LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2004/6/27 新宿 Pit-inn
出演:藤井郷子オーケストラ
(藤井郷子:p、早坂紗知:ss
as、泉邦宏:as、松本健一:ts、木村昌哉:ts、
吉田隆一:bs、田村夏樹、福本佳仁、城谷雄策:tp、
はぐれ雲永松、東哲也、高橋保行:tb、永田利樹:b、堀越彰:ds)
藤井郷子オーケストラを聴くの初めて。動員がまったく読めなかったが、今夜はほどほどの入り。40人くらいかな?
20時をちょっとまわった頃、メンバーが静かにステージへ上がった。
ピアノのそばに座った早坂紗知が、チューニングを始める。
それをきっかけに他のメンバーも思い思いに楽器を鳴らし、チューニングを。あんがい珍しい光景だ。
メンバー全員、一人一人にマイクが立っていた。
今夜はきっちりPAを通していたが、アコースティック仕立てでも聴きたいな。せいぜい、ウッドベースとピアノにマイクを立てるくらいで。
演奏中にミュージシャンの立ち位置と逆方向から音が聴こえるのは、なんだか違和感あった。
特に挨拶もなく、チューニングから速やかに演奏へ繋がった。
まずは"Blue
Print"。静かな印象をまず受けた。
藤井はつとピアノから立ち上がり、下手に置かれた譜面台の前へ。つまり指揮者の役も。むしろ指揮がメインだった。
腕を降って拍子を提示するが、ほとんどのミュージシャンはそれを見ない。
キメの多い変拍子っぽい譜割を、譜面台と首っ引きでこなした。
"Blue
Print"は何拍子だろう。聴いててしょっちゅう頭の拍を見失う。
サックスとトランペット、トロンボーンがそれぞれ違う譜割で絡み合う、複雑なアレンジが楽しい。
藤井はキューをたびたび出す。指を数本立てて、場面展開を指示した。
だけどコブラやDCPRGほど鋭くない。合図をきっちりミュージシャンに認知させ、数小節置いて切り替える。
彼女のオーケストラはいわゆるファンキーさが希薄。それよりアレンジに軸足を置いていそう。
常に音楽のどこかで、緊迫感が漂っていた。
ソロをふいてないミュージシャンも、じっと譜面を見つめる。タバコをふかすでもなく、たまにビールをあおるくらい。
音楽に似たミュージシャンのストイックさが新鮮だった。
テーマ部分は豊富な管群を使い分けたアンサンブルなのに、ソロではすぐさま音数が減る。
"Blue
Print"でまずソロを取ったのは早坂。アルト・サックスで鋭くアドリブを提示した。この曲でのソロは彼女だけじゃなかったかな。
ソロのバックを支えるのはドラムとベース、そしてピアノのみ。
とたんにカルテット編成になる落差に驚いた。
どの曲もソリストまで、事前に決まってるみたい。アレンジが切り替わるとすっとソリストが立つ場面が多い。
指揮者の判断で尺が長くなることはあっても、根本的にフリーな部分はほとんどなかったようだ。
早坂のソロが終わると、こんどはベースのソロ。
ピアノもドラムも弾きやめ、無伴奏で静かに永田利樹は弦をこすった。
イントロ部分でミュージシャンらが手持ちのオモチャを振り回し、フリーな空気を作る。あれは続く"エクザイル"でだったか。
ここで長めのソロを取ったのは松本健一。すっと立ち上がり、テナーをふいた。
確かここでも伴奏はリズム隊のみ。静かな空間が産まれる。
ピアノがアレンジの軸じゃないか、ってライブを聴く前は思ってた。
だけどまったく違う。逆にピアノはほとんど弾かれない。長いソロすらなかった。
曲の切れ目で、ひっきりなしに藤井は譜面台の前へ立つ。
指を立てて構成を知らせ、次々に演奏を紡ぐ。
曲を操る行為こそが、彼女の役割だった。
ここまで曲が終わっても、拍手がなくて意外だった。
ぼくは両方とも初めて聴く曲で、拍手しそびれちゃったよ。
エンディングもストイックなつくりで、曲の着地点はまるで一時停止したかのようだった。
3曲目"Pakonya"で、やっと知ってる曲が登場。
この辺からちょっとアンサンブルの要素を、前面に出した気がする。
そういえば。今夜の曲は3拍子がなんだか目立つ。たまたまかな。
ダンス・ビートでありながら、踊らせる要素は皆無。むしろ優雅さが強調される。
ここまで指揮はすべて藤井。
だが続く"マサイの舞"だけ、田村夏樹が指揮をとった。
しょっぱなからフリーキーに。管奏者はマウスピースだけで演奏する。サックス奏者は、ネックをつけてる人も。
ドラムのアフリカン・ビートを随時挿入し、コミカルに進行させた。
マウスピース奏法はたまに見かけるが、これだけ大編成は初めて。
音程がかなり明確で、ノイジーさはなく面白い。
ソロは泉邦宏。かなりメロディアスかつワイルドで、かっこいいマウスピース・ソロだった。お見事。
アドリブする光景が面白いのか、藤井も田村も大笑いしながら彼の演奏を眺めてた。
4曲続けたところで、やっとMCが。
得意じゃないから、とメンバー全員にマイクを廻し、自己紹介させた。
田村が藤井と二人で行う「一時間ライブ」の告知をする。ところが藤井のソロアルバムのタイトルが思い出せず、詰まってしまう。
藤井は情けなさそうに、ピアノに突っ伏してたなあ。
前半最後は再び藤井の指揮に戻り、"Sora"を。
イントロは早坂のソプラノ・サックス。循環奏法を軽く取り入れ、涼やかに吹いた。
テーマのあと、アドリブしたのはトロンボーンかな?
