調に、デュオを織り込む。

 サムデイは初めて行ったが、音には気を使ってるようだ。
 黒田はグランド・ピアノへ向かうが、実に大小4本ほどのマイクで音を拾ってた。

 あ、ちなみにこの店は1ドリンク・1フード+チャージの店。
 腹ごしらえしてから行かないほうがいいです。おなか一杯で、フードが食べられないから。
 ううむ。普通のライブハウスだと思ってたよ。

 アコースティック・バイオリンを、ピックアップで拾う喜多が中央に立つ。
 上手のハーディはジャンベっぽいパーカッション二つをメインに据え、ずらっとパーカッションで囲んだ。
 大小のベルや小物をスタンドからぶら下げ、アクセントでジャラジャラ鳴らす。

 一曲目は"Everybody loves everybody"。いきなりすごい。シンプルなアレンジなのに。
 メインのメロディはバイオリン。優雅にピアノが包み込む。
 パーカッションは腰掛けたカホンとシンバルで組立てた、音数少ないリズム。
 なのに音の広がりがすさまじかった。

 ハーディは裏を生かしたリズムで、ぐっと演奏を盛り立てる。
 ブラシでカホンをこすり、シンバルを軽く刻んだ。
 後半では横から取り出した、二本の木片を箸のように持って鳴らす。

 もちろんアドリブもあり。最初はバイオリンがたっぷりソロを取り、ピアノへつなげた。

 今夜は全曲の合間にMCで喜多がいろいろ喋る。
 曲紹介だけじゃなく、いろいろギャグも織り込んでた。

 続く"クレンジング・クリーム"は中島みゆきの曲
 黒田と喜多が共演したとき、演奏したそう。すごい意外な選曲だ。
 
 ソロもあるが、譜面がメインって印象だった。
 リズムがラテン風ぽくて新鮮。タンバリンを使ってたっけ?細かく覚えてない・・・。
 陰のあるアレンジながら、リズムのせいか根本は暖かった。

 いったん黒田が舞台から下がる。
 ベリーダンスのライブ用にハーディが作曲したという"Bat dance"は、バイオリンとパーカッションのデュオで奏でられた。

 「野球のバットと同じスペルですよね?」と尋ねる喜多に、ハーディが頷く。そこから話題が進まなかったので、意図不明・・・。
 「英語講座でした」とハーディが笑って、演奏が始まった。

 直径50センチくらいある大きなハンド・パーカッションを、カホンに片足乗せて、構えるハーディ。
 タンバリンのベルを鳴らすように、皮の周囲をぐるりと指でこする。
 すると、深みのある倍音が響いて驚いた。ああいう音も出るんだ。

 ほぼハンド・パーカッションのみのビートが、バイオリンを支える。
 めまぐるしくソロを弾きまくる喜多。一方のハーディは同じビートを繰り返す。
 ソロを譲られても、ほとんどビートのパターンを変えない。ただただ、同じビートを鳴らすだけ。
 なのに凄まじいグルーヴに、圧倒された。継続ビートでこんなハマったの久々だ。

 前半最後は"機械の体"。1曲目も捨てがたいが、ベストはこれかなあ。
 「自作です」と紹介した直後。「どうやって演奏するんでしたっけ?」
 と、二人に尋ねる喜多の姿が可笑しかった。
 
 イントロはパーカッションの短いソロ。そしてテンポを提示する。
 プログレ風にめまぐるしく変わるドラマティックな構成を、涼やかに3人が弾ききった。
 ときおりピアノとユニゾンでメロディが変わり、たんまりソロも。
 中盤で激しくピアノが鳴り、高音から低音まで鍵盤を駆け抜けた。
 あっというまに一部は終わり。

 後半は組み合わせを変えて数曲。
 まず喜多と黒田による"リラのワルツ"から。
 ほんのり寂しさが漂う。スタンダードの曲かな?
 ピアノがリバーブを、たんまり効かせ響かせた。
 
 喜多の作曲"ナオキチ・カリシラマ"は、鬼怒らとの"Play Post Tango & More"でも聴いたことあり。
 ダルブッカをメインにハーディが叩く。9拍子の曲だっけな。
 フリーなイントロから、テーマを奏でる。
 "Post〜"ではチェンバー・プログレ風だが、編成のせいか今回はアラブあたりのイメージが強調された。
 
 組み合わせの最後、黒田とハーディのデュオ。このインプロが白眉だった。
 静かにピアノを爪弾く。黒田がハーディへ語りかけた。
 "Good morning・・・Birds are singing!"

 ベルやシンバルをそっと揺らし、鳥の鳴き声をパーカッションでハーディが表現。
 黒田も装飾音を強く入れたフレーズで、応える。
 たぶん郊外。明るい朝の光景を演出した。

 即興をひっぱったのはほとんど黒田。アドリブ・・・だよなあ。
 まるで譜面かと思うほど、きっちり組み立てられた。
 あるフレーズが繰り返され、いきなりがらりと次の風景へ移る。
 鮮やかな場面展開がきれいだ。

 ハーディは黒田のピアノを的確に盛り立てた。
 前半1曲目で使った、箸みたいなパーカッションはここでも登場。両手で軽快にリズムを刻む。

 "Let's go to home."
 黒田がハーディを呼ぶ。
 うっすら曲調がかげり、柔らかく着地した。
 もうすこしハーディが渡り合うほうが好み。
 だけどそのぶん。黒田の色が明確に描かれた演奏だった。

 「明るい演奏の後ですが。暗い曲です」
 喜多が前置きした"Op.34"はジョージ・ロックバーグ作曲のクラシック作品。
 パガニーニに影響を受けた、バイオリン独奏曲集の一つらしい。
 喜多はいま、この曲をいろんな人と演奏しているそう。

 きっちり譜面かな?それともピアノはバイオリンの譜面見ながら、即興で演奏かも。
 アドリブ部分はほとんど意識させないプレイだった。
 たしかハーディは肉厚のハンド・パーカッションをメインに、重心低くビートを刻んだ。

 ライブ最後は喜多の曲"心の板橋区"。「板橋区」とだけ、紹介された。
 これもPlay Post Tango & Moreで昨年末に聴いたな。23区の全てを作曲する構想は、どこまで進んだろう。もし、冗談じゃないならば。

 これもダイナミックな曲調ながら、編成のおかげで耳に優しく滑り込む。
 喜多から黒田へとソロが繋がれた。
 存分にソロをとった喜多は、アイ・コンタクトで黒田へ繋ぐ。すぱっと音のバトンが渡された。
 
 ピアノ・ソロからパーカッションへ。アイ・コンタクトのパスは喜多が中継する。
 たしかこれ、全員が演奏しながらだったと思う。

 黒田と軽く頷きあったあと、喜多はハーディへ視線を投げた。
 「No」と唇だけで応えるハーディ。
 すかさずバイオリンはテーマのメロディを奏でた。

 雨が降って外はかなり涼しいのに。
 調和のとれたアンサンブルに興奮して、頭はかっかと火照ってた。
 落ち着きまでなくしたか。帰りの地下鉄は最初、逆方向に乗っちゃったよ。

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