LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/7/5  大泉学園 In-F

出演;灰野敬二+太田惠資
(灰野敬二:g,etc、太田惠資:vln,etc)


 ライブが終わった灰野敬二と太田惠資は、店の横にある階段でくつろいでた。
 エレベーターを待つ間。ぼくはぼおっとしつつ、太田へモゴモゴ挨拶する。

 タバコをふかし、太田がにっこり笑って言った。
「今日はライブを目撃してくれて、ありがとうございます」
 まさに目撃って言葉がふさわしいかもしれない。とんでもなく素晴らしい演奏だった。

 灰野と太田の共演は03年4月の同店ライブぶり。今回が2度目の共演になるらしい。
 音を聴いてると、意外に思う。だって相性がすごくいいから。

 ぼくが店についたのは19時20分頃か。
 扉の奥から電子音が聴こえる。灰野がまだサウンド・チェックをしてた。

 椅子に座って眺めてると、エフェクタの上に手をかざし音を出す楽器(なんだろう、あれ。テルミンかな?)のチェックが終わる。
「音量はまだ下げられます」
「いや、灰野さんの自由にやってください。(音量が)小さいくらい」
 そんな灰野と太田のやり取りに耳を澄ます。

 灰野はそのままギターやボーカルのサウンド・チェックを続ける。
 エフェクタ無しの音色で、ブルースっぽいフレーズを弾いてたのが新鮮だ。

 ひとしきりチェックが終わり、二人とも店から消えた。
 店内は順調に埋まり、ほぼ満席。
 ライブ開始はけっこう押して、20時20分くらいから。

 店内のライトは暗めに抑えられ、太田はステージ左側に立つ。
 オルガン独奏のBGMがそっと流れる中、灰野が登場するのをじっと待っていた。
 ふらりと現れた灰野はエフェクタの前に座る。
 
 「愛と真実の灰野敬二さんです。・・・上辺と偽善の太田です」
 と、ぼそりとギャグを織り交ぜた紹介。思わず噴出してしまう。
 灰野のライブでは異例の紹介だ。
 どうやら太田は、灰野が普段どういう雰囲気か知らなかったみたい。

 2ndセット最初では、灰野のスタッフへ「灰野さんはMCってしないの?」と尋ね、なにやら耳打ちされる。
 もっとも尋ねたあとでも、同様の挨拶をして客を笑わせた。
 さすがに中間のMCこそなかったが。灰野のライブで、こういうことができる人はそういない。嬉しいな。

 ライブは初っ端から音に引き込まれた。
 全編インプロ。集中した音だが、不思議と緊迫よりも暖かい雰囲気が漂う。
 太田が弾く音のおかげか。
 リラックスしつつも、音はぐいぐい刺激を増した。

 まず灰野はラジオ風機材からハムノイズを流し、手元に二つ並べたテルミン風エフェクタに手をかざした。
 太田は生のバイオリンを構え、上からマイクで音を拾う。

 淡々とノイズへ対峙する灰野に、クラシカルで切ないメロディを用い太田が包み込む。
 ゆらゆらバイオリンの音色が漂い、ごおっと唸る灰野の音と混ざった。
 灰野が途中でハミングをいれたかな。
 声のピッチが一瞬、バイオリンと溶けて異様な雰囲気だった。
 時に激しくなりつつも、この構成が10分くらい。

 バイオリンを弾きやめ、喉に声を引っ掛ける。「オ」の母音を強調したハナモゲラを呟く太田。
 クールで効果的な場面転換だ。

 灰野はエレキギターを構えた。音試しにぱらり爪弾く。
 太田はバイオリンの弦を布でぬぐった。その音もマイクで拾い、音楽に利用する。
 譜面をめくって曲を選ぶ灰野。太田はエレクトリック・バイオリンに持ち替える。

