LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/04/18   新宿Pit-Inn

出演:ラクダカルテット
(水上聡;Key、林栄一:as、菊地成孔:ts、佐藤帆:ts,ss,synth、
  水谷浩章:eb、外山明Ds、大儀見元:Per)

 ラクダ・カルテットを聴くのは、一昨年の11月ぶり。
 昨年末に坪口昌恭が脱退。菊地成孔のサイトで大儀見の脱退も示唆されたが、今回のライブには参加してた。
 最近の菊地ファンで超満員か、と覚悟してた。だけど一通り席が埋まる程度で、のんびり聴けて嬉しかった。

 20時を軽くまわった頃。
 テクノっぽいシンセ音が鳴り響く中、メンバーがぞろぞろとステージへ。
 菊地が、音にあわせて無造作にテナー・サックスをかさねた。

 全員スタンバイしたところで、ライブ開始。ラテン風の力強いメロディが響く。
 最初の曲はアンサンブルをきっちりと。ソロへ展開せずあっさり終わった。
 そのまま2曲目へ、MCもなしに雪崩れる。
 
<セット・リスト>
1. ?
2. ?
3. ?
4.BBA
5.ゲドクパンチ
 (休憩)
6.クリーパー
7.スクリーン
8.ヤピカ(?)
9.Juvenile delinquent dances
10.Dog and dog
 (アンコール)
11.Marias Funk T

 思い切り不完全なセットリストで、すいません。ま、いちおう。

 前半はどれもアレンジの構造は似てる。
 メインでアドリブするのは菊地。たまに林がソロをとるくらい。
 佐藤はサックスすらをほとんど吹かず、横に置いたシンセを始終いじってた。

 リズム隊はてんでにポリリズムを繰り出し、水谷のベースがオスティナートでビートを維持。
 そして水谷は思い出したようにキーボードを慣らし、ほとんどはカウベルを叩いてた。
 こう書くと、なんともルーズな音が思い浮かぶかも。
 だけど音楽は極上。とびっきり骨太で力強いファンクをたんまり味わえた。

 2曲目は菊地のテナーをとことん前面に出す。
 ランダムな水上のキーボードに付かず離れず、サックスはクールに吼える。
 ほんのりリバーブをかけて、タンギングは控えめで吹きまくった。

 メロディよりもスピードに軸足を置いて、恐ろしくダンディにテナーを操る。
 ひさびさに菊地のサックスを聴いたよ。饒舌に乱発される音がとってもかっこいい。
 フラジオもまぜるが、基本は迸る音列。ときおり差し込む低音が効果的だった。

 断続的なキーボードの演奏を聴き、水谷が楽しそうに微笑んで水上の手元を覗きこむ。
 しばらく菊地+水上のデュオ形式で進み、佐藤がうっすらシンセをかぶせた。

 二人の音が途切れた瞬間、水谷のエレキベースが滑り込んだ。
 外山と大儀見も加わる。
 ポリリズムでビートがすべる中、ひとときも休まずに菊地はサックスを鳴らし続けた。
 佐藤は横でカウベルを叩く。

 かなり長尺な菊地のソロに、いったん林も加わった。
 しかし菊地のソロへ、やっぱり戻ったはず。
 ソロの途中、水上がすたすたとステージを横切る。佐藤からカウベルを受け取り、のんきに叩きはじめた。

 菊地のソロが、ついに終わる。
 持続するビートにのって身体をコミカルに揺らした。
 ベロを出して、へたれた振り。そして、おもむろにタバコへ火をつけた。

 林のソロへ。循環奏法でフラジオを存分に盛り込む。
 一転してリバーブ抜き、素朴な響きに。ほんのり泥臭いジャズへと世界が変わった。
 リバーブ入りサックスをたんまり聴いたあとじゃ、いまいち抜けに乏しい。さすがに音色の分が悪いか。

 菊地がリフで林のソロをあおる。
 ラストはキーボードがシンプルな音使いで場をまとめ、フェイドアウト気味にしめた。

 3曲目。まだMC何もなし。
 ベースのループをシンセで出し、キーボードがソロを乗せた。その場でサンプリングしてるのか、ループっぽい音がいくつも飛び交う。 
 テーマのあと、菊地のテナーがまたしても迸った。青白いサックスが、薄暗いステージにピタリとはまる。

 水上は大きなサングラスをかけて、視線を見せない。
 一本指で鍵盤を鳴らし、テナーのソロへカウンターを当てた。あとはのんびりカウベルも叩いてたっけ。
 ベースはずっと同じパターンを引き続け、外山+大儀見のリズムは混沌を濃くする。野太いグルーヴだ。

 菊地のアドリブが終わった瞬間、水上が高々と指を上げた。
 4本から、3本、2本と指を折ってゆく。
 そして、テーマへ。

 「今日はお日柄もよく、ようこそ。演奏もばっちりで、大満足です」
 なんともとぼけた水上のMCをはさんで、"BBA"。
 キーボードが震えるリズムを提示するテーマは、林のソロに。