この間もバックの管群がカウンター・メロディーをいれる、オーケストラらしいアレンジだった。ぼくの好みはこういう曲。
ただし前曲でだれもがマウスピースをはずしたもんだから、ピッチはかなりめちゃくちゃ。音程のズレがこそばゆかった。
短い休憩を挟んだあと、メンバーはチューニングを。
さすがにこんどはアンサンブルがきれいに鳴る。
一曲目のイントロも、早坂のソプラノ・サックスだったと思う。
後半セットは大編成を生かしたアレンジが多かった。
ソロになるとリズム隊のみなシーンもあったが、ほとんどはアドリブ中もオケがバック・リフをこまめに入れた。
ドラムのもっと派手なパターン転換を期待したが、むしろメトロノームのようにきっちり刻んでた。
構築されたアレンジだからこそ、ドラムが音楽を振り回す自由度の演奏も聴いてみたい。
どの曲も同じように藤井がポイントでリフを入れる。
曲紹介のMCがなく、後半のセット・リストは不明です。ごめん。
藤井はほとんどピアノを弾いてなかったな。
圧巻は後半3曲目。これが今夜のベストだった。
アレンジ自体はさほどトリッキーじゃない。だが、一本筋が通ってる。
ソロは木村昌哉。すっくと立って延々とソロを吹き続けた。
藤井がソロへカウンターで、さまざまな編成のオケをぶつける。メロディ・パターンを切り替えて、曲を展開させた。
その間、ずっと木村はソロを取る。
アンサンブルの構築とアドリブの自由度が絡む面白さだった。
場面ごとにトランペットやサックスがカウンターのソロも、藤井の合図で加わったはず。
だが本当の盛り上がりは、泉と木村のツイン・アドリブだった。互いに即興でわたりあう。
藤井が次々奏者を指差した。
早坂、松本、と立ち上がっては独自にソロを始める。
木村と泉のソロに、どんどんアドリブが重なった。
サックスを全員立たせたあとは、トランペット、トロンボーンへ。
藤井のキューはとまらない。
最後は管奏者が皆、多重ソロをぶちかました。
きっちりコントロールされたアンサンブルが目立つ今夜のライブで、唯一の混沌さが産まれた。
3曲目が終わってMCへ。今度は藤井が全員のメンバーをユーモラスに紹介した。
リズム隊のメンバーを紹介するときに、
「今日のリズム隊は美男美女を揃えました」
と、さりげなく喋る。すかさずメンバーからツッコミ入ってたっけ。
後半の最後は"ガンボス宇宙を行く"。指揮は田村がつとめた。
トロボニストの一人がSFチックなストーリーを朗読し、その合間に音楽が入る。
かなり冷静な出来だった。SEっぽく音楽を挿入したり、テーマを吹いたりと音楽の役割はさまざま。
ポイントで田村がキューを送って、朗読を再開させる。
切り替えタイミングに一呼吸入るため、空気が弛緩気味だった。もうすこしキビキビ変えてたら、雰囲気は変わってたはず。
淡々と演奏が続き、後半セットが終了。なんだかあっけなかった。
アンコールもなし。
初めてこのオーケストラを聴いたがアドリブのフレーズよりも、アンサンブルの巧妙さが印象に残った。
個性の強いメンバーを集めるほど、緊張感が増しそうだ。