LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
03/5/24 西荻窪 アケタの店
出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、片山広明:ts、早川岳晴:b、石塚俊明:ds
+ 北陽一郎:tp)
土曜ということもあってか、盛況の入り。
今夜の緑化計画は、なんだか演奏がひときわカッチリしてた。
ミュージシャンも雰囲気が堅く、ほぼ俯いたまま演奏する。なぜだろう。
もっとも音楽は大充実。飛び切りのライブだった。
だれもが光った音だったが、特にすごいのが片山広明の存在感。
メロディアスな音から強いブロウまで、野太くテナーを歌わせる。
そういや片山はメンバーで唯一、緑化計画のTシャツをGジャンの間から覗かせてたっけ。
本日はゲストで北陽一郎が登場。事前告知はぜんぜんなし。
数日前にMANDA-LA2での渋さセッションで、さくっと出演が決まったとか。
20時ちょい前頃にメンバーらがアケタへ帰還。
一息ついて、無造作にステージへ向かった。
<セットリスト>
1.Fair game
2.A-hem
3.アグリの風
(休憩)
4.Bisque
5.コントラ・ロンド
6.Menou
(アンコール)
7.TAO
MCで翠川はCDを宣伝してたが、ものの見事にCD本編へ未収録な曲ばかりのセットリストが面白い。
(「Menou」はボーナスCDに収録されてる)
冒頭にはしっかりとチューニングから。
まずは静かなリフからライブが始まった。
テーマをホーン隊がゆっくりくりかえすアレンジから、フリーへ浸かってゆく。
ピッチもテンポもぴったりなアンサンブルの響きが心地よい。
片山広明がまずソロを取った。
リズム隊は小さな音で囲む。
どんどん音が小さくなり、翠川も弾きやめて、一瞬無伴奏で片山のサックスが鳴った。
最初は探るようにスケールの断片っぽい音や単音の連打。そこから音が膨らむ。
かなり長めにソロを取るのが新鮮だ。
緑化計画は同時進行でフリーが展開してくイメージ持ってたから。
包み込むようにトシがマレットでドラムを叩く。
早川のベースも次第に大きくなっていった。
ひとしきり片山が吹いたあと、北へ視線を投げる。
合図とともにソロがクロスフェイド。
テナーサックスの音が消え、その瞬間に北のソロが音量を増す。むちゃくちゃかっこよかった。
北のソロへ翠川や片山がカウンターでフレーズをぶつけ、のっけから音像は複雑に盛り上がる。
静かに始まったテーマも、エンディング間近では若干テンポが増した。
続く「A-hem」がぼくにとって今夜のベストプレイ。
あらゆる音が生き生きと聴こえた。
ぶっきらぼうにエレキベースを弾く早川のフレーズが、ぐっとジャジーに響く。
トシがハイハットを刻む以外はパターン・リズムを叩かず、ベースがグルーヴの根底を支える。
ここではソロも素晴らしかった。トランペットから、テナー、チェロ、ベースと消去法でソロが廻った。
ベルを正面に向け、胸をはった北のソロ。
音量はさほどでもないが、音に力がこもる。
トシが猛烈なタムロールでソロを煽る。
朗々と迫力あるソロを吹いた片山を受け、翠川のソロへ。今夜はほぼ弓でプレイ。
チェロの音がアンプからしっかり響いて嬉しい。音が瑞々しく聴こえた。
続く早川のソロは、ほぼドラムとデュオ状態だった。
バンダナじゃなく、めずらしくキャップをかぶったスタイル。
この日はすべてエレキベースで通した。後半セットでは楽器を持ち替える、
高音部をつかった高速フレーズで、パーカッシブに叩き込んだ。
弦を上から下へ何度もグリサンドさせたり、指でポジションをせわしく上下させ、ボトルネックっぽい奏法で弾きまくたのもこのソロだったろうか。
「A-hem」のラストも早川がしめる。
静かなエンディングから、最後はベースの低音が鈍く響く。
早川は手のひらで、そっと余韻を包み込んだ。
「アグリの風」はタイトルにあるような、風切り音を模したイントロから。
この日は曲目をすぱすぱ翠川が決定し、間をおかずメンバーへ伝える。
どの曲もアレンジがかっちりきまり、タイトな展開が多かった。
片山や北は楽器へ息を吹き込んで風を起こす。
チェロの後ろをくいくいこすり、翠川は風を吹かせた。
シンバルへブラシを滑らすトシ。次に手のひらでフロアタムを連打する。
ベースだけが混沌としたフレーズを静かに弾いていた。
そして早川によって、テーマのメロディが首をもたげる。
ここでもテナーやチェロのソロがたんまり聴けた。
