LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/12/30   高円寺 Showboat

出演:灰野敬二

 年末オールナイトの灰野敬二ソロ・ライブへ行ってきた。

 開場30分前から列がどんどん長くなる。
 思ったより盛況で、会場はきれいに埋まった。50人強くらいか。
 椅子席がずらっと出てありがたい。でも当然、長丁場のライブ。最後はけっこう尻が痛かった。

 焚かれたお香の匂いが広がる。むろん禁煙。
 BGMもおなじみの室内楽だ。SP時代のクラシック?針音が始終鳴る。何の音楽だろう。家でも聴いてみたい。
 曲間が長く、一曲終わるごとに「お、始まりか?」と身構えてしまった。ところが灰野はなかなか姿を現さない。時が過ぎてゆく。

 登場したのは開演時間をぐっと押した、深夜1時50分頃だったと思う。
 驚いたことに、いわゆる哀悲謡でステージが始まった。
 いわゆる「曲」をいくつも演奏したが、ここではセットリストじゃなく、ライブ構成のみ紹介します。

<ライブ構成>
1.(40分)Vo g
2.(10分) hca vo
3.(50分)g.vo
(休憩)
4.(7〜8分)ブルガリー
5.(60分)g.vo
6.(20分)key vo etc.
7.(20分)g vo

 ステージ背後から照らす四灯が明かりの基本。いつもどおり薄暗い。
 しかし譜面へ
、上空からピンスポ2本が当てられた。これがありがたい。暗闇のなか適度に、黒尽くめの灰野を照らす。
 いつも闇の中で行われる灰野のライブだが、このくらいの明かりは欲しい。
 演奏する灰野を見たいもの。嬉しい照明プランだった。

 ステージ背後にはずらりとギターアンプが並列5段並び。轟音の予感。
 下手にはギターが数本立ち、上手にテーブルが置かれる。台上にはいろいろ機材が並んでた。

 ところが登場した灰野はそれらの機材に目もくれない。
 漆黒のエレキギターを肩からぶら下げ、ステージ中央のパイプ椅子へどっかと腰掛けた。
 譜面をせわしなくめくり、曲を探す。

 選び終わるとマイクの位置を確かめ、無造作にギターをかき鳴らした。
 さほどボリュームは大きくない。
 ざくざくリズミカルに弦のストローク。ときたま手を止め、フリー・リズムを挿入した。
 
 前述の通り最初は、カバー曲をエレキギターの弾き語りで演奏する、いわゆる"哀悲謡"。
 歌う旋律はぐしゃぐしゃにゆがめられ、原曲の面影はたぶん無し。
 甲高く叫び続ける歌詞は聴き取りづらい。
 2曲目にアキラの「ダイナマイトが百五十屯」をやったのだけわかった。

 ブレイクを織り込みつつ、声を絞り出す。
 ときおり足元のエフェクターを使って、音を歪ませた。
 パイプ椅子に座ったまま、両足で激しく床を踏みにじった。
 
 曲はその場で選んでるらしく、一曲終わるたび神経質に譜面をめくる。
 空白ができるのを嫌ってか、いきなり直前のフレーズをループさせた。
 独特のギターリフが選曲中の空間を埋める。こういうエフェクターの使い方を灰野がするとは。

 しょっぱなの弾き語りは3曲くらい。ギターを置き、上手奥のテーブルへ載せたペットボトルで喉を潤す。
 次の楽器を手に持って、パイプ椅子に座った。
 口へあて、力いっぱいブルース・ハープを吹き鳴らした。曲は「赤い靴」。
 
 リバーブの効いたマイクへ顔を押し付け、ハープの合間に声を絞る。
 灰野の息遣いそのものがマイクで増幅された。ブレス・ノイズがすさまじい。
 ハウってるのかハープを吹くたび、甲高い倍音が鳴った。苛立たしげに空気を切り裂く。
 
 ハープを使ったのは一曲だけ。
 再びエレキギターを持ち、上手の機材前へ座った。
 マイクで歌を織り込みつつシャウトする。実はこの頃、眠気でかなり細部があいまいです。

 覚えてるのは、エレキギターを高速ストロークでかきむしった姿。
 ファルセットのボーカルが幾度もサンプリングされ、ギターのフレーズも多層構造に。
 まだまだ音量は控えめ。つねに声を使いながらサウンドを組み立てる姿が印象に残ってる。
 哀悲謡スタイルは続く。歌を聴かせたあと、即興へ雪崩れたと思う。

 ここでいったん休憩。20分後、後半セットで本格的に闇が炸裂した。

 上手の幕をくぐって登場した灰野は、手にブルガリーを持つ。
 めずらしくノーマイクでかき鳴らした。譜面はなし。
 音は位置を下げ気味のボーカルマイクで拾った。
 
 独特の譜割で、ストローク中心のプレイ。
 さらに歌声を取り混ぜる。
 しかしブルガリーの演奏は、あっというまに終わってしまう。

 パイプ椅子がいつのまにか横へ寄せられた。すっくと立った灰野敬二は、肩から黒いエレキギターを下げる。
 ピックを握った右手で弦をすくいあげ・・・轟音を呼び出した。
 
 アップストロークを多用し、強烈に弦を引っかく。
 最初はピックを幾度も飛ばしたか、しょっちゅうポケットに手を突っ込み、ピックを探った。
 フリーリズムではあるものの、ビートの刻みを意識する瞬間が多い。