 林のアルトは、ルーズで粘っこいアドリブを取る。
 合間にでかい音で挿し込む、水上のキーボードがいかしてた。
 エンディングはとっ散らかったドラム。
 
 あっけなく終わった空気を仕切りなおすかのごとく、1stセット最後は"ゲドク・パンチ"。
 水上のソロがたんまり。ムーグ・シンセを連想する、ぶっとい音色のソロが豪快だ。
 ぺたんと床へ座り、2台載せた台の下段にあるキーボードでアドリブを取った。
 一区切り付くと、ホーン隊3人のリフがテーマへ誘った。

 前半セットは一時間弱。休憩を挟んだ第二部は、やはりアドリブ部分は無しの"クリーパー"。
 ほんのりコミカルで、不思議な雰囲気のラクダ・カルテットらしい一曲。

 次の"スクリーン"が惜しかった。
 高速スイング・ジャズ風のテーマは、水谷のうねるベースが聴きもの。
 ストップ&ゴーも見事に決まる。ドラムをイントロに、ごきげんな曲だ。

 ところがソロはぐっと音数を減らし、空虚な世界を演出。
 次の曲でのアドリブが熱っぽかったから、いっそ"スクリーン"の演奏へ混ぜてほしかった。

 "スクリーン"でアドリブは佐藤のテナー・サックス。
 ドラムのロールを幕開けに、かなり長いソロを取った。肩をいからせ、力んだようにフラジオを連発。
 キーボードも加わった断続リズムへ逆らうように、フリーキーなアドリブをせわしなく展開した。

 どこか不安定さがつきまとう。
 スパッとテーマに戻り、グルーヴィな音世界が提示されたとき違和感が残った。

 間をおかず、スペイシーなシンセをイントロに。左右にパンする。
 ここで菊地が鮮やかに疾走するソロを見せた。
 リバーブがきらびやかさを強調。
 メロディはどんどん希薄になっても、むせび泣く音列に強烈な説得力あり。

 ビートはカオスへずぶずぶハマる。水上はカウベルを。
 リズム隊はてんでにすさまじい乱打をかます。
 全員が自由に演奏し、全員が拘らない。抜群の音像だった。

 さあ、外山と大儀見のデュオだ。
 ビートを過酷に叩き落し、ぐっとリズムが鋭くなった。
 他のメンバーはステージの袖で、二人の演奏を見つめる。
 
 外山はバスドラを規則正しく踏みつつ、シンバルをタイトに打ちのめす。
 いっぽう大儀見は複数のコンガを高速で叩き分け、アフロ・ファンクのリズムで対抗した。

 リズムのみのデュオもかなりたっぷり。二人のデュオ・ライブ、また聴きたくなったよ。この新ピの昼の部で、たまにやってるやつ。
 水谷、水上、林が加わって演奏はテーマへ戻った。佐藤はソプラノを吹いてたな。

 今夜は曲目が多いが、個々はさほど長丁場じゃない。
 ソロ回しじゃなく、一人に延々と吹かせるから長く感じてた。

 「次の曲は・・・」
 曲名を告げず、水上は鍵盤を押さえた。シンセの打ち込みがイントロ。
 なぜかユーリズミックスの"Sweet dreams"のリフが流れ、客席やメンバーは大笑い。
 別に冗談じゃないらしい。シンセ・ベースのリフが繰り返され、アレンジの一部になっていた。

 たぶん曲は"Juvenile delinquent dances"。
 テーマのあと、静かに菊地のソロへ。キーボードはパーカッションを鍵盤にアサインし、合いの手を入れた。
 ラストはサックス3人のみで、テーマを吹いたはず。

 「一週間ぐるぐる回ってます。月曜の次は火曜・・・って。今日のステージも最後です。ドッグ・アンド・ドッグ、ホット・ドッグ。どれでもいいや」
 水上の意味不明なMCのあと、"Dog and dog"。

 ついに水谷が存分にソロを取った。
 この日は椅子に腰掛けてエレキベースを弾いてたが、身体を大きく前後に揺らし、豪快にフレーズを組み立てる。
 とうとう立ち上がって、力強いアドリブを打ち立てた。

 あとはエンディングへ一直線。林、菊地、佐藤が短いスパンでソロを回す。
 三人同時に、てんでにアドリブを。

 このとき、照明にトラブルあり。水上の後方、ライトの前にかぶせたフィルムがはらり、ほどけた。
 一枚、また一枚。カラー・フィルムが落ちて白熱灯の熱い照明は、まっすぐ水上を照らす。
 たんなる照明トラブルだ。しかし明るく照らされる水上の姿が、なんとも象徴的できれいだった。

 アンコールの拍手に応え、メンバーは再びステージへ。
 さきほどトラブルあった照明は、きっちり消されてる。

 前に聴いたときは"Drive"がアンコール定番って話だったが、今夜は"Marias Funk T"でシメ。
 キーボードのイントロに、外山がバスドラ4つ打ちをあわす。
 
 ソロは菊地と林の同時ソロを短く。佐藤はシンセをいじってた。
 やっぱりグルーヴはたんまり。
 エンディングが腰砕けでしたが。

 ミュージシャンたちは、そのまま控え室に消える。メンバー紹介すらなし。
 潔くもストイックな演出だ。
 ラクダ・カルテットはリズム隊が息のあったメンバーだけに、とてつもないグルーヴがいつもある。
 菊地をはじめとするアドリブも、まったくリズムと遜色なし。

 ピットインのライブ以外、特に活動をしないバンドだが、やはり機会あったら幾度も聴きたい。

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