 冒頭に再び、太田の呟き。あとは灰野の歌世界へ突入した。つまりは哀秘謡。
 たぶんカバー曲だと思うが、曲名は分かりませんでした。
 一曲を灰野節で崩し、じっくりと演奏する。

 太田のバイオリンが音像にはまるったら。切ない空間が生まれる。
 音量も大小使い分け、表情がくるくる変わる。
 小音量の時、たまにハウってたのが惜しい。

 歌の間隙を突いて、太田のバイオリン・ソロも登場した。
 音色をひずませ、むせび泣くように。サイケなフレーズがたんまりの絶妙なソロだった。
 灰野はそっとギターで太田のソロを支える。

 1stセッションは休憩なし。約1時間ぶっ続けで演奏された。
 30分ほどかけた灰野の歌がコーダを匂わせ、声が途切れた瞬間。
 すぱっと太田がエレクトリック・バイオリンで、見事に切り込んだ。
 トラッド風のフレーズを軽快に奏でる。

 しばし間をおき、灰野はノーエフェクトのギターで加わった。
 主導権を太田に与え、バッキングにつとめる。
 低音弦のみを使い、ベースっぽい音使いで加わった。
 いつのまにかギターの音をわずかに歪ませ、指弾きでかき鳴らす。

 ここからはわずか15分ほどの間に、がらがら情景が変わった。
 二人の豊富な引出しを存分に使い、ひとときも耳が離せない。
 ギターはだんだんヘヴィになる。
 バイオリンをエフェクタでループさせ、太田はメガホンを持ち出した。

 ギターが暴れる中、なにやら太田はアジる。
 薄暗がりのライティングが、この退廃的なサウンドに似合う。
 メガホンを置く間際、太田は静かにサイレンを鳴らした。

 演奏途中、何人もの客が店内へ入ってくる。
 そのたびに扉から明るい光が一筋、二人を鋭く照らした。

 灰野は髪の毛を幾度も、せわしなくかきあげてギターを弾く。
 二人のインプロはどこまで行ってもメロディアスだ。
 エレキギターとエレクトリック・バイオリンの交錯は、プログレ調からハードロック風へ。テンション高く弾ききった。

 休憩は20分くらいと短め。
 前半同様にさらりと太田が冗談交じりの紹介をして、即興が始まった。 

 灰野は4弦の民族楽器を構える。胴がかなり小さく、形はチトラーリー・シタールみたいなやつ。名前は不明です。
 太田はバイオリンを構えた。
 冒頭に灰野がちょっと歌声を入れたが、いつしか無言で音楽にのめりこんだ。

 灰野はマイペースで演奏しているが、太田がさりげなく支えるせいか、息がピタリとあっている。
 いっぽう灰野も場面ごとで潔く、主導権をゆずる。
 互いの演奏は猛烈に深まる。ぼくはぼおっとしながら聴いていた。

 太田がバイオリンを置いた。
 ハンドドラムを高く掲げ、依然として弾きまくる灰野を静かなビートで煽る。
 指先で淡々とハンドドラムを叩いた。
 そしてアラブ風の響きで歌う。

 灰野はリバーブをたんまりかぶせ、奇声で応える。裏声やシャウト。ぶわりと声が炸裂。
 声の応酬は、最後に一節。太田が「終わりっ」っと告げた。

 ここまで15分くらいかな。
 続いてのセッションが今夜の白眉であり、二人の実力を痛感した。
 前半最後の部分よりも、さらに太田が次々アイディアを繰り出す。
 流れは記憶頼り。間違ってたらごめんなさい。

 まずはマイク・パフォーマンス。といっても声じゃない。
 セッティングでひっかけたか?灰野がマイクで、リバーブのかかったノイズを出すと、太田は便乗して自分のマイクを指ではじく。
 灰野が準備するまで、指先数本で軽いノイズを連打した。

