LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

 03/11/26  西荻窪 アケタの店

出演:緑化計画
 (翠川敬基:vc、片山広明:ts、石塚俊明:ds
  +井野信義:b、ウォルティー・ブヘリ:パンフルート)

 月に一回アケタで定例ライブを行う緑化計画だが、ぼくは5ヶ月ぶりに聴く。
 今夜はCoilで早川岳晴の欠場、ゲストに井野信義とウォルティー・ブヘリが加わった。
 
 観客はかなりの入りでアケタがほとんど埋まる。井野は店内でゆったり開演を待っていた。
 ほかのメンバーが戻ったのは8時過ぎ。そのまますぐにライブが始まった。

 まずは翠川敬基のメンバー紹介。
 さてなにをやろうか、と相談する翠川と片山広明へ
 「こないだぼくが、好きになった曲をやりたい」
 ウォルティーが"Menou"を提案した。

 ピアニッシモで翠川がチェロを弾く。
 いつのまにか音が増えた。
 後ろから井野がそっとベースをかぶせていた。

 いったん片山やウォルティーが音を足したが、すぐに吹きやめる。
 静かに弦のデュオ。テーマを提示したのは翠川だったろうか。
 全員が次第に加わり、展開はフリーになった。

 しょっぱなからすごい。
 ソロ回しなんてほとんど無い緑化だから、互いの音に反応しつつ全員が同時進行のアドリブだ。
 主導権は誰か分からない。不定形に音楽が心地よく変化する。
 アドリブの絡み具合が絶妙。
 5人がそれぞれフリーに演奏し、しかもアンサンブルがばっちり成立してた。

 もっともウォルティーは"Menou"では様子見か、ほとんどメロディを吹かない。
 パンフルートの上を忙しく唇が動く。鳥がついばむような仕草。
 大小3種類のパンフルートを場面ごとに持ち替える。

 パンフルートが珍しくて、最初は彼を眺めてた。ああいう風に演奏するんだ。
 ウォルティーの演奏をじっくり聴くのは初めて。今まで渋さでワイルドに吹く姿しか見たことなくてさ。

 アンサンブルへ敏感に反応。ときに身体からいきなりパンフルートを振り上げ、音を切り落とす。
 息じゃなく舌を尖らせて、音を切っているように見えた。

 時に前後へパンフルートを動かしてたのは、一本の管に吹き口が二つあるのかな。
 かすれる音色は尺八を連想する。だけどブレス・ノイズはさほどきつくない。尺八より吹き口が合理的なのか。

 静かに盛り上がる"Menou"。定型リズムは皆無。
 今夜のトシはブラシを多用し、かなり抑え目だった。
 帽子を目深にかぶり、表情は良く見えない。

 あれはどの曲だったろう。後半の2曲目くらい?
 だれかの音にぴくっと反応し、にやりと笑みを浮かべ力強くドラムを叩くトシが、なんだか印象に残ってる。

 "Menou"のソロはテーマへ収斂した。
 帰還の合図は片山だったかな。ほんのわずか音が途切れた瞬間を逃さず、するっとテーマを吹いた。

 なんだか一曲目の感想が長くなってしまった。
 さて、今夜のセットリストはこんな感じ。

<セットリスト>
1.Menou
2.Go-hon
3.Seul-B
(休憩)
4.ヒンデミット"チェロソナタ2番"2楽章の冒頭
5.アグリの風
6.Bisqe

 "Go-hon"は「4ビートで」と翠川が合図する。
 ウォルティーもメロディを吹き、積極的にオブリを当てた。
 乗ってきたのか大きな仕草で、左足がリズムを取る。床から踏み鳴らす振動が伝わってきたよ。
 
 残念だったのは、音のバランスが難しかったこと。
 片山がボリューム上げると、チェロやベースがかなり埋もれてしまう。
 弦は二人ともアンプを通してるし、もうちょい音量上げて欲しかった。

 ちなみに井野は今夜、オーソドックスなプレイに徹する。
 エフェクト処理した音で絡むのも期待してたがかなわなかった。
 そして、今日の片山は絶好調。
 極上のフレーズが次々飛び出す。かなりの部分で、サックスが音楽の場面転換を操った。

 パンフルートはヘッドセットのマイクで音を拾う。2曲目からぐっと聴きやすくなった。
 ベースやパンフルートは、ごく薄くリバーブかかってたみたい。

 4ビートで、と指定のわりに"Go-hon"のアドリブ部分は混沌としてた記憶あり。
 トシはほとんどパターンを叩かず、パーカッシブな演奏だった。

 ベースの無伴奏ソロがあった。
 どういうきっかけか良く覚えてない。
 とにかくフッと音が途切れ、静寂が産まれた。
 ベースがすかさず拾い、広々としたソロを。静かにトシがバックアップした。

