LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/04/15   大泉学園 In-F

出演:翠川+太田+黒田
 (翠川敬基:vc、太田惠資:vln、黒田京子:p)

 6月の"ブラームス"プロジェクトに向けたユニットの、月例ライブ4回目。先月は仕事で聴き逃したから、2月ぶり。
 店内へに入ったら、リハーサルが終わるとこ。回数を重ね、完全インプロから曲も演奏するスタイルに変化したようだ。

 ライブの始まりは20時15分頃だったか。
 「MC役は順番に」って、今夜は黒田が司会役。
 黒田の「今夜は4曲、準備しました」という挨拶に、「もうどんな曲か忘れちゃったよ」と翠川がとぼけてみせる。

 全員が腰掛けての演奏。太田は入り口手前に椅子を置き、マイクでアコースティック・バイオリンの音を拾ってた。
 リバーブをほんのりかぶせる。
「(つまみを)12時か1時くらいに」
 と、太田は演奏前に黒田へエフェクターの操作を頼んでた。

<セットリスト>
1. "即興"
2.La Pasionaria
3.ばかな私
 (休憩)
4.ベルファスト
5. "即興"
6.Wrong Key Donkey
7. (?)

 まずは即興から。
 翠川と太田によるストリングス・デュオがイントロ。
 アンプを通したチェロの音も比較的大きめ。
 ステージの上にあるスピーカーから聴こえるバイオリンが、綺麗にチェロと溶け合った。
 しばし聴き入る黒田。ピアノはおもむろに加わった。

 相変わらず聴き応えがたんまり。美しい旋律が次々と奏でられる。
 しばしば感じる、軽やかな疾走が素晴らしかった。
 メロディは比較的、太田が受け持ちがち。しかしソロをてんでに取り合い、音の主役がくるくる変わる。

 さらにアバンギャルドな要素も多用する。
 クラシカルなメロディを振りまいたメンバーは、ミニマルな世界へ軸足をうつす。
 翠川や太田が淡々と同じフレーズを繰り返し、緊張を演出した。

 バイオリンが手前へ鋭いグリサンドを繰り返したのも、この即興でだっけ?
 演奏はフリーさを増し、どんどん混沌と。
 ノーテンポでガシガシ突っ込んだ部分もあったはず。
 エンディングは静かに幕を下ろした。いつもながら、pppからffまでダイナミックなプレイ。

 続いてはチャーリー・ヘイデンの曲、"La Pasionaria"。とびっきりきれい。
 テーマの合間に、ピアノやチェロの無伴奏ソロが挿入された。
 どちらもメロディを奔放に操る。
 無伴奏ソロが終わるたびに太田が、「イェ〜」と低く感嘆するのが面白かった。

 アドリブの最初はトラッド風のバイオリン。
 翠川がチェロのピチカートで受ける。
 ソロが展開して、しまいにはファンキーに3人で突っ込んだ。

 前半最後は、黒田の曲で"ばかな私"。
 「"ばかなわったっしっ♪"って曲です」
 黒田がテーマのメロディを口ずさむ。"La Pasionaria"と同様に、3月のライブでも演奏したそう。

 この曲、アップテンポで面白かった。
「第一部最後に、軽くやります」
 なんて黒田が紹介したけど、けっこうじっくり即興を聴かせた。

 冒頭のテーマは弦の二人が鋭く繰り返す。
 ところがテンポが速すぎて、演奏が落っこちちゃう。太田は苦笑しながら弾いていた。
 ソロはどんな感じだったかなあ・・・今回はしばらくあとに感想を書いてるので、細かいところを忘れちゃってるよ。残念。

 後半セット最初は、梅津和時の"ベルファスト"。抜群だった。
 最近は鬼怒無月と梅津のデュオで聴いてたが、弦楽器2本が奏でるテーマが美しいったら。
 この顔ぶれでは初めてとのこと。意外な選曲だった。

 冒頭のカウントは太田が努める。
 テーマが変拍子まみれなせいか、小節の区切りでも太田が小声で合図を送ってた。

 アドリブでは太田がバイオリンを置いて、ハンド・パーカッションを持ち出す。
 翠川はぞんぶんにアドリブを披露し、黒田のピアノへつなげる。
 淡々と指先で叩くハンド・パーカッションで、太田は音楽を支えた。
 
 バイオリンに持ち替えても、ボディを指先ではじいてリズムを提示。
 アラブ風の歌を挿入する。バイオリンで自分の歌を伴奏する。

 ひとしきり太田のソロが続いた。
 ・・・ふっと訪れる空白。
 軽やかにバイオリンが、"ベルファスト"のテーマを奏でた。
 背中がぞくっときたよ。しこたまかっこよかった。

 後半2曲目は即興。曲を続けようとした黒田に、翠川が提案。
 「"リーフ"をやろうや。バンドマン用語ね」

 リラックスしたMCでも、インプロの前には空気がすかさず引き締まる。
 3人は目を閉じ、誰から音を出すか無言で探り合った。
 そして黒田が、静かに鍵盤へ指を置いた。

 弱音ペダルも駆使した、幻想的な音使い。
 ひとしきりソロで黒田が弾いたあと、翠川が加わる。おっかけて太田も乗った。

 この即興も展開を覚えてないや。くー。
 かなりフリーだった気もする。聴き応えあったのは間違いないんだが。
 翠川が指板の上でめまぐるしく指を動かし、高音部分を弾きまくったのはここでだっけなあ。

 2月のライブでも演奏されたカーラ・ブレイの"Wrong Key Donkey"。
 「どういう風に演奏しましょうか」
 「そういうのは、ライブ前に相談しとくもんなんだよ」
 のんきに尋ねる太田を、翠川がたしなめる。しごくごもっとも。

 2月はテーマの複雑さにとっ散らかりもしたが、今夜はタイトに決める。
 テーマをきっちり駆け抜け、クラシックの風味漂うアドリブへなだれた。
 充実した演奏で、「何にも決めなくたって、ばっちりじゃないか」って太田も満足げだった。

 「最後にもう一曲」
 曲名を告げず、演奏が始まる。
 冒頭に太田が奏でたメロディは、聴き覚えあり。しかし曲名が出てこない。
 
 演奏の前半では翠川が弓を置いて、指でチェロを弾く。
 ジャズベースみたいにビートをあおった。
 力強いピチカートを聞かせたのもここでだっけ?

 べいんっ、って鈍く音がいきなり響いた。
 たしか太田がソロを取ってるとき。なんだなんだと翠川を見つめる。
 弦を二本くらい、わしづかみにして強烈にスラップさせていた。鈍い響きが面白かった。
 
 ぼくの記憶が間違ってなければ、後半近くは黒田と翠川による即興のはず。
 太田は一歩引いて、演奏を聴いていた。
 
おもむろに歌でぼやき始める。"オレはこんなサボっちゃって、ブラームスはちゃんと弾けのるかなあ"って。
 すかさず翠川が旋律を奏で、客席が爆笑した。

 エンディングはフレーズを鋭く、幾度も繰り返される。
 ぐいぐいテンションが上がり、勇ましく終わった。

 今夜も大満足のライブ。
 フリーなライブにありがちな、展開の探りあいほぼ皆無。メロディがふんだんに溢れ出る。
 しかもテンション一辺倒でなく、くるくると音の表情が変わる。
 次のライブが楽しみ。
 というよりこのユニット、6月以降もずっと続けて欲しいなあ。WeeあたりからCD出ないかな。

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