LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/3/16  渋谷 LA-MAMA

出演;John Zorn's Cobra 賃貸人格部隊

出演:赤刎泰子(東京音図)/朗読、今井尋也(メガロシアター)/能、尾引浩志(倍音S)/ホーメイ、
    キャプテん・パあニャ
(ファンタスティック道場/箱吉美術館/パニャグルミン)/ポエトリィ・ファイティング、
    佐藤直樹
(森羅万象)/Vo.、スッパマイクロパンチョップ(childisc)/ハーモニー、発音、
    高橋秀樹
(まほまほファミリー)/辻説法、ドイウロコ キリン(規格外)/Vo.、中村華代/ヴォイス、
    小粥よう子/にぎやかし、みえぴ〜
(6中club)/Vo.、御手洗花女(母檸檬)/Vo,朗読、
    宮崎陽介
(コンテ・ポンテ・ラボラトリー)/いやらしい声、茂木淳一(千葉レーダ)/Vo.,司会、森恭子(音楽工房かぴーれ)/声楽
    賃貸人格/プロンプター)


 コブラの難しさ、怖さがありありと出たライブだった。

 1984年にジョン・ゾーンが考案したゲーム、「コブラ」はミュージシャンの実力しだいで面白くもつまらなくもなる。
 コブラに必要な要素は、こんな感じだと思う。

・いかにルールを理解してるか・・・・音楽の冗長さを防ぐ。
・いかにサインを使いこなすか・・・・限定された意思疎通手段で音楽を作る。
・いかに音楽の引出しが多いか・・・・音楽に多様性を産む。
・いかに即興性があるか・・・・・・・安易なお笑いへ逃げない。
・いかに編成を工夫するか・・・・・・音像に新奇さを出す。
・いかに客観的に音を聴くか・・・・・自己満足にならない。

 つまり。システムの複雑さに振り回された本人が、自分のパフォーマンスへ酔ってしまうと、聴いてるほうはつまらないよってこと。
 そのうえよっぽど構成力がないと、だらだらと上滑りしてつまらない。

 さらにプロンプターの実力も必要だ。幸い日本には、巻上公一という名プロンプターがいる。彼のシャープなプロンプタぶりは、何度聴いても痛快だ。
 だけど今夜のコブラは、あらゆる意味で普段と違った。

・プロンプターを巻上公一がつとめない。
・編成は全員、肉声だけ。楽器は何も使わない。
・比較的若手中心な編成で、コブラに慣れたミュージシャンを加えない。

 正直これらの挑戦が、成功したとは言いがたい。
 退屈な瞬間が幾度もあった。 
 もっともその実験性は、単純に評価する。

 前置きが長いですね。とっとと感想を進めましょう。

 まず、今夜は巻上公一がまったくノータッチなわけじゃない。
 リハでコブラの仕込みを手伝い、当日の前説も行った。
 この日は客入れの時にフロアをうろつき、「こっちにx人座れるよ」と、場内整理もやっていた。

 そう。今夜のコブラは比較的空くかなと思ったのに。
 大雨のなか並ぶ人こそ少ないものの、開場後に見る見る増えて最終的に超満員。なんでだ。

 ぼくは今夜のメンバーって、ほとんど知らなかった。ドイウロコの企画するライブへ一度行ったくらい。
 後に知ったが、高橋秀樹は吉田達也のズビズバのメンバー。この人の声はCDで聞いてたな。

 ステージにマイクが6本くらい。後は飾りっけなく、裸のままだ。
 奥にオブジェがひとつ。レジデンツの目玉みたいな人型へ、ピンスポットが当たってた。

 しばらくするとオブジェがむくっと動き、人間入りとわかる。
 たまにもぞもぞしては、変化をつけてた。ちなみに中身はドイウロコ。

 開演したのは20時を軽く回ったころ。
 前説は巻上が行い、賃貸人格は黙りこくってプロンプタのスペースに立った。 賃貸人格は20代中ごろくらいの女性。活動内容はパフォーマー・・・かな?
 HPを見たが、いまいちわからなかった。

 とにかく各人の服装が派手だった。ドイウロコは目玉のかぶりものを脱ぎ、キリンのかぶり物へ。
 大正時代風の姿をした女性や、ナース姿の男。半裸で筋肉ムキムキな男や、オールバックで派手なスーツ姿の男、その他モロモロ。
 
 コブラの進行も異例だった。普段は偶発的なゲーム進行なのに、今夜は構成を初めから決めてたみたい。
 冒頭と最後が全員によるコブラ、あとは7〜8人のみが舞台に残る。

 前半は演劇的、後半は音楽的と分けていた。
 どっちかといえば前半のほうがおもしろかった。

 全員一度舞台に載り、めまぐるしく変わる音像こそコブラの醍醐味だ。
 その点で少人数コブラは不満。
 プロンプタが自然体すぎ、人数を減らしたほうが逆にメリハリついたのも事実だが。
 しかし転換の際にいちいち全員が舞台から降りてしまい、空白を作る進行はいただけない。

