LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/2/22   西荻窪 音や金時

   〜ヴィオロンの太田惠資 ややっの夜〜
出演:太田+松尾
(太田惠資:vln,e-vln,voice、松尾光:key)

 2048年に放送予定という、架空テレビ番組「ややっの夜」。音や金時で定期的に開催されており、今夜が第8話め。
 ゲストは松尾光(作曲家、キーボーディスト)。太田がin-Fでライブをやったときに知り合い、一日前に急遽ゲスト出演を依頼したそう。

 事前の打ち合わせもない、即興スタイルのライブ。
 太田はアコースティックと5弦エレクトリックの両方のバイオリンを使う。メガホンやラッパ・バイオリンもあり。

 照明を暗くし、ラジカセで聴かせるスイング・ジャズのテーマ・ソングと前口上。
 今夜も「ややっの夜」が始まった。

1)軽く挨拶を交わしたのち、完全な即興へ。
 太田が相手の音楽性を探るように展開し、比較的長め。30分くらいやってたかな。
 
 まずエレクトリック・バイオリンを持って、ディレイ・ループを駆使しながら音を紡ぐ。
 彼のエレクトリック・バイオリンは久々に聴くから嬉しかった。
 松尾は静かにキーボードの低音部分を右手で叩く。
 なんだかホラー音楽のような怖いムードが漂った。

 太田はメロディアスなアドリブをしたり、リフっぽく弾いたり。松尾のソロを促す。
 いかなソロを取ろうとしない松尾に戸惑ったか、おもむろにリズム・ボックスのスイッチを入れた。

 ビートが軽やかに鳴る。
 松尾の手数はいくぶん多くなったが、それでもバッキング主体。
 ピアニカも使ったが、メロディはほとんどない。もちろん、ソロもなし。
 松尾の音楽は初めて聴いたが、現代音楽っぽいアプローチか。
 キーボードを軽やかに叩く手管や和音を使い分け、ソロの応酬ではなく音像の広がりに軸足を置く。

 しばらくエレクトリックでソロを取ったあと、太田はアコースティック・バイオリンに持ち替えた。
 今まで探りあいっぽかったサウンドは、アンサンブルに移った。
 音の土台は松尾のキーボード。弦の音色で白玉を弾く。豊かな響きでバイオリンが踊った。

 曲が終わりそうになっても、太田がそのたびに次の展開へつなげる。
 音に隙をたびたび見せて、松尾を前面に出そうと試みる。しかしけっして松尾は乗らなかった。
 最後に着地した時点で、物足りなさも正直あった。

2)太田が松尾へ「なにか仕込みがあったらどうぞ」と、松尾に提案。
 「ふだんはあまりやりませんが・・・」と松尾はつぶやき、キーボードに乗せたCDプレイヤーのスイッチを入れた。
 
 流れたビートを聴いて、太田は腰砕け。4つ打ちのトランス・テクノだった。
 「ダンシングひな祭りですな」
 曲にあわせて腰を振ってみせる。
 困り顔でどの楽器を持とうか、足元を見回した。最初に手に取ったのは、ワイングラスだったっけ。

 ワインをぐびりとひと飲み。エレクトリック・バイオリンを掴んだ。
 ROVOっぽく展開するかと思いきや、そう簡単な道はとらない。
 リズムへ細かいフレーズで噛み、やがて熱っぽいソロへつなげた。

 リズム・トラックが終わると、一転クラシカルな雰囲気に。
 静かに音を広げるキーボードの上で、バイオリンがクラシカルなメロディを奏でた。
 最後の最後で、太田が「ひな祭り」のテーマを一節。冒頭のネタにあわせたんだろな。

 ここでいったん休憩。

3)後半も松尾の仕込みを促す太田。
 「自分のルーツである70年代ソウルを」
 前置きして、CDからリズム・パターンを流した。ベイエリア・ファンクのイメージが頭に浮かんだ。

 もともとは「チキン」をテーマ(?)に作った曲だそう。
 松尾がライブで披露した時には、歌詞が過激すぎて客がひいたとか。 
 きちんと構成ある曲のカラオケ形式で、太田はずいぶんやりづらそう。
 
 それでもいくつかのパートでソロをきっちり取った。
 ワウを効かせたバイオリンが、オケと重なり小気味よい。
 松尾のキーボード・プレイが聴きもの。
 派手なソロこそ取らないが、軽快に指が鍵盤を叩き、ファンキーなノリを作った。

