LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/7/27   西荻窪 アケタの店

出演:アケタ西荻サンデー・アフターヌーン・オーケストラ
 (明田川荘之:p,オカリーナ、渡辺隆雄:tp、佐藤春樹:tb、
  林栄一:as、松本健一;ts、鈴木克人:b、本田珠也:ds)


 アケタの店では以前、昼の部でもライブやってたらしい。ここ数年は月に一回、日曜にオカリーナ教室だけだった。
 ところが今月、唐突に復活した昼のライブ。

 8月も昼の部はブッキング済。明田川も出演で、オカリーナ・アンサンブルがある。
 このまま定期的に昼の部を続けて欲しい。実際、観客も来やすい時間帯なのか、ほぼ満席になった。

 昼下がりのライブを意識し、バンド名義は「アケタ西荻サンデー・アフターヌーン・オーケストラ」。
 リズム隊に最近よく共演する若手を呼び、ホーン隊の束ね役にも若手の松本を指名した。
 他のホーン隊はベテラン勢をそろえたメンバーだ。

<セットリスト>
1.餃子ブルーズ
2.オーヨー百沢
3.スモール・パピヨン
(休憩)
4.Mr.板谷の思い出
5.侍一本ブルーズ
6.エアジン・ラプソディ

 全て明田川のオリジナル。(1)のみはじめて聴く。新曲じゃなさそうだが。

 (1)はもともと歌詞付き。好みの餃子を出すラーメン屋の屋号を歌いこむ歌詞らしい。
 ただし好み店が頻繁に変わり、めんどくさくなってインストにしたとか。

 テーマが軽快なアップテンポ。アドリブに入るとブルーズっぽくなるユニークな曲だった。
 
 30分押して15時半に始まったライブは、しょっぱなからぐいぐい盛り上がる。
 佐藤の長いソロがとっかかり。
 松本がホーン隊へ合図し、ソロのオブリにテーマをぶつける。

 林から渡辺へソロが回される段階で、すでに明田川のクラスターが飛び出した。
 目を閉じ、力任せに鍵盤をぶっ叩く。さっそう肘打ちも出た。いきなりきたか。

 続く「オーヨー百沢」は、オケであまり聴いたことない。
 かれ一流のセンチメンタルな空気が、ふわっとアケタの店内へ広がった。
 今度はピアノ・トリオっぽいアレンジ。
 ベースがじっくりソロを取る。

 ソロを取る時、テーマをホーン隊がカウンターでかぶせて厚みを出す手法は、明田川オケの得意アレンジみたい。
 今日はほぼ全て、松本がきっかけを合図する。
 もっとも指示を出したのは明田川だ。二人でアイコンタクトが飛び交った。

 前半で演奏が炸裂したのが「スモール・パピヨン」。
「スモール(小)とパピヨン(蝶)で"象徴"的な曲です」
 と、おなじみの曲紹介。
 最近オケでのライブをサボってるから、ひさびさに聴く。アケタの深夜ピアノ・ソロでは最近弾いてないし。

 これがすさまじい熱演だった。
 というより、本田が思うさま爆裂した。
 イントロは明田川のオカリーナとベースのみで静かにプレイ。
 もっともオカリーナは早いフレーズを多用する。
 タンギングをほとんどせず、めまぐるしく音が流れた。

 さらにソロが渡辺から林と繋がる間に、みるみるテンション上がる。
 ここではじめて松本のソロ。
 ブルージーで威勢良くアドリブを吹きまくった。
 
 さらに本田が煽る煽る。馬鹿でかい音でドラムを叩きのめした。
 まるでドラム・ソロみたい。
 パワフルにばしばしドラムが鳴り響き、松本ソロとがっちり渡り合った。

 明田川ももちろん黙っちゃいない。
 激しいクラスターで応酬する。かろうじて音が聴こえたな。

 ベースの音はさっぱり届かない。すっかり本田にかき消されてた。
 今日はベース以外は全て生音。ピアノがかなり不利だった。
 本田が盛り上がると、とたんに音がわんっとこもる。
 途中でスティックを一度取り替えつつ、ばんばんスネアを叩いた。