朗々としたテナーのソロが印象的だ。
しばしのアンサンブルのあと。
片山の合図で、急転直下にテーマがエンディングへ。
ところが早川が低音をわずかに残す。
エンディングかな?と思わせて。まだ早川がロングトーンを消さない。
片山や翠川がちらりと早川へ振り向き、"ダルマさんが転んだ"状態でおかしかった。
翠川がにやりと笑う。おもむろにチェロを静かに鳴らし、再びアンサンブルが展開した。
前半は一時間弱ってとこか。20分くらいの短い休憩時間をはさみ、すぐに客電が落ちる。
後半最初の「Bisque」ではふわっとフリーなプレイだった気がする。
翠川はコル・レーニョ(弓の背、木の部分で弦を叩く奏法)もソロに織り込む。
ひらり、ひらりとフレーズごとに、弓の角度が素早く変わった。
「コントラ・ロンド」はベースのフレーズが曲の基調だ。
「練習しなくちゃな」
演奏前にうそぶく早川を、「ゆっくりやっていいよ」と翠川が茶化す。
譜面を睨み、ときに視線を中に投げ。ほんとに早川は練習するそぶり。
まずはベースとチェロのデュオから始まる。
テーマのリフを、早川が提示した。
テンポを落として、メロディの断片を数度繰り返す。
効果的なフェイクだが、なんかほんとに練習してるみたいで可笑しかった。
片山がパーカッションよろしくリードを規則的に爪ではじいたのはこの曲か。
チェロはホーン隊が入るとノイジーに弦を軋ませて応酬。
ソロになると、小さな音で繊細なソロへ変わる。
指板の上を左手で包む。弓を弦の上へぽつぽつ落とすが、それが微妙に音程が変わっていくようだ。それとも聞き違い?。
左手がかすかに動き、弦の上へ落ちる弓が起こす音が、半音・・・一音・・・微妙に変化して聴こえた。
ベースはリフを幾度も繰り返す。
ところがふっと弾きやめた。
トシのハイハットだけがシャープにビートを刻む。
ベースとチェロがそろって弦をはじき、ボサノヴァ風の音像を作った。
ひとしきり爽やかに続け、おもむろに早川はテーマへ。
ラストはベースが無伴奏できれいにまとめた。
「最後は・・・なにやろうか?」
ここまですぱすぱ曲を決めていた翠川が、唐突に片山へ尋ねる。苦笑して、
「こういうときばっかり訊くんだな・・・『Menou』は?」
「え〜。暗いよ」
「いいじゃん。インテンポばっかりなんだもん」
そんなやりとりのあと。最後はとりわけ静かな曲で今夜のライブをまとめた。
片山が北へ、あれこれ曲の展開を説明してたのはこの曲だっけ。
テーマのメロディがそっと膨らむ。トシはスティックで横に置かれたビールケースをこすり、ギロ風に鳴らした。
静かな音像に合わせ、ぶら下げたチャイナシンバル群へマレットを滑り落とし、スティックの背でシンバルをひらめかす。
この曲も静かでしみじみ良かったなぁ。エンディングまぎわ、チェロの演出が素晴らしかった。
まずはかすかにpppでテーマのメロディを弾く。聴こえるぎりぎりくらい。
静寂の中、改めて音量を上げて。チェロは旋律をゆったり繰り返した。
テナーやトランペットがロングトーンでエンディングを支える。
片山は北を見やりつつ、キーをオープンでずっと吹いていた。
客席から拍手が飛び、そのままステージを降りずにアンコールへ。めずらしい。
いきなり早川がイントロを弾き始めた。
振り返って、早川の譜面を繰る翠川。
「え、この曲じゃないの?」と早川が慌てる。
「いや、それでいいよ」
翠川は答え、そのまま曲へなだれ込んだ。
ぐっとアグレッシブな演奏。
片山から北へ。ソロは短めにまとめてしまう。
リフをそろってホーン隊が吹いてるとき、トシを指差しながら片山に翠川が耳打ち。
そしたらいきなりハウって、そろって耳を押さえ苦笑した。
何度かテーマを繰り返し、トシのソロへ。
これまでソロは特に取らず、着実なフィルで曲をしっかり支えてきた。
トシは満面の笑みを浮かべながら、ここぞとばかりに賑やかにドラムを叩いた。
ところがあっけなくソロが終わりそうになる。
すかさず早川が、ディストーションを効かせた低音を唸らせ、トシを後押し。
そのままベースとドラムのデュオで、ガシガシ盛り上がった。
一気にエンディングへ。短いながら賑やかで楽しかった。
後半もおよそ一時間弱ってとこか。
いろんなアイディアが飛び交う上、それぞれのソロもたっぷり聴かせる。
ライブごとに毎回アレンジを変え、充実した演奏を聞かせるグループだが、今日はひときわ素晴らしかった。
余韻が耳から消えちゃわないように。すばやくぼくは駅まで歩いていった。
*「コル・レーニョ」奏法は、Fullereneさんにご教示頂きました。ありがとうございます。