LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/7/11   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ
 (明田川荘之:p、オカリーナ)

「今日は早めに始めようか」
 明田川荘之がスタッフへ一声かけて、ピアノに向かった。たちまち客電が落とされる。
 観客は数名。時間は0時をまわったころあい。
 席について一息つく間もない。ちょっと戸惑った。

 ピアノの前に腰掛けて、無造作にピアノを弾く明田川。
 少し早めのテンポで、耳馴染みあるフレーズが広がった。

<セットリスト>
1.I closed my eyes
2.トッカータとフーガ
3.侍一本ブルーズ
4.Soul eyes
5.Cruel days of life
6.りぶるブルーズ
7.エミー
8."即興(?)"

 最初は明田川のソロライブで、最近の定番な一曲。
 ころころアドリブが弾む。せきたてられるようなピアノだった。
 
 一曲が終わると、ぼそっと曲を紹介。
 オカリーナをいくつか取り出した。
 まずは中ぐらいの。そして大きなオカリーナへ持ち替えて。彼のオリジナル(2)が演奏された。
 今夜はどの曲もテンポが速め。明田川は俯いた姿勢でオカリーナを奏でる。

 しばしソロを展開させたあと、小さなオカリナへ持ち替えた。

 甲高い音が店内へ響く。ちょっと身体を起こした。グランドピアノの中へ音を飛び込ませる。
 ピアノの残響ペダルを踏んで、オカリーナの響きを拡げた。
 すぐ近くで聞いてたから、余韻がじっくり耳へ届いて心地良いったら。

 オカリーナの消え去る音がピアノ線に共鳴し、ぴりりっとかすかに震えた。

 「次は『侍一本ブルーズ』」
 拍手をするまもなく、「トッカータとフーガ」が終わるとたちまち次の曲へ。
 セットリストが書かれたメモを、ちらっと見て曲名を告げた。

 今夜はほぼ全曲で曲名を紹介。ここ数年、馴染みのオリジナルだ。
 "侍一本ブルーズ"のイントロはオカリーナだっけ?ごめん、ちょっと覚えてない。
 足元に転がしたアフリカン・ベルを振り回し、ピアノへ入ったと思う。

 穏やかで土の香りがするフレーズが素晴らしい。もう、音世界にのめりこんで聴いていた。
 トレードマークのうなり声も、このあたりから前面に出てたはず。

 通奏低音のように、びいんと声が響く。ピアノのソロを牽引するかのよう。
 かなり声のボリュームも上がり、ライブ終盤ではピアノと音量を張っていた。
 
 「マル・ウォルドロンの曲で"ソウル・アイズ"」
 最近のアケタ深夜ライブでは、あまり聴き覚えのないレパートリー。
 CDテイクもある、得意のレパートリーらしいが。
 
 ちなみに前夜は市川りぶるでかなりソロライブが盛り上がったみたい。ぼくは明田川のピアノをアケタでしか聴いたことがない。それもほとんどが深夜ライブにて。
 他の場所ではどんなライブをしてるんだろう。ふと、違う場所でも聴いてみたくなった。

 さて、"Soul eyes"。これがまた、とびっきりの演奏だった。
 浮遊感あるアドリブの美しさもさることながら、コードの響きがむちゃくちゃ快感だ。
 ほんのり黒っぽさを残しつつも、むしろ豊かなうねりが印象に残る。
 ペダルを踏みっぱなしで広がる和音が耳を優しくくすぐった。

 「次はオリジナルです。"Cruel days of life"」
 俯いたままつぶやく声は、ほとんど聴き取れない。"Cruel〜"は比較的新しい曲。
 そうか、これが"Cruel days of life"か。何度もライブを聞いてる割に、なかなか曲名とメロディが一致しない。記憶力ないもんで。

 舞い上がる切ないメロディがたまらない。
 ソロ・ピアノの利点を最大限生かし、興の乗るままテンポを自在に変化させる。
 時にゆったりと弾き、次の瞬間フレーズを注ぎこむ。暖かいメロディにやられた。

 「次の曲で最後です。"りぶるブルーズ"」
 え、もう?ライブ始まって、45分くらいしかたってないのに。
 なんだかあっけないなあ。こっそり思ってた。

 が、この曲こそクライマックス。ぼく、この曲大好き。
 市川のライブハウス"りぶる"に捧げた本曲は、フリーのようなブロックと美しいテーマのメロディが交錯する。
 降り幅の大きい明田川の才能を代表する作品だと、ひそかに思ってます。
 そして今夜の演奏は、その二つのブロックが絶妙なバランスで噛みあった。

 イントロはオカリーナ。大小中を使い分け、穏やかなファンキーさを見せた。
 こんどはさほどエコーを響かせない。左足のスニーカーで、ぱたぱたとリズムを踏む。

 静まり返った店内に、明田川のオカリーナと足踏みリズムだけが響く。ライティングは変わらない。が、まるでそこへスポットライトがあたったみたい。

 時折、足踏みのテンポが変わる。
 完全アドリブじゃなく、なんかの曲を演奏してたのかも。たっぷりとオカリーナ演奏を味わえた。

 オカリーナを置いて、ピアノへ指が載る。ごつごつと鍵盤へ指を叩き付け、クラスターを匂わせた。
 盛大に唸りながらテンションを上げ、爆発しそうになった瞬間・・・すっと綺麗なテーマに。

 しばしメロディを奏で、穏やかな空気を作ったとたんフリーキーな演奏へ。
 両方の世界を奔放に並存させた。この曲だけで、たぶん15分くらい演奏してたはず。

 ライブの時間は短めだけど、充実してたな・・・と一息ついたとたん。
 ピアノに座ったままの明田川が、次の曲を弾き始めた。アンコールってことか。

 あまり聴き覚えのないメロディ。不思議なリズム感だ。たぶん4/4だろうけど、ふうわりと揺らぐサウンド。
 古澤良治郎の作曲、"エミー"っていう曲だって。中央線ジャズ界で当時(80年初頭かな?)大ヒットしたと言う。

 実際のキーはF#だが、Fに移調して弾いたそう。
 古澤と明田川による録音もあるが、残念ながら未聴。先日のアケタの店30周年ライブで、本田俊之がゲストの夜にひさしぶりの演奏をしたみたい。
 今まで味わったことのない、魅力的な曲だ。ぷかぷか浮かぶメロディがユニークで楽しかった。

 そして最後の曲は、高速で闇雲に鍵盤をひっぱたく。たぶんフリーじゃないかな。
 しょっぱなから肘打ちが飛び出し、みるみるハードにがしゃごしゃ盛り上がる。

 上下へ忙しく指が飛び交い、ひっきりなしに肘打ちが鍵盤へ落とされた。 ピアノへのめりこんで、両肘でがんがん打ち鳴らす。
 
 「終わりです」
 唐突に演奏が終了。にこっと笑って、明田川はステージを下りた。そのままビールに口をつける。
 およそ75分のライブだった。
 
 なんだか久しぶりに明田川のピアノを聴いた気分。(4)や(7)など、新鮮なレパートリーも味わえ、選曲もメリハリ利いている。
 演奏はもちろん充実。彼の豊かな音楽世界へのめりこめた。
 ひさびさのライブをじっくり味わえたよ。ジャズはこうでなくちゃ。

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