LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/5/10   有楽町 よみうりホール

 〜Tatsuro Yamashita Official Fan Club 10th Anniversary Meeting 2003〜
出演:山下達郎
 (山下達郎:vo,g,p,per、難波弘之:key、伊藤広規:b)


 一ベルが鳴った。
 それだけで観客から盛大な拍手。めずらしいな。
 BGMはドゥ・ワップ。時刻どおりに鳴る二ベル。

 客電が落ちた。
 楽器が用意されたステージ前へ、するするとスクリーンが降りてきた。

 黒バックに映し出された文字。
「1975.7.13 TVK ヤングインパルス」
 
 スタジオで長髪の青年が、うつむいてギターをかき鳴らす。
 そして歌いはじめた。
 "今日はなんだか"

 ・・・シュガー・ベイブだ。
 まじで身体が震えました。存在したんだ、こんな映像・・・。

 あんまりこのHPで言ってませんが、ぼくは山下達郎の大ファンです。
 ファンクラブへも設立当初に、いきなり入ったクチ。
 だけどこれまで、ファンクラブ主宰で達郎と交流イベントって無かった。ライブのチケット優待くらいか。

 ところが。
『10周年の記念イベントを検討中。アンケートに答えてくれ。何も決まってないから、他言無用だよ』と封筒来たのが、去年の秋ぐらい。
 それが実った。
 
 今夜はファンクラブ10周年を記念イベント。
 70年代っぽいいいかたをすれば、「ファンクラブのつどい」ってやつ。

 「ビンゴとか福袋も考えたけど、4時間コースになっちゃうから諦めた」
 とMCで達郎が話す。
 「だけど福袋は絶対やりたいな」と最後までこだわってた。

 ちなみに今日は入場者全員に袋が配られる。中身はCDが一枚。
 2002年に行われたツアーから、「いえなかった言葉を」「2000トンの雨」「おやすみ」を収録してる。日付は不明。
 全部弾き語りで演奏された曲ばかり。
 これが福袋じゃないなら、いったいどのレベルを考えてるんだ?すごっ。

 全国に約1万人いる会員の、大半が社会人だそう。
 それを考慮し土日に開催が固められた。全国で12回実施され、楽日が5/17。
 今夜の客層は年配から若い人までばらばらだった。もちろん満員。

 達郎の意向、「なるべく狭いところでやりたい」を受けてホールが選ばれた。
 最少は広島のクアトロ(300人キャパだとか)。
 東京は700人キャパのアートスフィアで3days、1000人キャパなよみうりホールで2days。

 東京だけで会員が五千人になるため、いちばん会場選びが難しかったという。
 「ほんとは東京もクアトロあたりでやりたい。だけどキャパが200人。同程度の動員なら、土日だけで25回公演・・・半年かかっちゃう。むりだよな」

 ちなみによみうりホールでの演奏は2回目だそう。
 30年前に大貫妙子が、ファッションショーのイベントのBGMを担当した。
 そのときバックで、一緒にギターを弾いて以来とか。
 「あとはマンハッタンズやニーナ・シモンのライブで来たっけか」と記憶をたどっていた。
 「よみうりホールは歴史あるホールで、楽屋が「松竹梅」。ぼくが「松」。「スタッフが「竹」。難波と広規が「梅」だよ」と笑う。

 話を飛ばしすぎた。イベントの模様に戻ろう。
 
 今夜は前半が映像、後半がライブという構成。
 冒頭に流れたTVKの映像は、ライブ演奏で唯一のTV出演だそう。
 シュガー・ベイブとしてのみならず、達郎自身としても。

 生演奏で3曲(対バンが愛奴)やったが、映像残ってるのはこの1曲のみ。
 「TVKから『当時の映像を発見しました。差し上げますのでゲスト出演しません?』と言われ、真剣に悩んだ(笑)」
 ところが中のテープは違う内容。
 その後90年代前半(だったかな?)に、偶然この1曲だけが見つかったそう。

 タイムコードが左上で回転し続ける、流出映像っぽい絵柄。
 画面のピントはちょっと甘いか。
 だが、動くシュガー・ベイブをまさか見られるなんて。信じられなかった。
 大貫妙子も、チラッと一瞬映った。

 カメラはほとんど達郎を映すが、ドラムのフィルなどで画面が切り替わる。
 ユカリが透明シェルのタイコを叩くシーンでは、スティックを落っことし、すかさず別のスティックを引き出す姿も。
 シンバルをすごく傾けたセッティングが印象的だった。

 達郎はほとんどカメラ目線なし。俯いてマイクへ。
 だが伸びやかな声で淡々と歌い上げる。
 乾いたギターカッティングを続けるスタイルは現在まで健在だ。
 ギター・ソロでふっと後ろへ下がる。
 全部で2分くらいかな。いいものを見られたな〜。