4)次も松尾の仕込みネタ。今度はスライ&ファミリー・ストーン風。
 リズムの雰囲気がらしいけど、音はけっこう重ねられててスカスカ感はさほどなし。

 戸惑いを隠さない太田。
 バイオリンを持ってはいたが、ほとんど弾かず。ひたすら歌で対抗した。

 これが思わぬハマりかた。アラブ風の語りをまくし立てるが、ラップ風で楽しいったら。
 キーボードの音色はクラヴィネットだったかな。
 70年代の盤をサンプリングした西海岸のラテン・ラップ風。・・・書いてて自分でもよく分からないが、とにかく面白かった。

 ラストはヴァン・マッコイかい。「ザ・ハッスル!」と太田がシャウトした瞬間、ぴしりと曲が終わった。
 観客からすかさず大きな拍手が飛ぶ。

 ふだん演奏中に汗をかかない、という太田。「ところが今日は、さすがに汗をかいた」と、慣れないサウンドに苦笑する。
 この曲もきちんとコードの展開ある、いわゆるカラオケな曲。
 太田は律儀に場面展開のたび、声の技を変えた。

5)最初は準備のネタを松尾に勧めた。
  けれどCDプレイヤーに手をやる松尾を止め、「人力主体の音楽をやりましょう」と、太田は完全即興に切り替える。

 パイプオルガン風の音色で、静かに鍵盤が音を膨らます。
 エレクトリック・バイオリンで荘厳なメロディを弾いた。
 
 演奏が進むにつれ、なんとなく音世界がスペイシーとなる。
 唐突に太田が日本語の語りを入れた。60年代SF映画のあおり文句みたいなやつ。
 しまいに喋りは音金の宣伝(?)もどきのギャグばかりとなり、観客は大笑い。

6)松尾の準備したネタを使用。こんどはフロア向けなテクノ・ビート。
 「スペイシーな音楽つながり」といいつつ、「曲のテーマはジャンボ・スクーターに乗った中華料理屋の店主で、名物料理は納豆チャーハンで・・・」と続ける松尾。
 「どこがスペイシーなんだっ」と太田がつっこんだ。

 松尾は軽いテクノ・ビートにキーボードで短い譜割のフレーズをかぶせる。
 今のクラブ・ジャズっぽいノリ。
 太田は冒頭の"テーマ"を律儀になぞる。ここではエレクトリック・バイオリンを弾いた。
 途中でメガホンを取り出し、サイレンを鳴らす。
 「そこのビッグ・スクーター、止まりなさい!」と怒鳴った。

 しばらく演奏が続いたあと。
 「まだ、納豆チャーハンのネタを使ってないんだよな・・・」と、演奏中に太田はぼやいてみせる。
 納豆チャーハンの作り方(?)を即興で喋り始めた。

 松尾の合いの手がさすが。
 詰まったストリングス風の音色にかえ、昔にテレビでやってたキッチン・コマーシャル風のメロディを軽快に弾いた。

7)まだちょっと時間が残ったと言い、「もっとも嫌いなヒーリング・ミュージックをやろう。タイトルは"心のせせらぎ"で」と太田の提案。

 キーボードはオーケストラのストリングス音色でノーリズムの白玉を弾く。
 いっぽうエレクトリック・バイオリンで高音部分を短くこすり、鳥の鳴き声っぽい音をいくつも出した。
 足元のスイッチを切り替えループさせる。森の中にいる演出か。
 
 文字通りゆったり寛いだ音。
 松尾は音を伸びやかに広げ、太田のきれいなメロディが遊ぶ。

 おもむろにリズム・ボックスへ手をやる太田。アップ・テンポのビートを取り出した。
 世界が一転してアグレッシブに。アラブ風にぐいぐい歌った。
 MCによると、太田のオリジナル「オータのトルコ」だそう。
 初めて聴いたけど、魅力的な曲だ。TOYのCD買わなくちゃ。 

 いったんリズムを止め、再開させるDJっぽい手法も。
 リズム・パターンの構成要素を変え、音質をいじってたみたい。

 ふたたび疾走する。歌もバイオリンも存分に。
 松尾はいち早くクラヴィネット風の音色に変えた。フレーズはほんのりアラブ風。
 互いの音が絡み合う、とびきりの演奏だった。

 ライブはここでおしまい。
 エンディングテーマを歌いながら、ラッパ・バイオリン太田がちょっと弾いて幕を下ろした。
 
 最初こそ戸惑ったが、あとはどの曲も面白い。
 70年代ファンクは好きだから、松尾の繰り出す曲も違和感ない。
 どう展開するか分からぬ、意外性と緊張感がいい。それでいてエンターテイナー性もふんだんにある。
 いやー、楽しかった。

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