LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/1/23   大泉学園 in F

出演:翠川+太田+黒田
 (翠川敬基:vc、太田恵資:vn、黒田京子:p)

 この顔ぶれでライブは、昨年に続き2回目。今月からユニットとなり、6ヵ月後を目指した秘密プロジェクトが始まった。
 プロジェクトとはリハーサルを重ね、ある曲の演奏を披露するってこと。

 今日はその第一弾。なんでも午後4時からリハしてたとか。
 翠川敬基はリハに手ごたえあったようで、にんまりしていた。
 観客も次々訪れ、演奏を待つ。
 が、なかなか始まらない。だって太田恵資がまだ来ないんだもの・・・。

 翠川が黒田京子らと「1stセットはデュオ、2ndセットは太田さんのソロにしようか」って苦笑してるのが聴こえた。
 8時を軽くまわり、ライブ開始時間を店長と相談する。
「んじゃ、あと3分だけ猶予ね」
 翠川が答えたとたん、太田が大慌てで登場。あまりのナイス・タイミングに観客も爆笑だった。

 手早くセッティングが終わり、ライブは20時20分くらいに始まった。 今夜は黒田の前にボーカル・マイクが立ち、MC役を務めた。
 もっともいわゆるMCタイムはほとんどない。冒頭の挨拶と、最後のメンバー紹介くらいか。
 このユニット、「リーダーはおらず、フラットな立場」と黒田が紹介する。

 一瞬の空白。
 翠川と太田が、静かに音を重ねた。
 太田は弓で、翠川はピチカートで。そっと音を紡ぐ。
 ピアノの前で目を閉じ、音を出さずに身体をゆっくり揺らす黒田。

 チェロはアンプを使う。前半セットはいまいち音が小さく、聴こえづらかったのが残念。
 そして太田はアコースティック・バイオリンのみ。リバーブをかけたマイクで拾った。ハンドパーカッションやメガホンも準備してたが、これらは使わず。 

<セットリスト>
1.即興(25分強)
2.即興(15分弱)
 (休憩)
3.即興(25分強)
4.即興(15分弱)

 ・・・あんまりセットリストの意味がありませんな。まあ、当日の雰囲気ということで。
 翠川の曲を交えたフリージャズかと想像して聴きに行った。
 ところが大間違い。すさまじく濃密で暖かい即興が繰り広げられた。

 ちなみに太田は前日7時までin Fで打ち上げしてたとかで、完璧な二日酔い。ステージ中央に腰掛けても、すさまじく消耗した顔だった。
 大丈夫かと心配したが、演奏はばっちり。さすが。
  
 演奏は多彩な表情をみせる。基調はフリージャズ・・・だろうか。
 3人ともグルーヴはまったく意識せず、クラシックのリズムに近い。
 ダイナミックス・レンジも広く、美しい旋律と特殊奏法がごく自然に同居する。
 緊張したリラックスという矛盾表現が成立するサウンドで、ぐいぐい音楽に惹かれた。

 1stセットの冒頭はチェロとバイオリンのデュオから。
 太田もピチカートに変え、互いの8分音符が微妙に違うリズムで重なる。 そっと鍵盤を撫ぜる黒田。すかさず提示された一連の高音。
 タイミングが絶妙だった。

 盛り上がっては、すっと静かに沈む。
 テンション高いソロの切りあいではなく、アンサンブル重視のようだ。
 極小音で弾かれるシーンもあった。
 バイオリンとチェロは静かにピチカートで、そして黒田はピアノのボディを指でそっとはじく。
 
 太田がメロディアスな即興をふんだんに挿入する。
 激しく弓が動き、きれいな旋律があふれた。すごい。
 弦の端ぎりぎりを擦る、超高音も使ってたっけ。

 翠川はときおりガッと強くアルコでチェロを一弾き。
 指板をすばやく指が上下し、リズミカルに音が跳ねた。
 1曲目ではアルコと左手を同時に動かし、ボトルネックっぽい弾き方も。 人の声みたいな響きで、面白かった。

 二人の演奏を尊重するかのように、黒田は音の数を絞る。
 しかし一瞬の隙を縫って、すかさずピアノが前へ出る。
 3人が探りあうシーンは皆無。フリーリズムで弾きまくった。
 今夜はどの曲もすばらしかったが、あえて「CDで聴く」なら・・・この1stセット1曲目を聴きたいな。もっとも別にレコーディングはしてなさそう。

 1曲目からかなり長めだが、中だるみはまったくない。
 相手の音へ即座に反応。まるで優雅な舞を見ているよう。
 特にこの1曲目、中盤でピアノ、バイオリン、チェロとソロが繋がるさまは、ドラマティックな展開に唸った。
 ピアノの切り込みがすごく良かった印象あり。

 1曲目のエンディングはバイオリンとピアノのユニゾンだったかな。うーん、ここは記憶があやふや。
 バイオリンの即興にピアノが同じメロディをあわせ、静かに着地した。
 盛大な拍手。

 続いては、一転してごつごつした雰囲気。
 たしかバイオリンのソロがイントロ。黒田は立ち上がり、背を向けて静かに拳で自分の手を叩く。
 ピアニッシモで音が膨らんだ。

 翠川がチェロの背をリズミカルに叩く。テンポはゆっくりめ。
 ピアノとバイオリンのアンサンブルを、淡々とボディを叩くリズムであおった。
 太田も弾きやめ、バイオリンを構えたまま両手でボディをはじく。
 そのうえで黒田がピアノのボディを指で叩く奏法に切り替え、リズムのみで成立させる一幕もあった。