 たしか譜面台を立てたと思う。
 ひとしきりギターを唸らせ、歌いはじめる。
 コード感ある、きれいな瞬間が多かったような。

 怒声からハイトーンのシャウト、ファルセット。
 声をさまざまに変え、ギターの轟音と混ぜ合わせる。
 ときおり聞き取れた歌詞を総合すると、時代に苛立ち、心を奮い立たせる言葉が多かった。

 強烈に印象に残った瞬間があった。
 「ごめんよ・・・悪いけど・・・」
 言葉を一区切りさせるごとにギターをブレイク、声がフロアへ響く。
 シャウトの合間に、ギターをかきむしった。

 「宇宙を・・・ぼくだけのものにする!!」
 高らかに吼える灰野。こういう言葉をすとんと納得させる迫力がすごい。
 どこまでが即興で、どこまで譜面か不明。ほとんどの歌詞は、ギターにかき消され聴き取れない。

 エレキギターと歌の組合せでない、ギターのみの即興もたんまり。
 刻みのフレーズがフロアへ充満した。さらにギターを重ねる。
 耳鳴りが激しく、どこまで実際に灰野の出音か自信ない。
 ギラギラと空気が動いた。

 ライティングは前半のまま。ピンスポが灰野の姿をうっすら照らす。

 左手を多用するフレーズもいっぱいあった。
 エフェクターで過敏になった弦は、フレットを押さえるだけで音が出る。
 それを利用し、ネックの上で灰野は左手指を滑らせた。
 すっ、すっ。軽く動かすだけで、きれいに音程が変化する。
 灰野はいつものように、たっぷり時間をとって音と戯れた。

 ギターに不調があったか、持ちかえシーンも。すでに最初のギター・インプロから40分くらい立っていた。
 深い茶色のギターに変える。

 また哀悲謡の世界へいったと記憶する。
 曲選びのとき、灰野が客席に背を向け床へ座り込むシーンも。・・・これは前半だったっけ?
 譜面をめくる音か、ページがぱらぱらピックアップに当たるのか。
 エレキ・シタールみたいな音が出る。どうやら意図的にやってるみたい。

 ギターを下ろして上手のテーブルへ向かう。
 驚いたことに、小型の鍵盤を弾き出した。灰野のキーボード・プレイって見るの初めてかもしれない。
 両手指4本を使って、コードを押さえた。さながら教会のハモンド・オルガン。
 荘厳な響きで空気を掴む。

 あえて豪腕をふるわず、美しい和音の響きで楽しむ。
 ときたま指をかえ、コード変更。たぶん即興で響きを変えた。
 指の本数を増やして稀に不協和音が出ると、さりげなく響きを遷す。

 片手で鍵盤を抑えながら、横のテーブルに載せた機材のつまみをいじり、音色も変化させてたようだ。実際は轟音で、さほど違いを聴き取れない。
 灰野の声は、ここでもかぶさる。歌声というよりファルセットの響きが多い。
 いくつも音がエフェクタで重ねられ、暗闇の中で輝きが増して見えた。

 いったん、打ち込みのビートも振り掛ける。
 かなり短めにパーカッションのパターンを封じ込めたはず。
 短いといっても灰野のソロパフォーマンスだから、最低5分はやっていた。

 いよいよクライマックス。ふたたびエレキギターにて。
 テーブルの機材から離れた瞬間、ほとんどの音が切れる。
 聴こえるのは灰野のファルセット。
 ループされて綿々と、軽やかに声が舞った。

 ギターを構え、轟音で自らの声に応える。
 灰野は半身でステージに立ち、ひたむきにストローク。
 激しいボディ・アクションこそないが、存在感がすごい。
 4つ刻みを意識する、規則的なビート。リズムを感じる。

 座って聴いてるだけなのに。すでにぼくの体力はへとへと。
 吹き荒ぶギターの音にくらいつく。
 つくづく体力不足を感じた。万全ならすさまじく気持ちいい轟音だったはず。

 すっと音が消え、マイクへ向かって灰野が一言挨拶。そのままステージを去った。
 ここで今夜、初めての拍手。さすがにアンコールはない。
 
 実に3時間半にわたる演奏で、大満足した。
 今夜は声を配置した即興が多い。どの楽器を演奏していても、つねにマイクで灰野は叫んでいた。

 まだ夜の明けない街を歩く。盛大な耳鳴りは、耳元で風が吹いてるよう。
 年末の締めくくりにふさわしい、濃密な音楽空間だった。

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