LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/8/27  国立 No Trunks 

出演:明田川+片山広明
 (明田川荘之:p,オカリーナ、片山広明:ts)

 19時半をまわった頃に店へ入ると、リハの真っ最中だった。
 持ち寄った譜面で、進行の構成やメロディを確認する。

 明田川はオリジナル、片山は"Lady's blues"や"パリの空の下で"を準備した。
 ときたま「フリーでもかまわない」と漏れ聴こえる。いかにもこの二人らしい発言。

 明田川と片山がどのくらい共演歴あるのか、よく知らない。
 少なくともこの店では、2回目か3回目のはず。
 ぼくはデュオでは、今回初めて聴く。
 クラスターやフリーを多用するが、コード演奏に軸足を置いた明田川荘之と。
 野太くロマンティックなメロディで吠えつつも、インプロが本質らしい片山広明。
 彼ら二人がどう交錯するか、がすごく楽しみだった。

 結局リハは19時45分くらいまでやってたかな。
 片山はノーマイクのテナー・サックス一本で勝負。
 この店はピアノがないので、明田川は2台のキーボードを持ち込んだ。
 そういえば。明田川のライブはもう何度も聴いたが、アケタの店以外で聴くのも初体験だ。

 ライブが始まるまでのBGMは、明田川の2ndソロ『エロチカル・ピアノ・ソロ&グロテスク・ピアノ・トリオ』(1975)のアナログ。
 CD化されてない。聴くの初めて。初期の明田川を聴きたかったので、すごく嬉しい選曲だった。

 すさまじく黒い。日本情緒は控えめで、闇雲に前へのめりこむ。
 アフリカンなファンキーさでぐいぐい押す、強烈な演奏に感激した。
 たとえばランディ・ウエストンとかダラー・ブランドとか。あのへんのミュージシャンの名前が、ぱっと浮かんだ。今とだいぶ音楽性が違う。
 CD再発されないかなあ。じっくり聴きたいなあ。
 
 たぶんLPの片面をかけ終わり、別のミュージシャンのジャズへBGMが変わった。
 奏者がおもむろにステージのスペースへ向かったのは、20時20分くらい。客席はほぼ埋まっていた。

<セットリスト>
1.Blue Monk
2.テイク・パスタン
3.Lady's blues
4.カリファ〜My one and only love
 (休憩)
5.フリー〜Cruel days of life
6.My one and only love
7.Alone together〜エアジン・ラプソディー
 (アンコール)
8.Blue Monk〜?

 かなり大雑把なセットリストです。
 (1)、(3)、(4)の後半、(6)、(7)の前半、そして(8)以外が、明田川のオリジナル。
 こう書くとカバーばかりみたいだが、時間配分ではオリジナルを弾いてるほうが多かった。
 もっとも実際は細かなメドレーがたくさんあり、取りこぼしてる部分があります。

 明田川がイントロを受け持ち、片山が加わる構成が多い。
 むしろピアノの奔放さに、片山が引きずりまわされたシーンもいくつか。
 明田川は自分の店で演奏するときと同じ、自由奔放なステージ進行だった。

 まず"りぶるブルーズ"のようなフレーズを、明田川が幾度も繰り返す。
 オルガン奏法で白玉を多用し、粘っこく鍵盤を押さえた。

 片山はタバコをくゆらせる。
 しばらくファンキーにあおったあと、しょっぱなのメロディをキーボードが弾く。これ、"Blue Monk"のはず。

 モンクのスタンダードを題材に、お互いの立ち居地を確認するかのような演奏だった。
 いや、明田川はいつものペースか。片山が探るようにサックスを乗せた。 サックスの音がなんだかか細い。
 演奏の合間、ひっきりなしに汗を拭っていたが、今夜の片山は体調悪かったのかも。

 明田川はことさらエンディングを、あいまいにしたがった。
 ぐいぐい盛り上げドガシャン、とコーダ・・・みたいなアレンジをよしとしない。
 終わりそうになるとまた繰り返し、乗ると途中で演奏をぶった切る。