 続いて表示されたテロップは、「86.7.31 中野サンプラザ」。
 この調子で約1時間、時代を超えた数公演のライブが混載で映写された。
 
 アップで見る達郎のライブは、やはり格別。
 たとえライブに行ったって、不可能なアングルだもの。
 カメラは数台使い分けていた。変な言い方だが「作品として成立する」レベル。
 据付カメラ1台で記録用に取った映像じゃない。

 カメラは4〜5台かな。バックのミュージシャンがアップで映されるシーンも挿入される。
 もっとも映るのはほとんど達郎ばかり。もうちょいミュージシャンも映して欲しいぞ。
 達郎の髪の毛が左わけなせいか、右からのショット(つまり顔がよく映るショット)中心だった。

 ほんとうに達郎が自信ありげに歌う姿は、92年「アルチザン」ツアーの映像か。
 86年のライブでは、まだ視線は俯きぎみ。
 顔にかぶさる長髪を振り飛ばしもせず、鋭くカッティングを繰り返す。

 「ぼくのギターもアンサンブルの一員なんで、髪の毛なんか気にしてられなかったんです。たとえば"高気圧ガール"の映像。あれなんてネクタイひっくり返ってたでしょ?」
 一回映写されただけで、そこまで覚えてませんがな。
 達郎がMCでいろいろ理由を言ってたが、要するに今日映された画像は市販するつもりはさらさら無いようだ。

 動く達郎を見る機会はまるでない。
 けれど達郎はライブが見ものだ。先日のツアーでも実感した。ぜひリリースを・・・。
 無造作なしぐさなのにハイトーンが平然と出るさまは、映像でこそ凄さがわかる。 

 86年のライブでは音がダンゴ気味か。
 それ以降の映像はクリアな分離だったと思う。
 いままで「JOY」ほかで発表されたライブ音源が過半数を占めた。

 たとえば"アトムの子"は92/3/15の中野サンプラザより。
 「アルチザン」ツアーのオープニングに演奏された曲だ。CDではシングルのカップリングで発表済み。
 ヘッドホンかぶった青山純のアップでドラムのイントロ。達郎のカウントから展開する演奏がかっこいい。
 
 今まで発表されてないライブテイク、いわゆる『Joyじゃないやつ』は2曲だけ(もしかしたら3曲かも)だった。

 "高気圧ガール"のエンディングはストップモーション。
 94/5/2の中野サンプラザ、"Sings Sugar Babe"ライブに切り替わる。
 こっちはアンコール。一番最後の場面だ。

 「ぼくと同世代の人に捧げます。かっこよく歳を取っていきましょう!」
 達郎の力強い宣言のあと、アコギの弾き語りでしみじみと歌われた、"My Sugar Babe"。
 いいなー。しんみりじっくり聴いていた。

 "My Sugar Babe"が終わったところで、スクリーンはスルスル上がる。
 小さな灯りに誘導され、ステージに人が登場した。上がる歓声。
 達郎のライブ恒例、観客はだれも立ち上がらない。だが拍手は熱烈だ。

 「前半は映像を見て頂きました。後半はライブです。ご安心を。後半のほうが、長いです(笑)」
 機関車のSE。難波弘之が華麗にピアノを奏で、"ターナーの機関車"が始まった。
 中盤ではピアノのソロも。優雅できれいだった。

 伊藤広規は反対側に座って、エレキベースを弾く。
 達郎は中央に腰掛けた。
 アコギでリズムギターを担当しつつ歌う。
 ステージは特に舞台セット無し。達郎が座る横に立てかけられたレイン・スティックが唯一の飾りっけに見えた。

 ファンクラブ向で、すごくリラックスした雰囲気。
 ずっと達郎は座ったまま、ほぼ一曲ごとにMCをたっぷり入れる。
 MCの段取りはあるにせよ、しょっちゅう喋りは脱線した。
 「・・・いいやな、今日は6時開演で時間あるし」
 と、しょっちゅう言ってたっけ。

 前半は「20年ぶりにやる曲」を固めうち。
 "ひととき"や"モーニング・シャイン"はライブで初めて聴く。たぶん。

 達郎のライブは、終演後にロビーに曲順が貼り出される。が、今日に限ってなし。なんでだろう。
 この選曲は12公演通して、変わってないはずだが・・・。

 念のためにメモとってて良かった。
 イントロ聴いただけじゃわからない曲もあるのが、逆に嬉しい。
 "モーニング・シャイン"や"Only with you"は、ストローク中心のアレンジに変えられ、歌が始まるまで分からなかった。

