LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/7/31   荻窪 グッドマン

出演;クラシック化計画
 (翠川敬基:vc、菊池香苗:fl、沢田直人:fl、塚本瑞恵:p、柏原隆男:p)


 譜面台と椅子をステージ奥へ置き、翠川敬基がチェロを構える。
 一曲目はピアソラの曲。ピアノとチェロのデュオだった。

 "クラシック化計画"は奇数月に1度、グッドマンで行われているライブ。
 どのくらい昔からやられてるのかな。ちょっとよく分かってません。
 フリージャズのチェロ奏者として名高い翠川だが、今夜はジャズは抜き。クラシックとがっぷり組み合う。

 即興要素はまったくなし。そのはず。たぶん。
 クラシックのなかでも室内楽はほとんど無知で、はじめて聴く曲ばかり。比較対象がまったくありませぬ。
 そもそもクラシックのコンサートって十五年ぶりくらい。
 多楽章形式なのに、つい楽章の間で拍手しちゃったよ。うっかり。

 グッドマンはもともとジャズ喫茶かな。かなり年季が入った店内は、残響がほとんど無い。
 喋り声も壁へ吸い込まれるようだった。
 トイレが展示スペースなのも特徴のひとつ。あ、しまった。トイレに行きそびれたぞ。

 ピアソラの曲は優雅に弾かれる。
 柏原隆男のピアノはメリハリ効いて、しっかり音を指先に包む。
 曲の途中で弾き終わった楽譜を、翠川は無造作に足元へ置いた。

 ぼくが座ってた席は音量バランスの関係で、チェロの音を聴きづらいのがしばしば。残念。 
 今夜はすべて生音だったため、いずれにせよ残響なしの環境がちと辛い。
 フルートもブレスの切れ目が気になった。
 部屋の残響が多少あれば、さらに優しくふわっと耳に馴染むのに。

<セットリスト>
1.ピアソラ "ル・グラン・タンゴ"
2.バッハ "フルート・ソナタ BWV1030"
(休憩)
3.ビュッセール "プレリュードとスケルツォ"
4.ブラームス "ピアノ・トリオ第1番"
 (翠川敬基:1.2.4、菊池香苗:3.4、沢田直人:2、
  塚本瑞恵:2〜4、柏原隆男:1)


 作曲者"曲名"です。バロックからロマン派、最近の曲まで幅広い選曲だな。
 もっともクラシックは詳しくない。ネットで調べた、中途半端な知識を振り回しても意味がない。
 曲がどーしたこーしたってアカデミックなウンチクは、割愛させてください。

 クラシックのコンサートはひさびさだが、観客のスタンスに好感持てた。
 コンサート・ホールでは楽章の間に、ことさら咳払いして自己主張(?)する客が耳ざわりだった(15年前はね。今は知らん)。
 だが今夜は楽章が終わっても、みな静かに次の音を待っている。心地よい緊張があった。

 セットリストで書くと短そうに見えるが、それぞれ40〜50分くらいの演奏時間。
 翠川のMCは曲名を告げ、奏者を紹介するのみ。あとは音楽へ集中した。

 二本の白熱灯がステージを薄暗く照らした。

 バッハの"フルート・ソナタ"では、くっきりきれいな旋律についうとうと。
 フルートの音が、ときに力強い芯を伴って響いた。
 
 この曲のチェロは、ピアノの低音部分と同調するらしい。
 塚本瑞恵による、柔らかなピアノとチェロが溶け合う。
 そうそう。この日ピアニストが二人いた。二人の音色がかなり違って聴こえて面白い。

 休憩をはさみ、フルートとピアノでビュッセールを弾く。
 ビュッセールは名前すらはじめて知った。
 曲の印象を掴もうとしてるうちに終わっちゃったような気も。

 さて。今夜のクライマックスがブラームス "ピアノ・トリオ第1番"。
 本来はバイオリンとチェロの編成だそう。今夜はフルートがバイオリン・パートを弾く。
 
 この曲にしょっぱなから惹かれた。
 ピアノの紡ぐ音は、優しく耳を撫でて心地よい。
 ぼくはこういうドラマティックな展開が好きみたい。

 聴いてる位置はチェロのすぐ前、かぶりつき状態。
 生音でチェロをじっくり聴くのは初体験だ。翠川の息遣いすら聴こえる。
 
 弓の動きをまじまじ見つめてしまう。
 毛の肩部分でそっと音を誘い出し、真中を使ってふくよかに弾く。
 この曲の8割くらいは、弓に視線が行ってたな。
 
 背筋を伸ばし譜面を睨んで翠川はチェロを弾く。ダイナミクス豊かな音が溢れた。
 ピアニシモの柔らかい響きは、そっと空気をふるわせた。
 フルート、ピアノ、チェロの音が合わさり、とろける。
 チェロはピチカートも数度、折り込んだ。
 
 楽章の間に、さりげなくチューニング。
 わずかに奏者間で視線が交わされ、呼吸をあわす。
 そしてまた、音楽が始まる。

 最後は熱っぽく、そしてフォルテで曲が終わる。
 翠川が数度、強く弓を引いた。

 ちなみにアンコールはなし。
 どっちみちアンコールを前提にした予定調和は嫌いですが。

 全員のキャリアをネットで調べきれなかったが、みなばりばりなクラシック奏者みたい。
 ともすればクラシックのコンサートにありがちな、堅苦しさがない。
 服装は普段着。自然体のスタンスだった。
 
 コンサート会場も演奏スタイルも。
 「クラシックのコンサートはこういう雰囲気」って固定観念を、見事に吹き飛ばしてくれた音空間だった。

 無造作にきれいな響きが漂う場所に居合わせ、すごく贅沢な気分。
 ほんとうに寛げて聴けたもの。こういうひとときもあるんだ。
 次回は9月。モーツァルトなどを予定してるそう。

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