 前半でも使った、テルミン風エフェクタをまずは灰野が使用。
 横の機材もいじり、ハムノイズもかぶせた。だがこれはすぐに音を絞ったっけ。
 
 灰野は黙々とエフェクタに手をかざし、空気を力強く押さえつける。
 そのたびに音が微妙に変調し、重たく風が吹いた。
 太田はメガホンを取り出し、英語風アクセントで語りを入れる。

 電子音をバックにメガホンから漏れる声は、SF映画の交信シーンみたい。
 灰野がひときわ手のひら押し付け、唸り声みたいなノイズで返信した。
 
 太田はエレクトリック・バイオリンにチェンジ。
 ここでの演奏が素晴らしかった。
 クラシカルな旋律をさらりと弾き、それをループさせる。
 数小節くらいのフレーズが繰り返される中、牧歌的なメロディをつぎつぎかぶせて弾いた。

 灰野は依然、エフェクタと対峙する。太田の音像と対照的だからこそ、その違和感が面白い。
 バイオリンはさらに重ねられた。
 いつのまにか弦楽四重奏くらいまで、サンプリングが幾重にも重なる。
 ふくよかな響きでぞんぶんに太田は弾きまくった。

 灰野はエレキギターを構え、バイオリン群の響きに対抗する。
 ノーエフェクトでメロディを優しく紡いだ。
 
 いつしかギターの音は歪む。
 太田はエレクトリック・バイオリン多重奏の響きを残したまま、次に弾く楽器を物色する。
 摘み上げたのは、リードつきの小さな縦笛。

 灰野のエレキギター、自らのバイオリン多重奏。これらをバックに、そっと笛を吹く。
 あまりボリュームが上がらず、音色が聞こえない。
 足でエフェクタを操作した。多重奏をフェイドアウトさせ、笛を浮かばせる。

 灰野はエレキギターに没入したまま。
 ピアノの上に載せたシェイカーを、太田は取り上げた。
 軽くリズムを取る。

 いつしか歯切れいいリズム・パターンが提示され、すぱっとブレイクを挟み込む。
 これがかっこいいんだ。エレキギターのリズムが強調された。

 また太田はエレクトリック・バイオリンを構える。
 足のエフェクタを操作するとき、一瞬だけ先ほどの多重奏が店内に流れた。
 しかし一瞬だけ。再びサンプリングが呼び出されることはなかった。
 たぶん意図した音じゃなかったんだろう。
 だがあのきれいな音塊を、断続的に挿入するのも面白いはず。

 灰野を聴きながら、太田が弓を構えたりおろしたり。タイミングをさぐる。
 エレクトリック・バイオリンを弾くうち、灰野に煽られたか。
 ぐしゃぐしゃに歪ませた音に変化させ、エレキギターよろしく指で弦をかき鳴らす。

 最後までテンションはうなぎのぼり。
 ほとんどの部分が旋律を意識した耳に馴染む。
 いい演奏だった。音にひきつけられる。
 二人の音が空間を埋め尽くした。

 静かにボリュームが下がり、灰野と太田の視線が絡む。
 それがエンディングだった。

 拍手が鳴る中、二人は店の外へ去る。拍手が消え、アンコールはなし。
 開演時間が遅かったせいか、後半部分が終わったのは22時40分頃。
 濃密な空気に圧倒された。

 灰野が得意とするフレーズ・サンプリングを、今夜は太田が巧みに使ってた。
 音像が濁るのを避けたか、今夜の灰野はサンプリングしなかったと思う。

 二人の才能がふんだんに絡む、素晴らしいライブだった。
 即興の緊張が高まっても、どこかリラックスできるのは太田の音のおかげだろう。
 ぜひ録音作品を残して欲しい。じっくり聴きたい音楽だ。
 
 めまぐるしく提示される音楽のどれもが極上で、どうやらぼくは演奏に酔ったみたい。
 風邪気味だし、酒は一滴も飲まなかったのに。
 すごく充実したサウンドで、頭がいっぱい。
 ふらり、ふらり歩きながら、ぼくは駅へ向かった。

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