LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/8/19   江古田 バディ

出演:藤井郷子カルテット
(藤井郷子:p、田村夏樹:tp、早川岳晴:b、吉田達也ds)


 藤井カルテットを聴くのは去年の10月ぶり。
 メンバーが店へ戻ってきて、一息つくとすぐにライブが始まった。

 1stセットはMC一切なしで、つぎつぎに4曲を演奏。すみません、曲名はわかりませんでした。
 田村がトランペットを構え、振り下ろしが開始の合図だった。
  
 冒頭と最後の曲で、同じ音像が現れた。
 田村がぶはぶはと息を響かせて吹き、藤井は中へ腕を入れてピアノ線をはじく。
 どっちも同じメロディだったか覚えてない。1stセット全部が長い組曲だったら面白いな。

 このブハ音トランペット・ソロのあと、ベースとドラムが絡むのが一曲目。
 ラストは高速テーマをバンドがユニゾンで決めた。

 早川の無伴奏ソロで始まる2曲目は、ゆったりなテンポでベース+ドラムのコンビネーションがテーマ。
 けっこう長いメロディのテーマだったと思う。

 早川は台を二つ使って大きく譜面を広げ、じっくり眺めて弾く。
 いっぽう吉田も変速リズムを叩きつつ、横目で譜面を・・・見てたのかな、あれは。
 あとで譜面を落としたのに、何もない台へ同様に視線をやりつつ叩いてた。単なる姿勢のクセかも。
 だとしたらあの複雑なリズムが全て暗譜ってことになる。それはそれですごい・・・。
 
 曲が進むにつれ勢いも上がる。
 3曲目のテンポはけっこう速い。ピアノが無伴奏でソロを取った。
 クラシックのイメージもちらつく、柔らかいフレーズが流れる。

 MCがない分、ぽんぽんステージは進んだ。
 もっともそれぞれの曲は10分強ぐらいと短め。1stセットは50分くらいか。
 
 吉田達也のドラムを生で聴くのはひさびさだが、迫力に圧倒されたのが4曲目だった。
 まずしょっぱなのテーマにて。
 ベースとピアノのイントロから、トランペット抜きで速いテーマが繰り広げられた。

 ここで・・・スティックを落としたのかな(よく見てなかった)。
 吉田が叩きながらハイハットの向こうへ手を伸ばし、いきなり椅子から転げ落ちてしまう。 
 倒れても依然として右手はスネアを打ち鳴らしたまま。
 すかさず態勢を立て直す。

 勢いあまって譜面台をひっくり返したが、まったく意に介さない。
 譜面がないまま、平然と変拍子で吉田は叩きまくった。

 ピアノが再びロマンティックなフレーズでソロ、続けて早川が骨太なアドリブを聴かせる。
 そのあとのピアノとドラムによるアンサンブル。これがまたすさまじかった。
 
 藤井がピアノへ屈みこみフリーに鍵盤を叩きつける符割りは、ドラムのリズムとほぼ一緒。
 譜面無しで叩く吉田のリズムと、吸い付くようにぴたりと息が合った。
 あらかじめ決まったリズムを吉田が叩き、藤井がその上で即興演奏したのかも。
 ピアノとドラムによる高速パルス・ビートが痛快だった。

 吉田はハイハットの踏み方も猛烈。
 しょっちゅう左足を後ろに蹴り上げ、いきなり上からペダルを踏んづける。
 がしがしワイルドに踏むから、つま先の方向は不安定にあちこち踊った。 
 前のめりのビートに体が揺れるが、縦ノリのみ。小節の拍はまったくわかんないや。
 
 続く田村のソロで、音の風景ががらりと変わって面白い。
 変拍子と同期したピアノのアドリブの直後、田村はあくまで拍を横断するような譜割りで吹く。
 フレーズの頭がずれて、多層的に楽しめた。
 
 背筋を伸ばし、後ろへわずかそりかえるように。
 息継ぎでわずかに身体を揺らす。
 田村のトランペットが勇ましく、鋭くはじけた。
 
 そしてブハ音トランペットとピアノのデュオへ、音が収束したのは冒頭に触れたとおり。
 静かにエンディングをむかえ、軽くメンバー紹介して1stセットが終った。
 以前聴いた時より、ぐっとまとまった印象だ。単にPAがさほど大きい音じゃないからか。
 エンディングも静か。しごくあっさり終るコーダが多かった。

 休憩を挟んだ2ndセットは、あれこれバラエティに富んでいた。
 まずはいきなり1st収録の"Junction"から。この曲大好き。

 イントロで藤井はピアノ線を抑えながら鍵盤を叩く、変則ミュート奏法を披露した。
 吉田もタムをスティックでミュートしてあわせる。
 そしてトランペット。勇ましくテーマを提示した。

 "Junction"は中間部のジャングルっぽいドラム・リフがかっこいいが、CDよりぐっとスピードが増してて驚いた。
 この曲はやり慣れてるのか、吉田はまったく譜面を必要としない。 
 複雑なドラム・リフを涼しい顔で、シャープに叩きまくる。
 
 そして5弦ベースを持った早川も、ディストーションをしこたま効かせてソロをかました。
 ハイトーンまで存分に使い、左手をぶいぶいスライドさせる力強いアドリブだ。 
 藤井のソロもドラマティック。
 最初は耳ざわりよくメロディを奏で、ラストはフリーで締めた。