 パンフルートも負けてない。中盤でソロを激しく決め、片山もそこに加わる。
 互いにメロディを絡み合わせ、最後は二人そろって即興で低音の連打を決めた。
 タイミングばっちり。顔を見合わせて、楽しそうに笑いあった。

 弦の二人がすさまじく突き進んだのが"Seul-B"。
 最後のほうなんてすごかったよ。特に翠川。激しく弓で擦り、糸が何本もほつれる。
 さらに左手はチョーキングしまくり。弦が隣の弦にくっつくくらい。
 いや、ポジションを押さえるというより、左手で弦をはじいてた。

 時に弓の背中で弦を何度もひっぱたき、激しく弦をつまんでは指板に叩きつける。
 チェロじゃなくパーカッションのよう。
 
 ウォルティーは歌いながらパンフルートを吹く荒業を披露。テンション高くて楽しめた。
 ここでしばしの休憩。

 後半は翠川の喋りから。
「最近の緑化では1曲だけ、ほかの人の曲を演奏してました。ところがこれが片山くんに不評で・・・」
 苦笑する翠川。片山はそしらぬ顔で、サックスを吹いてみたりする。
「これならまあいいかな、と許可が出た曲をやります」
 
 そんな前置きで始まったのが、ヒンデミットの"チェロソナタ2番:2楽章"の冒頭部分。
 ぼくはこの曲聴いたことない。どこまで原曲を生かしてたのか不明。
 たぶん冒頭の弦2本によるテーマは譜面どおりだろう。
 
 サックスやパンフルートが別の旋律で加わり、いつのまにかフリーになってたみたい。
 場面転換風の箇所でチェロが弾いてたメロディは、もしかしたら原曲フレーズを使っていたのかも。

 激しく吠えるわけじゃないが、かなり奔放な演奏だった。
 終わったあとに片山は、「調性はどこへ行った?」と笑ってた。
 
 続く"アグリの風"もイントロは静寂バージョン。
 翠川のソロにて、リフレインが繰り返される。4分音符の連打だ。
 二、三度チェロが繰り返し、おもむろにベースが弓でテーマを弾いた。
 バックでトシは、手のひらでドラムを撫でるように叩く。
 
 "アグリの風"はウォルティーを前面に出す格好か。
 テーマは片山とユニゾンを試み、すぐさまオブリを吹く。
 パンフルートのソロもたんまり。背筋がピンと通った、力強いアドリブを組み立てた。
 
 トシががっとドラムで突っ込んだのはこの曲だっけ。
 ラストはランダムに雪崩れた。 

 「緑化の最後は静かな曲と決まっております」
 翠川が告げる。そしてウォルティーへ尋ねた。
 「テーマを吹くんだっけ?」
 ゲストも増えた今夜は、アレンジの段取りを決めてたようす。 

 頷いて譜面を探すウォルティーを、片山が手伝う。
 見つかるのも待たず翠川は一人、静かにチェロを奏でた。井野も加わる。 からからから。
 空のコップに入った氷が揺れる。トシがシェイカー替りに振っていた。 
 最後の曲は穏やかな混沌で盛り上がった。
 翠川と井野によるピチカート・デュオの即興が聴きもの。
 タイトに弦をはじきあい、ミニマルな空間が生まれた。

 トシもソロをかます。手数は多いが、タム回しで揺らすソロじゃない。
 雷雨のように連打を加速させ、スネアにたたきつけた。
 この曲ではブラシやスネア、マレットを頻繁に持ち替えて叩いてた気がする。
 
 エンディングは翠川へ視線が集まった。
 吹きながら片山やウォルティーが、じっとチェロを見つめる。
 張り詰めた空気をまとった翠川はゆっくりと、チェロから弓を下ろした。

 拍手がやみ、メンバーは無造作に楽器を片付ける。
 「アンコールやらないって、みんな知ってるんだ」
 片山が笑う。前後半、それぞれ45分くらいのライブだった。

 メンバーは普段と違うのに、見事に緑化計画の音になってたのが何より興味深い。
 この柔軟さ、しぶとさが緑化の魅力だろう。
 ベースが押さえ気味なぶんオリジナル・メンバーより、いくぶん穏やかさが強調された演奏だった。

 来月のライブは早川だけでなくトシも休み、翠川と片山のみ。
 ゲストに井野やウォルティー、さらに田村夏樹(tp)、外山明(Per)らが加わるという。
 
 個人的にはスモール・コンボで、片山+外山のグルーヴを聴いてみたかった。その点でも楽しみ。
 藤井郷子オーケストラも聴いたことなく、ビッグ・バンドでのコンビも未体験だけどさ。ま、それは横に置いといて。

 いずれにせよ次回は6人編成の緑化計画。どんな音楽が茂るだろう。

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