LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/8/15   西荻窪 アケタの店

出演:AKETA
 (明田川荘之:p,オカリーナ、斎藤徹:b、亀山賢一:ds)


 明田川の定例セッション。
 今月は6/21の同店セッションに続き、過去にトリオを組んでた亀山賢一がドラムス。ベースはフリージャズでならした斉藤徹だ。
 この店で明田川は毎月必ずセッションやるが、意図的にメンバーを毎回変えている。
 メンバー固定の慣れた空気が、出ないようにしてるのか。
 
(セットリスト)
1.ブルー・オカリーナ・ブルーズ
2.世界の恵まれぬ子供たち
3.らっこ
4.トッカータとフーガ
 (休憩)
5.アルプ
6.Now the time
7.悠久の森
8.インバ
9.テツ〜Now the time(reprise)

 毎日続く大雨だが、入りは盛況。そのせいか19時45分あたりからライブが始まった。
 まずリズム隊が配置につく。
 客電が落ちると同時。明田川がステージへ力強く歩いていった。

 ぽつりと曲目紹介し、すぐに曲へ。
 しょっぱなからファンキーだった。
 最初はオカリーナから。スネアの響き線に共鳴し、ノイズが出る。
 音の出所を探すように亀山が視線を廻し、そっと手のひらでスネアをミュートした。

 立って明田川はオカリーナを吹き、亀山はレギュラー・グリップでタイトに刻む。
 力強いのが斉藤のベース。大柄な身体で、ウッドベースが小さく見えるほど。
 びんびん弦をスラップさせつつ、左手でもバシリと弦をはじいてみせる。かっこいいな。

 明田川のピアノソロから、すぐさまベースソロへ。
 ハイポジションを多用しフリー要素がメインだが、メロディアスなソロもたんまり。
 いきなりとびきりのアドリブだった。
 エンディングはタイミングを取り損ねたか、なし崩し。
 思わず顔を見合わせ苦笑してた。

 つづく「世界の恵まれぬ子供たち」は出来たばかりの曲だそう。ほんとは特定の国へ向け作った曲だとか。
 明田川の叙情性が出た、柔らかいバラードだった。

 なんどもテーマのメロディを繰り返す。
 そこへベースが絶妙のオブリを入れることで、素晴らしく曲にふくらみが出た。
 全部アドリブだろうか。ならば本当にすごい。

 ドラムはブラシで応える。
 右手が宙を叩いてリズムを取るさまがユニークだ。
 アンサンブル全体がまとまって、暖かかった。

 さて、「らっこ」は古澤良治郎の作曲。
 ひょうひょうとして暖かいメロディだ。
 メロディの中に終わりっぽいフレーズが含まれる。
 ほら、「起立、礼」って時に使う、"チャーン、チャーン、チャン♪"ってやつ。
 これを利用し、曲を終わりそうで終わらせない。

 エンディングで明田川は、終わりのフレーズを何度も弾き・・・またメロディを展開してみせる。
 観客からも笑い声が漏れ、明田川は悪戯っぽい顔。
 斉藤は呆れ顔で弾きやめてしまい、ピアノを覗き込んだ。

 この曲ではドラムソロが盛大だったな。
 でかい音でばしばし叩く。
 ピアノと一瞬掛け合いっぽく弾いたのはここでだったか。
 
 ベースソロも聴きものだ。
 ピアノから引き継いだソロは、すっと無伴奏に。
 弓を取り出し、か細い音で弦を軋ませる。
 指弾きだとふくよかな音なのに、なんでだろう。これは最後まで不思議だった。
 
 そしてアドリブが終わった瞬間。
 ベースについた袋に弓をすっと投げ入れる。
 すかさず指で伴奏を続けた。さりげないが見事な手際だった。

 前半最後は「トッカータとフーガ」。
 明田川は冒頭でオカリーナを吹く。
 ピアノの上へ大小さまざまにずらっと置き、いつものようにひっきりなしに使い分けた。
 
 クラシカルなメロディ(元はクラシック曲かな?)でテーマを吹いたのに、ピアノソロになると、急にフリーへ突き進む。
 唸りながら激しく叩く鍵盤。
 ベースは弾き休み、聴きにまわった。

 そしてベースのソロ。今度も弓を多用しフリー寄りの演奏。
 しかしテーマを随所に折込むのを忘れない。
 ドラムはタイトなリズムでバックアップした。

 亀山のドラムは金物の使い方がうまい。
 シンバルはあくまで上品に鳴らし、喧しく響かせない。
 ハイハットも静かに左足を上下させ、巧みに操った。
 
 右足を見てたが、バスドラも二種類の奏法を使ってるようだ。
 足首だけで鳴らすときと、足全体を使うとき。
 ぜんぜん右足が動かないのに、バスドラも聴こえたから。
 さほどソロは取らないが、音のダイナミック・レンジも広いな。

