LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2004/6/20  飯田橋@東京日仏学院

 〜フェット・ドゥ・ラ・ミュージック2004〜
出演:Spank Happy
 (菊地成孔:vo.cd-j、ドミニク:vo)

 スパンクスはずいぶん久しぶり。02/5/25のタワレコ・インストア依頼だ。
 2ndアルバム前後のライブをすっぽり抜けてるんだ。
 今日は3代目ボーカリストのお披露目ってことで、完全にスパンクス目当てで時間ぎりぎりに行ってみた。他にも面白そうな演奏やってたんだが。

 今夜のスパンクスは他のバンドを挟んだ二回公演スタイル。

<1st Set>

 会場へ到着するとステージでは、ギニアからガンビアまでまたがった部族出身という、アフリカのパーカッション・バンドYOUL & WARA・BAがジャンベをぶら下げて盛り上がってる最中。
 木陰にステージをあつらえた屋外ステージと、こじんまりした建物での屋内ステージ、二種類を用意してたみたい。
 
 YOUL & WARA・BAは屋外ステージにて。PAを通して澄んだタイコのポリリズムが響き渡る。
 フランスのイベントでこういう民俗音楽としてのアフリカ音楽聴くのは抵抗あるが・・・。リンガラなら、素直に聴けたのに。
 最前列で白人男性が、完全にステージへ背を向けて踊りまくる姿が釈然としない。
 
 演奏自体は全員がパーカッション奏者で、伸びやかなボーカルを挟みつつ時間を押して盛り上がった。アフリカ音楽は好きだから、素直に楽しい。菊地ファンはどう聴いたんだろう。DCPRGと似た音楽ってことで楽しんでたらいいなあ。

 だいたい30分くらい押したかな。ライブの最後で、それまで座ってた観客を立たせ、ステージ前で踊らせる。
 ジャンベを叩きながら去るメンバー。
 とたんにステージ前の密度が上がった。本来の客層であるフランス人たちはどこかへ消え、スパンクス目当てな若者でみっしり埋まる。

 ステージは低めで、ほとんど見えない。しばらく待ってると、前で立ってた人たちが菊地らを見つけたらしく、拍手が起こる。
 飄々と二人が登場した。

 菊地は黒のスーツ姿。鏡面仕立てのサングラスをかけている。すごい胡散臭さが面白い。
 ドミニクは黒の超ミニと、体の前を布で覆う(すまん、ファッションに疎くて、なんて服か分からない)臍だし姿。
 目鼻立ちがくっきりしてて、気が強そうな美人だった。
 体の前にたらした髪の毛先を金色に染め、縦ロールが入ってる。

<セットリスト>
1.麻酔
2.Fame
3.子供たちはロシアで遊ぶ
4.ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ
5.Angelic
6.Phtsical

 CD−Jからイントロが流れ、無言で菊地はドミニクを指差す。少し歓声が起こった。
 何人もの客が、デジカメや携帯を取り出してステージを映しだす。混んでる中で、邪魔臭かったなあ。
 菊地はかなり憔悴してた。途中でサングラスをはずしたが、なんだか左目が腫れて見えた。
 
 一曲目は意外だった。ドミニクのお披露目ってことで、女性ボーカルのソロを選んだのか。
 菊地はタバコに火をつけてふかす。香水をポケットから取り出し、手首に一吹き。悪徳マネージャーみたい。

 ドミニクの歌声は前任ボーカルと少し似た、高音がきれいなタイプ。
 初ステージとは思えぬ、堂々としたステージングだった。視線は凛と前を見つめ、曲にあわせて身体を揺らす。

 ちなみに今夜のステージは全て口パク。菊地もドミニクも、生声で歌う事はなかった。
 
 香水を客席へ振りまく菊地。・・・ところが今日は風が強く、すぐさま横へ吹き流されてしまう。
 数度繰り返したが、結果は同じ。苦笑して菊地はポケットへ香水瓶を戻した。

 一曲目が終わったとたん、MCもなく次の曲へ。重たいテクノ・サウンドが響く。
 曲間でドミニクは腰を降りながら体を揺らした。時に手を上げ、観客へ手拍子を促す。
 歌が入るキューを菊地が送るものの、ほとんど必要ないみたい。単に菊地のボディ・アクションとしてのみ、キューが機能してた。

 どの曲も基本はCDのトラックにドミニクのボーカルをかぶせた格好。
 "Fame"などのハーモニーで、前任者の歌声は残ってるようだが・・・。
 声質が似てて、いまいち聴き分けられない。

 "ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ"は、ドミニクが歌う部分はフランス語(?)に直された。ここまで日本語の歌詞を暗譜で歌ってたから、てっきり口パクじゃないと思ってた。
 しかしさすがにズレがここで、いくつかあり。
 譜面をちらちら見ながらドミニクは喋るが、ひたすら言葉を連ねる曲なので、口と声があってない部分も。
 だけどほとんど気にならない。すごいな。
 ちなみに菊地の歌詞も、ちょっと変えてたようだ。

 "ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ"や"Angelic"では歌に合わせた、菊地の軽いポーズがさりげなく良かった。
 そういえば"〜カイセキ"で、菊地は再び香水をステージに振りまこうと努力。ドミニクが歌ってるときね。
 だけどやっぱり風が強い。「ダメだな」と唇が動いた。

 ラストは"Phtsical"。菊地は上着を脱ぎ捨て、腕を曲げてマッチョっぽいポーズを繰り返す。
 今にも倒れそうな細腕なので、なんともパロディな動きだが・・・あれは狙ってたのか。
 ドミニクも腕を降りながら歌う。わずかな動きだが、ほんのりセクシーさがいい。
 
