LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/11/8   西荻窪 アケタの店
 
出演:AKETAセッション
 (明田川荘之:p,オカリーナ、鈴木克人:b、楠本卓司:ds)

 外は選挙に向けて、最後の演説でやかましい。
 なのに今夜はどういう頃合か、開演時間になってもお客がぼく一人だった。とほほ。
 30分くらい押して演奏は始まったが、観客が一人ってのはミュージシャンに対して申し訳ないです、ほんと。

 拍手しても異様に浮く。いやはや緊張しました。
 3曲目の途中から観客がやってきて、最後は3人くらいになったかな。
 いやはや得がたい経験でした。あんまり繰り返したくない経験ですが。

 鈴木が演奏前に、入念なチューニングを施す。
 アルコで細かく音程を確認した。

<セットリスト>
1.Strange wood blues
2.世界の恵まれぬ子供たちへ
3.侍一本ブルーズ
4.Jazz life
 (休憩)
5.I closed my eyes
6.I fall in love(・・?)
  〜エアジン・ラプソディー

 (5)以外は明田川のオリジナル。
 メドレーで演奏された(6)の前半もスタンダードかな?ちょっとタイトルが聞き取れませんでした。
 秋にちなんで、って紹介してたな。この曲自体が秋にちなんだ曲なのか、動詞のfallを名詞の秋と引っ掛けた明田川のジョークなのか、どっちだろう。

「渋谷オーケストラでも演奏してる曲です」
 客はぼくしかいないのに、きちんと冒頭に曲紹介のMCあり。
 じわっと油が全体に回るような、ゆったりしたムードのイントロだった。

 最初はメンバー紹介を兼ねてのソロ回し。
 明田川が音を確認するようにアドリブを決め、ベースがソロを繋いだ。
 鈴木はベースを前後に揺らしつつ、軽やかに弾く。今夜はずっと指弾きだった。

 続くドラム・ソロは単独ではなく、最初は明田川との12バーズ・チェンジから。
 みるみるテンションが上がり、4バーズからチェイスへと変わった。

 ぶっちゃけて言うと、どんな演奏か不安だった。
 客はぼくしかいないしさ。ミュージシャンがむかついてもおかしくない。
 が、そんな不安はすぐに払拭した。
 曲を重ねるにつれ、次第にグルーヴが高まる。ふたを開けてみればどの曲も、飛び切りの演奏だっって記しておく。
 
 曲が終わって、及ばずながら拍手すると楠本が軽く一礼。ううう。申し訳ないなぁ。
 ちなみに今夜の顔ぶれは、明田川セッションとして馴染み深い顔ぶれ。
 ベテラン楠本に、まだ20代の若手な鈴木というリズム隊だ。

 次は前置きなしに始まる。
 明田川のピアノがイントロだった。比較的最近、作られた曲。
 早くも明田川のうなり声が飛び出した。
 ここからはどのソロも、たっぷり小節をとっていた。
 目を瞑り、盛大に声を響かせる。ふんだんにロマンティックなフレーズがあふれた。

 ソロの最後でテーマを一節。ベースにソロを受け渡す。
 鈴木のベース・ソロが柔らかい。
 フレーズの高低を使い分け、丁寧に音を確認するかのように組み立てた。
 攻撃的に押したりせず、きっちりとノリが膨らむ。

 ドラムはブラシで静かにバックアップ。
 鋲を打ったシンバルの響き、引きずるような音がすごくきれい。
 シンバルやハイハットを、楠本は丁寧に鳴らした。
 
 「恵まれぬ木村や楠木のために・・・いやいや、「世界の恵まれぬ子供たちへ」という曲でした」
 曲紹介すると、立ち上がってオカリーナを構える明田川。
 イントロなし。アンサンブルはテーマから入った。

 マイクにぴったりくっついてオカリーナを吹くので、バランス的にちょっと音が大きかった。
 ベースはメロディの終わりに尻尾のようなオブリを付ける。
 楠本はリムショットによる連符を多用した。

