LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/6/5   高円寺 SHOWBOAT

出演:KNEAD
 (灰野敬二:eg,ag,fl,vo、吉田達也:ds,vo、佐々木恒:b,ag,vo)


 今夜はフランスのレーベルから、アナログ盤のレコ発ライブ。
 ところが現物が手元に届かなかったそう。
 吉田達也は「一般の流通があるかは不明。手元に送られる分も、ライブで売るだけなのでご注意を」と言っていた。

 超満員かと思ったら。椅子席が一通り埋まる、ほどほどの混み具合。
 ステージは後方の青白い照明と、中央を薄暗く照らす白熱灯のみ。
 客席もかなり照明を落されている。開演を待つ間、眠たくてうとうとしていた。

 エレキ・ギターの音がしてパッと目がさめたら、3人はステージに既にスタンバイ。楽器の調整をしてる。
 なんだかぼくには3人が、急にステージへ涌き出たようでドキドキした。

 ライブが始まったのは20時を少々回ったころ。
 いきなり灰野の轟音ギターが耳をつんざく。ソロよりも多少音量は控えめだが・・・。

 ステージは薄暗いまま。おぼろげに灰野や佐々木の動きが見えるくらい。
 吉田の演奏姿は、ほとんど判別できず。かすかに顔かたちを判別かどうか。
 彼のドラミングが目当ての一つだっただけに残念だった。

 暗闇から襲い掛かるギターは、低音成分がやけに強調されて耳を厚く覆う。
 細かいフレーズじゃなく、うねる激しい音圧が吹いてくる。
 冒頭から灰野は身体を前後に激しく振り、ステージ中央へ鋭く身体を滑らせる。
 猛烈にギターをかきむしった。

 同じくアグレッシブに身体を動かす佐々木。しかし立ち位置はほとんど動かず、灰野と対照的だった。
 さらにベースは音量が小さいのか、ごくたまにフレーズを認識できる程度。

 しかしドラムは別。暗闇の奥から、猛烈なスピードで打ち鳴らされた。
 甲高く、力強く。

 したがって音像は、どうしてもドラム対ギター的な構図が多い。
 灰野がマイクへ近づいた。ゆったりしたフレーズで歌う。
 日本語の即興らしいが、詳細はよく聞き取れなかった。

 吉田のドラミングが圧倒的。暗い照明で、動きが見えず本当に残念。
 変拍子のリズムキープと、高速連打をランダムに叩きわける。
 パンパンに張り詰めた、得意のチューニングだった。
 
 今夜の演奏は、聴いてる限りすべてインプロ風だ。
 最初の10分ほど経って、一度吉田達也が「KNEADです」と軽く挨拶。
 あとはノンストップで駆けてゆく。
 コーダらしき部分が幾度かあったので、奏者には曲の切れ目があったのかも。

 MCを挟んだ前半ステージ二曲目で、ちょっとギターの音量が下がりベースの音が若干聴き分けられた。
 もっともさほど佐々木の手数は多くない。
 灰野のギターは、音のエッジが立ってきたようだ。

 高速リズムで塗り潰した1曲目と異なり、隙間の多い展開。
 吉田が磨崖仏語で低く歌う。
 灰野は静かなストロークに切替えた。
 ひとつながりのギターのフレーズをサンプリングし、ループさせる。灰野が得意の手法を使う。
 ダラブッカを取りだした吉田が、静かな音像を膨らませた。

 たしかこのあと、再び轟音ギターに包まれたはず。
 灰野は足でサンプラーをいきなり踏み、ループするフレーズを切り落とした。
 しかしまた音量は下がる。
 ギターを置いて、フルートを持つ灰野。
 客席へ背を向け、探るように吹く。
 マイクを通さない、生の音色が耳へ届いた。

