LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/10/14   大泉学園 in−F

出演:翠川+井野+太田
 (翠川敬基:vc、井野信義:b、太田惠資:vln,vo)

 今夜のセッションはアコースティック編成。仕掛け人は太田かな。
 MC用にマイクを太田が一本立てた以外、どの楽器もアンプなし。

 たとえば太田がエレクトリックへ持ち替えやパーカッションを使ったりとか、井野がプリペアードやエフェクタを使ったりとか。そういった技も何もない。
 純粋に生音のみで、音と向かい合った。

 演奏前、ミュージシャンはカウンターでくつろぐ。
 ステージが始まったのは20時20分くらいだった。
 翠川はあご一面にひげを生やしてる。さらに頭はバンダナ姿。取らなかったが、どうやら丸坊主らしい。

<セットリスト>
1,(フリー)
2.トレス
3.アグリの風
(休憩)
4.23K-6H
5.紙風船
6.seul-b
7."オータバカ"(TAO)

 初手は挨拶代わりのフリーってとこか。
 あまり見ない顔合わせのセッションだ。しかし見事な相性で音が溶け合う。
 最初は全員がアルコでスタート。
 じっくりと音を重ねる。まっさきにソロの口火を切ったのは、太田だったかな。

 クラシックっぽい流麗できれいなメロディをたっぷり弾く。
 彼のソロが途切れた瞬間に、すかさず応える翠川。
 寄せては返す波のごとくソロが繋がる。トリッキーなフレーズはほとんどなし。
 さまざまに美しいメロディがあふれた。

 太田がピチカートへ切り替えると、すかさず井野も指弾きであわせる。
 このフリーで井野は弓を多用。ランニングはあまりなかったと思う。
 翠川を筆頭に、だれもが拍子もテンポもくるくる変化させた。
 ごくごく自然に風景が切り替わり、滑らかに即興が紡がれる。

 主旋律役もくるくると入れ替わり。
 早くも太田の弓がおどろにほつれてた。
 あまりアイ・コンタクトをかわさない。だれもが軽く目を閉じ、音世界に没入。

 フリー・セッションの最後の音は翠川だった。
 彼が「ぽんっ」とひときわ強く弦をはじく。その音が合図かのように、曲が終わった。
 約20分くらい。最初からいきなり聴き応えたんまり。

 ここからはそれぞれの準備した曲を演奏する。
 もっとも太田は「諸先輩方とやるのに、曲を準備してこなかった・・・」と頭をかいていた。
「6時がリハ開始なのに、登場したのは7時だったもんね」
 翠川がからかう。

 前半は「トレス」「アグリの風」と緑化計画の曲が続いた。
 二年位前、太田がマンダラ2で緑化計画のゲストで登場したときを、ふっと思い出す。

 3人が弓でテーマをユニゾンする「トレス」。
 最初は旋律を、次は小節の頭の音だけを提示する。
 リズム隊のいない編成でも、最初のユニゾンはぴたりとそろった。
 だけど続く拍の頭だけになるとずらす。ここでもそろった頭が好みなんだけどな。

 まっさきにソロを取ったのは翠川だったか。
 うつむき加減でチェロをゆっくり奏でた。
 この曲に限らず、テーマが終わるとほとんどフリーになる。
 奔放なソロの展開からいきなり翠川がテーマを提示し、エンディングへ向かう。
 どの曲もテーマに切り替わる瞬間が、スリリングでかっこよかった。
 
 「アグリの風」で、初めて太田が歌いだす。
 バイオリンを弾きやめ、ホーミーつきアラブ風ボイス。これを翠川のソロのカウンターでぶつけた。
 ベースはここでドローンを。聴き取りづらかったが、弾きながらユニゾンで井野は唸っていた。

 たしか太田が歌ったのはこの曲だけだったような・・・。
 今回の感想は、書くまでに時間かかってるので、かなり細部忘れてます。ごめん。

 「若手ならあと2〜3曲はやるところですが・・・」
 太田が笑わせて、いったん休憩。1stセットは50分くらい。

 後半は太田が準備をしたアンソニー・ブランクストンの曲。意外な選曲だ。
 「23K-6H」の意味はなんだ、でひとしきり盛り上がる。
 「23キロを6時間で歩く意味では?」という仮説が提示され、「ま、ブランクストンだからしょうがないか」と納得しあう。

 アップテンポのテーマを快調にユニゾン。
 スラップびしばしのベースはここでかな。
 ソロの途中、翠川が童謡「ぞうさん」のメロディを調子っぱずれにぶつけ、観客は大笑いした。

 続く「紙風船」は井野の曲。
 サウンドの支え役を勤めがちだったベースが、ここではメロディの主役に。
 多分はじめて聴く。叙情的できれいだった。
 この曲、川原で弾いてるときに10分くらいで完成したとか。

 井野が指でリズミカルに弦をはじきつつ、時折ぽろんと指板の上の部分を爪弾く奏法を聴かせたのはここでだったかなぁ。
 組み立てがばっちりだった。

 「オータバカ」をやる時、まず翠川が楽譜を太田に渡す。
 「"オータバカ"ですか。・・・何でこのタイトルなんだ〜」
 苦笑する太田。結局これは最後に取っておくことに。

 あれこれ譜面をめくって「seul-b」を選曲した。
 ここでは静かに盛り上がったかな。
 
 そして「オータバカ」。要するに緑化計画のレパートリー「TAO」のこと。
 太田とセッションするときだけこのタイトルかな。

 最後の最後で、むちゃくちゃにはじけた。
 きっかけはなんだったろう。
 フリーキーに激しくこすりたてるバイオリン・ソロか。
 それとも翠川がコル・レーニョ(弓の背で弦を叩く奏法)の多用や、ボディを手のひらでこする音であおったからか。

 いずれにせよ、中盤は猛烈な混沌になった。
 翠川はボディの胴や背を手のひらでギギッとこすり、エンドピンや弦の角を、さらには譜面台までも弓で弾く。

 井野はベースのボディを手のひらではたき、店に置かれたボンゴを弓の先で軽く叩く。
 シェイカーを振ってほおり投げてベースを置き、同じく店置きのウクレレをかき鳴らした。

 太田はきょろきょろ見回し、面白そうなものを探す。
 まずは黒板消し(?)を見つけ、ぱしんと一打ち。
 バイオリンは横へ置き、ピアノのふたを開けた。
 けれど弾かず、さらに店内をごそごそ。

 いろんなものが置いてある、inーFだからできる芸当だろう。
 カエルの大きなぬいぐるみを見つけ、両手にそれぞれ持ってマイクへ向かって鳴らす。

 一方翠川はチェロを置き、店にあったウッドベースを持って井野のウクレレとセッションしてた。
 あげくにチェロの弦を弓で、ばいんばいん叩きのめす。

 はちゃめちゃになったあと、おもむろにテーマへ。 
 「あおーっ」と一声高く、太田が吠えた。

 タイミングがずれたかのように、ぽとんと翠川が弓を取り落とす。
 一呼吸置いて太田の語り。
 そしてコーダへつないがれた。

 最後まで張り詰めた雰囲気にならず、どこかゆとりやユーモアを忘れないセッションだった。
 オクターブ違う音が絶妙に絡み合う。リラックスしつつも、ぐいぐい音世界へ引き込まれた。 

 「この顔ぶれは継続した活動にしたい」
 冒頭に太田が言ってたっけ。ぜひ!

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