LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/7/28   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資+赤崎郁洋 〜ヴィオロンの太田惠資 ややっの夜〜
  (太田惠資:vln,voice、赤崎郁洋:g)


 店内の照明が落ちた。
 ステージに上がった太田惠資は、小さなラジカセのスイッチを入れる。
 古いボーカル・ジャズが流れた。スイング・・・いや、ディキシーランドかな。
 うっすらステージが明るくなる。
 ラジカセを持ったまま、太田は音楽に合わせ身体を揺らし始めた。

 おもむろに語りが入る。
 「ややっの夜」(「ややっのや」と読む)はバーチャルTV番組がコンセプト。
 見えないTVカメラが3台くらい入ってて、放映予定は2040年とか言ってたなぁ。
 
 ゲストを呼び、太田とのトークを交えながら音楽を聴かせる企画。
 今回は2回目だが、前回はゲストを二人招いたため「今夜が実質3回目」らしい。
 来月も同店で「ややっの夜」はブッキングされてる。しばらく続くのかな。

 実際、今夜はほんとにMCが長かった。ライブの半分は二人の喋りだった気も。
 太田は喋りつつポケットに入れた時計を確認、「そろそろ曲やりましょうか」とうながすくらいだった。

 今夜のゲスト、赤崎郁洋は宇崎竜童/阿木耀子のライブ・レストラン「November 11th」でフロアのチーフをしてたそう。もともとは厨房スタッフ。
 しばらく前に辞め、今後はギタリストとしてやっていく。年は30代半ばかな。
 料理もプロの赤崎に、「音楽も料理もできる、と自分に甘えないほうがいい」と太田が冗談めかして忠告。真剣な顔で赤崎は頷いてた。

 赤崎の音楽性は即興系と少々違う。
 あえて分類したら、アコギによるヒーリング系か。
 構成もきちっとしたポピュラー・インストだった。
 
 特に譜面は用意せず、頭の中で全て覚えてるそう。
 その点即興性はあるが、曲のサイズや構成はほぼ変わらないらしい。
 もっとも今日は太田が加わるため、間奏を長くしてサイズを伸ばしてた。

 アコギのオープン・チューニングで、曲毎にチューニングを変える。
 カポも使用し、時にサム・ピックも。
 スリーフィンガーを基本に、ベース音と主旋律を同時に弾いた。
 普段ぼくが聴かないタイプの音楽だ。かなりメロディ使いが叙情的だった。

 前置きが長くなりました。まずはセットリストから。
 
<セットリスト>
1.祈り
2.バーズ・アイ
3.オデオン
4.アユタヤ
5.春な忘れそ
(休憩)
6.マイルストーン
7.コーヒーブレイク
8.サンセット・ダンス
9.夫婦の歌(仮題)
10.秋津の夜

 すべて赤崎が作曲したもの。一曲くらいカバー入れても面白かった。
 聴き取ったタイトルは間違ってるかも・・・。

 ひとしきり太田が喋ったあと、拍手で赤崎がステージへ登場する。
 客商売で鍛えたせいか、赤崎の喋りは安定して巧かった。

 (1)はNYの9.11に触発された曲。まず赤崎のソロで演奏された。
 太田は客席の隅で、一緒に聴く。
 横に置いたミキサーでリバーブを軽く加え、透き通った感触で弾いた。
 
 曲が終わると、太田がADよろしく手を回して拍手の合図。
 ほぼ満席の観客から大きな拍手が飛ぶと、「気持ちいい〜」と赤崎がにっこり笑った。
 
 続く(2)から太田が加わる。
 あえて細かくリハをしてないみたい。
 キーだけ指定され、あとは赤崎の情景描写を参考に太田が弾く即興スタイル。
 数曲を除き譜面はない。あるとしてもコード譜のみ。キーすら指定ない曲も。

 (2)ではエレクトリック5弦バイオリンを使用する。
 鳥に引っ掛け高音部を、ひゅんっと鳴らす音に赤崎も大喜び。

 この曲に限らないが。太田はまず、曲を聴いて遠慮がちにオブリを入れる。
 ソロでがぜん前へ出るが、あくまで間奏に留まる。そこから即興が発展することはない。
 完全な即興演奏を期待してたので拍子抜けしたが、これはこれで面白い。

 「おどろおどろしい曲」が(3)の説明。
 アコースティック・バイオリンに持ち替えた太田は、首をひねりながら弾き始める。
 朗々としたメロディがきれいだったな。

 赤崎がチューニングを変えるため、ちょっと時間がかかる。
 その合間に太田が自分のCDを宣伝。ラジオCMっぽく、その場でコミカルに喋った。

 続く(4)が面白い。まず「アユタヤ」という曲タイトルに、太田が敏感に反応する。
「得意分野ですよ」
「この曲は仏教寺院に影響を受け作ったのですが・・・」
 赤崎が続けた説明に、がっくりしてみせる太田。