 後半2曲目はゲーム要素を取り入れた即興だ。
 曲順がメンバーへ伝わってなかったのか、最初はぽこっと間があく。

 演奏前に早川は屈みこんで、なにやらエフェクターをいじる。
「いいよ、(演奏を)やってて」
 何か伝えたげな藤井へ、あっさり言う早川がおもしろい。
 
 簡単に藤井が演奏前に観客へ、曲構造を説明した。
 奏者間で送りあうサインにて成立する即興だが、サインの意味は想像して欲しい、という。
 コブラをイメージすると話がはやい。

 全員がサインを出し合うが、ステージ中央で一番前に立つ田村はサインが見づらそう。
 まずは藤井がサインを送り、優雅に右手を振り下ろした。

 サインは7〜8種類あるみたい。ぼくの想像はこんな感じ。
 手の甲:自分のソロ、指3本:3拍子、指1本:フリーに、指2本:倍テンポに、拳骨:エンディング。
 あとのサインは見当つかなかった。

 けっこう拍子がコロコロ変わってめまぐるしい。
 さらに吉田は同じ拍子で叩いてても、平気でテンポを揺らがせる。
 藤井は声の即興も織り交ぜてた。
 きいきい音が出るおもちゃを、田村はトランペットのかわりに鳴らす。 

 サインが飛ぶ順はランダムなのかな。
 かなり頻繁にキューが飛び交った。
 ラストの合図は、藤井がドの音を8回繰り返しだそう。

 終るなり早川は藤井へなにやら提案した。
 「いきなりミーティングになりましたが」
 笑いながら観客へ説明する藤井。
 「エンディングは『8回じゃわからん。2回繰り返したらどうだ』です。8回以上にして、はたして数えられるか・・・」

 どちらがいいかさておき、こういうアイディアは好みだ。1曲といわずもっとやって欲しい。
 でもあまり細切れキューだと、取り留めなくなるかな。

 さて続くは"five minutes to get the station"という曲。
 冒頭で、今夜初の吉田のボイスが聴けた。
 顔をタオルで拭いながら声を出しはじめ、おもむろに背筋を伸ばして歌を続ける。
 オペラ風ではなく、細切れな言葉を喋りたてるボイスだった。
 
 さっきも使ってたおもちゃを踏みつけ、音を出しながらトランペットを構える田村。
 ピアノがゆったりと和音を鳴らす上で、ベースとトランペットにてテーマを組み立てた。
 
 ところどころテンポが変わる構成の曲。
 トランペットやベースのアドリブではアップテンポで進むが、そのあとはスローに。
 最後はゆったりしたままコーダへ向かい、余韻を残し終った。

 4曲目もピアノが静かに奏で、ベースとトランペットがユニゾンにてテーマを。
 ここへ吉田が乱打で加わり、一気にテンポアップして突き進む。
 早川のアドリブが前のめりで、かっこいいソロだった。
 
 後半も一曲ごとは短め。
「最後の曲です」
 締めかける藤井に、
「まだ早いよ。もっとやろうぜ」
 って早川が言ってくれたのはこのあたりか。
 
 5曲目はトルコ行進曲みたいに、8分音符の連打でドラムやピアノが刻む。
 軽快さはジャズよりプログレみたい。
 トランペットが面白そうなソロを吹いてたのに。
 「何拍子だろ」と、拍を数えてたら曲が終ってた。ばかか、おれは。
 んで、結局何拍子か分からないしまつ。11/8と9/8の組み合わせかな・・・。短い8/3とか8/2もあるように聴こえたし・・・。
 ただ全体は一定のテンポ。まるでくるくる回転してるみたい。

 2ndセット最後は、ユニゾンするメロディが爽やかな曲。
 ドラムとベースのみで演奏される部分が聴きもの。
 これも小節展開が決まってるのか、ドラムとベースの流れがしっくり合わさる。
 吉田のハイハットがせわしなく、だが小気味よく鳴った。

 早川がベースだときっちりファンキーになるあたり、ルインズと明確な違いがあった。
 4弦のエレキベースに持ち替えてたのに、コンビネーション弾いてる時に弦を切るアクシデントあり。かまわずそのまま弾ききる。
 ピアノが雄大なソロを弾いてる時あたりで、5弦ベースへおもむろに持ち替えた。

 袖で控えた田村だが、ソロが回されるとそのままオフマイクで吹き始める。
 最初は静かに。時に鋭く織り込むフォルテ。
 中央のマイクへ歩いて、テーマにつなげた。

 拍手のなか、すぐにアンコールが始まった。
 ひさしぶりにやるという「TATSU TAKE」。変拍子のテンポがいかしてる。

 しみじみ不思議なのが、吉田のリズム感。
 たとえばこういう変拍子の時、早川はたまに足でリズムを取っている。
 だけど吉田は見てる限り、まったく身体でリズムを取ってない。ごく自然に腕が変拍子で動いてた。

 演奏曲は多かったが、終る時間はさほど遅くない。
 しかし刺激的な演奏でおなか一杯だ。

 バンド全体が一丸となって緩急を決め、アンサンブルがより柔軟になっていた。
 全員が個性的な音なのに、違和感なくまとまってるのが聴きどころ。
 そろそろ新譜を聴きたいな。今の藤井カルテットの音を、家でじっくり味わいたい。

目次に戻る

表紙に戻る