 アウトロの演奏が流れる中、二人はすっと舞台を去った。
 結局、MCはまったくなし。つまり肉声ゼロのステージ。だいたい30分くらい。

 アンコールの拍手がぱらぱら鳴る。あとの出演者もあるし、ダメだろと思ってたら。ふっと菊地だけがステージへ。
 マイクを使おうとしたが、入ってない。口に手を当てて、大声で喋った。
「8時くらいにここへ集まって。次はアンコールにも応えるし、ドミニクの声も聴かせるから(笑)」
 
<2ndセット>

 時間は20時をまわった。とっぷり暮れた風が強い夜。空気がなんともねっとり湿っぽい。
 
 あれから屋外ステージは使われなかったみたい。スパンクスを待つ観客が、じっとステージ前のスペースへ座って待つ。
 横のホールでDJがノイジーな音を流してるのが、ほんのり聴こえた。そのステージが終わるまで待ってたのか、野外ステージは空白のままだった。
 つまりステージ前は菊地ファンで一杯。主役であるフランス人たちは、客席スペース後方の机で、好き好きに会食してた。
 30分くらい押したとこで、前の観客が立ち始める。開演の合図でもあったのかな?

 CD−Jとマイク二本。
 それだけの簡素なステージに、スパンク・ハッピーが再び姿を現した。

 菊地は服装をさっきと変えてない。だがめがねは素通しに変更。腫れぼったさは特にない。
 ドミニクはトップスをピンクに変え、右肩から黒い布を下げていた。

<セットリスト>
1.麻酔
2.Fame
3.子供たちはロシアで遊ぶ
4.ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ
5.Angelic
6.Phtsical
(アンコール)
7:インターナショナル・クライン・ブルー

 ステージングは初回公演とまったく同じ。全てがリップ・シンク。
 "麻酔"では菊地が自分のマイクをつつく。バッテン印をPAへ幾度も合図し、マイクを殺すよう指示した。

 いくぶんドミニクはリラックスしたか、ボディ・アクションは初回よりも派手だ。
 手拍子を促す。なんども手を上で打ち鳴らして。
 もっとも密集した立ち見スペースなので、そんな余裕はどこにもなし。

 こんどは菊地が香水を取り出さない。諦めたのか。
 一曲目の"麻酔"をドミニクが歌う中、タバコをふかす仕草まで初回公演といっしょだった。
 ドミニクのリップ・シンクぶりはちょっと甘くなってる。
 マイクと口の距離をときどき大きくあけてしまう。ボーカルの音量がまったく変わらないから、口パクって強調されるんだよね。

 "ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ"のみ、譜面台を使うのも初回公演と同じ。ドミニクが覚えてないのかな。
 菊地の番になると、律儀に喋りを口パクしながら譜面台を片付ける。ここでちょっとマイクと口が離れ、口パクが強調されちゃった。
 しかしあの長せりふ、菊地は全部覚えてるんだな。

 "Angelic"でのポーズ、"Phtsical"で上着を脱いで腕を曲げてみせるダンス(?)まで、すべて初回公演と同じ。
 もしかしたら、2ndリリースから続けてる演出なのかも。最近ライブをサボってて分からないが・・・。
 素通しのめがねで菊地の表情が読めるぶん、なんだかリラックスできた。前半セットはストイックさが目立っちゃって。

 音が鳴る中、ステージを去るとこも前半と同じ。
 しかしこんどはアンコールで登場した。
 ドミニクが「アリガト〜」と微笑み、「どこでその言葉覚えた?」と菊地が笑った。
 
 彼女がまったく日本語喋れないとかで、通訳の女性を菊地が呼ぶ。
 「なにを訊こうかな〜」
 と、初ステージの感想や日本の男への印象などを尋ねる。
 「日本の男性はかっこいいです・・・もちろん菊地さんも」
 にこやかに笑うドミニクへ、「そんなファンサービスは今からいらん!・・・ショービジネスの世界にいつの間に染まった」って、菊地が大笑い。

 今後ドミニクは上海へ帰り、彼女用の作曲が終わったらアルバム製作へ入るそう。
 あとはバンコク公演だそう。菊地が爆笑しながら曰く、
「共演はコーネリアス!んで、スパンク・ハッピーだぜ。誰が選んだんだ」
 もしかしたらフランス公演もあるとか。
「もし解散しなかったらね・・・」とにやつく菊地。
 通訳女史が訳す姿を見て、「訳さなくていいよ」と慌てる。
 しかし間に合わない。目をむいてドミニクが菊地を指差して見せ、あわてて「ジョーク・ジョーク」と苦笑した。

 アンコールは"デビュー曲"と言って"インターナショナル・クライン・ブルー"を。やっぱり口パクだと思う。
 優雅に身体を揺らしながら二人は歌い、音が鳴る中ステージを降りてゆく。

 後半は喋りも入れて、45分くらい。
 たどたどしさが目立った(CDデビュー前後はね。あとは知らん)2代目スパンクスとは異なり、3代目はだいぶ気の強いスパンクスになりそうだ。
 「ワールド・ハロー・ソング」や「少女地獄」と言った、未CDレパートリーが埋もれるのは惜しいが・・・ドミニク向けの歌を、早く聴いてみたい。
 なにより「スパンク・ハッピーのテーマ」は、ドミニクとどう歌われるんだろう。

 いきなり活発な活動の予感だが、全てが3代目対応になったスパンクスが楽しみ。

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