LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/12/30   新所沢 スワン 

出演:渋さチビズ
 (不破大輔:b、立花秀輝:ss,as,ts、小森慶子:ss,as,ts、関根真理:ds)

 年末にスワンで小編成演奏って、ここ数年の恒例になってない?
 不破大輔の体調不良でライブの本数が減り気味とはいえ、ずいぶん渋さのライブをサボっちゃってる。へたしたら一年ぶりくらいかも。

 渋さ知らズ本体は超満員がすっかり定番、小編成も動員良くなったんだろうか。
 キャパに対する集客は上々。ほぼ満席になる。20人弱くらいかな。
 この店はいちばんステージを見やすい場所が楽屋っぽくなってて、いつも可笑しくなる。
 
 今夜の顔ぶれは渋さの若手キーマンを集めた格好か。
 あらたまって立花の音を聴くのは、たぶん初めて。小森のサックスも、春に聴いたちゃんバンド以来だろう。
 このメンバーで渋さがどう演奏されるかも、わくわくしてた。

 店内へ入ると、すでに不破を除いてセッティング完了。
 小森も橘も、それぞれサックスをソプラノからテナーまで3種類づつ持ち込んでた。

 不破が現れたのは19時半頃。
 上着脱いだ姿を見て、愕然とした。添え木で右手をぐるぐる巻きに包帯してる。
「入院しろって言われちゃったよ」
 苦笑する不破の声が聴こえた。無造作に包帯を取ってセッティングを始める。
 体調はほんとうに大丈夫だろうか。すごく心配。

<セットリスト>
0.行方知れズ

1.大沼ブルーズ(45分)
2.火男(15分)
(休憩)
3.行方知れズ(45分)
4.千頭

 まずサウンド・チェックで、"行方知れズ"を短く演奏。
 サックスの二人は立花がテナー・サックス、小森がアルトだったかな。
 軽く二人でソロ回し。アンプを通したベースの音量を確かめていた。
 ちなみにベース以外はすべて生音で演奏された。

 ライブ開始は20時頃。
 不破がろれつの回らぬ、コミカルな呼びかけでメンバー紹介した。
 
 静かにノーリズムのフリー・ジャズでイントロ。
 サックス二人がフラジオを連発する。関根はブラシを使って、一歩引いた格好。
 おもむろにベースが4ビートを提示し、テーマへ繋がった。

 演奏時間こそ長かったが、サックスの二人がペース把握に時間かかってた印象あり。
 ときたま主導権を互いに握りそびれ、空白や静かな瞬間が出てしまう。
 冒頭で頑張ったのは立花。ソプラノを咥えて、力任せに空間を切った。

 小森はアンサンブルの成立に軸足を置いてるようだ。かまわず主導権ひっつかんで、音を引きずり回して欲しい。
 ここらへんの構成力を、たとえば片山広明や川下直弘と比べてしまうと物足りない。
 実際はこのあとで、小森の大爆発を聴けたが。

 ぐいぐい押すと思ってた関根も控えめ。一曲目はずっとブラシで通す。
 途中で左手を伸ばして、パーカッションを掴む。小さな木のかけらがいっぱいぶら下がって、ジャラジャラ鳴らすやつ。
 なんども左手のパーカッションをスネアへ落とす。
 口にブラシの片方をずっと横くわえにしたまま。ワイルドな姿勢が面白かった。

 不破は途中でアイコンタクトを、立花や小森へ飛ばす。つと指を動かし、指揮するシーンも見られた。
 小編成渋さで不破が操作するのは珍しい。
 小森へ合図、ドラムソロへ導いた。
 
 この曲が面白くなったのはここから。
 ドラムのソロはおとなしめ。1タムのシンプルなセットをブラシで淡々と刻む関根。
 さりげなく加わるベース。しばし二人のコンビーネーション。

 そして小森がソプラノ・サックスで、メロディアスなサックスをたんまりと。
 さながらディキシーランド・フリー・ジャズ。すごく楽しい。
 クラリネットみたいにふくよかな音色で、いかしたソロを吹きまくった。少なくとも小森はここで吹っ切れたようだ。
 
 続く"火男"でも小森が大活躍。立花がソロのときテナーでブロウし、尻をあおる。
 テーマへ入るときは両足で威勢良くステップを踏み、ドラムやベースへ向き直る。
 マレットを使って叩いてた関根が、楽しそうに笑ってた。

 テーマは二管ながら、あんがい膨らみあり。
 二人とも素直にテーマを吹かず、ぐしゃぐしゃに崩す。
 関根はハイハットにタンバリンをかぶせ、スティックでひっぱたいた。