 ひとしきり吹いたあと、ステージ中央へ歩む。
 今度はマイクを通す。
 合間に歌も挟み、幾度もかぼそく鳴らした。
 灰野のフルートは初めて聴いたが、独自の奏法を目差す様子。
 甲高い音と低い音色が立て続けに飛び出す、トリッキーな音使いだった。
 目を閉じて聴くと、邦楽の笛みたいだ。

 笛の音が途切れる時は、ルインズによる演奏となる。パルスのような直角的なリズム。
 ところが灰野が加わると、とたんにぐにゃりとグルーヴが変化した。
 
 数歩さがり、腕を振って佐々木をあおるそぶり。
 ステージ中央でうつむいたまま、灰野はタップのように足で踊った。
 この足音がわかるくらい、音量は下がっている。

 再びフルート。
 そしてギターに持ち替え、轟音を蘇らせた。
 前半はこのまま、エンディングまでまっしぐら。

 高く鋭くギターを振り上げ、幾度も振り下ろしてコーダへ誘う。
 あれはエンディング間際だったろうか。
 灰野がマイクをわしづかみにし、ジョイント部分を強くねじる。小さなノイズを立て続けに、鋭く引き出した。

 前半は一時間強。20分ほどの休憩を挟んだ後半戦は、意外なセットで始まった。
 佐々木が丸椅子、灰野はパイプ椅子を持ってきて、ガットギターを構えて座る。
 ピックアップで音を拾う、アコースティック・セットだ。

 吉田もダラブッカで、ランダムにビートを提示した。
 バスドラがたまに響く。タムやシンバルを手のひらではじく。いつのまにかブラシが彼の手にあった。
 ろうろうと磨崖仏語で歌ったのは、ここでだったか。

 アコギの音も、灰野の方がよく聞こえる。
 佐々木が遠慮がちで惜しい。もっと前面に出て、自己主張して欲しかった。
 すっとたちあがり椅子を片付ける。ベースを肩からぶら下げた。

 一方で灰野はアコギのまま。混沌さがステージを支配する。
 しばし弾き続けたあと、立ちあがってエレキ・ギターに手を伸ばす。
 ルインズがリズミカルに連打し、ギターを構える灰野をあおるさまが、すごくかっこいい。
 エレキ・ギターの大音量が、耳をつんざいた。

 後半はMCによる中断はなし。幾度かコーダらしき部分があったし、ノンストップじゃないかも。
 だが聴いてて拍手できる雰囲気じゃない。
 サービス精神皆無で、ステージは自分の音に集中していた。

 もっともエンディングっぽい箇所へ来ても、灰野か吉田が即座に手数を復活させる。
 そのまま力強くうねりが再開する部分も多く、曲の構造はまったく聴いてて分からない。

 前半同様、ギターをぶら下げたまま両手で佐々木を灰野があおる。びしりとかれを指差した。
 つと近づき、佐々木へ耳打ち。

 背筋を伸ばしてマイクへ向い、佐々木が歌った。
 旋律は灰野っぽかったな。もっともボリュームは小さめ。
 ちなみに後半で、灰野自身は歌わなかった。

 眠たいせいか、朦朧としてきた。荒れ狂う轟音がここちよい。
 低音がびりびり服をふるわせる。
 もっとも冒頭で書いたとおり、音量は灰野のソロに比べたら押さえめだったと思う。

 後半も約一時間くらい。
 灰野はステージ中央へおどりでて、幾度もギターを振り下ろす。吉田のドラムは張り詰める。
 見事な豪腕エンディングだった。

 「ありがとうございました」と一声、吉田が告げて3人はステージを去る。
 濃密な音像だったせいか、アンコールを求める拍手は特にない。

 フランスのレーベルから出る音源は、新録だろうか。
 もしそうならアナログだけじゃなく、CDでもリリースして欲しい。
 しかしこの迫力を、どこまで録音できてるかは疑問だ。
 ライブでこそ、音の真意を隅々まで味わえる。

 しかし終わってみたら、耳鳴りがすごかったなぁ。

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