 ドラムがスティックで小技を効かせる。
 左のスティックを打面に押し付け、右手でそのスティックの腹を叩いた。
 ココココ、とキュートで静かに響く。
 左で打面のピッチを変えてるのか、微妙に音程も変わってた。
 
 1stセット最後は「Jazz Life」。
 変化の多いイントロからテーマへ展開する。
 ソロでイントロを弾いた明田川だが、途中でいきなりフレーズを止めた。
 ピアノの上へ載せた、オカリーナのケースを下に置く。

 無造作に演奏を再開し・・・またもや唐突にストップ。
 下ろしそびれたオカリーナのケースを、床へ置く。
 そんなあっけらかんとした仕草が面白かった。

 すごく音が暖かく、生き生きしてる。
 こまかいソロの音使いもさることながら、とにかくノリが心地よかった。

 たっぷりとドラム・ソロもあった。
 楠本は肩までスティックを持ち上げ、鋭く振り下ろす。
 ピアノのクラスターはちょろっと飛び出したが、メロディアスを基調。とびっきりよかった。

 前半は1時間ちょっと。始まった時間が遅かったため、15分くらいで22時になる。
 客電がすっと落ち、無造作に第二セットの始まり。
 
 鈴木に曲目を説明するが、楠本に聴こえなかったみたい。
 首を伸ばして、鈴木の譜面台を覗き込む。
 明田川に"I closed my eyes"ね、と言われ、あっさり頷いてた。

 "I closed my eyes"は明田川がここ数年ライブでよく取り上げ、かなりの回数を聴いている。
 しかし今夜の演奏は、以前とはそうとう違った趣だった。
 アプローチがぐっと力強い。時にフリーっぽくなる瞬間も合った気がする。

 明田川がライブの初めによく演奏するレパートリーだが、この日はひときわ生き生きしてた。
 ぼくにとって、今夜のベスト・テイクがこれ。
 
 次の「I fall in〜(?)」はぼくが知ってる曲かなぁ、とメロディを追ってるうちに終わった気がする。
 うーむ、惜しいことした。

 たしかオカリーナもここで吹いてたと思う。どうも記憶があいまいです。 そしてエンディングから間をおかず、そのまま明田川がピアノで次の曲へ繋いだ。
 いや、オカリーナだったかな?すみません、細かいとこ覚えてません。

 この曲だったか、「I fall in〜(?)」のときだったか。
 オカリーナのソロを吹く中で、一瞬「エアジン・ラプソディー」の断片を聴いた気がする。

 「エアジン・ラプソディー」はオケでホーン隊が分厚く押す印象が強い。
 ここでは当然、ピアノがすべての音符をカバー。テーマの最後でふわっと広がる和音が気持ちいい。
 
 ベースやドラムのソロもたっぷり聴かせた。
 それぞれのソロで、明田川はマイクへ向かいメンバーを紹介する。
 小気味よい鈴木のソロに、勇ましく連打した楠本のソロ。

 そして明田川に戻された。
 さあ、大団円だ・・・と思いきや。唐突に明田川が引きやめ、「終わりです」と一言。そのままステージを降りてしまう。

 「低音弦が切れたかと思った・・・。ハンマーが挟まっただけみたい」とスタッフに喋ってるのが聴こえた。
 ピアノの不調で、中断したのかな。
 楠本が興味深そうに、グランドピアノの中身をのぞきこんでいた。
 
 したがって最後のクラスター連打もなし。拍子抜けな終演だ。
 が、もういちど強調したい。今夜も極上の演奏ばかりだった。

 明田川がここでライブをする常として、今夜もきっちり録音されている。 ぜひ発売してほしいなぁ。今夜の観客だけで独占するには惜しい。

 曲を重ねるにつれセンチメンタルなグルーヴが増す。
 聴き終わって、頭が暖かい。なんだかぼおっとしてしまった。

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