LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/4/29  六本木 Pit-inn

出演:東京ザヴィヌルバッハ
 (坪口昌恭:Key,comp,hrn、菊地成孔:as,CD-J)


 彼らのライブを見るのはずいぶんひさしぶり。予想以上にアヴァンギャルドな音だった。
 MCで菊地が「ライブとCDがまったく違うバンド」と笑ってたっけ。

 ステージ向かって左に坪口。すみっこにグランドピアノ、立ち位置の周辺にキーボードやシンセ、カオスパッドをぐるりと並べる。
 もちろんパワーマックも。足元にはホルンが置かれてた。

 菊地のセッティングは机の上に2台のCD−Jとカオスパッドがひとつ。
 横にミキサー(?)を置き、リバーブやパンの調整をリアルタイムでいじってた。
 サックスはアルト一本だけ。

 定刻19時30をまわったころ。
 菊地がふらっとステージに現れ、ヘッドホンでCD−Jをモニターする。しばらくあちこちボタンをいじったあと。
 スイッチを押し、アップテンポのビッグバンド・スイングをでかい音で流した。
 
 ビッグバンドの演奏を変調させ、スクラッチをぐしゃぐしゃ入れる。
 その間に坪口もステージへ登場。しばらくホルンでロングトーンを吹く。
 おもむろに「M」を起動させ、ややっこしいビートが流れた。

 今夜はいわゆる「曲」をどの程度やったか不明。
 テーマを提示するより、菊地がサックスソロを取って一曲を終了させるような、大まかな構成で決めてるのかも。

 菊地がCD−Jのサンプルを買えたタイミングを「1曲」とするならば、前半4曲、後半3曲くらいかな?
 メドレー形式で両セットとも曲間を置かず、立て続けに演奏した。無論MCもなし。

 CD−Jで流すビッグバンド・ジャズはスクラッチだけでなく、ごく一部をサンプリングして呼び出す。
 オーケストラ・ヒット風にパッドを連打した。
 首でリズムを取りつつ、腕を閃かせ操作するしぐさがきまってる。
 サンプリングした一音をCDJのバーでピッチ変更し、フレーズを作る奏法が新鮮だった。

 おもむろに菊地がアルトを構える。今夜はほぼ、椅子に腰掛けたまま吹いた。
 ここでのソロがいきなりかっこいい。リバーブを効かせ、すべらかで硬質な音色を立て続けに叩き込む。
 金属っぽくも艶かしい音色にしびれた。

 坪口は断片的に鍵盤を叩くが、シンセのつまみをいじってるほうが多い。
 前半セットの坪口は混沌に傾いた演奏だった。
 最初の曲で20分くらいやってたろうか。
 坪口がソロ弾くとき、菊地が携帯を取り出してニヤニヤ笑いつつ眺める。あれはなんだったんだろう。
 
 CD−JのサンプルはヒップホップのMCへ切り替わった。 
 「M」が作るビートと、多少ポリリズムになってたかもしれない。
 あちこちでビートが重なってリズムの頭がわかんなくなり、ぼおっと聴いていた。

 坪口がひっきりなしにシンセのつまみをひねる。鍵盤を押さえるほうがたまに。
 どこまでが意識した演奏で、どこからが偶発だろう。
 つまみの操作も音色の制御か、混沌の整理かさっぱり不明だった。
 もうちょいどっしり演奏して欲しかった。2セット目のように。

 いずれにせよミュージシャンの操作と聴こえる音の整合性がとれずとまどった。
 どのつまみをひねって、どう音を変化させたかわからない。悔しいなぁ。

 菊地による小粋なソロをはさみ、こんどはかなりビートが静かに。
 いったんペースダウンして、1stセットでは落ち着いて聴けた。
 坪口の和音がテーマのメロディか。
 CD−Jとカオスパッドに専念した菊地は、中国(?)語の朗読をぐしゃぐしゃに変容させる。

 おもむろに菊地がCDを交換。エレキギターのイントロが流れる。
 ホール&オーツ「プライベート・アイズ」だ。
 菊地はにやりと笑い、坪口も菊地の手元に視線を投げ微笑む。
 いっきなり音像が下世話というか、うさんくさくなった。

 たっぷり1コーラス流したあと、菊地はカオスパッドで操作。オケ・ヒット風にスタート&ストップさせる。
 坪口が再びホルンでソロを取ったのはこの曲かな。ビートと重なり、いまひとつ吹いてるフレーズがつかめない。

 すっと立ち上がりグランドピアノへ向かう坪口。
 ビートが炸裂する中、小さ目の音で鍵盤を押さえた。旋律よりも和音を確認するかのようなソロだった。

 菊地はブルージーなソロで応える。破綻のないきれいな音色で、エレクトロビートが鳴り響くこのサウンドに、ピタリとはまった。
 あらためて菊地のサックスのうまさを実感。

