LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/8/13  大泉学園 In-F 

出演:鬼怒無月ソロ
 (鬼怒無月:g)

 彼のソロを聴くのは昨年12月のBrockheads以来。鬼怒自身もソロ形式はしばらくぶりらしい。
 演奏中にぞくぞく客が来店し、満員の盛況だった。

<セット・リスト>
1. 即興#1
2. 即興#2
3. 即興#3
4.My back pages(ボブ・ディラン)
5.  ? ("エジプト他"の曲)
 (休憩)
6.Juke(リトル・ウォルター)
7.Stone flower(A.C.ジョビン)
8. 即興#4
9.The Saga of Harrison Crabfeathers(スティーブ・キューン)
10.La Pasionaria(チャーリー・ヘイデン)
 (アンコール)
11.Three Views of a secret(ジャコ・パストリアス)
12.My back pages(ボブ・ディラン)

 今夜はガット・ギターを2本のみ。曲によって持ちかえる。
 ボトル・ネックなどの技は何もなく、ストレートなギター・ソロだった。
 いちおうアンプに繋いでたが、ペダル一個とマルチ・エフェクター一台のみのシンプルな結線。
 エフェクターは軽くリバーヴをかける程度。ペダルは踏みっぱなし。
 ほとんど曲間のチューナーとしてのみ、エフェクターを使ってた。
 こだわりのアレンジだと思ってたら、「まだ使い方をマスターしてない」ためとMCあった。あれま。

 「あまり何をやるか決めてません」
 ボソッと喋って、いきなりの即興3連発。"Quiet life"路線で、曲が中心と予想してたので、すごく嬉しい。
 たまたま昼間まとめて鬼怒の音源を耳にしており、彼の即興を聴きたくてしかたなかったので。

 前半はほとんどMCなし。淡々と演奏が進む。
 弾きはじめる前、ふっと宙を見つめる鬼怒。
 きっかけを掴むと、あとはひたすらアコースティック・ギターと向き合った。

 最初の即興はちょっとブルージーに。親指と人差し指でピックを持ち、一弦を幾度も開放で鳴らす。
 これをベース音に。中指と薬指で高音弦をすくい上げ、メロディを奏でる。

 同様の奏法は今夜、幾度も登場した。ピックを口にくわえ、スリー・フィンガーっぽく弾く。
 もっともアルペジオは皆無。親指で低音弦を執拗に引っかき、残りの指で旋律を受け持つ格好だ。

 開放で低音弦が鳴るのに、左手は忙しくネックを上下する。
 したがって和音がどんどん不安定に響く。
 アグレッシブで不安定さがなんともサイケで、刺激いっぱいだった。

 それぞれの即興は10分くらいかな。
 ギターを持ち替えた"即興#2"は、2〜3つの音の連なりがテーマか。
 あちこちポジションを替えて弾き、透明に展開する。

 最初は3連符中心と思ってたら、どんどん音が省略。しだいに装飾音符でちょっと引っ掛ける形に変化した。
 全てがこのパターンじゃない。もちろん手数多く弾きまくる部分も多数。

 "即興3"ではミニマルに展開したイメージある。
 ほとんどピックを使わずに弾いてたと思う。
 指を固定させた音使いが印象に残った。

 あるポジションで押さえると、左手はストローク。右手は中指だけをひょこひょこ動かし響きを変える。
 ときにそのポジションのままフレットを変え、転調する。
 音の構造は変わらないのに、響きがメカニカルに変わるさまが面白かった。

 もちろん、この構造にこだわらず多彩な即興を繰り出した。ここに書いたのは、たまたまぼくが印象に残った一瞬です。
 いつものとおり、興が乗るまま奔放に音楽は変化する。
 指癖みたいなフレーズが特に出ない。ある意味、すでに作曲されてるようだった。

 今夜最初の曲は、ディランの"My Back Pages"。
 鬼怒はこれまで、キース・ジャレットのバージョンしか聴いたことないそう。意外だった。
 演奏前に眺めたディラン詩集で、始めて歌詞がハードだと知ったという。

