LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/8/12   江古田 Baddy

出演:EMERGENCY!
 (芳垣安洋:Ds、大友良英:G、斉藤"社長"良一:G、水谷浩章:B)


 「今年の夏はどうでした?」
 まだ8月半ばなのに。爽やかにメンバーへ尋ねる芳垣安洋のMCで、Emergency!のライブが始まった。
 Emergency!として4ヶ月ぶりのライブだそう。ぼくは今年の1月ぶりに聴く。

 動員は盛況で40人弱。バディの店内がほどよく埋まる。
 ライブ開始は珍しく20時を待たなかった。
 
 MCで一通り曲目紹介したが、いまひとつ聴き取れず。
 不完全ではありますが、いちおう載せときます。

<セットリスト>
1.レーンジェーン(?)〜Run & run
2.Canon
3.(ミンガスの曲)
(休憩)
4.Fables of Faubus
5.Sing Sing Sing!
6.即興〜I say a little prayer
(アンコール)
7.Creole love call

 しょっぱなからタイトル聴き取れず。
 まず2曲メドレーで、25分くらいぶっ続けで演奏した。
 もっともどこが曲の切れ目だが、ぼくはさっぱりだった。てっきり日とつながりの曲かと。

 鋭角なリズムが提示され、二人のギターは歪んだ音を盛大にぶつけあう。
 いきなり社長の早弾きが出た。

 大友は終始座ったまま、社長はほぼ立ち上がってギターを弾いた。
 とにかくフレーズがはじける社長と、ノイズを引き出す奏法を多用する大友。
 出てくる音は似たように歪むギターだが、アプローチはまったく違う。
 Emergency!はこの対比がほんと面白い。

 テンポはあくまで早い。
 ソロをガシガシに盛り上げたところで、ドラムのフィル。
 幾度もブレイクをはさみ、そのたびにテーマへ戻る構成だった。
 
 水谷は今夜も楽しそうにウッドベースを奏でる。腰掛けてベース中央のえぐれた部分を踏みつけた。
 身を乗り出しベースを抱え込む。
 中間部分では短い棒を取り出し、リズミカルに叩いたりも。

 一曲目の基本は二人の掛け合いギターソロだが、二箇所ほどベース・ソロもあった。
 鋭くシンバル群をはたく芳垣にのって、ベースが繰り出す低音は踊った。
 この曲だけ、あまりバスドラの音が聴こえなかったな。

 ハイハットの開き加減が気に食わないのか、演奏中に何度もネジを調整する芳垣。
 しまいにスティックをくわえ、左手で調節する。もちろん右手はシンバルを叩きつつ。

 のっけからテンション高く駆け抜け、口々に「暑い〜」と漏らす。
 「バラードっぽいものをやります」
 前置きどおり(2)は、テンポこそゆるい。ぐっとフリーで混沌としてた。

 イントロは探るように。各自がトリッキーな奏法にて。
 大友がバターナイフっぽい物をピックアップ部分へはさみ、はたいて弦を揺らす。
 水谷もウッドベースに棒をはさみ、アルコでじわっとロングトーン。
 いっぽう社長はピック替りに灰皿を使い、ひときわ高音を軋ませる。

 あれこれ使い分けてたのが芳垣か。
 カズーや笛をくわえつつ、チェーンでシンバルをこする。小さなマラカスをマレットがわりにタムをロールした。
 小さなシンバルを二つ取り出し、ふわりと叩き合わせた。

 モヤモヤした音像が続く中、大友がギターを構える。
 ブライトなトーンでテーマを提示。
 また混沌へ埋もれる。
 
 しばらくしてやはり大友がテーマを再提示。ほんの少し、トーンが汚れてた。
 更なる混沌へ。
 そして大友によるテーマ。
 こんどは明確に、ギターのトーンは歪んでた。

 テーマを弾くたび音色を歪ませる、大友の効果的なアレンジが印象に残った。
 ベースは弓でゆったり白玉。
 マレットを使うドラムとそろって、最後まで静かなテンポを崩さない。
 社長は派手にハウらせていた。

 ドラムのフィルから音が収斂し、最後は大友のギター・ノイズ。
 静かに消えた。

 「ほとんど原曲が分からない『Canon』でした」
 芳垣が嘯く。
 「ブルーズマンは(観客として)今夜いますか?・・・いませんね。ぼくらが"一番"得意なブルーズをやりまっす」
 「(ブルーズに)弱いひとへ向かって言わなくても」
 胸をはる芳垣に、大友がぼそっとつっこんだ。

 ミンガスの曲らしいが、曲名聴き取れず。
 社長の派手なギターソロに、芳垣がバスドラ四つ打ちのビートで対抗する。
 いきなりブルーズっぽくない。水谷は楽しそうに笑いながら二人の演奏を見つめる。
 いつしか4人のアンサンブルへ変わり、歪み倒した音でギター・ソロが応酬。
 
