LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/12/26   大泉学園 in-F

出演:Play Post Tango & More
 (喜多直毅:vn、鬼怒無月:ag、佐藤芳明:acc、鳥越啓介:b)

 立ち見も出る盛況だった。女性客が多くて、身の置き所ないなあ。
 このバンド名は正式名称じゃないらしい。今回が2回目のライブだそう。

 「バンド名を募集します。思いついたひとは鬼怒さんのHPのBBSへ」
 「喜多くんのところじゃだめなの?」
 「(すごくしぶしぶと)ぼくのHPでもいいです」
 そんな心温まる(?)喜多と鬼怒のMCがあったと思う。

 冒頭の曲紹介だけを鬼怒が、あとは喜多へ喋りを任せた。
 しかし妙に一本調子でのほほんとしたMCは爆笑もの。
 鬼怒は素で「喜多くんって芸風変わったよな」って、何度もつぶやいてた。
 
<セットリスト>
1.アローイ
2."心の板橋区"
3.パレード
4.ストーン・フラワー
5.クレーター
 (休憩)
6."情熱のダンス"
7.アール・デコ
8.ナオキチ・カリシラマ
9.The Saga of Harrison Crabfeathers
10.M2
(アンコール)
11."心の板橋区"

 一部あやふやですが、たぶんこんな感じ。
 (2)(6)が喜多作、(3)と(5)、(7)が鬼怒作。
 (6)が鳥越作で、(4)がジョビン、(9)がスティーブ・キューンの曲。あとはオリジナルだと思うが、作曲者不明です。

 コンセプトは「ポスト"タンゴ"だ」と強調してたが、雰囲気はイタリアあたりのチェンバー・プログレっぽい。
 即興よりもアンサンブルに軸足を置いた曲ばかりで、爽快な楽しさだった。
 (1)からいきなり高速テンポ。ユニゾンで次々キメを入れ、快調にメロディがすっとぶ。小気味いいぞ。
 
 今夜、鬼怒はアコギのみを使用。特に持ちかえはなし。
 基本はアコースティック編成だった。
 鳥越のウッドベースはアンプを通すも、前半はいまひとつ聴こえづらい。
 喜多のバイオリンは上からマイクで狙う。リバーブを軽くかけ、スムーズに鳴った。

「皆さんの中にある"心の板橋区"を思い浮かべてください」
 (2)のタイトルは、そんな喜多の紹介に基づきます。正式名称は違うかもね。
「"心の練馬区"、"心の杉並区"と次々作り、最終的に23曲作る」
 構想を熱く語る喜多へ「もっとまともなタイトルつけたら?」ってツッコミがギタリストからあったことも、そっと記しておきたい。

 タイトルはともあれ、演奏はヨーロッパ風味のプログレっぽいメロディ。 心の板橋区は浮かばなかったが、演奏はすばらしかった。喜多のインプロがたっぷり聴けたのもここ。

 続く鬼怒の曲"パレード"は、たぶん初めて聴く。
 というより、今夜演奏されたオリジナル曲はすべて初耳。このバンド用に準備された曲なのかな。
 「今日一番難しい曲」って喜多が言ったのは(3)だっけ?
 ソロはアコーディオン、ギターがそれぞれリフを弾き、バイオリンがアドリブする格好。
 コンパクトでしゃれた曲想はWarehouseでも似合いそう。

 とびっきりの快演が"ストーン・フラワー"。
 鬼怒はすべてをスタッカート調で弾き、小刻みに音が切れる。
 イントロでは佐藤がアコーディオンのボディを叩いて、リズムを取った。 アレンジもばっちり。アコースティック・カルテットならではの、ほんわかした緊張が産まれてた。

 中盤ではアコーディオン・ソロがたっぷり挿入される。
 最初は右手のみ、やがて左手も加えてじっくりとアドリブを入れた。
 この曲だったかあやふやだが、蛇腹を短く持ち小刻みに揺することでヴィブラート効かす奏法が新鮮だった。

 ひょいひょい感想を書いてますが、ほんとは曲間にMCがいっぱい挿入される。
 たいがいは喜多が喋り、鬼怒や佐藤がツッこみ倒す格好。
 いや、鬼怒が一番ツッこんでたか。

 喜多と佐藤は同じ音大出身らしい。
「二人はどんな教育受けてたのさ。MC講座とかあるの?」
 けなしあいが柔らかく飛ぶ二人の喋りに、鬼怒があきれて尋ねてた。

 前半最後は"クレーター"。MCでへらへら喋ってても、曲が始まるとすかさず空気はぴんと張る。
 中盤でブレイク、ウッドベースのボディを叩きながらビートを繰り出す、鳥越の演奏が印象に残ってる。

 休憩を挟み、鳥越作の"情熱のダンス"は原題がイタリア語(?)らしい。
 鳥越が曲名紹介したとたん喜多がさらっと日本語へ訳し、奏者も客席も少しどよめいた。
 かなりタンゴ風味の曲。合間では鳥越が手拍子でおかずをかぶせる。
 初めてたっぷりとウッドベースのソロも聴けたっけ。

