LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/4/30  西荻窪 音や金時

出演:片山+井野+内橋

 (片山広明:ts、井野信義:b、内橋和久:g)


 道路事情のトラブルで、出演者全員が揃ったのは20時ぎりぎりくらい。
 最後に登場した内橋は手早くセッティングをすませ、20時15分ころライブが始まった。観客は最終的に10人くらい。

 基本的に即興のみのライブ。
 片山らしく面白いが、一曲くらい曲をやってほしかった。
 後述するが、聴いてて片山の特徴が出てるライブだと感じた。こういうセッションを聴くのはひさしぶりなので、なおさらそう感じたか。
 
 ライブの開始は片山のサックスから。
 ふっと一瞬、視線を宙に投げる。
 おもむろにマウスピースを加え、キーをどれも押さえず静かにロングトーン。
 内橋が、井野がそっと長い音符を重ねた。

 せわしなくエフェクターのスイッチを内橋は切り替え、ぱちぱち鳴らす。
 ちょっと弦をいじっては、すかさずテーブルの上に乗せたエフェクターへ。せわしなくボタンがあれこれ押す。
 しばらくすると、ループされた音がかすかに響いた。さらにギターの音がかぶさった。

 内橋はエレキギターのみを使用。基本的に指弾き。
 断片的なメロディを機械で多層化する奏法を多用する。あとはダクソフォンも聴いてみたかった。

 いっぽう井野もウッドベースにアンプを通した。たまにフット・スイッチを切り替え、リバーブなどで加工する。
 冒頭から指弾き、アルコ、スティックとさまざまに使い分けた。

 片山のみがアンプ無し。テナーサックス一本で挑む。
 こじんまりした環境だし、音量に不足はない。
 
 前半セットはうねるように音が展開し、特にリーダーを設定しない。
 互いに聴きつつも、てんでに演奏が膨らむ。
 片山はときおり吹きやめ、楽しそうに音へ耳を傾けた。

 井野と内橋のフレーズ交換から、聴きにまわってた片山が切り込む。
 すっと内橋が引き、音量低くドローン風に。
 いつのまにか加わり、3人の音がからむ。

 三人の息がピタリとあい、まったく同時に音が消えた。
 鈍く片山がテナーをきしませる。

 その間に井野がウッドベースへ駒らしきものをつけ、バチで弦を叩く。
 片山と井野のフリーなデュオ。内橋は弦を交換する。
 
 前半セットで聴き応えあったのは、井野が2本の小さな棒で弦を叩き、ガムラン風高速ビートを提示したところ。
 片山が力強くフレーズを連呼し、ぐいぐい盛り上がった。

 エンディングに向けて、グルーヴが拡がる。
 くるりくるり音の中心が入れ替わって、スルッと終わった。
 前半セットは約30分。気持ちよかったが、ちょっとあっけない。

 後半セットは2曲の即興が提示された。
 まずは内橋のソロから。音量低く音を探る。
 井野は弓からほつれた糸を毟り、その糸でぎしぎし弦をこすった。

 後半セットのほうがメリハリあった。
 唐突に内橋がロック風のリフを弾きだし、片山がすかさず乗る。豪快なブロウをぶちかました。
 井野も鋭い低音を差し込む。

 井野が手刀で鋭く、弦を引っ叩いたのもこのあたりか。
 さりげなく内橋がメロディアスなソロを弾く。
 次第に3人が激しくまくし立て、緊張がよぎった。

 「曲も聴きたいな」と思ったのは、片山が朗々とジャジーなフレーズを吹いたとき。
 即興か、なにかのテーマだろうか。
 太く力強いメロディを、ぜひ展開して欲しかった。
 実際にはまた、混沌へもぐってしまう。

 こういうセッションだと、片山のサックスはすごく振れ幅が大きくなる。
 彼の特徴は、いわゆる「無伴奏ソロ」をまったくやらない点ではないか。
 以前は知らない。だがぼくが聴き始めたここ数年、片山の「無伴奏ソロ」ライブは、寡聞にして知らない。

 引出しが無数にある片山の無伴奏ソロは、すごく面白いはず。
 ところがあくまでセッションにこだわるみたい。しかも常に相手の音を聴いている。
 豪放なブロウのイメージとは裏腹に、音像に合わせ細かくテナーの音を変化させる。

 井野がソロをやるか詳しくない。斉藤徹とベースデュオはあるが・・・。
 だが彼は間違いなく、一人で音世界を作れるだろう。
 内橋はソロライブをよくやってるのは、ご承知のとおり。
 
 しかも井野も内橋も一人で重音を出せるセッティングだ。
 だからこそ片山が主導権取らないと、ピントが拡散してしまう。
 ふたりとも、単独で成立させられる音楽だから。
 もっとも実際には、どちらも我の主張は控えてるようだ。
 自分の音像に沈み込みすぎず、アンサンブルに置ける立ち位置を探りあうがごとく聴こえた。

 単独で成立する個性がぶつかり合うところも、即興の面白みだと思う。
 今夜みたいに、定常リズムが存在しない編成はなおさら。
 明確なビートがないため、アンサンブルから自然発生でグルーヴが生まれる。  
 こういう片山のセッションは、ミュージシャンがどのくらい自己主張するかで演奏の質が大きく変わる。
 遠慮深く引くと片山のテナーはか細くノイジーに軋み、次第に盛り立てるとぐいぐいテナーの音に艶が出るだろう。

 フリーに高まる頂点で片山のロマンティックなソロを聴きたいな、と期待しても肩透かし。
 場の空気に合わせ、するっと引いてしまう。もっと片山に破天荒に吹いて欲しかった。
 ハイトーンでサックスに悲鳴をあげさせるより、ゆったりメロディを吹いてるほうが好きだ。

 むしろリズムありのほうが、シンプルなのかもしれない。
 今夜のセッションでぱっと刺激を受けたのは、井野なり内橋なりがビートを提示したときだった。

 後半1曲目は20分くらいか。次は片山が井野へ合図を送る。
 こういうときにかまわずテナーを吹きだし、音の主導権をとって欲しいと願うのは僕だけか。

 リバーブ効かせて、チューニングをするかのように小さな音で井野が探る。
 しだいに音に力がこもった。

 この曲はエンディングが素晴らしかった。
 井野が背筋を伸ばし、目を閉じてウッドベースをしっかり弾く。 
 そっと単音を内橋がかぶせた。
 二人の音の上で片山の、とびっきりロマンティックなソロ。最高だ。
 
 ひとしきり吹いたあと、片山が身をかがめて左右を眺める。
 内橋も音を止めた。二人の視線は井野へ。

 二人の視線に気付いたか。井野もすうっと音を消した。
 
 後半セットは約45分。もうちょい聴きたかった。
 あんがい見ない顔ぶれのセッション。探りあいぽい部分もあった。
 次のライブは7/23とか。ここでさらに音が深まるかな。

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