LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/1/13   江古田 Baddy

出演:EMERGENCY!
 (芳垣安洋:Ds、大友良英:G、斉藤良一:G、水谷浩章:B)


 今年最初のライブは「新春かくし芸大会」付き。
 『普段やらないジャズを演奏』する企画だという。
 曲の合間に芳垣と大友が軽くジャズ談義する、おまけまであった。

 しょっぱなから音が炸裂。思ったよりでかい音量でびっくり。
 今夜はステージをぐぐっと前詰めにした。ステージ手前ギリギリにドラムセットを置き、ベースもすぐ横。
 大友と社長はフロアへ降りて演奏する。
 向かって左に大友が座り、右には社長がすっくと立ちエレキギターを振り回した。
 その気になれば大友や社長をほんの50センチ先。文字通り目の前で聞くこともできた、すごく贅沢なステージ仕立てでした。

<セットリスト>
1.Work song
2.Moritat
3.The Shadow of Your Smile
4.Sing Sing Sing!
 (休憩)
5.Re-boptism
6.The inflated tear
7.Fables of Faubus
(アンコール)
8.The look of Love

 前半3曲がEMERGENCY! で演奏するのは初めてな「新春かくし芸大会」。
 "Sing Sing Sing!"は今回が2度目だそう。

 冒頭の1曲目からしこたまかっこいい。
 メロディ聴いて「あ、あの曲か」ってわかったのがナット・アダレイの(1)。
 エレキギターの炸裂が爽快だ。

 テーマを弾いたのは社長。ソロではアームをげしゃげしゃ押しつつ弾き、フィードバックを響かせた。
 ドラムも最初っから飛ばしっぱなし。演奏終わったところで芳垣は、
「ずいぶんドラムセットが前に泳いだな・・・」と笑う。

 (2)がロリンズの「サキソフォン・コロッサス」に入ってる、「三文オペラ」のあれ。
 パンクジャズ仕立てのアレンジで、すごく好きになった。
 一発芸なアレンジかもしれないが、ぜひまた聴きたい。

 大友が旋律をぶちかます後ろで、芳垣がひたすらタムを連打。
 ひととおりメロディ弾いたところでノーリズムへ。
 ギター部隊がずうっとフィードバックをひろげる。

 またメロディ。多少のリズムのずれも気にせず、ばっしんばっしんスネアを叩き倒す。
 そしてフィードバックへ。二本のギターが店内へ鳴り響いた。
 超高速の旋律と、えんえん続く轟音の対比が面白かった。

 つづく(3)の邦題は「いそしぎ」。1965年の映画主題歌で、作曲はジョニー・マンデルだそう。
 これはテーマのみ。ディストーションの効いたギターで重たく演奏し、めだったソロもなくあっさりと終わった。
 たったニ時間のリハでこの3曲を仕上げたそう。すごいなー。

 つづくベニー・グッドマンの演奏で有名な、"Sing Sing Sing!"は聴き応えいっぱい。
 ジーン・クルーパばりにドラムソロをたっぷり?と期待したが、特になし。
 よく考えたら、今夜の芳垣は特にソロを取らなかった。
 メロディは大友がリフ、社長がテーマをサイケにかき鳴らす。

 ベースはギターに埋もれて聴こえづらかったのが残念。でもグルーヴたんまりで楽しいったら。
 水谷自身もにこにこしながら、ウッドベースを抱えて弾いていた。
 勢いで前へ逃げるベースの胴を踏んづけ、それでも前へ泳ぐボディをしじゅう引き寄せる。
 
 首をふりふり、小粋に叩く芳垣。
 音量は激しく、終盤ではシンバル・スタンドまでが盛大に揺れていた。
 中盤で隙間が多いアレンジだったが、最後はギター二人が猛烈なストロークで音空間を埋め尽くした。

 前半は50分と少々短め。
 休憩を挟んだ後半は芳垣いわく「いつものレパートリー」だが、アレンジがぐっとハードに進化してた。

 まず"Re-boptism"はフリーな演奏から。メロディが解体され、別の曲みたいだった。
 とにかくディストーションとフィードバックの嵐。社長も大友も。
 パワフルにテーマのメロディが繰り返された。
 果てしなく繰り返されるテーマの旋律。20分くらい、この曲やってたのでは。 

 「バラードをやります」
 だがカークの「溢れ出る涙」も聴いててリラックスとはほど遠い。
 心地よい緊張感がステージから伝わる。この曲が一番フリー色強かった。

 芳垣は鎖を揺らし、シンバルへ軽く落とす。マレットを次々持ち替え、ランダムなビートを提示した。
 大友がクリップを弦に挟んで軽くはじく。鐘のような倍音がきれいに幾度も鳴った。
 ネックにはめた金属製のカポは、指で揺らしてノイズを出す。
 ボディを指でこすり、小さな音を増幅した。

 小さな棒で弦を引っ掻く水谷。アルコもちらと使ったが、キイキイ高音をか細く軋ませた。
 しばしミニマルなプレイがてんでに続く。

 おもむろに社長がテーマを提示した。ディストーションの効いた音色が空気を震わせる。
 大友はすぐに応えない。なんどもテーマを弾く社長。
 じわじわ音の焦点が絞られる。弦を力強く弾き、がっしり大友はギターでテーマを受け止めた。
 大友のソロはプリペアード・ギターのまま。
 探りあいが多く若干散漫なとこもあったが、全体的には説得力ある演奏だった。

 本編最後はミンガスの"Fables of Faubus"。「今の世相を憂いて」と芳垣が前置きした。
 この曲もたっぷり時間を取って演奏してたと思う。ドラマティックな構成がすばらしかった。
 冒頭からハード&フリー、そしてじわじわとグルーヴが産まれる。

 曲によってはほとんどソロ回しがないライブだったが、ここでの社長のソロはハードでいかしてた。
 しまいに無伴奏で、思う存分フィードバックをぶちかます。
 途中で一本弦を切ってしまい、素早くギターを交換した。

 大友へソロをつなぎ、彼も最後は無伴奏ソロ。
 弦を激しくかきむしった。

 終演は10時ちょいまえ。大満足だ。
 アンコールの拍手を送ってると、すぐに応えてくれた。
 曲は定番な、バカラックの"The look of Love"。
 水谷のベースソロから始まった。

 抑え気味に大友がソロをつなげる。次第に高まってゆく。
 美しいメロディの曲だが、歪んだギターの音色で錆びた雰囲気もいい。
 最後はフェイドアウトして、さらりとしめた。

 かすかに耳鳴りが残る。
 今夜のEMERGENCY! は先鋭化が増し、バラードを演奏してても気を緩められない。
 "Jerry Roll"みたいにファンキーな曲をあえてはずしたせいで、よけいに緊張感が強調されたと思う。
 だがステージから惜しみなく降り注ぐタフな音には、まちがいなく癒された。
 CDよりもぐっと凄みが増している。
 次に東京でやるライブは春ごろだとか。また聴きたいな。  

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