 鳥越のベースは、アルコより指を多用。派手さよりも着実にバンドを支えるプレイだった。
 曲によってはベースが載ったとたん、音が締まる瞬間もあった。
 終演の頃は、シャツにみっしり汗染みができてた。涼しい顔で演奏していたが。
 
 喜多のバイオリンはますますテンション上がる。
 即興になると逆三白眼で中空を見つめ、熱っぽく弾き倒す。
 鬼気迫るとまで言わないが、そうとう音へ没入してた。
 
 強いボウイングで借り物らしい弓の毛を、片っ端からほつれさせる。
 マスターへハサミを借りて、ほつれた端を切り落とす一幕も。
 実際はハサミ持ったままMCに加わってしまい、「いいから早く切りなさい」ってギタリストから注意されてたっけ。

 続く"アール・デコ"を作者の鬼怒が「デコちゃんの曲です」と強引にきめつけた。
 この曲だったかなぁ・・・。鬼怒がピックをくわえ、指でアルペジオを延々続ける。
 バイオリンかアコーディオンがソロを弾いてるとき。
 左手は薬指で特定ポジションを押さえ続け、残る指をひょいひょい動かしてわずかに響きを変える。
 淡々とした響きがきれいだった。

 "ナオキチ・カリシラマ"は喜多が曲名を告げたとたん、「はぁ〜?」って思い切り怪訝そうに尋ねる鬼怒。
 "直毅"に"恥"で"なおきち"、カリシラマはどこかの国の9拍子リズムのことらしい。
 ミニマルな感覚が楽しい。

 アコーディオンのソロは書き譜だろうか。
 シンプルながら譜割が奇妙なフレーズを危なっかしく弾き、かなりテンポが不安定に。
 ベースやギターが刻みながらじっと佐藤を見やる。
 最後はインテンポで、きちんとアコーディオンは疾走した。
 コーダへ向かってぐいぐいスピードアップしてたみたい。

 「"The Saga of Harrison Crabfeathers"・・・でいいですよね?」
 次は演奏前に譜面のタイトルをたどたどしく読んだ喜多が、鬼怒へ確認。
 "アール・デコ"を"デコちゃん"にした鬼怒の引っ掛けたか、
 「さがさんの曲ですか?」
 「ばか」
 素で尋ねた喜多へ、間髪入れずツッこんだ鬼怒が今夜のMCでも一番ツボにはまりました。
 
 演奏もすばらしい。いや、これ曲もいいな。トラッド風味でしみじみと旋律が紡がれる。
 スティーブ・キューンがこういう曲を書くとは知らなかった。オリジナルも聴きたくなったよ。
 たしかバイオリン、ギター、ベースとソロが回されたはず。
 荘厳かつ滑らかなメロディがつぎつぎにあふれた好演だった。

 最終曲の前に、次のライブの紹介。
 鬼怒が日程を告げたとたん、佐藤や鳥越が慌てだす。聞いてた日程と違ってたのか。
 鳥越も佐藤もメモ帳を取り出し、スケジュール確認してた。

 アコーディオンをぶら下げたまま、つらそうにメモを取り出す佐藤へ「今じゃなくていいってば」と鬼怒が苦笑。けっきょくブッキングミスはなさそう。
 鳥越が「XX日はなくなったんですね?」と鬼怒へ確認、その場でメモ帳のスケジュール修正してたのが大笑いだった。

 "M2"はタイトル未定だそう。これもチェンバー・プログレっぽかった印象あるな。
 ベースのソロが良かった。

 拍手がやまず、すぐさまアンコールへ。
 くわえタバコの鬼怒はわざわざ店外へ灰皿を取りに行き、長いままもみ消した。
 「いい曲だから、これをやろう」
 鬼怒のリクエストで、喜多の曲(2)を再演することに。

 「さっきはバイオリン・ソロだったから、こんどはギターとアコーディオンのソロにしよう」
 鬼怒が提案すると、喜多が「短めにね」と注文をつける。佐藤は「自分のときは長いのに」と笑ってた。

 曲を聴いてるとヨーロッパの風景がぼくには浮かぶ。すいません、板橋区の風景はやっぱりムリでした。
 テーマのラストをユニゾンをぴしりときめ、ソロ部分へ。鬼怒から佐藤へバトンが手渡された。

 このバンドは初めて聴いたが、こじんまりした響きが面白い。
 ドラムがいない分、サウンドの重心を上に持ち上げた感じ。
 ひんぱんに決まるユニゾンもかっこいいが、テクニック至上でもない。あくまでメインはソロとアンサンブルの組み合わせ。

 ハイテンションなフレーズは喜多に任せ、鬼怒は一歩引いた位置から演奏を支える。
 さまざまな曲調を軽々と弾きこなす実力が頼もしいバンドだ。
 ほのぼの険悪なMCもライブの聞きもの。どこまで芸か分かりませんが。 

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