LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/6/7   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之ソロ

 (明田川荘之:p,オカリーナ)


 0時15分くらい。
 スタッフへ一声かけて、明田川はピアノへ向かった。
 今夜もアケタの店で、月一回の定例深夜ライブが4人の観客を前に始まる。
 
 無言でがらりと金属のベルをピアノの上へ置いた。
 だがすぐにピアノの下に投げてしまう。伸び上がってピアノの上の豆電球を消した。
 
<セットリスト>
1.テイク・パスタン
2.I closed my eyes
3.トッカータとフーガ
4.侍一本ブルーズ
5.Cruel days of life
6.Mr.板谷に捧げる歌
7.   ?

 ここんとこ毎月のように彼の深夜ライブを追っかけてるが、今夜は普段とちょっと違ったアレンジが多い。

 まずは馴染みの名曲、"テイク・パスタン"。
 しょっぱなからペダルを多用し、リバーブをたっぷり噛ませてロマンティックに攻める。
 装飾音もひんぱんに取り入れ、華やかで切ないイメージだった。

 すぐに彼の唸り声が聴こえてきた。
 中盤からペダルは控えめ。からりとした音色へかえる。
 アドリブをはさみ、終盤ではわずかにテンポアップ。
 冒頭から熱のこもった好演だ。ここんとこ、深夜ライブって"テイク・パスタン"から始まることが多いかもしれない。

 つづく"I'll close my eyes"も、明田川がよく演奏するスタンダード。
 扇風機を取り出したのはこの曲を演奏する前だったかな。

 今度はぐっと音がスイングする。エコー成分を減らし、指数多く弾きまくった。
 ホンキー・トンクともちょっと違った、オールド・ジャズ風味のサウンド。
 このアレンジはあまり聴いたことなくって楽しかった。
 アップ・テンポで早い旋律がくるくる舞い、まっしぐらに転がる。

 MCなしでぽんぽんステージは進行した。
 今度はオカリーナを取り出して、"トッカータとフーガ"。
 この曲もテンポがむちゃくちゃ速かった。
 なんだか今日の明田川は、急いてる気がした。

 2個のオカリーナを持ち替えて吹くフレーズは、あまりに早すぎてところどころ音がかすれてしまうほど。
 前曲以上に、めまぐるしいプレイだった。

 ここで軽く曲紹介。
「最近の曲です」と紹介された"侍一本ブルーズ"は数年前から、ライブで演奏してた気もする・・・。
 幾度もこの曲を聴いたが、今日の演奏はとびきりだった。
 足元に置いたベルをガラガラ鳴らしたのもこの曲で。

 特に効果的だったのが、グランドピアノの中へ指を突っ込み、ピアノ線をざらりと爪でなぜる奏法。
 さりげなく弾くが、まるで抜き身をぎらりと閃かす迫力があった。
 
 この爪弾きを幾度も繰り返しながら、音が高まる。
 しかしあまりに唐突にカットアウトしてしまった。くう。

 どうやら音程が狂ってたようだ。
 演奏をいきなり止めて、すぐさま調律し始めた。

 仕切り直しするでもなく、すぐ次の曲へ。
 この曲も最近書かれたそう。
 アップテンポを基調に、興が乗るままテンポがコロコロ変わる。

 ソロピアノの優位性を存分に出し、奔放な演奏だった。
 これも気持ちよかったな。
 しかしまだピッチが気に食わないらしい。曲を終えたら、またしても調律していた。

 今夜のベストテイクは、次に弾かれた"Mr.板谷に捧げる歌"。
 名トロンボニスト、故・板谷博に捧げた曲だ。
 最初はワイルドなオカリナから始まったかな。
 ランダムなフレーズが続いたあと、おもむろにピアノでテーマを弾く。
 
 CDではロマンティックに聴かせるが、今夜はかなりラフなニュアンスを前面に出してたと思う。
 タッチは堅く、メロディは容易になごませない。

 硬質なイメージでしばらくピアノを弾いてたら。
 いきなりオカリナに持ち替え、明るい雰囲気のメロディを吹いてみせる。てっきり別の曲へメドレーで変化したかと思った。
  
 再びピアノに。またしても歯軋りするような、鈍いムードが展開した。
 途中ではクラスター・ノイズも飛び出す。
 彼なりのレクイエムだろうか。情感こめて偲ぶだけでなく、こういう解釈もあるんだ。
 曲のアレンジも新鮮だった。

 オカリナのソロは数度織り込んだはず。
 そのたびに風景がからりと変わる、凝ったアレンジだった。

 最後の曲は間をおかずに続いた。今度こそメドレー。
 聴き覚えあるメロディだが、曲名が浮かびませんでした。ごめん。
 
 アップテンポで音をグルーヴさせ、しばし盛り上げたあと。
 プラスティックのオカーリナ・ケースをグランド・ピアノの中へ放り投げた。
 ピアノ線に乗っかった部分の鍵盤を叩くたび、鈍く賑やかにケースが共鳴する。

 明田川のピアノはぐいぐいアグレッシブに。オカリーナのケースがビリビリ跳ねる。
 肘打ち。腕打ち。
 幾度もケースがはじかれた。
 明田川は息つくまもなくピアノへ向かい、足音高く踏み鳴らした。
 ピアノの椅子がぎしぎし鳴る。

 しばらく弾き殴ったあと。
 するっとケースを取り出し、きれいな和音で穏やかな風景へ導いた。
 「ありがとうございました」
 と、演奏しながら挨拶する、かなり珍しいパターン。
 いつもは弾き終わったあと「終わりです」と告げるだけなのに。

 コーダのフレーズは、オクターブを変えて数度繰り返す。 
 終わるかな?と思わせて、また演奏へ戻るコミカルなアレンジだった。
 さんざん焦らせて、おもむろにライブが終わり。

 だいたい1時間半くらい演奏してたろうか。
 終演後、美味しそうに明田川はビールを飲んでいた。

 毎月毎月聴きに行ってるから、いいかげん呆れられてそう。
 だって、聴いてて楽しいんだもの。
 今夜は普段と違ったアレンジばかり。"I closed my eyes"、"侍一本ブルーズ"、"Mr.板谷に捧げる歌”などは、新たな魅力が収穫だった。

 彼のライブは毎回レコーディングされてるが、もっといっぱいリリースして欲しいなぁ。

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