LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/1/9   西荻窪 アケタの店

出演;渋谷 毅(p)セッション
 (渋谷毅:p、望月英明:b、外山 明:ds)

 今年初のライブ体験はアケタにて。
 渋谷毅のトリオ編成で、ドラムが外山明。さぞかし面白いグルーヴだろうと楽しみだった。
 観客はぞくぞく到来し、店内は満員。客として仙波清彦の姿も。

 今夜のライブはぼくの知識不足で、セットリストは記載できまへん。
 たぶんスタンダードが多かったのでは。2〜3曲は聴き覚えあるメロディだった。
 
 ライブが始まったのは20時過ぎ。無造作に渋谷が鍵盤へ手を置く。
 初手から暖かい音がピアノから産まれた。
 小さめな音量で、アタックもそっと。ペダルを多用する。
 グラウンド・ピアノの中で、ふわり、ふわりと浮いた。
 ピアノ線を押さえるバーが、ペダルに連動して。

 イントロはピアノ・ソロ。ふっと渋谷が視線を投げ、リズム隊も加わる。
 外山明は立ち上がったままドラムを叩く。
 スティックを撫ぜ落とすスタイルで、シンバルを中心につっつくような刻み。
 シンバルの鳴りが、本当にきれいだ。ライドシンバルのカップやふちを巧みに叩き分けた。

 外山のリズムは今夜も不定形。渋谷のピアノに似合う。
 ただし望月英明がオーソドックスなランニング・ベースの組み立てで、外山とのインタープレイがほとんどない。
 さらにベースアンプの音が小さすぎ、バッキングのときはほとんどベースが聴き取れず。

 ときには外山が浮き気味となってしまい、ほんと残念だった。
 もっと3人が絡み合う、ランダムなノリを期待してたのに。

 とはいえ3人はそんなこと気にしてなさそう。
 リラックスして音楽を楽しんでいた。
 渋谷のアドリブは、すっとソロを望月へつながれる。弦に力を込め、望月はメロディを訥々と紡いだ。

 渋谷はピアノを弾きやめ、足を組む。
 コップの水をぐびりと一口。
 思い出したようにバッキングを、ベースのソロへぱらりぱらりつけた。

「Cのブルーズやろうか」
 1曲目が終わってすぐ、渋谷がメンバーへつぶやく。
 そのまま鍵盤を弾き始めた。一呼吸置き、リズムの二人も演奏へ。

 今夜の進行はすべてそんな感じ。
 MCはほぼ皆無。拍手がやむのも待たず、渋谷がすぐにイントロを弾き、リズム隊が乗る。
 アドリブは渋谷や望月のみ。外山はほとんどソロを取らなかった。

 とてつもなく美しい、ピアノの音。
 渋谷は目を閉じ、上半身を動かさない。
 鍵盤のアタックはごく弱く、激しく叩きつけるそぶりもない。
 ペダルをいっぱい使って、ふくよかな響きのアドリブはどれも極上。ほんとうに気持ちよく、音にのめりこめた。
 
 「最後に・・・エリントンをやろうか」
 リズム隊に、そっと告げる渋谷。
 ゆったりしたビートでまとめて、第一セットは幕を下ろした。

 休憩の後、ピアノの前へ渋谷が座る。
「まずはソロで、何曲か聴いていただきます」
 そのまま弾き始める。

 一曲終わり、拍手が飛んだ。
 思ったより早く曲が終わっちゃったのかな。ふっと考えるそぶりの渋谷。
 観客の拍手がやむのも待たず、すぐに次を演奏した。
 ピアノ・ソロは3〜4曲だったと思う。

「おいでよ」
 唐突に客席へ声をかけた。店の奥を見ると、峰厚介が立っている。遊びに来てたんだ。
 峰が準備する間は、ピアノ・ソロ。この曲は渋谷オケのアンコール、峰とのデュオで聴き覚えある。
 しばらくするとテナー・サックスをぶらさげ、峰がステージへ上がった。

 渋谷オケで気心知れた中、打ち合わせは不要なのかも。
 ごく自然に、テナーのソロへ。
 かすれる音で、すごく魅力的なフレーズを吹いた。

 告白すると、高校時代にブラバンで耳を矯正されたため、リードミスの音やかすれ音が生理的にダメなんだ。
 ライブでフラジオを聴いて、鳥肌立たなかった日本人奏者は二人くらい。
 なのでこのとき、サックスの音色がちとつらかった。

 音がつまんなかったら、心と耳を閉じてしまえばいい。
 だけどアドリブが、とっても良いんだよ。
 フラジオこそ使わないが、盛大にかすれては、ぴぴっとリードミス連発の峰のテナーを、鳥肌立てながら聴いていた。

 一曲終わったところで、峰はリードをくわえて湿らせる。
 そのまま2ステージ目最後まで、ずっと吹いていた。
 演奏が進むにつれ、リードミスは気にならない。よっぽど硬いリード使ってるのかな。
 2ndセットはぼく自身の問題で、いまいちリラックスしづらかった。

 外山のドラム・ソロが聴けたのは、後半になってから。
 1ステージ頭から数曲では立って叩いたが、あとはほとんど座ってしまう。
 いざドラム・ソロになっても、単純にロールをまわしはなし。
 連打っぽいが、どこかひっかかったリズムが楽しかった。
 
 ひとしきり叩き、「ソロは終わりだよ」と視線を渋谷へ投げる。
 一瞬の空白。
 ピアノが鍵盤へ指を落とす。
 同時にスネアの強打一発、ビシッと鳴る。
 あのタイミングは痛快だった。

 後半最後は、比較的テンポアップ。しかしアグレッシブな渡り合いはない。
 どこまでも穏やかでくつろげるジャズだった。

 思ったほどグルーヴ大会にならず拍子抜け。
 今夜の渋谷はピアノだけだった。オルガンなら違ってたかも。
 機会あったら、いっそ渋谷のオルガンと外山のデュオってのも聴いてみたい。

 いずれにせよ、暖かいジャズを堪能できた夜だった。
 細かいとこは正直、おぼえてない。だって、めちゃくちゃ気持ちよくてさ。

目次に戻る

表紙に戻る