 そもそもアプローチが、ピアノ・ソロとたいして変わらない。アドリブでは、テンポが自在に前後する。
 4小節ごとに速度が倍や半分になるのもザラだった。

 いきなりの明田川節に戸惑い顔の片山。
 なかなか終わらぬエンディングに「むずかしいや」って、ぼそっとつぶやいた。

 拍手の中「オリジナルで"テイク・パスタン"」とつぶやく明田川。
 最初の一曲のみオルガン風の音色を使ったキーボード、あとはすべて別のキーボードの前へ座る。
 音色はあまり変えず、ほぼエレピ音源を使う。同じ音飾ですすむ頑固さが印象に残った。
 ストリングス音色やフルートみたいな音でも聴いてみたかった。

 これまた前半は、探るようにテナーを吹く。
 ピアノ・ソロで幾度も聴いた曲だが、だいぶシンプルなアレンジを明田川は採用。
 波打つようにテーマが形を微妙に変えて幾度も顔を出す、独特のアドリブを明田川は展開する。
 サックスはみるみる力強く歌い始めた。
 最終ブロックのメロディはカット。いきなりエンディングへ雪崩れた。

 次は片山のレパートリー"Lady's Blus"。リハで初めて明田川はさらってた。
 そんなようすはまったく見せず、滑らかに演奏する。
 サックスは低音を太く響かせ、滑らかなメロディを提示した。
 ブレイクで片山が「サビ!」と叫んで、次のブロックへ導いた。

 大中小のオカリナ独奏をイントロが"カリファ"。
 明田川のオリジナルで、"アフリカ"の逆読みらしい。

 日本情緒をほんのり漂わせたフレーズがそっと流れる。アケタとちがってNo Trunksでは硬い響き。
 フレーズごとに持ち変える奏法が珍しいのか、片山は面白そうに明田川を眺めてた。

 今夜のベスト・テイクがこれ。キーボードに変わると、一転してパワフルに化けた。
 基本は左手の6/4拍子。タイトルどおりアフリカンなリフを、黒っぽく明田川が繰り返す。

 リフへ明田川の右手と、片山のサックスが襲い掛かった。
 ソロの応酬は激しくなり、明田川の右手はもはやフレーズを弾かない。
 手のひらでバンバン鍵盤を叩き、腕を押し付けた。

 片山がつと吹きやめ、明田川の独壇場に。
 両手がクラスターとなり、がんがん混沌のままエンディングへ突き進んだ。
 
 曲が終わったとたん。
 "My one and only love"を明田川が弾き始める。
 「ここは休憩でしょ」とあきれてつぶやく片山。かまわずにピアノは続いた。
 苦笑して片山はテナーサックスを構える。明田川が目でテーマを促した。
 片山が一音吹いたとたん、キーボードを一打ち。唐突に演奏をやめてしまう。
 「ちょっと休憩します」

 豪快な尻切れとんぼ状態で、明田川がにっこり笑って1ステージ目を切り上げた。
 すたすたステージを降りる明田川。片山がどんな表情してたか、見逃しちゃった。

 前半は50分弱。後半はますます、明田川流の奔放なステージングで塗りつぶされた。
 まずはオカリナのソロから。やはり3つのオカリナを持ち替えながら吹く。

 キーボードへ演奏が移ると、合間を縫って丁寧にオカリナを足元へ仕舞った。
 激しいプレイで転げ落ちる心配をなくすためだろう。

 しばらくして片山も加わる。いっきに突き進む演奏。たぶんここはフリーだった。
 力のこもったやり取りで聴き応えたっぷり。

 一区切りついた瞬間、明田川が"Cruel days〜"のイントロを弾いた。
 切なくメロディが舞う。
 片山のサックスが太くメロディをなぞった。
 "Cruel days〜"が終わったときには、すでに30分ほどたってたはず。