 坪口によるシンセのさりげないソロをはさみ、エンディングへ。
 菊地のカオスパッドは操作が激しくなり、テンションが高まる。
 ラストでアルトサックスを構え、フリーキーに2,3音吹いた。
 しだいに溢れたビートの音数が少なくなる。

 再び「プライベート・アイズ」を高らかに鳴らし、メンバー紹介。
 そのままさっとステージを降りた。前半セットは約1時間。

 休憩時間は短め。また菊地がCD−Jのモニターから始まった。
 こんどはDCPRGの「Catch22」でサンプルした声。「I`m something special」ってやつ。

 断続的にサンプリングを提示するなか、今度は坪口が長めにキーボードでソロを取った。
 後半は比較的ポップな音像で、ぐっと親しみ持てる。

 続いてグランドピアノのソロと、菊地のサックスソロ。ビートは「M」のみ。
 このトリオ状態が素晴らしくかっこよかった。

 明るいフレーズを立て続けに菊地が吹き、坪口はクールに鍵盤へ指を置く。
 クールな音像の中、サックスが柔らかい音で駆け抜けた。
 サックスへエコーをたんまり効かせたのはこのときか。
 残響にフレーズを重ね、一人アンサンブルにした。

 スクラッチするサンプルはジャズボーカルに変更。
 菊地が好き放題にこすり倒す。坪口はホルンのソロからキーボードへ、メロディの主導権を握った。

 2セット目後半では、ほとんどサックスの出番無し。
 菊地は足を組んで座り、ビートを取りながら両手で2台のCD−Jを操る。
 サンプルのビートを変え、途中で止め、音色をひしゃげさせ、スクラッチを挿入する。

 いつしかサンプルはぶっといシンセの単音みたいな音に替わってた。
 パッドを連打、ノイジーに響かせる菊地。

 キーボードのソロがぐいぐい高まる。
 いっぽう菊地は立ち上がって腰に手を当て、ぼおっとCD−Jを見つめる。身体でビートを取りながら。

 おもむろに坪口へ視線を投げ、指で首を切るサイン。
 急速に音が収斂し、静寂へ。
 菊地が「うひゃひゃっ」と笑う声が、最後の音だった。
 後半もMCなしのメドレー、ほぼ1時間くらい。

 えらくそっけないステージだ・・・と思ってたら。アンコールで登場したとたん、いきなりイメージ変わった。
 MCで15分くらい、ずっと喋ってるんだもん。本編の緊張はこのMCですっと和らいだ。
 
 別に今夜はレコ発じゃないそう。
「『ヴォーグ・アフリカ』から一曲もやらないし。あ、一曲やったか。でも面影ないほどぐしゃぐしゃだな」と言う。
("Waganga DNB"のことかな。2セット目でテーマのフレーズが登場したような気が・・・)

 MCネタは「モー娘でだれが好きか」から始まって、野球の話題。菊地は野球をほとんど知らないらしく、坪口の冗談へまともに反応してた。
 毒は控えめ、ほのぼのとしたおしゃべりだった。

 あとは告知をいろいろと。
 「DCPRGの2nd録音はパリが中止になった」と坪口が説明すると、「何でばらすんだよ〜」と菊地が苦笑する。
 カヒミ・カリィの参加もほぼ決定してたがぽしゃり、西麻布での録音になったそう。

 DCPRGとしてフジロックの参戦も発表したが、客席が静かに受け止めたから、
「反応違うな〜。若い客層だと『イエ〜!』って盛り上がるのに。遠いし、わざわざ行かないか」と、菊地が大笑いしてた。

 ラストの曲はたぶん"Gondwana Line"。
 サンプリングはクラシックのオーケストラとナム・ジュン・パイクを重ねる。
 オーケストラのフレーズを長めにサンプリングし、軽やかな音像を作った。

 菊地はサックスを掴み、軽快に旋律を次々吹く。
 頭に手を置いてテーマに戻り、キーボードとユニゾン。

 次はキーボードのビート中心なソロへ。
 菊地が入るタイミングを伺い、サックスを構えたままリズムを取る。
 ところがそのまま坪口は演奏をまとめてしまった。
 あっさりしたエンディングに、入りそこねた菊地はサックスを握って苦笑する。
 
 アンコールは15分くらいかな。最後にMCをたんまり持ってきたこともあり、2時間半とたっぷりしたステージだった。

 ステージ全般を通していえるが、菊地はほとんどサックスを吹かない。
 ほぼ8割はCD−Jの操作に専念してた。

 一見ダンサブルだが、ビートはかなり複雑。色んなビートが飛び交うさまは刺激的で、CDよりも疾走感あった。
 即興性が強いので、仮にCDでライブを聴いても面白さが伝わるかわからない。
 菊地のCD−Jを操るさま、坪口がせわしなくつまみをいじる風景。
 ライブをその場で体験することで音楽が成立して聴こえた。

 いずれにせよCDだけで、このバンドのイメージを固定しちゃまずいみたい。

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