LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/11/15   神楽坂 SQUID YAMAMOTO Gallery

出演:John Zorn`s Cobra 東京作戦〜椹木野衣「殺す・な」部隊
 (椹木野衣:殺す・なメタル、東谷隆司:殺すなギター、石黒景:殺すな太鼓
  伊東篤宏:オプトロン、宇治野宗輝:ラブアームほか、小田マサノリ:殺すな鬼太鼓+メガホンほか
  カスガアキラ:殺す・なエレクトロニクス、工藤キキ:殺すなポエトリーリーディング、田中偉一郎:アコギ、主張
  中原昌也:HAIRSTYLISTICS、西尾康之:ミジンコ殺戮、山川冬樹:殺すなホーメイ、映像
  山口晃:冗漫画、山本ゆうこ:殺すなテルミン、ヲノサトル:キーボード、ECD:サックス、トラメガ
  プロンプター:巻上公一)

 いろんな意味で普段と違う、特別仕様のコブラだった。
 会場はホーム・グラウンドのラ・ママではなく、オープン前な画廊ビル(?)の4階。
 住宅街の中にあり、結構分かりにくい場所だった。
 
 会場へついたら、階段で4階へ。
 「殺す・な」と書かれたスタンプを手の甲に押され、フロアへ向かう。
 スタンプは何かの段取りに使うわけじゃない。
 主催者による表現行為の一環なんだろう。

 フロアはそこそこ広い。ラ・ママよりちょっと大きいくらいか。
 右奥スペースをステージにし、正面と上手側から眺める格好。
 中央に柱が一本あるくらいで視野は広く、観客を詰め込むにはちょうどいいようだ。

 そう、詰め込まれたって印象。
 たいして混まないだろうと高をくくったら大間違い。ぞくぞく観客が現れ、最終的にはびっしり立ち見が埋まる。
 200人近く来たんじゃないか。
 前売りにのみ座席を準備したみたい。ほとんどが立ち見だった。

 フロアの明かりはいくつかの白熱灯のみで、薄暗い。
 黒幕や周辺の壁にはべたべたとポスターが貼られ、どれにも「殺す・な」と派手な字体で書かれてる。
 DJがテクノかなんかを廻してた。

 ステージの周辺にいろいろ並べた小道具が薄明かりの中で仄見える。
 逆さにした自転車や、顕微鏡。ジュースのミキサーやぽつんと立った蛍光灯など。
 テレビのモニターもいくつかあり。雑然とした雰囲気だ。

 キーボードやパーカッション、ギターなど楽器も散見されるが、とても音楽が始まる雰囲気に見えない。
 窓もつぶされてる。雑然と物が散らばる地下室のアジトへ迷い込んだ気分だ。

 ステージ奥につるされた幕に、9.11自爆テロ直後のニュース映像を流してた。
 NYの消防士兄弟がハンディカメラかなにかで撮った映像画面が続く。テレビ特番かな。なんだか見覚えある映像番組だった。

 そしてステージ中央に、がっしりしたテーブルを置いてある。
 コブラのカードたちが伏せて置かれ、出番を待っていた。

■ 

 「殺す・な」はバグダッド侵攻前後に結成された、反戦ユニットらしい。
 デモ活動などをしてるみたい。ライブ中にデモ映像を流し、入り口付近へデモ申請のカードを掲示していた。

 コブラを「ゲーム」でなく「戦争シュミレーション」と位置づけ、仮想敵に見立てる。
 かれらの主表現は「アート」であり、音楽表現を「見慣れぬ戦場」と定義した。
 
 そんなコンセプトが書かれた椹木野衣による「メモ」が当日配られ、ちょっとげんなり。
 表現形態やイメージ戦略のどれをとっても、ユニットの主義主張に賛同できないようだ。
 気を取り直して、薄暗い中で開演を待つ。

 開演時間の19時をほんのちょっと押して、ステージが始まった。
 三々五々、メンバーがステージへ。
 一通りそろったあと、巻上公一がぱっとステージ前へ現れた。

 照明は薄暗いまま。椹木野衣は中央でエレキギターを構えた人かな。
 このページの一番上に書いたメンバーの楽器紹介は、HPの記載から引用しました。
 メンバー紹介が聴き取れず、当日のメンバー変更があったかどうかは不明。
 たとえばECDが参加したか疑問だ。前半の上手手前で、サックスを吹いてた人かなぁ。

 巻上が「今夜はかっこいいよ〜っ」と前置き。
 サインを促し、コブラが始まった。

 最初のゲームは、露払いってとこか。
 ノイズの交錯が瞬時に行われ、あっという間に終わった。わずか1分くらい。

 2ゲーム目からは、あんがい長めのゲームが続く。4〜5ゲームやったかな。
 今夜は照明が暗くて、サインが見づらいらしい。
 しょっちゅうサインが飛ばされ、巻上が積極的に音像をあやつる瞬間もしばしば。

 実際にサインを出す人も少ない。2〜3人が遠慮がちに出すくらい。
 キーボード奏者や、その上手にいるさまざまな楽器を演奏する奏者、下手側のギタリストなどが、積極的にサインを出していた。

 ゲリラの登場も、前半はほとんどない。
 メロディは皆無で、ノイズのやりとりがメインとなる。
 リズム・パターンらしき物もない。ただ4つ打ちされるだけ。単調で困った。
 たまにキーボード奏者が出す牧歌的なフレーズが癒しだった。