 拍手の中、明田川が引いたイントロは"My one and only love"。
 「さっきやったじゃん」
 苦笑する片山。
 かまわず弾く明田川にあわせ、テーマを繋げた。
 キーボードのツマミをいじり、明田川はマリンバっぽい音色を選んだ。
 
 たしかこの辺から明田川の気ままなステージ進行が前面に出たような。
 記憶がいまいちあいまいです。
 とにかく気の向くまま、さまざまな曲を一節弾く。
 演歌っぽい曲も飛び出し、片山も乗っかってメロディを吹いた。

 といってもシリアスなステージじゃない。リラックスしてる。
 あれこれ曲が変わるたび、客席からも笑い声が漏れた。
 
 キーボードのイントロで最初に弾いたのが、たぶん"Alone Together"。
 リハで「知ってる?」と明田川に尋ねられ、片山が首を横に振っていた。 だけど即興でやるんだ、と期待したら。
 ひとしきりアドリブを加えたあと、明田川はあっさり別の曲へ移った。
 
 "エアジン・ラプソディ"(だよね?どうもぼくは"スモール・パピヨン"とごっちゃになってしまう)が始まるまで、もう1〜2曲が鍵盤で挿入されたような。
 ともあれ軽やかにテーマが鍵盤で奏でられる。
 一呼吸置いて、片山のサックスもついて行った。

 片山の長いソロ。さすがに明田川はテンポを崩さない。
 しかし自分のアドリブになったとたん、すぐさまタイム感は自在に変化した。

 明田川がぐいぐい盛り上がり、うなり声が盛大に響く。
 ときたま鍵盤のボタンをいじっていたが、めだつほど音色は変わらなかった。
 ラストはクラスターだっけ?両足をばたばた暴れさせ、明田川は鍵盤と格闘する。

 もはや片山は吹きやめ、アケタを眺めてた。
 音が途切れた瞬間、片山がテーマのフレーズを提示する。

 エンディングはたしかいろんな曲を明田川が弾き始め、なかなか終わらない。
 「しつこいな〜」と片山は笑い出した。

 ラストはクラスターだっけ?
 ふだん明田川のピアノで聴き慣れてる分、キーボードでは今ひとつ物足りない。

 高まったところで唐突にカットアウト。
 「片山広明」
 と、メンバー紹介した。
 明田川は尻で鍵盤をひと踏みし、ステージを降りた。

 客席からアンコールの拍手が続く。
 「もう一曲短くやろうか」
 明田川の提案に「終電の時間が気になるんじゃない?」とぼやく片山。もう時間は、22時45分を指している。
 
 だけど明田川はかまわない。鍵盤の前に座り、弾き始めた。
 ひとしきりテーマを弾く。ようやくステージへ戻った片山を見て、「入っていいよ」と促す。
 片山はテナーを吹かず、スキャットでテーマを歌う。珍しい。

 "Blue Monk"以外にもいろいろな曲が飛び出した。
 "蛍の光"を片山が吹き、まとまりそうなとたんに明田川がぐしゃっと崩す光景も。
 「この曲くらいきれいに終わりたかった」ぼやく片山。
 
 しかし演奏はまだ終わらない。
 もはや片山はテナー・サックスを横へ置いてしまい、コップ片手に明田川を眺めてる。
 ひとしきり独壇場でキーボード・ソロを繰り広げ、クラスターで終わったろうか。
 
 片山が日記で"明田川の毒気にあてられて"と書いてて笑った。確かに明田川の独特のペースがステージを覆ってた。
 明田川の音を聴く格好で、サックスが探り気味だったのが惜しい。
 もちろん対等に渡り合う、刺激的なシーンも充分にあったけど。

 正直なところ、ぼくは風邪気味でなんだか頭がぼおっとしてた。
 細かいとこのあいまいな記憶が、残念でならない。
 明田川が細かく場面をチェンジさせる箇所も多数あったし。

 さすがにアウェイでのライブは録音されてないようだ。
 一期一会。リラックスして、音楽を楽しんだひとときだった。

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