LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/5/3   高円寺 Show boat

出演:灰野敬二ソロ
 (Electronics,g,vo,ブルガリー)


 灰野敬二の生誕記念ライブは、昨年と同じく高円寺のショーボートにて。
 とにかく開演前から明かりが暗い。本も読めない。
 20人くらい入ったかな。定刻を押して8時くらいから始まった。

 開演前に店のスタッフから放送があった。ホールでのコンサートみたいで面白い。
・本日は禁煙であること
・2部構成であること

 休憩あると知って、ほっとしたような残念なような。去年みたいに三時間半ノンストップかと思ってた。
 開演前に灰野側のスタッフがステージ横のお香へ火を灯す。

 ギターのアンプを4台、舞台上へぐるりと並べた。
 中央スペースはぽっかり空け、ひろびろした配置。
 ステージ向かって右にテーブルを置き、さまざまな機材が乗っかっている。
 マイクもそのそばへ。

 ステージ前にギターのエフェクターがずらり。中央にマイクスタンド無くて違和感あった。実際には休憩の間に用意されたが。
 ライティングはステージ背後の4つの青いライトのみ。あとは申し訳程度にステージ左側から、白熱灯がさびしげに中央の床を照らす。

 8時を回ろうかというころ、灰野がふらりとステージへ登場。カーテンから漏れる楽屋の明かりを、丁寧にさえぎる。
 いちどは機材へ腰をおろした。
 が、つっと立って楽屋へ戻る。
 再び登場。屈みこむように機材のつまみをいじった。

 今夜は全て即興。あえて構成を書くならこんな感じ。

<セットリスト>
1.Electornics(75分)
 (休憩)
2.エレキギター(60分)
3.ブルガリー(20分)

 ステージ背後の青い光が、ぼんやりと灰野を照らす。
 今夜も当然、黒尽くめのスタイル。サングラスかけて、手元の機材ははたして見えるんだろうか・・・。
 灯りがあまりにも弱く、客席からは灰野の姿すらほとんどわからない。

 なにしろ客席のほうがほんのり明るい。 
 光源は入り口前の、緊急避難口を示す灯りだけなのに。
 ショーボートへ行ったことある人なら、いかに暗いライティングだったか想像できるのでは。

 このライティングは最後まで変わらなかった。灰野の表情がまったく見えない。
 演出なのはわかるが、もうちょっと明るくしてくれても・・・。

 冒頭は倍音をたっぷり含んだ、エレクトロ・ノイズのロングトーンからスタート。
 BGMが消えるのをまたず、すぐに音がかぶさった。
 音量はさほど大きくない。微妙に表情を変化させつつ、15分くらい淡々と同じ音が持続する。

 気持ちよくてうとうとしかけた頃。
 唐突に一打、激しくサンプリング・ドラムが提示された。
 
 じわじわと単音が大きくなってゆく。
 一打、・・・また一打。
 次第にリズムが激しくなる。手元のパッドで操作してるようだが、暗くてなにをやってるか、よくわからず。

 声も挿入。高音を静かに伸ばす。
 パッドのリズムは時にループされ、12/4くらいの長いパターンで脈動する。
 機械的でなく、祭囃子のようなビートだ。ある種の祝祭空間が産まれた。

 響きがむちゃくちゃ気持ちいい。
 持続する低音が足元にたまり、半身浴のように優しく足を撫でる。
 これは初めての体験だった。轟音ならではだろう。

 えんえんここの音像を提示したのち、座る位置を45度ずらす。
 テーブルの上に載せた、テルミンみたいなエフェクトを操作し始めた。
 仕組みはよくわからない。口を開いた通風孔っぽい場所の上部に、手をかざすと音の表情が変わるようだ。
 今年の頭にNULLと共演で使用してたセットと同じ。

 どこで操作してるのか、たまに根本の音が変化する。
 エフェクターのひとつには、開口部へ紙をかぶせドローンを引き出す。
 紙がずり落ちるたび一枚取り出し、慎重に丁寧にかぶせる位置を決めていた。