 楽器を使わずに参加したメンバーも数人おり、コミュニケーションが分かりづらい。
 スケッチブックに書かれた「殺すな」などの言葉を掲げるパフォーマーや、幕にひたすら水墨画を描いてたメンバーは、かなり浮いていたのが否めない。
 この絵は上手かったな。ただしモチーフが反戦とは言えず、違和感も多々あり。

 前半は探りあいで終わったような。
 ときおり登場するゲリラも、自分勝手に動いて斬首されるパターンが多かった。

 さまざまな楽器を操るミュージシャンへサインが振られ、唐突に目の前のドラムセットを力いっぱい蹴飛ばし、破壊する。
 意表をつくにはいいが、こういう行為が「反戦」を掲げるコンセプトと馴染まず困惑した。

 メンバー全員にサインが入っているわけではなさそう。
 サインが伝わらず戸惑うシーンも多々あった。
 ステージ最上手のサックス奏者はサインが見えていないのか、理解していないのか・・・。
 サインを無視して吹き鳴らす部分が幾度もあり、メンバーや巻上に突っ込まれていた。
 
 前半は約50分。
 テーマのカットアップが決まると音が締まるものの、どこか上滑り気味だった。

 わずかな休憩を挟んで始まった後半にこそ、面白い瞬間が多々あった。
 後半セットでは何人かのメンバーが入れ替わる。
 絵描きやプラカードは引っ込んだようだ。

 蛍光灯の付き消しによる瞬きに伴うノイズや光を「演奏」する奏者、顕微鏡をスライドで移す奏者などがごく自然に音楽と溶け込む。
 顕微鏡奏者が映すプレパラートに乗った、細胞や微生物(?)がうごめくさまは、なかなか迫力あった。

 明かりはいくつかの白熱灯だけ。うす暗い照明は後半も同じだ。
 だから明るく蛍光灯が照らされると、妙にステージがきらめいた。
 
 創作楽器が面白かったのは、最下手のミュージシャン。
 自転車をさかさまに置き、車輪の回転やチェーンの唸りを増幅しノイズマシンとする。
 さらにデコトラみたいな発光物をハンドルで持ち上げ、音や光をコミカルに操作していた。

 中原昌也が参加してたなら、たぶん下手側に機材を並べてたノイジシャンがその人だろう。
 プラスティックの下敷きを仰いで電気増幅したり、シャウトなどで盛り上げてた。
 この下敷き仰ぎをまねして、アコギの激しいストローク(の振り)や蛍光灯の瞬きで表現するユニークなシーンもあったっけ。

 後半も基本はノイズ。音楽っぽいところはほとんどない。
 今夜のコブラは音だけ聞いてもまったく面白くないだろう。
 あくまでも映像混み、その場に同席してこそ味わえる音楽だった。

 リズムの単調さは後半も変わらず。
 たまに4つ打ちで連打されるビートへ絡む音像に、4/4っぽいシーンがあったくらい。

 ただし今度はメンバーも慣れてきたのか、ぴしぴし小気味よくサイン転換が決まる。
 刺激的な面白いシーンが多い。
 ゲリラも頻繁に登場し、メンバーの抜き差しをどんどん行った。

 メンバーのほとんどが音を小さめで提示する。
 テルミン奏者なんて、もうちょい盛り上がって欲しかった。ほとんどハムノイズだけで終わってたもの。

 巻上はひんぱんにボリュームアップを指示。
 停滞しがちな音楽を「もっともっと!」とあおってた。

 ホーメイ奏者がゲリラとなり、語りを入れたゲームが今夜のベスト・テイク。
 後半の3ゲーム目くらいかな。
 カットアップでノイジーなテーマが飛び交う中、おもむろに口火を切った。

 何を喋ってるかはよくわからない。
 が、巻上がフェイドアウトを指示しても語りをやめない。最後は無伴奏でダイエット礼賛かなんかを話す。
 静かに喋りを着地させたとき、大真面目に語った内容が可笑しくて、観客から大爆笑が飛んだ。

 偶発ノイズに頼った音作りで、どうしても続けて聴くと飽きてくる。
 もう少し奏者の引き出しが多かったらなぁ。
 アイディア一発のパターンが多く、臨機応変に組み立てやストーリー性を意識するメンバーがまずいない。

 最後は何人もの奏者が楽器を叩き壊し始め、正直うんざりだった。
 終演のパフォーマンスならともかく、ステージ途中で破壊するのは演奏放棄以外のなにものでもないだろう。
 そもそも行為そのものが、反戦主張と馴染むんだろうか。

 後半も4〜5ゲームくらい。
 メンバー紹介が終わり、拍手が飛ぶ。

 唐突にメンバーが「殺す・な!」「殺す・な!」とシュプレヒコールを始めた。
 巻上が面白がって観客に「参加」のサインを送るが、さすがに唱和する観客はまずいない。

 しばらくアジが続き、「プロンプター、巻上公一!」の紹介で本当に終演。
 ライトアップがされるでもなく、薄暗いまま客出しが行われた。

 日本のコブラの約束事を片っ端から壊したスタンスは評価する。
 楽器以外でも加われる、柔軟性を示した選択は悪くない。
 あとは観客を楽しませる冷静な視点があればもっと楽しめたはず。

 音楽面で言うならば、きっちりPAを使ったほうがいい。バランスがいまいち悪かった。
 コブラとして面白かったが、音表現の観点からはいまいちか。
 出演者がコブラの毒にやられ、自己完結の表現にとどまった気がする。

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