 不破のソロは、"火男"冒頭のフリー部分でちょろっと。
 ほんの少し高速フレーズを聴かせた。今夜は指揮役なのかも。
 立花がテナーでソロを吹いてるとき、「もっともっと!」と低音リフで不破があおってた。

 少々辛かったのは、サックスの二人がフレーズでなくノイジーなソロを多用したとこ。
 フラジオがとにかく耳にきついんだよ。後半では小森がだいぶメロディを意識してたが。 

 小森のサックスはめまぐるしく鳴る。
 テーマ部分では片山よろしく、強烈なブロウ役も一手に引き受け、急がし行ったら。予想以上に力強い音色だった。がっちりメロディを押さえる。

 ここで休憩。不破が慎重に右手の指をマッサージして痛々しい。
 早く完全復帰して欲しいな。
 休憩は45分ほど。後半は21時45分に始まった。
 後半でも小森が大活躍。申し訳ないが、立花はいいとこを小森にぜんぶ持っていかれてた。

 "行方知れズ"の冒頭はやっぱりフリーから。
 サックス二人が、ソプラノで耳をつんざくフラジオを連発。ああ、歯が鳴る・・・。

 テーマ前の時点で、完全に小森が場を支配して小気味良かった。
 フリーはいつのまにか小森のアルト・ソロへ塗り換わる。
 身体を曲げ、搾り出すように吹きまくる小森。ブルージーなフレーズが多かった気がする。

 いったんは立花にソロを受け継いだはず。立花もアルトだったかな。
 一転してフリーキーなフレーズ連発のソロ。空間が固くなった。
 しばらくたつと、ピアノによっかかってた小森がアルトをくわえ直す。

 アルペジオっぽいフレーズを、ひと吹き、ふた吹き。
 あっというまにソロを奪い取った手腕が見事。
 不破や関根は特にソロを挟まず、サックスのやりとりを着実なリズムで支える。

 テーマを挟んでも、小森の快進撃はとまらない。
 アルトで吹きまくったあと、ベースソロへ。
 不破は鋭いアドリブを聴かせるが、いかんせん体調不良なのか、高速フレーズがほとんど飛び出さず。もどかしいったら。
 むしろ場を広げるフレーズのほうが多かったと思う。

 ベースのソロがちょっとたゆたった隙を突き、小森がアルトサックスで切り込む。
 そのままソロへ。スリリングで面白い。舌を巻いたのはそのあと。

 ひとしきり吹きまくったあと、いきなりすっと身を前へ倒す。
 ドラムへソロをつないだんだ。
 息を切らしながら、椅子を引き寄せた。おもむろにタバコに火をつける。
 頼もしくもキュートな仕草だった。

 ドラムのソロはにぎやかに。
 関根はスネアへシンバルを乗せてるのか、がしゃがしゃ言わせた。
 シンバルを叩き落してしまい、苦笑してたのも確かこのソロ。

 後半は実質、"行方知れズ"のみ。45分突っ走った。
 これで立花もカマしてくれたら刺激が増したんだが・・・。いまいち遠慮がち。小森からのソロつなぎもぎこちない。
 不破がテーマのベースリフから、アドリブを誘うフレーズへ切り替えたがうまく噛み合わなかった。惜しい。
 
 ハイテンションの小森はテーマに戻ると、強烈なブロウの連発。
 シャウトする部分も、宙を見つめながら軽やかに歌う。くー、かっこいい。

 惜しかったのはラスト。
 なんどもテーマが繰り返される。不破の合図で、ラス1へ。
 コーダを決めたが、小森がすぱっと音を切らない。
 ふわふわっとハイノートを泳がせた。
 好みの違いだが、すぱっと切るほうが余韻が残って好き。

 エンディングは"千頭"。
 早いテンポでつっぱしる。サックスの指がろれってる時もあったのはご愛嬌。
 ソロ回しなし。短時間でテーマを繰り返して、ライブが終わった。

 アンコールの拍手が飛びかうが、不破が苦笑する。
「これで終わり・・・勘弁して」
 小森慶子の実力を垣間見たのが、いちばんの成果だった。
 長丁場の曲構成で、ほぼ時間を忘れて聴けたもの。どんどん場数踏んで、さらなる活躍が楽しみだ。

 「来年はもう怪我しないぞ」
 不破が最後の挨拶で、宣言していた。
 来年はベストの体調で、こういう小編成渋さをいっぱいやって欲しい。ぜひとも。

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