 冒頭でいきなり主導権をさらったのが小粥よう子。たしか御手洗花女に朗読させ、セクシーな声を聴かせた。
 ゲリラで半裸のキャプテん・パあニャ(たぶん。だれが何をやったか、いまいち覚えてません)が、野太く茶々を入れると、小粥が一転して怒声で応える。

 瞬間的に表情をがらりと変える、小粥がの役者ぶりに驚いた。
 (もっともこれはあたりまえ。彼女は初代キャプテン翼の声優などをつとめた、れっきとしたプロでした)

 派手な格好の中で、普段着っぽいスタイルな小粥は逆に目立ち、最初は彼女中心に眺める。
 コブラの毒にやられ、妙に緊張して見えたメンバーが多いなか。 
 へんに気取らず、他の人のこっけいなしぐさに吹きだす自然体も親しみやすい。

 そしてしょっぱなのゲームから、いきなり混乱が生まれた。
 途中でプロンプタ自身がゲリラとなり、ステージを降りるシーンも。
 それはそれで面白い。
 とはいえメンバーがいきなり日本語を喋りだし、説明っぽくなるのはコブラらしからぬ瞬間だった。
 いきなり名のってしつこく自己主張した茂木淳一にあきれる。
 いっそ日本語禁止にしたらよかったのに。
 ステージなんだから、マイムって手もあるだろ。
 
 続いて女性メンバーのみのコブラ。
 ナースのコスプレした男(スッパマイクロパンチョップかな?)が、平然とステージへ上がった。
 賃貸人格が何か言いかけたのを、ひと睨みで黙らせ爆笑を呼ぶ。

 このセットが、今夜一番まとまって面白かった。
 さながらプロンプタが演出家。
 各人のサインを切り分け、「女だけコブラのはずが、男がひとり。なぜだ?」ってつっこむ、コミカルな寸劇を見事にまとめた。

 本セットで笑い路線に走ったせいか、あともウケ狙いのシーンが多い。
 続くは男のみのセット。
 ステージを降りようとしたナースのコスプレ男の腕を、がっしと賃貸人格が掴み「おまえは残れ!」ってしぐさにふきだした。
 
 前半はこの3セットで終了。大体1時間くらい。
 爆笑が客席に渦巻くセットだった。緊張感に欠けるが、こういうのもありか。

 プロンプタよりも、ゲリラが乱立するシーンが多い。
 しかしこのゲリラが、混沌さに拍車をかける。
 プロンプタの仕切りは冷静すぎるくらい。でも、ときおりギャグに肩を震わせてたっけ。

 しかし冗長なシーンでカットかけないのはなぁ。
 サインが見えてないのか?と思える瞬間もあった。
 あまり個性が見えないプロンプタだった。
 
 後半は音楽中心を目差したらしいが、ちとパワー不足。
 ひたすら奇声が飛び交い、退屈なシーンが多い。

 ゲリラが指揮者となり、メンバーへ片端からアカペラのパターンを指定。
 おもむろに中央へ登場してわめきたてる、って音像を多用する。
 本人は主役気分で嬉しかろうが、見てるほうはいまいちだとわかって欲しい。
 
 輪唱風に「カエルの歌」を指定するなど、声だけの編成を効果的に利用した瞬間も間違いなくあった。
 後半セットは男女混合で7〜8人のセットを数回やったか。
 コンセプトが見えず、なおさら冗長さに拍車をかけた。
 
 いろいろ仕込みしたようだが、企画倒れな部分も。
 たしか高橋秀樹が、後半でいきなりビラを撒く。
 内容は「リクエスト募集」。やって欲しいことを観客に書かせたいみたい。
 気持ちはわかるが、短時間でこれをやるのは無理だろ・・・。
 
 茂木は幾度もゲリラとなり、客いじりを繰り返す。
 パフォーマンスとヴォイスの区別があいまいになり、ピントがボケた。

 引用もいろいろあり。確か今井尋也あたりが「Pコントロール」や「トゥッティ・フルッティ」を一節、ソウルフルなうなりが巧かった。
 今井は能の「よおっ」って声もすごく効果的に使う。

 オーラスは全員でゲーム、ステージが終わった。
 終演は22時くらい。アンコールの拍手が飛んだが、「時間が押した」と巻上の口上で終わってしまった。
 最後くらい、巻上のシャープなプロンプタで締めて欲しかった。

 声だけのコブラは、企画として楽しめた。あえて練習不足のせい、と考えたい。
 煮詰めればもっと面白くなるはず。
 メンバーのHPをあれこれ眺めると、出来に不満足なメンバーもいるようだ。
 
 ならばなおさら、2回目をやって欲しい。
 あれだけ動員したなら、興行としても可能では。
 一回限りじゃコブラの面白さなんてわからない。
 コブラを遊び倒すくらい、しぶといステージを見たい。

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