LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/9/28   新宿 pit-inn

出演:坂田明+大友良英+吉田達也
(坂田明:as cl voice、大友良英:g electronics、吉田達也;ds voice)

 珍しい顔ぶれのセッションだな。MCがほぼなく、どういう経緯の企画か不明。
 坂田明の人選か、それともイベントなのか・・・。
 チラシにはほかのセッションとあわせ今夜が紹介されてたし、あんがいピットイン企画かも。

 この日は裏にまぼろしの世界イベントがあり、客がバラけるかと思ったら大間違い。立ち見もずらりと出る盛況だった。
 ライブ前に「演奏中はミュージシャン意向により禁煙とします」という、珍しいアナウンスあり。

 ミュージシャンらが楽屋から登場したのは、たしか20時にそろそろなろうというとこ。
 この日はいい席が取れず、後ろのほうで聴いていた。演奏中のメモを元に当日の様子を書いてみます。
 基本はすべてフリー。見たところ段取りは特になさそう。

 中央に坂田が立ち、上手は吉田。
 下手に大友がスタンバイし、最後まで大友は座ったままエレキギターを弾いた。
 坂田の前にMC用マイクもあってたが、喋りはほぼ皆無だった。

<前半:その1:約25分>

 スタンバイして前触れなく、坂田明がハイトーンでアルト・サックスを鳴らした。
 タンギングほとんどなしでフリーキーに吹きまくる。これが今夜の基本スタンスだった。まるでジョン・ゾーンみたい。
 大友や吉田もがんがん押し、まずは混沌が生まれる。

 が、ゆっくり大友がギターをダウン・ストローク。そのビートへ吉田もあわせ、いったんテンポが固定された。
 大友は弾きやめ、吉田がのどに詰まった声で即興ボイス。
 しばらくたつと大友がノイジーにエレキギターをかきむしった。

 手数多いドラム・ソロを短く挟むと、サックスの音が落ち着きぎみに。
 大友は発信機(?)で電子音を唸らせた。
 次第にテンポが速くなる。

 激しく叩く吉田。ノーリズムでアルトと絡んだ。
 大友も加わり、トリオの音が高まる。サックスのハイトーンがひときわ鳴りわたった。

 ドラムとギターのコンビネーションにチェンジ。ハードなタッチでゴリゴリ押す。
 二人の音は相性ぴったり。ドラムはこれまでの複雑なビートから一転し、比較的4拍子に近いリズムだったと思う。
 大友がフィードバックを響かせた。

 クラリネットに持ち替えた坂田がゆったり吹く。フレーズはアラブ風というか・・・なんとも奇妙な節回し。
 吉田の味付けはがボイスにて。
 ここまでが始まって、約10分くらい。

 大友は弓でエレキギターを弾く。
 手元の機材でマイクに思い切りリバーブを乗せた吉田は、すすり泣きのような声を入れた。
 クラリネットのフレーズは、不安げに長い譜割り。

 ドラムが静かに連打された。ドラム横のサンプラー(?)を吉田がいじる。
 リアルタイムで声やドラミングをループさせ、一人セッションが始まった。
 パルス風フィルがひずんだ音でサンプリングされ、スピーカーから流れる。 

 カウンター気味にリアルタイムでドラムをぶつける。
 灰野が似たような手法をよく使うが、吉田が行うのは新鮮だった。

 ここではサックスもギターも弾きやめ、吉田の独壇場。
 そのまま静かに演奏が収斂して、曲が終わった。

<前半:その2:約10分>

 軽くここでメンバー紹介をしたっけな?
 ギターのフィードバック・ソロがイントロだった。

 アルトがぶかぶか吹くが、どこか余裕ある。ドラムも加わった。
 3人は視線をまるで合わせず、音に没入する。
 それぞれの音を聴いているので、ばらばらな印象はない。

 だが、おのおののテンポは見事にまちまち。ポリリズミックに突き進む。 ギターとドラムのリズムが、微妙にシンクロした。
 吹き殴る坂田が不意にアルトを宙へ浮かす。

 そのまま振り下ろし、カットアウト。微妙にギターのノイズが残った。

 ここでいったん休憩。ミュージシャンは集中で、かなり消耗するようだ。
 短めな演奏だが、それぞれ息を切らしていた。
 休憩は30分くらい。
 大友良英はフロアで雑談していたが、ほかの二人は楽屋から一歩も出なかった。

<後半:その1:約15分弱>
 
 ギターが風切りみたいな音を出す。吉田はまず声で対応。坂田はアルト・サックスを搾って低音を出した。
 喉でつぶやくような声が、次第に大きくなる。
 アルトは低くノイジーに響かせた。

 大友が操作する機材から、低音ハムノイズが産まれる。吉田はドイツ語っぽい即興でカウンターを入れた。
 アルトのアドリブが高音部分へシフトする。
 電子音は断続的なサイン派風になり、スクラッチっぽいノイズも加わった。ちょっとしたリズム・パターン。

