LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/6/12  新宿 PIT-INN

出演;STOY
(佐藤允彦:p、常味裕司:Oud、太田惠資:vln、吉見征樹:Tabla)


 今夜は「STOY U」のレコ発記念ライブ。
 客席がすいすい埋まったためか19時50分くらいに演奏が始まった。
 ジャケでイスラム細密画を書いた画家も客席に来て、MCで紹介されていた。

 冒頭は佐藤允彦が優しく挨拶する。しばらく喋ったあと、
「はい、あとはリーダーにお任せ」
 とMCの主導権は常味裕司へわたした。実際にはこのバンドのリーダーって、どうやら佐藤らしい。

 STOYは音を聴くの初めて。アラブ風のインスト・ミュージックが面白い。
 もうちょい即興要素を前面に出したほうが好みだなぁ、と思ってた。
 でも実際には相当部分が即興なのかも。聴きながら、自分の知識不足を痛感したよ。

<セットリスト>

1.Raqsa Aziza
2.Longha Hijazkarkurd/ロンガ・ヒジャーズカルクルド
3.Semaii Ajam/セマイ・アジャム
4.Longha Shahnaz/ロンガ・シャーナーズ
5.Alexandris/アレキサンドリス
(休憩)
6.チュニジアの夜(p ソロ)
7.Longha Bouselik/ロンガ・ブズリク
8.Saba-Taal/サバ・タール
9.Hijaz Oyun Havas/ヒジャーズ・オユンハワス
10.Layali el Jazeir/アルジェリアの夜
(アンコール)
11.Longha Moudaaba

 曲間に丁寧なMCが何度も挟み込まれる。ユーモラスでおっとりした喋りだった。
 常味の前へマイクを用意しておらず、曲間にスタッフがすばやく準備する。
 太田が「pit-innのXXXさんです。マイクをありがとう。拍手を!」とギャグをとばした。

 当然すべて曲目紹介もあり。メモを元に書きましたが、間違ってたらすみません。
 イスラム語(?)のタイトルでよくわからず。ネットで曲名をチェックしましたが、聴き間違えてるかも。

 (1)と(10)が1stより。ジャズのスタンダード(6)を除き、あとはすべて2nd収録曲だ。

 (1)は常味のウードと太田のバイオリンによるイントロから。丁寧に旋律をなぞる。
 そっとピアノやタブラがくわわり、次第にテンポアップした。ソロ回しはたぶん無し。
 太田がホーメイっぽい響きも取り入れ、一節歌う。
 彼のアラビアっぽい節の歌は聴いたことあるが、こういう音楽をベースにしてたと実感した。
 エンディングで太田+常味+吉見によるハモリが迫力あり。コーダはあっけないほど、あっさり。

 少しMCのあと、(2)はウードのソロで始まる。メロディが華麗に流れ、イスラム音階の鈍い響きがほんのり影をつけた。
 アンサンブルになると、ノリがゆったり心地よい。波にたゆたうよう。
 あまりの気持ちよさに、ちょっとぼくはうとうと。
 ピアノソロをはさんで、アップテンポのエンディングで幕をおろす。

 MCで常味が「ウードのアラブ読みは『ウド』って縮めるんですよ」と紹介する。
 客席が呟いた声を耳ざとく常味が聴き取る。
「キャイーン?なんだ、それ」
 話題が脱線しそうになり、佐藤がそっと本筋へ戻した。

 MCが中途半端に終わりかけたとこで、すぐさま太田が(3)を始める。
 とまどう常味にかまわず、唸る太田を吉見が笑って眺める。
 3拍子を基調にした寛げるアンサンブルだったな。気持ちいいが、アドリブ部分が少ないや。
 STOYはアドリブじゃなく、アンサンブルを楽しむ音楽なんだろうか。
 佐藤がリーダーなので、もう少しジャズよりかと思ってた。

 1stセットはサクサク進む。(4)はトルコの古典音楽で、途中に9拍子が出てくるそう。
 前半ではこの曲がベストかな。テンポは比較的早くて、明るいムード。
 バイオリンが素早いフレーズ連発のソロを取った。
 
 太田と常味の短い応酬をはさみ、ピアノソロへ。このソロが素晴らしかった。
 佐藤のピアノは滑らかで力強い。めまぐるしく繰り出す音は、粒が揃って心地いいぞ。
 ピアノのソロは、無伴奏で展開した。太田がバイオリンの胴をそっとリズミカルに指ではじく。
 太田が高らかにバイオリンでテーマを提示し、エンディングへ導いた。