 この曲で大友のプレイは、視覚的にもばっちりだった。
 多用するブレイクのきっかけが、大友のエレキギター。
 激しくかき鳴らし、鋭くワンストローク。
 それぞれを合図に、びしりとブレイクに雪崩れた。

 合図が続くうちに大友はギターを、切り落とすように掲げる。
 鋭く振り下ろすギターが、ブレイクの合図へ。
 ダイナミックなキューを幾度もメンバーへ送った。

 テーマを挟んで、大友のソロへ。ぐっとブルージーなフレーズだ。
 ビートもとたんにグルーヴィ。さすが水谷。
 芳垣は8ビートっぽいリズムで支えた。

 激しい掻き毟りへ変化させたあと、大友は社長とユニゾンでテーマを弾く。
 ちょっと揺らぐリズムやフレーズが楽しい。

 前半はたっぷり一時間。
 休憩をはさんだ後半一曲目は、たぶん「Fables of Faubus」。はっきり聴き取れず、いまいち自信ありません。

 スネアとフロアタムを、そっとロールがイントロ。
 次第にボリューム上がり、ギター同士で断片的なフレーズを掛け合う。
 社長の激しいソロへ繋がった。

 3人が社長のプレイを見つめる。
 おもむろに芳垣が怒涛のドラムで絡んだ。

 ソロが大友へ変わる。今度もまずは演奏を聴く芳垣。
 スティックを振り上げ、一呼吸。アンサンブルへ展開した。
 ここでがらりと音の風景が変わったのは、ベースのおかげか。

 ノイジーなギターが飛び交うのに、不思議と暖かい音像だ。
 ベースが鍵で曲が展開する、"Jerry Roll"っぽいアレンジだった。

 "Sing,sing,sing!"はベニー・グッドマンの演奏で有名な曲。
 ジャズの時代を遡って演奏、が今夜のテーマだそう。大友が講座かなにかで使ったキャッチフレーズの引用かな。
 芳垣が「ジャズの幹を〜」というフレーズを使うたび、大友が照れていた。

 「オリジナルへ忠実にやります」
 芳垣の前置きは、てっきりギャグだと思ったのに。
 ほとんどオリジナルのイメージがぶれない。丁寧なスイングだった。
 
 リズム隊がきっちりイントロのフレーズを繰り返す。
 ギターの音は歪んだままだが、オーソドックスなテーマの展開にびっくり。
 このひしゃげた音色は、SP盤特有の歪みを表現・・・ってのは穿ちすぎか。

 "Sing,sing,sing!"のあと社長が弦を張替えるため、長めのMCをとった。
 ところがとっとと張り替えた社長が、くわえタバコでMCに参加。芳垣が苦笑する。
 
 ちょうどフジロックネタのMCなので、冒頭の即興は"フジロックの思い出"と名づけられた。
 ほんとにイメージしたかは知らない。
 社長のサイケなソロから、フリーに盛り上がる。
 ふとベースがフレーズを変え、甘い雰囲気になる。
 そして水谷のキュー。

 そのままバカラックの"I say a little prayer"に繋がった。
 ギター2本でメロディを紡ぐ。
 社長がオクターブをひっきりなしに変え、たんなるフレーズのユニゾンにしなかった。

 ブレイクからテンポがあがる。
 ギター2本はストローク中心で、爽やかにまとめた。

 アンコールの拍手がやまない。すぐにメンバーは再登場した。
 演奏前に芳垣が"I say a little prayer"についてひとしきり説明。この曲、大友のグラウンド・ゼロでもやったことあるそう。

「次のアルバムにこの曲を入れようと思ってた。
 でもテレビの「大奥」で"I say〜"が使われてると、リハ中に大友に言われ悩んでる」
 もともとバカラック好きと言う芳垣がぼやく。
 「すぐにリリースして「大奥のサントラ」にすればいいじゃん」という大友の提案で丸く(?)収まり、アンコールへ。

 大友がテーマを弾き始めると、水谷が盛大に噴出していた。なんでだろう。
 この曲がもっともゴツッと男っぽい印象だったな。
 社長から大友へ。ソロ回しで、あっさりと終演。やりなれた曲なせいか、ぐっと締まってた。 

 それにしても。つくづく水谷のベースにほれぼれした。
 フリーな演奏にぴたりと対応しつつ、水谷がその気になったとたん。
 すぐさまグルーヴは溢れる。

 一癖あるミュージシャンばかりの演奏だからこそ、アンサンブルが面白い。
 個性的なギターふたりを、芳垣のタイトなドラムはしっかり支える。 

 「溢れ出る涙」や「Jerry Roll」のような定番曲はもう弾かず、すでにEmergency!は次のステップへ進んだと実感した。
 アンコール曲が本編のテンションとぜんぜん違うもの。
 より多様性を増したアンサンブルでの、次のアルバムを早く聴きたい。

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