 アルトのフレーズが早くなり、ドラムも加わる。
 ギターのフィードバック。パルスが連打され、吉田は2ビートっぽいパターンをキープした。
 坂田はあえてフレーズの頭を吉田にも大友にも合わせない。ここでも多層リズムとなる。

 次第に混沌は増し、完全フリーになった。ギターがゆったりと重たいフレーズを提示。
 三者三様にうねった。

 ギターのかき鳴らしがリフのようだ。BPMは120くらい。すぐにテンポが速まる。
 高らかに坂田がアルトを吹いた。幾度も、幾度も。

<後半:その2:約15分>

 ぼくにとって今夜のベスト・プレイはここ。

 クラリネットと吉田の声が冒頭部分の組み合わせ。マイクに唇を思い切り近づけ、キスのような音を繰り返す。
 静かな音でギターが後ろからかぶさる。
 一瞬、吉田の声がスピーカーをパンして聴こえたのは気のせいか。

 坂田は静かにメロディを吹く。ドラムを叩かず、声だけで迎え撃つ吉田。 ファルセットを取り混ぜ、ドイツ語っぽい響きの即興だ。
 この間にギターへクリップなどを挟んだ、プリペイド・ギターで大友は前へ出る。
 ギターが鐘のごとく奏でられた。

 音像がスペイシーに進化する。
 やっとドラムが加わり、クラリネットのフレーズが細かくなる。
 サックス同様、タンギングはほとんどなく音が流れた。

 硬質なリズムが一癖あるアフリカン・ビートみたいに変わった。
 ギターはドローン役。たまに変化はあるが、じわじわ侵食する。
 
 坂田が吹き止め、後ろへ下がった。目を閉じ、聴き入る。
 ドラムが多彩で複雑なパターンで鳴る。
 ギターはフィードバックで応酬。一気に吼える。そのまま突き進んだ。
 
 目を見開き、ステージ前へ歩く坂田。マイクを引っつかむ。
 「かごめ!かごめ!・・・かごの!・・なかの!」
 三上寛よろしく「かごめかごめ」を絶叫する。
 大友、吉田の轟音が坂田を包んだ。
 
 「んだ!・・・んだ!」
 絶叫を続ける坂田。ギターの弦が切れてしまう。
 立ちあがってアンプへ近づけフィードバックさせる大友。
 エンディングへ流れ込む。

 「こんな感じです。・・・帰らないよね?」
 坂田がぼそっと客席に語りかけ、爆笑を呼んだ。

<後半:その3:約20分弱>
 
 アルトがベロベロと吹き鳴らされる。ドラムいきなり連打で対応。
 勢いよすぎるのか頻繁にドラムセットをわしづかみし、ぐいっと手元へ丸ごと引き寄せていた。
 テンポはいかにも4/4っぽい。

 大友はゆっくりとダウン・ストローク。これがきっかけかな。音がもやけて混沌となった。
 フリーキーに軋ませ続ける坂田。
 ギターもテンポ・アップし、吉田、坂田と3人のリズムが同調した。
 
 坂田は吹き止め、ステージ奥へ控える。
 猛然とギターがドラムへ襲い掛かった。がっしり受け止め、ハイテンションなビートで立ち向かう。 
 暴風雨が吹き荒れた。
 弦がまたも切れる。ピックアップぎりぎりのポジションを左手で押さえ、かきむしる大友。

 再びドラムとギターの波長が合う。
 アルト・サックスをくわえ、演奏に入ろうとして・・・やめる坂田。あえて控えたようす。

 ドラム・ソロへ。ソロの合間にも幾度となく、吉田は力任せにドラム・セットを引き寄せた。
 比較的長いソロだった。次々繰り出すリズムが面白く、まったく飽きない。

 ギターのフィードバックがかぶったところで、坂田もアルトで疾走する。
 かき鳴らしの高音を大友が提示した。
 ハイテンションが次第に消滅、力尽きるように終焉を迎えた。

 3人ともへとへとで楽屋へ消える。

<アンコール>
 
 拍手が山のように。しばらくたってメンバーが登場した。
「こういう音楽だから、アンコールといっても・・・面白いねぇ」
 微笑んだ坂田が、いきなりサックスを吹いた。

 前置きなしにハイライトへ。3人がてんでに猛烈なフリーをぶちかます。
 さくっと1〜2分でクライマックスを迎えた。

 全般を通して、極上のフリー・ジャズだ。
 そもそもこの顔ぶれで、つまらない音になるわけがない。最初からクオリティの高さは保障されている。

 逆に予定調和をどこまで崩せるかが鍵だろう。
 この点では耳が悪慣れしてるせいか、妙に冷静な聴き方しちゃった。
 期待通りのセッションで文句なし。凝縮・集中した猛演を堪能できた。

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