LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/2/20   大泉学園 in-F

出演:翠川+黒田+太田
 (翠川敬基:vc、黒田京子:p、太田恵資:vln,voice)

 3人で「ある曲」の発表に向けリハーサルする、「秘密プロジェクト」の第2夜。夕方から3人でみっちりリハをしていた様子。
 実際のライブは即興が中心になる。
 ほぼ客席が埋まった20時過ぎ、おもむろにライブが始まった。
 
 上手に翠川敬基、下手のピアノに黒田京子が座る。
 前回はステージ中央に陣取った太田恵資だが、今夜は下手のドア前ぎりぎりで構えた。
 今夜も全てが生楽器だった。

<セットリスト>
1. 即興(約30分)
2. Bisque(約15分)
 (休憩)
3. 即興(約25分)
4. ロング・キー・ドンキー(約10分)
 (アンコール)
5. 即興(約7分)

 こんな感じだったと思う。時間はちょっとあやふや。 
 進行は"前回は黒田が担当した"という理由で、翠川がつとめる。
 軽くメンバー紹介のち、楽器を構える。
 最初はだれから弾き始めるか。アイ・コンタクトが奏者でしばし飛び交う。

 最初に音を出したのはピアノだった。右手で静かに音を紡ぐ。
 残響をいっぱいに響かせて。鍵盤を指が撫でるよう。
 次第にステージの空気が張り詰めてゆく。

 翠川も太田もなかなか音を出さない。目を閉じ、弓を構えては下ろす。 
 互いにタイミングを探り合った。
 幻想的なピアノの音列に、初めて弦を乗せたのはどっちだろう。ほぼ二人、同時だった気も。

 1stセットでは特殊奏法はほとんどなし。弦を多用し、たまにピチカートを使うくらい。
 あとは滑らかなボウイングで、クラシカルな音を噴出させる。
 すばらしく心地よく、荘厳かつ美しい即興だった。前回も感じたが、とても即興って信じられない。

 いったん演奏が始まると、ほとんどアイコンタクトなし。
 互いの音を聴きつつ。つややかに音が磨かれ、輝きを増した。
 翠川の細かなビブラート。太田は触れ幅を大きく取り、ゆったりと音を震わせる。
 いつのまにかピアノが弾きやめ、弦の掛け合いが膨らんだ。

 このセッションでは主役やリーダーを特に決めてないそう。
 音の印象だけでは、今夜は黒田が場面転換を行ってるように聴こえた。
 弦楽器のやりとりが盛り上がると、ふっと弾きやめて手を優雅に宙で踊らせる。

 ふっと鍵盤へ乗せると、風景ががらりと変わる。
 ひときわすごかったのが、1stセットの後半あたり。
 3人が一丸となって突っ込み、高密度でテンション高く音符を振り撒いた。

 太田はいったん弾き始めると、片時も音が止まらない。
 さまざまに音の表情を変えつつ、クラシカルからトラッド風のメロディまで弾きまくった。
 かなりの部分でメロディを担当。自由で耳を引く果てしない旋律がすばらしい。

 一方の翠川はメロディとバッキングを自由自在に使い分ける。
 冒頭でのクラシカルからアヴァンギャルドの片鱗まで、短時間に音像を変える組み立てが印象に残った。

 ふっと音がまとまり、エンディングへ。
 息がぴったり。スリリングで聴き応えのある即興だった。

 舌を巻いたのは、完全即興なのに弛緩する音が皆無なところ。
 探りあいで音の中心が、ぼやけたっておかしくない。ところがこのセッションでは、全ての場面でサウンドが踊ってる。
 録音してないようだが、これはほんとリリースして欲しいライブだ。

 全て即興で通した前回と異なり、今回はそれぞれのセットで1曲づつ譜面を使って演奏する。
 最初は翠川の曲。

 "Bisque"(たぶん。あんまり自信ない)は、テーマ部分の滑らかな音の響きがとにかく秀逸。
 どこまでがテーマかよくわからなかった。太田がソロをとりはじめる前まで?
 三人の音が昇華する。ずっと聴き続けたい。時間短めで残念だった。

 2ndセットは、弦の対話がイントロだったか。
 最初こそメロディの交換だったが、いつのまにかチェロのフレーズをバイオリンがコピーする格好に。
 チェロの低音ひと弾きをバイオリンでは出せず、「うーっ」と声で音を真似てみせ大笑い。

 そのまま太田が歌い始めたんだっけ。このへんちょっと記憶があいまいです。
 ホーミーからアラブ風メロディへ。たんまり歌ってたはず。
 一方でバイオリンはグリサンドを多用してたなあ。

 チェロの特殊奏法が多用されたのもこのあたり。
 弓の背で弦を叩き、駒の下をひと弾き。指板を押さえたポジションの上を弾いてみたり、
 ハイトーンで激しく指を滑らせ、ボディをぎしぎし指でこする。ランダムな音を繰り出した。
 その音の数々を、バイオリンはきっちり応えてたと思う。

 黒田は弦二人の演奏を、存分に楽しみながらピアノを弾いた。
 めがねをピアノの上へ置いてしまい、弦の音にあわせて身体を揺らす。

 音数は少なめで、的確に音世界の風景を変化させた。
 前半セットと同様に、弦同士の合間を縫ってピアノを弾き、次の世界へ続く扉を開けるさまが素敵だった。
 たしか後半では、静かにメロディを口ずさんで見せたりも。

 後半2曲目は黒田が用意したカーラ・ブレイの曲。難曲らしく、譜面を見ながら弦の二人は苦笑い。
 一方の黒田は「慣れよ、慣れ」って、さわやかな表情だったっけ。

 実際、メロディを弾く太田はかなり苦労しており、黒田の口三味線でサポートが入ってた。
 おかしかったのがソロへ移る部分。
 譜面を睨みながら硬い音使いだったのが、アドリブのとたん音が優しく鳴った。

 後半セットはあっというま。
 濃密な即興に時間を忘れて聴いてしまい、体感時間はかなり短い。
 終演ぎりぎりで来店した観客がいたせいか、珍しくアンコールに応えてくれた。

 最初は翠川のpppから。本当に小さな音。
 観客も身動きをこらえ、チェロの音に耳を澄ます。
 かすかに、かすかにチェロが鳴る。
 メロディは聴こえるか、聴こえないか。すごい。

 太田はメガホンを構え、ドイツ語ふうの言葉をつぶやく。歌はアラブ風に変化した。
 (あれ。太田の歌ってここだけだっけ。どうも記憶があいまい)
 メガホンでpppを狙ってるのか、口の位置やメガホンの向きを客席や壁へと、幾度も変えて試行錯誤する。

 ただ、思い通りには行かなかったみたい。
 とうとう最後までバイオリンを弾かずにアンコールは終わり。
 曲自体はスローなテンポの即興だった。
 
 今夜も演奏はとびっきり。
 肩の力が抜け、自然体で音へ対峙する。まっすぐな姿勢が緊張を与え、濃密な音楽を産んだ。
 メロディ楽器のトリオによるセッションなのに、濁った響きは皆無。
 聴き応えがたんまりのライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る