 このセットは座ったままプレイ。足でリズムを取っているように見える。
 上半身全部を使って、腕で激しく開口部をさえぎる。
 ノイズが轟音となり、吹き上がった。
 この頃にはすでに店内のボリュームがピークをさし、耳鳴りが始まった。

 ときおりボイスを差し込みつつ、灰野は腕を激しく振りエフェクターと格闘する。
 スクラッチ風の音に変化したときが一番面白かった。
 両手でそれぞれのエフェクターを操る。
 灰野のDJプレイだ。ビートが提示され、鋭いダンサブルな空間が提示された。

 独自の世界を提示する灰野だが、今夜は特別に奔放だった。
 エフェクターに縛られず、望みの響きを引き出す。
 リズムボックスでこういう情念を出すのって灰野くらいでは。

 空気の響きを操り、音とたわむれるよう。
 ただし生真面目に向かい合うがゆえに、聴き手へ心地よさと緊張を味あわせる。
 即興で音が成長するさまを、たっぷり時間をかけて披露した。
 このセットがもっとも今の灰野らしい音だった。

 15分の短い休憩をはさみ、エレキギターを構えた。
 冒頭からトップギア。フルボリュームの轟音が降り注いだ。
 
 後方へ向かって半身に構える。おもむろにアンプへ近づき、フィードバックをも引き出した。
 音はぐしゃぐしゃに、塊となって押し寄せる。
 灰野の左手がネックを動いてすら、音程の差がほとんどわからない。

 これもしばらくたつと気持ちよくなってきた。
 ほぼこのセットは、朗々とロングトーンを響かせる。
 右手は弦をかき鳴らしても、左手の動きはごくゆっくり。
 長い譜割りで、じわりとノイズの絨毯を広げた。

 即興の歌が入る。が、ギターの音がすさまじく、なにを言ってるかさっぱり聴き取れない。 

 中盤、ハイトーンのファルセットで喉を震わせた。
 ループさせ、空気へ漂わせていたと思う。
 が、足元を見てもエフェクターの操作をしてるそぶりはない。
 あれはぼくの幻聴だろうか。
 今夜は耳鳴りと轟音の狭間で音が交錯し、どこまで幻聴でどこまでが実際の音か。きちんと聴けていたか自信ない。

 ギターの雰囲気が変わった。今度はスペイシーに。空気が濃密になる。
 ワンマン・ソロであるがゆえに、時間をたっぷり使って音と対峙した。
 
 ラスト間際、灰野の動きが激しくなった。ステージをすり足で激しく前後する。
 すでにこの時点で耳鳴りがすごく、細かい音の変化まで理解できなかったが・・・。

 ギターソロの次はブルガリーを。
 スタッフが素早く用意した椅子に座って、アラブっぽい音階を爪弾いた。
 か細く歌声を載せた。たぶん即興。

 途切れ途切れに聞き取れる言葉は、イラク戦争への抗議か、それとも子守唄か。
 次第にボリュームがフェイドアウト。
「おやすみ・・・おやすみ・・・おやすみ・・・」

 かすかに繰り返され、音が消える。
「ありがとう」
 一言残し、灰野がステージを去った。

 休憩をわずかはさんだとはいえ、2時間半以上ものボリューム。
 MCはおろか、ノンストップでそれぞれのステージが進行するから、普段より時間の流れが濃密に感じる。
 
 視覚的には単調だが、エフェクターとたわむれる姿がもっとも刺激的だった。
 ギターソロは予定調和と破綻のすれすれを動く。
 もっといろいろな楽器を演奏する灰野も見たい。が、それは両立が難しいか。ある程度の時間をかけてこそ、生まれる音像もある。

 最後に余談です。
 この日は灰野の誕生日なため、スタッフからケーキが準備された。
 フロアにテーブルが用意され、ろうそくをいっぱい立てたケーキが運ばれる。

 そのろうそくを吹き消し、ジュースやケーキを食べながらスタッフと歓談する灰野という、非常に珍しい風景があった。
 観客にもケーキやジュースが振舞われた。

 もっともぼくはこの次のライブへ向かうため、早々に辞去しちゃいました。惜しい。

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