 曲によってはドンカマが入る。"ひととき"や"What`s going on"など。
 流しっぱなしでなく、ブレイクでふっと音が止まる。どうやってたんだろう。テープじゃないのかな。
 
 "ターナーの機関車"のあと。"ひととき"をはさみ"Only with you"にて。
 エンディングで達郎のロングトーンが静かに伸びた。
 これ、さりげないけど凄い。

 「アコースティック・トリオだと、普通はフォークになっちゃいます。が、我々がやるとロックンロールで鳴りますよ」 
 前置きのあと"モーニング・シャイン"。
 あえてドンカマを使わないとこがこだわってるな。
 連呼するサビがストイックに響いた。

 ここまで歌ったところで、達郎がハンドマイクで前へ。
 「どんな人がこられてるか見たかったんですよ。ということで、お願いします」
 合図すると客電がつく。しみじみ客席を眺めていた。
 派手にリアクションする観客もいて、「東京の客とは思えない」と大笑い。
 もっともこの日、鹿児島や沖縄あたりから来た人もいて、驚いてた。
 
 「次はアカペラでも一曲。これはイントロがなくて、冒頭のブレスノイズが合図。居合抜きみたいなタイミングです」
 ステージ横のスピーカーに耳を寄せる。
 
 絶対音感無いから、と始まる前にグロッケンで頭の音を確認。
 しかしMC続けてるうち「音がわかんなくなった」と椅子へ戻って、再度グロッケンで確認してた。

 すっ。
 スピーカーから出る息を吸い込む音にあわせ、歌い始めたのが"Remember me baby"。
 手拍子がホールに響く。達郎はハンドマイクで中央まで歩きながら歌った。

 自分のキャリアに悲観的な達郎らしく、"Ride on time"や"2000tの雨"が現在でも生きていることにしみじみ感謝する。

「"2000tの雨"は自分のキャリアでどん底の時。
 あれがB面ラストに入ってる「Go Ahead!」は、ノイズ・チェックを吉田保さんと二人きりで聴いた。
 "2000tの雨"のエンディング、エコーが消えたとき。
 『ああ。これでもう、ぼくは自分のアルバムを作らないんだな』と思った」
 
 そんな、さりげない述懐がすごく印象に残った。
 「"2000tの雨"は朝の4時半に歌入れしたので、声がひっくり返ってる。今回、映画『恋愛寫眞』のタイトルバックに使われるにあたり、歌は入れ替えさせて頂いた」
 と、あいかわらずのこだわりっぷりでした。

 「戦争が始まったので急遽レパートリーに。残念ながらこのメッセージは現在でも有効だ」
 歌われたのは、マーヴィン・ゲイのカバー"What`s going on"。
 
 ステージ演出では、この曲がベストだった。
 ボーカルは過剰にならず、淡々と。迫力をじっと溜め、難波のピアノ・ソロへ。
 
 飾りは何もない簡素なステージが、ぱっと赤く染まった。難波へピンスポットが白くあたる。
 赤い闇の中、達郎が左足で激しくリズムを取った。
 熱っぽくかき鳴らす、アコギのストローク。

 この鮮烈な風景が、数度繰り返された。
 演奏も格別。ピアノも素晴らしい。伊藤のベースはあまりひねらず、シンプルだった。

 続いて"蒼氓"へ。ギターは1曲終わるたびにスタッフがかけより、交換される。
 達郎はギターだけでなく、タンバリンとシェイカーでリズムを取った。
 タンバリンは左手で膝に打ちつけ、シェイカーはハイハットを叩くポーズで右手を軽快にふる。
 
 フレーズの切れ目、リバーブに包まれた達郎の声が場内にふわっと響いた。
 達郎のアコギ・ソロも。
 訥々とフレーズを重ねる。高音部へ逆手で弦を押さえ、ひゅるっと上へ指を滑らせた。
 そんなさりげないグリサンドが効果的だった。

 エンディングは特に引っ張らず短め。もっとも観客も自然発生で歌わない。
 もし歌ってたらここで、がっと盛り上がったのかな。

 「このメンバーではいつもやるカバーです」
 "SINCE I FEEL FOR YOU”だ。
 ステージ後ろに、街の夜景が影絵で映し出される。

 ここでも達郎はギターでソロ。ブルージーに奏でた。
 今度は短めで、さらっと難波のピアノへつないだ。
 
 MCはほんとにたっぷりだった。
 ニューアルバムは今年の秋頃という。「遅れたら・・・」というと、観客から笑いが漏れる。
 かまわず大真面目で、達郎は言う。
 「録音は順調です。もし出なかったら政治的な問題。今はほんとにいろいろあって・・・」
 と口を濁す。営業的なリリース・タイミングの意味かな?

