LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/11/8   西荻窪 アケタの店
 
出演:千野秀一ソロ
(千野秀一:p,ラップトップ)

 頭を切り替えようと、いったんライブハウスを出る。外を一回りしてみた。
 店へ戻ったのは、深夜0時をちょっと回ったころ。
 観客は6人くらいかな。

 すでに千野秀一はステージにスタンバイしていた。
 テーブルの上にはマックのノート。
 横へ灰皿を置き、ピアノにタオルを引っ掛ける。
 きっちり足を組み、画面に向かってテクノな音を操っていた。

 唐突に、店内へビートの利いた音楽が流れた。
 ふらっと立ち上がり、ドラムセットに座る。
 店にあったスティックを持ち、上体を大きく揺らしながらスネアを散発的に叩いた。

 次はブラシを持ち出す。タムを叩き、壁に立て掛けたシンバルを鳴らした。
 ハイハットがセットされてないが、かまわずペダルを踏んでいる。
 ほんの少し叩いてスティックをフロアタムに置いた。
 転げ落ちかけたので、つっと手を伸ばす。そっとフロアタムへ乗せなおした。
 
 ドラムで遊んでるのかなぁ・・・早く始まらないかな・・・と誤解していた。
 要するにこれもすべて、サウンド・チェックかと思ってたんだ。
 だけどいつまでたっても終わらない。どうやらもう、ライブは始まってたみたい。
 客電はずっとついたままだった。

 マック一台で操作するさまはメルツバウを連想する。
 が、ここでの音は静かな電子音楽だった。
 どんなソフトを使って、どうコントロールしてたか、よくわからない。

 操作を眺めてても、音との因果関係が理解できなかった。
 マウスを多用してたのは、音程やピッチを変えてたの?
 時にはキーの一つ一つへ音程がアサインされ、鍵盤のようにぱらぱらと鳴らしたりも。

 キーワードは混沌か。メロディもリズムも小節感もない。
 ランダムに音が変化する。
 ダーク・アンビエント・テクノぽいが、ほとんど千野は展開を意識してないのでは。

 たまにタバコをくわえつつ、ぼんやりと画面を見つめる。
 ピアノに引っ掛けたタオルを取って、机の上に置いた。

 試行錯誤、と言えば音のイメージがわくだろうか。
 音が数度途切れ、舌打ちする千野。
 だが何も無かったようにサウンドを組み立てなおす。

 あまり音は分厚くない。2〜3種類を重ねてたくらい。
 ピアノ曲や、フランス語の講座らしきサンプルを呼び出して加工する。
 フランス語っぽい喋りは幾度かループされ、音飾も変化させた。

 言葉でこの音楽を上手く説明できない。
 ひとつながりのビートや、なんらかの展開を想像してはだめ。
 いろんな音の出る楽器で遊んでるような・・・無邪気な印象を受けた。

 今夜のライブは、耳を閉ざしたら面白さを味わえない。
 たぶん千野も曲らしき構成はまったく意識せず、完全即興だったはず。
 一つ一つの音と、ランダムな流れを楽しむ場だった。

 0時40分くらいかな。
 つっとマックからの音を止め、千野はピアノへ向かった。
 
 両手を泳がすように。ぱらりぱらり、と鍵盤をやさしく叩く。
 タッチはそうとう柔らかいみたい。
 鍵盤に指は落ちるが、ハンマーが弦を叩かないのか。爪と鍵盤があたるような、硬質な音もたまに聴こえた。

 ここでもやはり完全即興。次第に音符の数が多くなる。
 ふっと止まる音。
 千野はセーターを脱ぎ捨てた。

 停止した音楽の脈絡は何も無い。ほんとうに無造作に音が止まった。
 一曲終わったってわけでもない。
 そもそもメロディも展開もビートもなにもないんだから。

 即興で音を出す。唐突に音が止まる。
 このセーターを脱ぎ捨てる仕草が、今夜のライブを象徴した。

 千野の繰り出す音は、次第にスピードが上がる。
 早弾きでフレーズがばら撒かれた。
 あくまで透明な雰囲気が続く。不協和音っぽい響きがまったく無いのが新鮮だ。

 そもそも和音がほとんどなかったような。
 左手と右手が優雅に動き、音符が転がった。

 「ちょっと休憩します」
 やはり音楽は唐突に止まる。
 とうとう前半セットは最後まで客電がついたままだった。

 「・・・皆さん、帰れます?」
 不思議そうに千野が観客へ尋ねる。すでにこの時点で夜中の1時くらい。
 最初は無音だったが、「なんかBGMかけましょうか」と、千野がマックをいじる。
 流れてきたのはたぶん、イギー・ポップの"Fuckin' Alone "。

 休憩時間はさほど長くなかった。
 曲目は変わり(何の曲かは調べつきませんでした)、おもむろに千野がマックの前へ座った。
 
 BGMがフェイドアウトして、低音中心の唸りが広がる。
 うねる低音。ハム音ともちょっと違う。単なる電子音か。不安げな響き。
 その低音をドローンとして、千野はピアノの前に立った。

 小さいマレットを持ち出し、グランドピアノの中へ手を突っ込む。
 そっとピアノ線を指で爪弾き、内部のそこかしこをマレットで叩いた。ピアノの支柱も叩く。
 低音とかもし出す、あくまでもランダムな響きがしばらく続いた。

 いったん机へ戻り、低音を止める。
 使ってたマレットはグランドピアノの中へほおりこんだまま。
 しばしパラパラと鍵盤を弾いた。

 椅子の高さが気に入らないのか、がたがた派手にいじる。
 この行為は演奏とは関係なかったのかもしれない。
 しかし椅子を調整するノイズすら、今夜のライブでは演奏の一環に聴こえた。

 そのままずっとピアノとの格闘が続く。
 細かな展開は覚えていない。高速フレーズが多発する、どこまでいっても即興だった。

 たまにランニング・ベースのように低音部を左手が繰り返すこともあった。
 しかし繰り返しの拍も、かろうじて4の倍数を意識させる程度。ビートまで固まらない。

 演奏終わったのが2時くらいかな。唐突に音が終了。
「一応終わります。・・・あきれてませんよね?」
 ぼそっと観客に質問し、笑いが漏れた。

 時計を見た千野がつぶやく。
「帰れます?・・・しーらない」

 これで終わりかと思いきや。また千野がマックの前に座った。
 「つい最近、映画音楽をやったんですよ」
 店内に音楽を流す。今夜のライブに似た電子音楽だった。
 客席に座る千野。なんかますます暗くなる音だなぁ、と独り言。

 曲が終わりかけると、またステージの机へ戻ってマックを操作した。
 アヴァンギャルドなピアノ曲を、つぎつぎ流す。
 問わず語りに曲紹介をした。

 ふいに立ち上がって、ピアノへ向かう。
 グランドピアノの弦を爪弾いたり、音楽にあわせて(?)フリーに軽く鍵盤を叩いたり。
 第三部が始まったのかな?と眺めてた。

 だけどこれもぼくの勘違い。
 途中で「ステージに座ってやるのも変だな」と、マックを抱えて客席に座ってしまう。
 どうやら終電の無い客へ対する、サービス精神のあらわれらしい。
 音楽を次々紹介して、楽しませようとしてるみたい。

 このまま延々と店にいるほうがまずいのかなぁ。
 2時半を回った頃、ぼくは店を出た。

 なんだか頭の中がぐるぐる。
 リラックスしてて、混沌で、不思議で。
 どこまでも自由なステージだった。

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