 サウンドはかなり熱く突っ走る。ストロークが炸裂した。
 足置き台に載せた右足、次にペダルから下ろした左足。順にきっちりリズム踏みギターをかき鳴らす。
 かっこよかった。ただし鬼怒は満足いかなかった様子。アンコールへ繋がる。

 前半最後は常見に教わったという、エジプト"他"地方の曲。前半セットでは曲名を鬼怒も思い出せず。
 休憩挟んだセカンド・セットで曲名を紹介してくれたが、長くて覚えられませんでした・・・ごめんなさい。

 譜面無しでそっとメロディを静かに奏でる。
 微分音ある曲かも知れないが、アコギ一本だとシンプルに聴こえた。
 アドリブも挿入し、いくぶんテンポとテンションが上がった。あまり長く引っ張らずに終わった気がする。

 休憩はけっこう長め。
 セカンド・セットは、リトル・ウォルターのストレートなブルーズから。

 歌なし、アコギ一本。ともすれば単調になりがちなアレンジだが。
 歯切れ良くカッティングやストロークを決め、めまぐるしくコードが変わる。
 まったく間延びせずに弾き切る、さすがの構成力だった。

 MCではヒットで慢心したウォルターが、マディ・ウオーターズらに嫌われたというエピソードも紹介。知らなかった。
 リトル・ウォルターって、もっと地味なおっさんかと誤解してた。
 
 後半は曲が多め。さくさく進行したので、あらかじめ決めてたんだろう。
 どれも前半に劣らず、力のこもった演奏ばかり。

 "Stone flower"はなじみのレパートリーだが、猛烈なストロークの迫力がすごかった。
 ネックの上を指が素早く動く。ライブだと迫力が違うな。
 
 "即興#4"でも、音楽の組み立てが面白い。
 しばらく宙を見て考えた後、弾きだす。
 あるこみいったフレーズを提示。繰り返す。さらにもう一度。
 ・・・今度はちょっとフェイクされている。

 フェイクから別のフレーズが産まれ、そのフレーズを数回繰り返すと、また別のフェイクに変わってる。
 しだいに音が変貌し進化していった。

 "The Saga of Harrison Crabfeathers"はPost tangoで聴いたが、ソロでは初体験。
 これのみ、譜面を使って演奏した。
 構築された曲ってイメージだったが、今日の演奏はもっとサイケな展開と印象受けた。

 2セット目最後"La Pasionaria"の演奏前に、ちょっとMCあり。
 ヘイデンの紹介ついでにデイブ・ホランドなど、好きなベーシストの名前をいくつか挙げていた。
 ちょうどこの昼間に、ホランドを聴いたとこ。偶然がおかしかった。

 演奏はダイナミック。テーマを静かに奏でるが、中盤のアドリブでは強いストロークが登場。
 一弦をぐいっとネックの外へ飛び出す、激しいチョーキングはここだったかなあ?

 けっこういい時間になってたが、アンコールの拍手に応えてくれた。
 「久しぶりにやる」という"Three Views of a secret"。 
 めまぐるしいフレーズの変換が楽しい。
 ラストは静かにフェイド・アウトさせた。

 弾き終わったとたん、鬼怒が「久しぶりだとけっこう曲を忘れてますね。出来が納得いかないので、もう一曲やらせてください」と言い出す。
 観客からはもちろん、歓迎の大きな拍手。

 何をやるか考えていたが「さっき、チューニングがいまいちだった」という"My Back Pages"の再演を。
 アドリブは控えめで、テーマのフェイクが中心。

 "即興#4"で聴かせたごとく、あちこちに表情が変化する。
 が、ここでは常にテーマへ戻る。一本芯が通ったところが"即興#4"と違う。

 ひさびさに鬼怒のソロを聴いた。
 アコギ1本でフルセットのライブを成立させるフレージングの多彩さと、構成力が素晴らしい。
 てっきり曲がメインで即興なしと思い込んでたので、さまざまなインプロを提示もすごく嬉しかった。

 鬼怒は一礼して椅子から立ち上がり、今夜のライブが終わる。
 店の時計は、23時をさしていた。

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