 アコースティック・ライブはまだまだ続く。
 「吉永小百合が出るCFを見て、やった!と喜んだのに。結局、正月に一回流れただけ」
 ぼやいて演奏したのは"群青の炎"。 
 グロッケンやシェイカーを歌いながら演奏した。

 続く"さよなら夏の日"でも似たようなパターンで、タンバリンやグロッケンを。
 歌がいくぶん固かったのは気のせいか。
 エンディングで、タンバリンを使ってウインドチャイムを静かに鳴らした。

 次のMCがなんというか・・・。フォークのネタを一くさり。
 中川律の歌を一節弾いたあと、武蔵野タンポポ団の歌はほぼ1コーラス歌ってた。
 そっとベースが伴奏までつける。「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」って曲らしい。
 「こういうネタならいくらでもできるぞっ」と達郎が嘯いた。

 クライマックスはこの曲。
 アコギで「カッカ、カッカ」と引っ掻くイントロにびっくり。アコースティック・トリオだぜ。

 歌い始めると、歓声があがった。
 伸びやかに達郎の声が広がる。
 この"Ride on time"が、歌ではベストか。

 さすがにツアーとは違い、「ステージ最後方でノーマイク歌唱」のパフォーマンスはやらない。
 しかし生き生きした歌はまったく衰えを知らない。とびっきりだった。

 難波と伊藤はステージを去る。ピアノの前に置かれたキーボードもハケた。

 「アンコールはやりません。が、最後に"2000tの雨"を。
 ラジオでもイベントが全部終わるまでかけません。
 それと。20年間、"今日は観客で〇〇さんがきています"は一度もやりませんでした。でも、今日は特別です・・・」

 二階席の先頭席へスポットが当たった。
「『恋愛寫眞』の堤幸彦監督です。ありがとうございます」
 ライトが当たって監督はちょっと戸惑い顔。観客へ会釈した。拍手に包まれる。

 "2000tの雨"のオケが響いた。
 達郎が立ち上がり、ハンドマイクで歌いだす。
 中盤のMCでこの曲のエピソードを聞いたあとだけに、ひときわ胸が熱くなって困った。

 フェイドアウトにあわせ、声を落とす。
 後ろへすり足で下がり、ピアノの前へ。
 腰掛けてピアノの弾き語りで"2000tの雨"を歌い継いだ。
 そのまま"YOUR EYES"を朗々と。発音がえらくラフだったのは気のせいか。

 すごく暖かい雰囲気のライブだった。
 客出しは恒例"That`s my Desire"。
 達郎はすぐに立ち去らず、しばし立って客席を眺めていた。

 終わりは8時50分。ライブだけで2時間やってた格好になる。
 ビデオも入れれば全21曲。
 しめて3時間に及ぼうという長丁場のイベントだ。

 ファンクラブの運営同様、盛りだくさんで丁寧な構成だった。
 ライブの時間だって普通のミュージシャンのコンサートと、ほとんど変わらないじゃない。
 達郎ライブは3時間以上が常だから、それにくらべりゃ「コンパクト」なのかもしれない。判断基準が違うな。

 「次はもっと狭いところでやりたい」と、達郎はわがままなことを強調してた。
 客席と密な関係を掴む場所と、彼の動員力とどう折り合いつけるか。
 それが今後の課題だろう。試行錯誤として、こういうイベントは何回やってくれてもいいぞっ。

<セットリスト>

 "映像コーナー"
1.今日はなんだか (75/7/13 TVK)
2.Plastic Love (86/7/31 中野サンプラザ)
3.FUTARI (86/10/9 郡山市民文化センター)("Intro"はカット)
4.こぬか雨 (94/5/2 中野サンプラザ)
5.アトムの子 (92/3/15 中野サンプラザ)
6.LALA MEANS I LOVE YOU (92/3/15? 中野サンプラザ?)
  *クレジット出ず。「JOY」は89/4/6のテイク。これも『JOYじゃないやつ』かな?)
7.高気圧ガール (86/10/9 郡山市民文化センター)*『JOYじゃないやつ』
8.MY SUGAR BABE (94/5/2 中野サンプラザ)*『JOYじゃないやつ』

 "アコースティック・ライブ・コーナー"
1.ターナーの汽灌車
2.ひととき
3.ONLY WITH YOU
4.モーニングシャイン
5.REMEMBER ME BABY
6.WHAT'S GOING ON
7.蒼氓
8.SINCE I FEEL FOR YOU
9.群青の炎
10.さよなら夏の日
11.RIDE ON TIME
12.2000トンの雨
13.YOUR EYES

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