 前半だけですでに70分ほどプレイしてる。
 さっと休憩を取っての後半が、とにかく怒涛だった。

 まずは「アルプ」から。
 この曲は朗々としたメロディがきれいなバラードだが、なぜか今夜はフリーぎみに演奏した。
 自ら旋律を解体し、明田川はぎくしゃくとメロディの断片を弾く。
 さらにグランドピアノへ腕を入れ、ピアノ線をはじく奏法を頻繁に使った。

 もちろんリズム隊もフリーへ軸足を置いた演奏。
 亀山が一歩退き、ベースとの対話が多い。
 どこか空虚さを漂わすアレンジだった。
 パーカーの「Now the time」、明田川オリジナル(?)の「悠久の森」と続いても、聴いててぼくは馴染めずぎくしゃくしてしまう。

 「Now the time」ではオカリーナのソロをたっぷり聴けた。
 ここでは、演奏こそカッチリしてる。
 が、ベースやドラムは着地点を探るように聴こえた。
 明田川は「悠久の森」のラストで唸りながら熱演していたが・・・。

 「悠久の森」も比較的新しい曲みたい。
 宮崎のイベント用に書き下ろしたもので、「ジャズじゃないです」とMCで明田川が言い切る。
 ギター+オカリーナのアレンジのようだ。
 
「ベースにメロディを任せる」と始まったが、聴いててうまいことメロディがつかめない。
 そういやこの曲だけ、演奏前にしげしげと斉藤は譜面を覗き込んでたのが印象に残った。
 ドラムはほぼハイハットとスネアのみでリズムを作った。

 このまま今夜、ぼくは音にのめり込めないままかなぁ。
 そう思ってたら、「インバ」で吹き飛ばされた。

「亀山くんと昔さんざんやった曲。『しみつくほど覚えてるから、これだけはやらないでくれ』と頼まれた曲を、やります」
 いきなり言い放って、明田川が「インバ」のメロディをぶちまけた。

 初めて聴くが、実に彼らしい情熱たっぷりで情緒的な曲だ。これこそ明田川の真骨頂。
 亀山はさすがに戸惑いもせず、すっと演奏に入り込んだ。ルーズにビートをひきずる。
 いっぽうの斉藤がタイトに刻み、ほんのりポリリズムっぽい。

 ピアノのクラスターが飛び出す。
 明田川とすっとアイコンタクトを交わし、ドラムも同じタイミングでぶっ叩く。さすが。
 
 テンションは天井知らずに上がる。
 ピアノとともに唸り声もボリューム上がり、吼えるよう。
 クラスターをぶちまけつつ、明田川は立ち上がりマイクを引き寄せた。
 そのままメンバー紹介する。
 
 ちなみに。今夜ももちろん録音されてた。素晴らしい演奏だし、ぜひリリースして欲しい。
 だとするとアルバム構成上、メンバー紹介は曲が終わってからのほうがいいよな。編集かなぁと、よけいなこと考えながら拍手してました。・・・すいません。

 続いて斉藤に捧げた「テツ」をはじめる。雄大なメロディできれいな曲。
 すでに22時半なのに、終わる気配はかけらもない。
 ウッドベースを鷲掴みにして、斉藤は悠々と弾いた。

 このベースソロで、斉藤の本領発揮か。
 フリーに弓で弾いたり叩いたり。手のひらでボディも叩き、どんどんパーカッシブなアドリブになる。

 駒みたいなものを二つ取り出し、指板に挟む。
 音程を固定させ、小さな棒を両手で持ち、弦を叩いた。
 さらに任意にこの駒を上下させ、音程を自在に変化させる。
 駒に小さな鈴をつけかけたが、これは使わず引っ込める。
 あとは笛を口にくわえ、ベースを弾きながらプープー鳴らした。

 明田川も細い棒で、足元に置いたアフリカン・ベルやタンバリンを叩く。
 さらにはピアノの中へ腕を入れ、ピアノ線をひっぱたいた。
 あんがいメロディアスで面白い。

 もちろん亀山もシンバルを軽やかにヒット。
 3人パーカッション状態で盛り上がる。
 
 ピアノソロへ戻ると、また猛然とクラスターがはじけた。
 壁に背中をぶち当てつつ、足で鍵盤をけり落とす。
 唸り声は歌うがごとく。斉藤も口を動かし同調してたようだ。

 とことん盛り上がったところで、ふっと明田川が「Now the time」のテーマを復活させた。
 雰囲気を和らげて、弾きながらメンバー紹介しライブは終わった。

 終演は23時頃。3時間近くやってたことになる。
 さすがにアンコールはなかったはず。
 ぼくはおなかいっぱい状態で、終ったらすぐに店を出ちゃったから・・・。

 とにかく「インバ」の熱っぽさにやられた。
 亀山らとトリオ組んでた20〜30代の頃は、夜な夜なああいうすさまじいテンションで弾きまくってたのか。
 その当時の演奏を聴いてみたい。CDで再発して欲しいぞ。

 なにしろボリュームたっぷり、熱い演奏の夜だった。

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