LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2003/01/19   西荻窪 Binspark

   〜【宇宙解剖学/COSMO-ANATOMY #0】〜
出演:KK.NULL+灰野敬二
 (KK.NULL:electronics,ds、灰野敬二:electronics,g,ds,voice)


 KK.NULLがプロデュースするイベントの第二回目。今夜は灰野敬二がゲストで参加した。共演は5年ぶりとか。
 ぞくぞく観客が入り、立ち見が出る盛況だった。
 長丁場のライブを覚悟したが、なぜか開演が30分ほど押す。そのせいか冒頭に演奏されたそれぞれのソロは、いやにあっさり終わってしまった。

(19:30〜19:55)KK.NULLソロ

 冒頭にNULLが快活に挨拶。この手のイベントってそっけないイメージ持ってたから新鮮だった。
 そのうえ演奏前、スピーカー前に座ってた客へ「耳、気をつけてね」って気遣うもんだからふきだしちゃった。

 挨拶してる時は白く明るいライティング。
 ところがNULLが機材の前に立って両腕を一閃。ノイズが溢れる。とたんに空気が青白く染まった。

 テーブルの中央に機材を置き、左右にカオスパッドを二つ。これが今のNULLの基本セットらしい。
 DJを意識したパフォーマンスで、カットアップをときおり差し込みつつ、両方の指でリアルタイムにノイズを加工。スクラッチ風におかずをかぶせた。
 音量はそれなりにでかいが、耳から血が出るほどでもない。

 基調はパルスのノイズ。インダストリアル・テクノのDJを見てるみたい。
 時間がたつにつれ、メインの音像がクロスフェイドで切り替わる。ますますDJだ。
 
 ノーリズムで叩き込むパルスが多かったが、明らかにダンサブルな空間が提示された瞬間もあった。
 メロディは断片的だが、たまにポップな響きが聴こえる。
 面白いな〜。休憩時間に即座にCD買っちゃった。

(20:00〜20:15)灰野敬二ソロ

 あっさりセットチェンジ。椅子に腰掛けた灰野がアコギと格闘を始めた。
 冒頭はフレーズもリズムもなく、散発的に音をつむぐ。
 エコーはかかってるが、それ以外は音色に小細工しない。 
 たんまりリバーブをかけたマイクに、即興でヴォイスをかぶせた。
 さながら一人不失者ってとこか。

 素直な音色だけに、楽器とたわむれる冒頭部分は耳が灰野の音と同調するまで辛い。
 しだいにテンションが高まり、弦をかきむしるころには灰野の世界が拡がっていた。
 高速ストロークしながらフレーズを撒き散らす部分がスリリング。
 わずか15分くらい。あっというまのパフォーマンスだった。

(20:20〜21:05)Null+灰野敬二 part 1

 まずは二人ともテーブルに置いた各種エフェクタを操作する、エレクトロニクス仕様のセットから。
 ドローンっぽい低音をNULLが広げ、灰野が透き通るようなファルセットをかぶせる。
 そのままサンプラーに声を取り込み、ループさせた。
 さらに声を重ね、一人多重唱。轟音の中に灰野のハーモニーが響く。
 またたくまに自分の世界を作った灰野の手腕に舌を巻いた。

 終盤では音量が大きくなり、モジュレーションが起きて空気が乱れ音が割れる。爛れた雰囲気がなんともいかしてた。
 灰野はドラムパッドを指先でせわしなく叩き、ランダムなリズムパターンをばら撒いた。

 本セットはえんえん一種類の即興を展開ではなく、10〜15分くらいで区切りをつける。冗長さを避け、メリハリ効かせたのが好ポイント。
 2曲目では灰野が独特のエフェクタを多用した。あれ、なんてエフェクタだろ。
 
 台の上に丸い開口部がついて、その上に手をかざしてゴーッっという低音を操る。
 電気加工されたノイズだが、筒の先から噴出す風の音を操作してるイメージが浮かんだ。
 帰り際にチラッと見たが、市販のエフェクタみたい。

 NULLはヒモに繋がったマイク風のものをせわしなくクリックし、ハム音を区切る。いささか単調で不利だった。灰野に美味しいとこを持ってかれたかも。

 2曲目あたりで灰野の怒声も飛んだ。
 両手でマイク・スタンドをわしづかみにし、激しく吼える。大音量に負けぬ力強い声。
 さまざまな手法が登場し、めまぐるしく音像が変化した。