 この曲でチェロは、「楽器」として弾かれないシーンが多かった。
 背中を叩く音が数分続いたのち、おもむろに取り出したアルコでエンドピンを静かに弾く。
 またボディ打ちへ。背だけでなく、前からもチェロの胴を叩いた。ときには指でボディを擦る奏法も。
 
 おもむろにチェロを構えても、奏法はトリッキー。弦をミュート(?)して軋み音のみを引き出す。
 メロディはかすかに、かろうじて聴こえるだけ。
 ボディをはじいてた太田の指は、弦へ移る。両手タッピングで断続的に音が産まれた。

 ピアノが和音を中心にした世界をつくり、チェロが加わる。確かここでは通常の奏法だったはず。
 太田はバイオリンを置き、ボソッと一言。
「扇」

 かなりの間を挟みつつ、「末広がり・・・」など、微妙に連想しそうな単語をぼそり、ぼそり続けた。翠川はちらりと本棚へ視線を投げる。
 ピアノやチェロの音とのアンマッチに、くすくす笑いが客席から漏れた。

 そして最後は「・・・二日酔い」で締め、客は大笑い。
 2曲目のエンディングは、音が静かにまとまりつつあったころ。
 太田が強く弓を一弾き。それがコーダの合図だった。

 奏者の間に漂う緊張が心地よかった1stセット。
 休憩を挟んだ後半は、リラックスに重点を置いた格好か。

 後半1曲目のイントロがピアノ・ソロ。
 弾きながら黒田はメロディをユニゾンで、小さく口ずさんでいた。

 音世界は世界各国へ移る。バイオリンとチェロのデュオはヨーロッパを連想した。
 途中で黒田はフラメンコっぽいリズムで手を叩いた。
 前半に出現した、三者のポリリズムが楽しかったな。
 
 翠川が中盤でチェロを弾きやめ、小唄(?)をうなる一幕あり。
 太田はギター風にバイオリンを構えて、伴奏で爪弾く。
 本棚を眺めて、タイトルをコミカルに読み上げる翠川。

 バイオリンが伴奏し、チェロが加わると黒田は聴きいった。
 激しい奏法で幾本も切れた、弓糸の残骸でチェロを弾いてみせたのはここで?すみません、記憶があやふやです。

 後半2曲目に入る前で「4時からリハやってたのに〜」と、遅刻を突っ込まれる太田。
 翠川と黒田でリハの「秘密プロジェクト曲」も一節、披露された。

 そして後半2曲目。冒頭がいちばんフリージャズっぽかった。
 きっかけの音は3人が無言で譲り合う。黒田が手で促し、翠川と太田で視線が飛び交ったあと。
 チェロが無伴奏ソロを弾いた。
 ここへピアノが挑む。力強く鍵盤を叩き、今夜もっとも激しい応酬だった。

 このやり取りが沈静化し、とびきり美しい世界がピアノとチェロで産まれたとき。
 聴き入ってた太田が、おもむろに演奏へ加わった。
 弓のストッパーをはずし、弓の毛をザンバラにした。ストッパーは床へ転がるが、意に介さない。

 そのまま無理やりバイオリンを弓で挟んで弾く。
 初めて聴いたが、効果的な奏法だった。全部の弦を一度に鳴らせ、和音を作れる。
 おどろに乱れる弓をときどき整えつつ、太田はゆっくりとバイオリンを奏でた。
 ハーディガーディみたいな響きがするこの奏法、ぜひエレクトリックでも聴いてみたい。すごくきれいだろうな。

 ひとしきり弾いたあと。弓を元に戻そうと床を眺める太田。
 しかしストッパーが見つからない。
 ピアノとチェロは柔らかでクラシカルな世界を静かに弾いている。

 ちらり。
 ちらり。
 太田は首をゆっくり振って、床を眺める。
 ・・・ストッパーは見つからない。

 演奏世界とストッパーを探す太田のギャップが可笑しい。さすがに観客からくすくす笑いが。
 目を閉じると、すばらしくきれいな音楽なんだもの。
 これはライブじゃないと伝わらない面白さだろう。

 とうとう太田はグランドピアノの下へもぐりこんで、ストッパーを探し始めた。
 爆笑をこらえるのに困った。同じく声を抑えた観客の笑いが、次第に大きくなる。
 
 いぶかしんだか翠川は目を開け、ちらっと太田を一瞥。苦笑して演奏を続ける。
 黒田は弾きながら、身体を大きく曲げてピアノの下を覗き込む。そんな姿も可笑しかった。

 やっとこさストッパーを見つけ、準備万端。
 いざ弾こう、と太田が弓を構えた瞬間に。
 図ったかのタイミングで、チェロがするっとピチカートへ切り替えてしまう。
 その瞬間、太田がすっごく残念そうな顔してたなあ。

 エンディングは弦楽器の静かな応酬のあと。
 チェロが音をまとめた。
 最後はpppで。

 全員が目を閉じ、音楽へ没入。リハなし、完全即興なんて信じられないくらい。
 驚くほど息の合った演奏だ。
 それぞれの多彩な引き出しを存分に使い、次々に変化して心地よい空間を生み出した。

 コーダでそっと消える、音の静けさがしみる。

 ライブが終わって、余韻を味わうかのように・・・。
 しばし観客のだれも、腰を上げようとしなかった。

 このユニットは月に一回、in Fでのライブが決まってる。
 演奏がどう変化していくか、本当に楽しみだ。

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