LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/2/28   国立 No Trunks

出演:早川+渡辺+植村
 (早川岳晴:b、渡辺隆雄:tp、植村昌弘;ds)

 「ありそうで無い組み合わせ」と前フリがあったセッション。
 植村昌弘が渋さ知らズを脱退して、シンプルなジャズを叩くのをまず聴けない。その意味でも、今夜は楽しみだった。

 当日の仕切りは早川岳晴が努める。
 まず渡辺隆雄がトランペットを構え、口でもごもごカウント。
 演奏が始まった。20時をちょっとまわった頃合。
 早川はウッドベースを力強く鳴らした。
 
 トランペットとベースはもろにジャズ。しかし植村のシャープなドラミングが、サウンドに奇妙なグルーヴを与える。
 ずらっと並べたシンバルやカウベル、スネアやタムを使い分けて多彩なフィルを繰り出した。

 思いっきりジャストなビート。本来なら単調になるはずだが、叩くたびに違うフィルがリズムにふくらみを与える。
 さらにベースと絡み合って、ファンクっぽい雰囲気も。
 渡辺はノーマイクで、存分にソロを取った。

<セットリスト>
1. ?(オーネット・コールマンの曲)
2.ベムシャ・スイング
3.Down Down
4.アマツキツネ
 (休憩)
  Happy Birthday
5.イカレタ地図
6.  ?
7.  ?(レスター・ボウイの曲)
8.キャラバン
9.ターザン・イン・トーキョー
(アンコール)
10.  ?

 最初に演奏された曲は、早川らもタイトル忘れたみたい。MCで曲名が出てきませんでした。
 (2)はモンクで(8)はエリントンの有名なレパートリー。
 (9)が渡辺のオリジナルで、(3)(4)(5)は早川の曲。

 7曲目は早川がタイトルを覚えておらず、横から渡辺が曲名を告げる。でも上手く聴き取れなかった。
 (10)もたぶんジャズのスタンダードだと思う。メロディに聴き覚えなし。
 (6)は聴き覚えあるメロディだけど・・・うーん、タイトルが思い出せない。

 (1)でまず印象に残ったのは、前述のドラミング。
 基本は4ビートだが、植村はかけらもリズム・パターンをキープしない。
 ときに奇数拍子のフィルや倍テンを織り込みつつ、華やかなドラムを聴かせた。

 しょっぱなからトランペットの長いソロが続く。
 早川ももちろん、単なる伴奏では終わらない。ウオーキングを基調に、メロディアスな低音で存在を主張する。
 バトルってほど殺気だたないが、3人それぞれがソロを取りあうみたいで面白かった。

 アドリブ渡辺は、早川へ繋ぐ。
 いったん、ぐっと手数を少なくする植村。だけどおとなしく刻んだままじゃない。メロディアスなビートに切り替わる。
 たまにライドシンバルを叩く4ビートが登場すると、逆に新鮮だった。

 早川のソロが終わると、トランペットとドラムの4バーズ・チェンジへ。
 ドラムの手数はみるみる跳ね上がる。高速テンポで叩きまくった。
 もっとも、あとの展開に比べたら序の口か。

 続く"ベムシャ・スイング"は、冒頭をピアニッシモ。
 メロディが一回りしたとこでボリュームが、ぐっと上がるアレンジを使った。
 ここでもやっぱり、全員のソロをたっぷり。
 ドラムは冒頭、ブラシで叩いてた。

 身体を始終よじり、ベルをあちこちに向けてしゃきっとしたソロを聴かせる渡辺。
 力強いメロディでがっしり地に足をつけた早川の演奏も良かった。
 植村のソロも印象に残った。

 テーマのメロディを歌うように、タムの高低を使い分け音程を表現し、メロディと同じアクセントでアドリブを始める。
 重ねるにつれ手数が多くなり、最後は乱れ打ちで疾走した。

 (3)から早川は5弦エレクトリック・ベースに持ち替える。
 早川と植村の強烈なデュオがイントロだったかな。
 リズムはエイト・ビートへ変わってた。

 奔放に低音を唸らせながら、早川はひっきりなしにベースのつまみに手をやる。
 なかなか音色が気分に合わないみたい。
 ちょっとひねるだけで、音飾がひょいひょい変わるのが新鮮だ。
 最後は結局、ビリビリと低音が響く音にしたはず。