 終了間際には灰野が無伴奏で即興歌を披露。どぷどぷにリバーブがかかった声を深く響かせる。
 このセットのラストは静かにフェイドアウト。
 今夜のライブで、2番目に楽しめたセットだった。しばしの休憩が入る。

(21:15〜21:35)Null+灰野敬二 part 2

 セットチェンジはあっというまに終わり、すぐさま演奏が始まった。
 本セットはNullがドラム、灰野がエレキギター。そういや今夜はNullってギターを弾かなかったな。
 ぼくが今夜、最も楽しかったセットがこれ。

 Nullはビートを常に提示するが、パターンは特になし。淡々と連打をくりかえし、ここでもパルス状の音像にこだわる。
 灰野はエレキギターに二本のカポを装着。
 冒頭からいきなり轟音が襲い掛かった。

 始まるなり、高音部分のストロークを弾き殴りループさせる。7/4拍子みたいな感じ。微妙にずれたグルーヴが面白い。
 ステージを前後にせわしなく歩き、髪を振り乱しながら激しくストローク。

 灰野の長髪が、ライトに照らされ銀色に輝く。
 荒っぽくカポをむしりとり、足元へ投げ捨てた。
 エフェクタを踏むたびに音が歪み、ぐいぐい混沌さが増す。

 Nullのドラムもヒートアップ。だがギターにかき消されドラムがほとんど聴こえない感じ。
 エフェクタで歪んだ音のほかに、フィードバックと猛烈なハウリングが色を添えた。 
 轟くノイズに、近くに座ってた白人の観客が耳を抑えててたのが印象的だったな。
 
 混沌がいったんなりを潜め、再びセットの冒頭でサンプリングした高速カッティングフレーズが復活する構成が実にかっこよかった。

 音塊こそ激しいがノリは親しみやすい。
 ぐいぐい前のめりなテンションの痛快なことといったら。凄く迫力たっぷりな好セッションだ。
 ここでも灰野の鮮烈な存在感があらわにでたステージ。
 あっというまに終わってもったいない・・・1時間くらい、とことん聴きたいぞ。

(21:40〜22:00)Null+灰野敬二 part 3
 
 今度は灰野がドラムへ回り、Nullがテーブルに載せた機材の操作へ。
 いちばんNullがイニシアティブを取ったセッションだった。

 灰野のドラムはいつものとおり、全身で叩き落す演劇的なもの。
 あえてリズムを出さず、ランダムにスティックが踊った。スネアにはずいぶんリバーブがかぶってたなぁ。

 Nullはカオスパッドはまったく使わず、手に握った四角い金属のトリガーで出す音を変調させた。
 絶叫した声がリアルタイムで電気変調されてたので、あれはマイクだったのかも。
 叫び声はふくらみが剥ぎ取られ、平板に大音量でわめき散らす。

 ひとしきりヴォイスを続けた後、テーブルにトリガーを叩きつけ始めた。
 ここでもパルスにこだわるNull。淡々とテーブルを叩き、時にこすって手動ループを繰り返す。
 ドラムで応答してた灰野だが、しばらくたつとセットを降り、横の機材が乗ったテーブルに立った。
 
 おもむろに灰野はマイクを掴み、客席に背を向けかがみこんで怒鳴り始めた。
 Nullはかまわずに淡々とテーブルへ打ち付け続ける。
 肘から二度、三度。したたり落ちる汗が、ライトにきらめいた。

 ほぼ展開がなくその音像がしばし続いた後。
 しまいに灰野はマイクを置き、Nullをじっと見つめた。
 だがかれは視線を合わせず、執拗に同じパフォーマンスを続ける。
 やがて機材へ指を伸ばし、ノイズをフェイドアウトさせた。
 このセットだけは、全ての音がNull中心に回っていたと思う。

 アンコールはなし。もっともさまざまなセットが続けざまに演奏され、おなかいっぱいだ。
 灰野の独壇場で終わるかと思いきや、Nullも最後で意地を見せた。
 独特の間を活かした即興の灰野と、同一パルスにこだわるNullの組み合わせも刺激たっぷりで楽しかった。

 次の本イベントは同じくBinsparkで2/9(日)に行われる。
 また灰野敬二がゲストで、さらに初代の不失者のドラマーであり、NullとA.N.Pというユニットで共演した村山政二郎も加わるそう。
 村山と灰野の競演は20年ぶりとか・・・。 
 次はNullが灰野に、もっとからんで暴れて欲しいぞ。

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