 太田の無伴奏ソロから始まる。エレクトリック・バイオリンを使ってたかな。
 「仏教ですね?」
 始まる前に確認しつつ、バイオリンを弾きながら
 「仏教と並んで世界の3大宗教である、イスラム教・・・」
 太田は堂々と前置き。
 得意のアラブっぽい即興歌入りプレイに観客は大笑い。
 
 今夜の太田はほとんど技を出さない。ハンド・パーカッションやメガホンも準備したが使わなかった。
 足もとに並んだエフェクターも、1曲でちょっとディレイをかませたくらい。
 ソロの小節数が少ないので、そこまで展開しないようだ。

 オーソドックスにメロディを膨らますのにとどめる。
 ノイジーな音使いはほとんど無く、きれいなフレーズが次々流れる。
 この旋律を多用した即興も、太田の魅力のひとつ。

 「春な忘れそ」は、九州出身の赤崎が大宰府にちなんで作った曲。道真の和歌(注1)から取ったタイトルだ。
 たしかこの曲は、コード進行のみを太田に手渡したはず。

 日本っぽい叙情さをふんだんに盛り込んだメロディに聴こえた。
 ところが太田がアコースティック・バイオリンでソロを取ると、とたんに風景が変わる。
 なんだかシルクロードっぽい雄大さが加わった。
 
 後半もたっぷりとおしゃべりから始まった。いきなり15分くらい喋ってたはず。
 「マイルストーン」はロックバンドでも出来るような曲、をイメージしたそう。
 副題が「キメ・キメ・ファンキーナイト」だと喋り、太田が大ウケ。

 イントロは太田のソロから。
 探るようなメロディで始まり、「キメ・キメ・ファンキーナ〜イ♪」と歌い、赤崎や客席は大爆笑だ。
 バイオリンでそのメロディを数度繰り返した。

「yeah」
 と一言呟き、弓を下ろす太田。
 その瞬間、赤沢のアコギが滑り込む。見事なタイミングだった。

 キュートなメロディが、続く「コーヒーブレイク」。
 「六本木や原宿みたいなイメージ」と赤崎が説明し、太田は腰砕け。
 協議の上「フランスっぽいイメージ」で合意して、演奏がおこなわれた。
 小粋なソロを太田が弾く。

 赤崎の多彩な曲展開に、太田はしきりに感心した。
「サンセット・ダンス」はアフリカっぽい曲。
 「キーもテンポもリズムも説明できないんですよ」
 赤崎の説明に太田が苦笑した。

 ンビーラ(親指ピアノ)っぽい音を出すため、弦のボディ部分に名刺をはさむ。プリペアード・ピアノみたいに歪んだ音が出てた。
 演奏が始まると、たしかに変拍子で説明しづらそう。
 7/8や5/8っぽい欠けた拍子が交互に出た。4/4もあるな。こういう変拍子は好き。
 
 太田はあえて拍子を気にせず、おおらかに歌いつつバイオリンを弾いた。
 これがぴたりと曲にはまるんだ。すごいなー。
 今度の歌は前半のアラブ風とはちと違う。アフリカ寄りのニュアンスだった。

 「夫婦の歌」はこのライブのために書き下ろされた曲。仮題だそう。
 しみじみしたメロディだったな。
 そして(1)同様、赤崎のソロで(10)が演奏される。

 学生の記憶を膨らませた曲らしく、小学校なんかで鳴る下校チャイムがイントロ。
 わざとなのか聴き覚えあるメロディが、次々顔を出す。
 ぱっと頭に浮かんだのは、竹内まりやの「元気を出して」みたいなリフレイン。
 今度も太田は客席で聴いていた。

 最後は太田がステージに戻り、ラッパ・バイオリン(正式名称不明)を手にとる。
 一節歌って、今日のライブをきちんと締めた。
 ラッパ・バイオリンを見るのは初めて。せっかくだから、もうちょっと音を聴きたかった。

 喋りも面白いがもっと音楽を聴きたかった気も・・・うーん、バランスが難しい。
 時間もたっぷり、正味で2時間半くらい。終わった時は23時近くだった。

 あえてリハで下準備せず、出たとこ勝負で緊張を保とうとしたようだ。
 実際には(特に後半で)イメージわきづらい曲が多かったらしく、太田はしょっちゅう苦笑していた。

 どの曲も初見なのに、曲の魅力を膨らまし、さらに太田らしい演奏もばっちり披露した。
 即興演奏の実力を見せ付けられたライブだった。
 
注1:道真の和歌
 「春な忘れそ」とは。延喜元年(901年)2月1日に菅原道真が、大宰府へ流されたとき詠った句の第五句にあたる。
 全文は「東風吹かば 匂いおこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘れそ」。

 この歌は「大鏡」に収録された。
 三代勅撰和歌集の一つ『拾遺集』にも入ってるが、そちらは第五句が「春を忘るな」だった。
 和歌版の別テイクってとこでしょうか。ま、ネットに載ってた豆知識です。

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