 べらぼうに盛り上がって、一部が終了。50分くらいか。
 休憩時間に明田川がピアノを調律する。激しく叩いたせいか、すっかりピッチがずれてて可笑しい。

 続く2部も快演ぞろいだった。
 まずは故トロンボニスト、板谷博を偲ぶ曲からスタート。
 この曲、オケのアレンジだとロマンティックさが強調されて好き。

 イントロは明田川のオカリーナにて。
 大小のオカリーナをあれこれ使い分け、時に早く、時にしっとりと。
 色んな音程のメロディで板谷を偲んでた。

 ホーン隊によるテーマの提示。
 続いてのソロは、全て無伴奏で行われた。
 本田が叩きはじめたが、明田川がさりげなく腕を振る。

 まずは林のソロ。探るようにメロディを置き、次第に収斂した。
 バロックっぽい音使いでフレーズを重ね、ついにはフリーキーにアルトを軋ませる。
 しみじみしたアドリブだった。

 続く鈴木のベースソロは寂しげな感じ。
 ロジカルに音を重ね、オーソドックスな音使い。
 明田川が合いの手を入れた。
 アフリカン・ベルを鳴らしたり、手を叩いたり。ピアノのボディを叩いたりも。
 
 そして明田川が無伴奏でソロを弾く。
 中盤では板谷の十八番という"Over the rainbow"も織り込み、フェイクさせた。

 今日のライブはアンサンブルが、正直なとこかなりラフだった。
 ホーン隊が入れる、オブリのタイミングはめろめろだった。
 演奏自体はとてもいいのに。

 アンサンブルとしてもっともまとまってたのが、続く「侍一本ブルーズ」だった。
 明田川が曲紹介してイントロを弾き始めると、ホーン隊がうろたえて顔を見合わせる。
 段取りが土壇場で変わったのかな。
 ピアノがテーマを紡ぐ間、じっとみんな譜面を見つめてた。

 テーマのとき、的確なプレイをしたのが本田のドラム。
 和太鼓みたいに力強いフィルを、フロアタムでかっこよく表現した。
 
 「侍一本ブルーズ」は、ピアノ・トリオの編成を強調してた。
 ホーン隊が入れるテーマのオブリが新鮮だ。ぼくはこの曲、ほとんどソロピアノで聴いてるせい。
 オブリのパターンって四種類もあるなんて。

 オーラスはこれまたおなじみの名曲「エアジン・ラプソディ」。といってもぼくはライブで聴くのひさびさ。
 本田のドラムがここぞとばかりに、大爆発した。
 
 ソロは佐藤から渡辺、松本と繋がったかな。
 1stセット最後と同様、ばんばんドラムの音量が上がった。テンションはうなぎのぼり。
 明田川はピアノの前へ身を乗り出し、全身で鍵盤をぶっ叩いた。
 
 あれは松本がソロを取ってるとき。
 溢れるパワーで本田が突っ走り、鈴木や松本も含め若手トリオの音がめらめら燃えた。
 明田川は顔をくしゃくしゃにして激しくピアノを打ち鳴らす。がっぷり盛り上がりに食いついた。

 テナーがアドリブしてるため、ホーン隊による掛け合いテーマの合図を入れる人がいない。
 明田川がピアノを引く合間、ドライバーを渡辺の背中にぶつける注意をひかせる。
 気付いた渡辺が、軽くホーン隊へキューを入れた。

 さあ、満を持した本田のソロ。
 佐藤は客席に降りた。ドラムがよく客から見えるように。
 
 本田のドラム・ソロは手数で押したり、変拍子で複雑に展開ではない。
 いや、手数は多い。が、それ以上に音が力強い。
 ハイハットはほとんど使わず、左足は床でリズムを踏んだ。
 あとはシンバルを休みなく打ち鳴らし、フロアタムやスネアをせわしなく鳴らす。
 
 雷雲の中へ頭を突っ込んだようなドラム・ソロ。
 店内一杯に音が埋まり、耳鳴りするほど。太鼓の皮も胴も目一杯響いて、痛快だった。
 アケタ店内にドラムの音が反響しまくった。

 テーマからエンディングへ。すさまじかった。
 アンコールの拍手が飛ぶなか、「曲がないよ」と明田川が呟きライブが終了。

 残念ながら今日のライブは、明田川は録音していない。スタッフがおらず、セルフサービス形式だったせいもあるはず。
 熱い演奏が刺激的で、すごく面白かった。
 外へ出ると、夏だから18時でもまだ明るい。いつも深夜にライブが終わるから、新鮮な気分だ。

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