LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
03/3/21 国立 No Trunks
出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、片山広明:ts、早川岳晴:b、石塚俊明:per)
一ヶ月に2回も緑化が聴けるなんて。素直に嬉しい。
No Trunksはジャズ喫茶。初めて行ったが、静かでいい雰囲気な縦長の店。
店内では早川がちょうど、サウンドチェック中だった。
難点はエアコンの音がやかましいこと。
緑化は轟音一辺倒でなくダイナミクスの広い演奏なため、ppの時はノイズが気になった。
ライブは20時を軽く回ったころ。メンバーは入り口付近のスペースに陣取る。
今夜は向かって左に翠川、右側に片山。いつもと逆配置だ。
些細なことだが、新鮮だった。
ちなみに早川は先日の音やと同じ、スタンド付五弦スタンディング・ベースをメインで使用。
後半の数曲で普通のエレキベースを弾いた。
トシは今夜もパーカッションに専念。
ドラムセットを持ち込まず、ちいさなジャンベ風の太鼓をメインにタンバリンや小物を叩いた。
(セットリスト)*
1.Seul-b
2.Uzpe
3.A-hem
(休憩)
4.Cris
5.Full-Full
6.West Gate
(アンコール)
7.Tao
*Fullereneさんにご教示頂きました。ありがとうございます。
曲名を呟き、翠川が無造作にチェロを弾いた。
すかさず片山があわせる。
ひとしきりフリーのあと、浮かぶテーマのメロディ。ほんのり掠れるチェロの音色は、次第に膨らみを増す。
早川も弓を使用し、低音がふくよかに響いた。
この曲はなんとなくポリリズミックに聴こえた。
あえてリズムの中心をおかず、てんでに演奏を絡み合わせる。
トシが冷静なビートを提示し自由にほかの3人が重ねたのは、この曲だったはず。
始動は静かに。次第にあがるテンション。
さらに中盤で片山が、びしりとジャジーなソロをきめた。
"Uzpe"は早川が弓を置き、スラップ気味にはじく。
チェロの胴をこする奏法を翠川が多用し、吹きだす片山。
キコキコ鳴る音はサウンドへ見事に溶け込み楽しかった。
タイコとチェロがデュオの時、片山がくるりと振り向きベースへアイコンタクト。
すかさず低音でぶおんっと、応えた瞬間が印象に残ってる。
前半セットでは、(3)をのめりこんで聴いていた。
「"Izmir"やる?いや、4ビートにしようか」と翠川が提案。
カウントでスタート・・・しようとしたら、「テンポ遅いよ」と片山が止める。
若干早めのテンポを指定しなおし、曲が始まった。
肩から力を抜いた、ルーズなノリがたまらなくかっこいい。
ここではきっちりソロ回しするアレンジ。
リズムキープは早川のベース。トシは軽やかにビートを足す。
まずは片山のテナーソロ。
とびっきりのメロディが太く、たんまりと溢れた。
すうっとソロが翠川へ切り替わる。
目を閉じ、軽く眉間にしわを寄せて弾く翠川。
ソロを片山はにこにこしながら聴く。途中で手拍子を入れた。
続いて早川のソロへ。素早いフレーズがどしどし湧きだす。
チェロがピチカートで、そっと低音を補強した。
前半セットは40分くらい。
その合間に観客も増え、20人強入ったのかな。店内はほぼ満席だ。
後半は"Cris"から。
この曲は名トロンボニスト、故・板谷博の作曲だそう。
板谷は過去に緑化の一員でもあり、その時からこの曲は演奏されている。
フリーなイントロからテーマへ。波がつぎつぎ漂うように、メロディが沸き立つさまがきれい。
後半2曲で、早川はエレキベースに持ちかえた。
中盤でタイトにフレーズを刻む。後半は早川がクールに弾いてるように見えた。
今夜のクライマックスが"Full-Full"。凄まじい充実っぷりの名演。
最初はチェロのインプロだったか。
トシが壁を叩いたり、板張り部分へスティックをあててカラカラ鳴らしたり。コミカルな合いの手を入れた。
片山は足踏みでリズムを増やす。
テーマのテンポはいきなり速め。ぐいぐい疾走する。
早川も大活躍。アタックをミュート、すぐさまボリュームつまみを捻り、響きだけ鈍く広げる奏法をどしどし取り入れる。
三・三・七拍子風リズムでチェロをかきむしったのも、たしかこの曲。
激しく弾くあまり、弓から毛がほつれた。
メロディとノイジーな奏法の両方が、ぴたりと音像にはまる。
トシは激しくシンバルを床に叩きつける。片山が足踏みしながらテナーを吹き鳴らした。
ラストがユニーク。
テーマのメロディを、激しく片山が繰り返し翠川をあおる。
ひとしきり盛り上がったあと、すっと音がやみチェロのソロへ。
翠川は弓からほつれた糸をつまみ、その一本だけで弦を弾く。
弦が切れた瞬間がエンディング。
ぷわぁん。弦が一瞬だけ共鳴し、微妙な和音が響いた。
30分近く演奏してた。夢中で聴いてたら、あっというまに時間が・・・。
奏者も手ごたえあったらしく「5曲やったみたい」と片山が呟く。
本編最後は"West Gate"。
ロマンティックにとどまらず、ひとつひねるとこが緑化らしい。
チェロとテナーによる朗々とした旋律の美しいこと。
片山のテナーが力強く歌った。
ソロが翠川のとき、スタンド・ベースに切り替えた早川が、つまみをいじりつつロングトーン。
片山もそっと一音を伸ばしつづけた。
このときばかりはエアコンの風切り音も、ドローン・ノイズとして音像へ溶け込んだ。
エンディングは再びしっとりと。
だが、感傷を断ち切るかのごとく、トシが激しくシンバルを叩きつける。
幾度も、幾度も。
静かな中へ異物をほおりこむ緊張。
いつしかシンバルの音が小さくなり、全体もフェイドアウトする。
大きな拍手が店内に響いた。
メンバー紹介しても拍手はやまない。
二言三言、翠川と片山が相談して、アンコールへ。緑化としては珍しい。
「短めにね」と翠川が微笑み、アグレッシブな演奏がスタート。
早川はまたエレキベースに持ち替えた。
ラフにぐいぐい押し、トシが楽しそうにタンバリンを連打する。
ひとしきり熱っぽく弾き倒しエンディングへ。
後半は約1時間ってとこか。
今夜は生き生きした名演ばかり。むちゃむちゃ楽しめた。
毎回まったく違う演奏で、豊富なアイディアの応酬が素晴らしい。底知れぬ実力が怖いほど。