LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/8/14   大泉学園 in-F

出演:太田恵資+常味裕司
 (太田恵資:vln,vo,per、常味裕司:oud,per)


 大雨にもかかわらず盛況で店内は満員。ライブはちょっと押し、20時15分頃から。
 二人だけのセッションはあまり機会がないらしい。ふたりともMCで「くつろげる〜」ともらしてた。

 アラブ圏のスタンダードを演奏してるようだ。
 ひととおり曲紹介はあったものの、毎度のことながら曲名を覚えきれない・・・修行が足りんです。
 まずは30分弱ぶっ続け。たしか"キャンドル・ダンス"という演奏形式(?)と言っていた。

 今夜の太田はすべてアコースティックなバイオリンで通す。
 最初の曲では、ゆったりと弓を動かす。
 フレーズが早くなっても、どこか落ち着いた響き。
 太田の音が常味のウードと対照的なのがいい。

 ウードは構造上、白玉を演奏しないらしい。初めて実感した。
 常に8分音符かそれ以上に細かい音符を弾く。
 ロングトーンが必要な時は、バチで細かく弦をはじくトリルで表現した。
 だから弓で音を伸ばせるバイオリンとのアンサンブルは、互いに強調しあい面白かった。

 二人は基本的にユニゾンで主旋律を弾く。
 アラブ音楽の合奏とはリズム楽器を除き、全て主旋律を弾くものだそう。
 これも常味のMCで初めて知った。

 つまり個々の奏者によるニュアンスの違いで、雄大さをだすという。
 太田がエリントン・オーケストラにたとえ、なるほどなと思った。

 さて、一曲目に戻ろう。
 たまにアドリブを織り込んでたようだが、ほとんどは二人のユニゾン。
 リズム楽器不在だからこそ、二人のグルーヴが緩やかに拡がる。
 16分、時には32分音符の早いフレーズを、軽々と奏でた。

 続く10拍子の曲は、太田が常味とセッションはじめた頃のレパートリーだそう。
 当時は微分音を出すのに苦労したと、太田は述懐してた。
 19世紀後半のアラブのスタンダードだとか。

 演奏後に「微分音って違和感ある?」と常味が心配そうに観客へ尋ねる。
 まったくそんなことなし。気持ちいいです。
 もっともぼくの耳では、微分音を聴き分けられてるか自信ないな。
  
 あとはSTOYの2ndから2曲を選曲し、第一セットは終わり。
 最初のほうの曲名はすこーんと忘れてしまいました。ううう。
 全然関係ないんだが、切なげなメロディに「枯葉」をふと連想した。

 ウードのソロがイントロで、バイオリンがピチカートで加わる。
 常味がにやっと太田を眺めた。
 
 第一セット最後が「アルジェリアの夜」。
 太田は「チュニジアの夜」と言い間違え、常味も「レバノンの夜」(だっけな?)って間違えてしまう。
 「(言い間違えた曲も)いい曲なんですよ。今度「XXXの夜」セッションやりましょうか」
 と常味が提案してた。

 「アルジェリアの夜」は、テーマでの掛け合いが素晴らしい曲。
 以前にSTOYのライブで聴いた時も良かったが、デュオでも味わいぶかい。
 太田が滑らかなメロディでアドリブを取った。

 弾きながらおもむろに歌い始める太田。彼の歌声は何度聴いても落ち着く。
 ウードにソロを譲るとこんどはハンドドラムを掲げ、指先で軽くビートを提示した。

 休憩をはさんだ後半は、ぐっとリラックス度が増す。
 舞台衣装として黒い民族服を着てた常味は、休憩時間に脱いでしまう。
 第二部が始まるとき、太田から「着ないの?」とつっこまれる。
 店の隅で着てる常見を、メガホンで太田が紹介した。

 面白がった常味はメガホンを受け取り太田を紹介。
 冒頭のMCは「ちり紙交換のバイトの思い出」へ繋がった。
 のんびり話した後、2曲メドレーで演奏。
 ユニゾンする二人の音をじっくり耳で追う。
 太田のボーカルが再び出たのは、ここでだったか。
 
 続く曲では、二人のパーカッション演奏が挿入された。
 まずは太田がソロを取る時、おもむろにウードをピアノの上へ置く常味。
 アラブのタンバリンを掲げ、両指先で打面をはじいてリズムを取った。
 ジャストなビートできっちり伴奏する。

 いっぽう太田はハンドドラムを再び持つ。常味がウードのソロの時だ。
 同じく指先で叩くが、若干ルーズなリズム。
 ふたりの個性がこんなとこにも出た。

 とびきりの演奏だったのが後半三曲目。
 『目の前にいる人に捧げる曲』というニュアンスのタイトルと記憶する。
 この曲ではふんだんにアドリブを挿入した。
 太田が極上のソロを弾く。
 メロディはあくまで優しく、上品。それでいて暖かい。

 数分で太田のソロは終わってしまうが、それこそ10分くらいえんえんと弾きつづけて欲しかった。
 いっぽう常味のウード・ソロも負けてない。
 きびきび音をばら撒き、メリハリ効いたソロだった。

 たっぷり演奏を味わったところで、最後の曲。
 「太田さんらしい曲」と常味が紹介したが、いまいち不明です。

 とにかくめまぐるしい旋律。おまけにテンポも速い速い。
 もちろんこの曲もユニゾンで演奏された。

 ときたまふっと弾くのを休む常味。
 「ひとりにするな〜」
 太田がめまぐるしく弾きながらぼやく。

 テクニシャンの二人だが、さすがにしょっちゅう落っこちあっていた。
 なのにコーダに向け、テンポはがしがし上がるいっぽう。
 エンディングは冒頭の倍くらいまで速くなった。
 しかし超高速フレーズを見事にユニゾンで決める、すさまじい演奏だった。

 拍手はやまない。
 だが二人はアンコールを用意してなかったみたい。
 二曲候補をあげ、常味が選んだ「初恋」がテーマ(?)の曲で今夜は幕を下ろした。

 素晴らしく充実した演奏で、終演はなんと23時頃。
 終演後に太田は「楽しい〜」と言いながら常味と握手してる。
 
 アラブ音楽へ真面目なアプローチだが、アカデミックな堅苦しさは皆無。
 ふるふる揺らぐメロディが、二人のユニゾンで滑らかに奏でられた。

 なかなかメロディを覚えられないし、アラブ音楽はとっつきにくくもあった。
 しかし今夜は常味のさりげない解説で、このジャンルへ一気に興味が増したライブだった。

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