 (4)は複雑な変拍子が続くためか、全員が真剣に譜面を見つめる。
 演奏前、さりげなく早川がテーマのフレーズをなぞってた。

 中盤では4拍子を主流に、ときたま違うリズムが挿入される格好。
 ラストでテーマに戻るとき、植村がずりっと譜面をずらす。最後まで、きっちり譜面なんだ。

 休憩を挟んだ後半は、観客に誕生日な人がいると"Happy Birthday"が演奏された。
 テーマだけじゃなく、渡辺の崩したアドリブつき。こういう演出、珍しいな。
 
 2ndセットのライブ本編は、早川のオリジナルから。
 前半に続いて、エレキベースを弾く。
 ふわふわしたテーマが素敵な演奏だった。だけど詳細は覚えてない・・・。
 だって、次の演奏がすさまじかったから。

 (6)のイントロは早川と植村のデュオから。
 ボリュームがぐんと上がり、たんまりと二人でアドリブをぶちかます。

 思いっきり歪んだ音のエレキベースが、みりみり空気を震わせた。
 重戦車でなぎ倒すように、早川はフレットの上で指を滑らす。
 高音部分を多用したソロは、この曲でだっけ?

 二人の音量に負けず、渡辺は高らかにトランペットでアドリブを吹いた。
 tp+dsの構図になるよう、ふっとベースが弾きやめたのはこの曲だったろうか。
 ベースが弾きやめたとたん、演奏がふわっと不安定になる。

 ソロまわしは早川へ。
 ツイン・ペダルを軽やかに踏み鳴らすバスドラの連打だけで、植村はベースのソロをあおる。

 ときおり身をかがめ、エフェクターをいじる早川。
 アドリブでは右手を使わず、左手のフレット押さえだけでフレーズを変えた。
 うつむいたまま豪腕ベースが響き渡る。

 植村のソロも超高速ではじけた。手数は天井知らずに上がるが、ビートはきっちりタイトなまま。
 渡辺が「もっともっと」と言うかのように、軽く手のひらを上げる。
 猛烈なソロの直後、観客から大きな拍手が飛んだ。

 ラストは早川のベースを中心にフェイド・アウト。
 サンプリングしたリフをループさせ、早川はアンプのボリュームを絞った。ゆっくり、ゆっくりと。

 (7)からウッドベースに持ち替え、ぐっとジャズよりに戻る。
 前曲の演奏に圧倒されてぼおっとしたまま聴いていた。

 実は今夜の演奏で、一番じわっとこみ上げたのがこの曲。
 「先に初めていい?」
 渡辺は早川に尋ねたあと、無伴奏でトランペット・ソロを始めた。

 ゆったりしたバラードで、ドラムはずっとブラシで通す。
 最初は手のひらで叩いたっけ?
 トランペットが切ないアドリブをとり、ベースはあくまで優しく曲をまとめる。
 暖かくてダンディな演奏だった。

 「ベンチャーズで有名ですが、実はエリントンの曲をやります」
 早川のMCで演奏されたのが"キャラバン"。
 カウベルの連打が、なんとも中近東っぽい。ここでもドラムのソロはかっ飛んでたなあ。
 
 「アフロ・ジャズの名曲をお送りしました。日本のアフロ・ジャズといえばこの曲です」
 って紹介で演奏された渡辺の曲。ワイルドで楽しめた。
 テーマの演奏で一息ついて、がらっと風景が変わる瞬間が気持ちいい。

 たんまりソロのやり取りで時間があっというまにたち、最後の曲が終わった時点で、すでに22時45分になろうかというころ。
 だけどもちろんアンコールの拍手が飛ぶ。
 時計をちらっと眺めつつ、早川と渡辺が小声で曲の相談をしてた。

 早川はエレクトリック・ベースにて。
 今までハイテンションな演奏の熱気を冷ますかのように、テンポはゆったりめ。ボリュームも下げ気味だった。

 ラストは全員が音量を少しづつ下げてゆく。
 音が消える瞬間、早川はひときわ強く弦を唸らせ、植村はフロアタムをひとうち。渡辺がにやっと笑った。

 ソロがいっぱいで音がよじれるさまが楽しかった。
 ぐっと即興よりの演奏も予想してたが、ストレートなアプローチが意外だった。
 もっともここまでソロが長ければ、インプロとあまり変わらないか。
 
 リラックスした空気でライブは進んだが、植村が常に異物のビートを差し込むことで、サウンドが引き締まった。
 早川は慣れてるせいか、悠々と自分の世界を押し出す。逆に渡辺が一歩、引きがちに見えた。もう少し、前面に出て欲しかった。

 実はもっと、こういうセッション聴きたいんだよ。

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