 前半最後の(5)はギリシャの民謡だそう。
 タブラのイントロにウードがかぶった。
 しばらく弾いてた吉見は、「入りなさいよ」と苦笑して太田を促す。

 中盤の太田によるソロも良かった。切ないメロディが零れる。
 弓がきつくバイオリンをこする。切れた糸が数本、弓の端から垂れ下がった。
 タブラのみがバックのウードでソロ、そしてピアノへ引き継ぐ。
 エンディングは盛り立ててぐしゃぐしゃでなく、テーマからそのままふわりと軟着陸した。

 休憩をはさんだ冒頭の"チュニジアの夜"は佐藤がふらりとステージへ登場する。
「他の人たちはもうちょっと休憩。前座として弾きましょう」
 と、さりげなく挨拶したあと。とんでもない快演を披露した。

 ペダルをふんだんに使って、響きが柔らかい。フレーズが美しく、クラシカルな感触もあった。
 両手は鍵盤をフルに使い、低音部から高音までひっきりなしに指が動く。
 豪快な音使いだが、タッチはあくまで繊細だ。
 
 圧倒的なソロだった。こりゃ、彼のソロも今度見に行かなくちゃ。
 ステージへ登ってきたほかのミュージシャンも感嘆してた。
 ちなみにこの曲、後半最後に演奏された"アルジェリアの夜"に繋がる伏線だったそう。

 後半2曲目もピアノソロがイントロ。バイオリンとウードで奏でるメロディは、バルカンっぽい。
 いや、アラブ系なんだろうか。よくわからないや。もっといろいろ聴かなきゃダメだな、おれ。

 タブラ・ソロのために選んだ"サバ・タール"は、STOY2の録音時に難航したそう。
 「二日間しかないのに。他に録らなきゃ行けない曲もあって、ずいぶん大変だったよな」
 と、常見はにやつく。吉見は涼しい顔だ。

 ところが演奏が始まって入りそこねた時。「take2です」と言って、吉見はさすがに苦笑してた。この曲も面白かったな〜。

 他の楽器が静かに同じフレーズを繰り返す上で、吉見のタブラは鋭くはじける。ポップコーンみたい。音がせわしなく硬い。
 舌を噛みそうに複雑な歌詞を、タブラを連打しながらまくし立てた。
 バイオリンのソロをはさみ、これまたあっさりエンディングへ。

 続いてのイントロは、太田が奏でる。
 バイオリンを弾きながら太田が歌ったさまや、テーマのあとにウードやピアノのソロがあったけど。またしても気持ちよくって・・・途中でうとうとしちゃったみたい。

 本編最後は2ndの1曲目に収録の、"アルジェリアの夜"で締めた。
 演奏前に佐藤がメンバーを紹介、深深と頭を下げるミュージシャンへ拍手が飛ぶ。
 「終わりみたいだな。やめようか?」っておどける常味。

 アップテンポで親しみやすい。
 "アルジェリアの夜"をステージ最初に持ってきたら、冒頭からののめりこみ具合が違ったかも。
 CDでは佐藤がチェンバロを弾いた曲のひとつ。微分音でチューニングした鍵盤グリサンドして、大喜びしてたとか。
 もっとも今夜は、普通の平均律で調律されてたはず。

 バイオリンとウードの短い掛け合いが、テーマへ繋がる。
 ここでは太田が大活躍。弾かれるメロディが、うきうきはずむ。常味はタンバリンぽい楽器で静かにバックを支えた。
 興が乗ったか、太田はバイオリンを弾きやめた。
 そのまま腕をゆったり振りつつ、アラブっぽいメロディを歌う。さすがの貫禄だ。

 ラストはピアノソロを挟んで、あっというまに終わった。
 観客の拍手は盛大だ。ちょっと袖で相談すると、そのままステージへ再登場した。
 「練習曲っぽい曲です」

 冒頭で入りそこなって、またしても「Take2」があったけど。
 超高速の複雑なフレーズが、矢継ぎばやに繰り出される構成に圧倒された。
 みんな俯きかげんで楽器と格闘する。
 めまぐるしく上下する音を追ってたら、あっというまに終わってしまった。

 ぼく自身が今まで聴いてない音楽だから、自分で耳の着地点を探してるうちにライブが終わったようだ。
 少しは咀嚼できてて、次に聴いたらより楽しめてるといいな。

 ピアノみたいな平均律の楽器が、不思議にアラブ音楽に馴染む。
 奇をてらって音像を選んだのでなく、真剣にアラブ音楽と対面してるサウンドだ。
 ここんとこぼくの耳が即興よりになってて、戸惑っただけかもしれない。
 けっこう複雑なリズムだが、音に没入するとリラックスできる。

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