LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/8/14  西荻窪 アケタの店 

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 アケタの店で明田川による、月例ライブの深夜ソロ。
 今日は扇風機を忘れたそうで、曲の合間に「暑い〜」とぼやく。
 演奏中にぐいぐい暑くなり、何をやってるか分からなくなるそう。

 もっともすごい熱演の連発で、聴いてるほうは楽しかった。
 深夜ライブだとたいがいは、1セットだけ演奏される。しかし暑さで間に2回、5分ほど休憩を挟む珍しい構成となった。

<セットリスト>
1.テイク・パスタン
2.アイ・クローズド・マイ・アイズ
 (休憩)
3.侍一本ブルーズ
4.ミエ
5.セント・トーマス
6.Cruel days of life(?)
 (休憩)
7.アローン・トゥギャザー(?)
8.テツ
9.サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート(?)
  〜ミヤコシノ
 
 かなり不完全ですが、ご容赦のほど。もしかしたらこれ以外に、メドレーを挟んでるかも。

 前半2曲は馴染みの曲だが、アレンジがまったく違う。
 (1)はテンポを抑え目、訥々と語るようにメロディを分解し、音を置いてゆく。
 曲そのものは"テイク・パスタン"と分かるが、まるで別の曲のよう。

 つかつかっと明田川はピアノへ向かい、なんの前置きもなく弾きはじめた。

 じっくりアドリブを展開させ、やがてテーマへ戻る。
 明田川のうなりが盛大に、演奏の奥で聴こえた。
 後半部分は馴染みのアレンジも登場する。二種類の曲を聴いたみたい。
 いきなりの快演は、15分くらいぶっ続けで演奏された。

 続く(2)もなんだかアレンジが違う。
 テンポが揺らぎ、浮き立つ。
 キーを変えているのか。音の響きも、ちょっと違って聴こえた。

 この2曲が終わった時点で、暑さしのぎの休憩にはいる。
 (2)も10分くらいじっくり演奏されたため、ライブがぶつ切りの感じはない。

 "侍一本ブルーズ"は冒頭にオカリーナのイントロつき。
 小ぶりのオカリーナで郷愁を誘う旋律が奏でられた。
 左足で軽く刻むリズムが、かすかに耳へ届く。

 ひとしきり吹いたあとで、グランドピアノの中へ手を突っ込む。
 ピアノ線を爪弾き、低音部を平手打ち。鈍く音を響かせた。
 明田川がよくやる特殊奏法だが、なんだか今日は音がじんわり来たな。

 (3)を弾きながら、たまにピアノ線を爪弾く。
 ペダルを使わぬ、乾いた響きがいいアクセントだった。
 この曲もふだんよりグルーヴィに解釈された印象あり。

 圧巻は続く"ミエ"。
 古澤良治郎の曲"エミー"に16小節追加、別の曲として扱ったという。
 とすると、この曲タイトルは単なる今夜限りの冗談かも。

 めちゃくちゃ黒っぽくうねる猛演だった。
 テンポはさほど速いわけじゃない。
 音使いはめまぐるしく投入されるが。
 なによりも左手でグルーヴをぐいぐい牽引し、右手であおる。相互でノリを盛り立てる。絶妙のアレンジだった。

 "ミエ"のいわれを語った後、再びオカリーナを手に取った。
 今度は大小のオカリーナを使い分ける。
 最初は日本調のメロディだったが、やがて"セント・トーマス"のフレーズが現れた。

 左足で軽くリズムを取るけれど、興がのるとしばしば足のリズムがやむ。
 なぜなら吹いてるフレーズが4/4をまたぎ越して、そうとうにフリーな小節数へ増減してたから。
 ソロだからこその奔放なアドリブだろう。

 (6)は明田川のオリジナル。最近作られたレパートリーで、今ひとつ曲とメロディが一致してない。
 たぶん、"Cruel days of life"と思うが・・・。
 切ないメロディが解体されて、幾度も舞い上がった。

 ここでまた5分ほど休憩。
 ライブの緊張感は維持され、ほんとうに「一休み」って雰囲気。
 あとは最後までMCなし。ひたすらピアノに指を叩き落す。
 
 "アローン・トゥギャザー"は曲名が自信ない。
 テーマらしきメロディから推定してる。
 今夜の曲の中で、もっとも変貌ぶりが顕著なアレンジだった。

 旋律は寸断され、合間にたんまりとアドリブが加わる。
 ノリが持続しても、メロディそのものは自在に展開し、着地点を与えずにぐるぐるとフレーズが踊った。

 拍手に応える間も無く、"テツ"へ。
 この曲もかなりテンポが前後させた。
 まずテーマをきっちり弾いた。そしてフレーズごとでゆったり弾いたり、倍テンにしたり。
 ペダルを効果的に使い、曲の表情をめまぐるしく変える。
 アレンジが一杯詰まった引き出しを、片端からあけて見せるよう。

 最後の曲はまずオカリーナを吹いたかな。
 ピアノでぽろんと和音を弾いて、そこへオカリーナのメロディを載せる。
 ひとしきり提示したあと、ピアノソロへ戻った。
 "ミヤコシノ"へ移ったのは、正直どこか気づかなかった。
 終演後に明田川さんに最後の曲名を伺ったとき、「メドレーだよ」と言われて初めて分かったしまつ。

 "ミヤコシノ"はアルバム"ロマンテーゼ"(1995?)に収録のオリジナル。
 以前はオーケストラのレパートリーでもあったという。
 しかしアンサンブルが入るきっかけが難しいらしく、しばらくやってないそう。

 クライマックスはクラスターへ入る瞬間。
 いわゆるファンキーなジャズ風のメロディが、肘打ちに溺れる過程がすさまじくスリリングだった。

 左手は継続してランニングし、右手のフレーズが突然クラスターに変わる。
 クラスターが次第に主役へ変わっても、まだまだ左手はランニング・フレーズをキープする。
 
 が、混沌さがついに押し勝った。
 左手もクラスターへ。
 しかしランニングへ戻るそぶりで、一気に混沌へずぶずぶ変化しない。
 
 やがて全てがクラスターで打ち鳴らされた。
 明田川は目をきつく閉じて半立ちになり、激しく両腕をピアノへ叩きつける。
 
 最後はぽろんと優しく鍵盤を撫ぜた。
 コーダがあると見せかけ・・・
 「終わりです」。
 にっこり笑って、唐突にライブの幕を下ろした。

 明田川の深夜ライブは幾度も聴いてるが、ここまで派手にアレンジが変わるのって、そうはない。
 だから今夜のライブは、かなり新鮮だった。

 前日、りぶるでソロをやってたみたいだから、その連続性が影響してるのか。
 どんなに変貌しても通低するコンセプトに代わりはない。逆に違うアレンジで聴けた分、よけい楽しい。

 例に漏れず今夜も録音していた。
 先日の欧州ツアー音源のリリースを準備してるみたいだが、ピアノ・ソロのアルバムも、またリリースして欲しい。
 いままでに何作も出ているさ。だけど、もっといっぱい聴きたいんだ。古いのも、新しいのも。

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