LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

03/1/12   下北沢 Lady Jane

   〜Invincible guitar〜
出演:灰野敬二+鬼怒無月
 (灰野敬二:ag,per,voice、鬼怒無月:ag)


 なんだか予想と違うノリだった。
 ほぼ満員の店内は、開演前に紫煙が数本たなびく。灰野のライブで喫煙解除かと思ったら。単純に店員が禁煙を徹底してなかっただけみたい。
 そういや灰野が焚くお香の匂いもしなかったな、今日は。

 演奏始まったのは8時を回ったころ。今夜は二人ともアコギだけのアレンジだった。
 アンプを通してときたまリバーブをつけくわえるが、それ以外に音を歪ませたりループさせたりは一切なしの、素朴な演奏だった。

 この二人による共演は、昨年9月のIn F以来。そのときは灰野がブルガリーやパーカッションを持ち込み、多彩に聴かせた。
 ところが今夜はひたすらアコギと格闘。ギターは二本あったが、持ち替えもほぼない。

 まずは鬼怒がピック、灰野が指弾きでスタート。今夜は全てインプロのはず。
 メロディよりも響きを重視した音像だ。
 二人ともうつむいたまま。視線を交わすのはエンディングのタイミングだけ。
 
 鬼怒のギターがおとなしめで物足りない。
 ときおり高速ストロークが出るものの、サイケなフレーズを断片的に弾くシーンが過半数だった。
 昨年末に怪我した足をまだひきずってたし、もしかしたら調子悪いんだろうか。

 いっぽう灰野は奔放なグルーヴで、アコギからさまざまな音をひきだす。
 指で激しくストロークし、左手がネックの上を上下し高速フレーズが奏でられた。
 轟音やエフェクタで塗りつぶされてわかりづらいエレキギターと違って、今夜は旋律をつむぐさまがくっきり味わえて嬉しい。

 いわゆるテクニカルなギターではないかもしれないが、ギターを歌わせることにかけてはさすがに抜群。
 ほぼアコギ一本だけだったのに、まったく退屈させない。

 さながら灰野の独壇場で、鬼怒はバッキングに回ってるイメージだった。
 シャープなカッティングでかっこいいんだが・・・。
 前回セッションはもっとバトルしてた記憶あるから、すごくもどかしい。
 
 さらに二人とも前半セットでは小さな音量もうまく使って、静かな雰囲気を醸し出す。寝不足なのか、どうも眠くなって困った。一瞬うとうとしてたかもしれない。

 5〜10分くらいの曲を前半は5曲程度やったかな。
 コーダらしきフレーズや、二人が視線を交わし脱力するしぐさで一曲終わったのがわかる。
 灰野のライブだけあって、曲間の拍手は控えめ。前半は一曲の長い即興って、とらえることもできたかな。

 前半最後のほうで鬼怒が12弦アコギに持ち替え、倍音をつぎつぎ響かせる。
 弦を指先で静かにこすり、静かなノイズを出す灰野。
 次第に雰囲気が上昇し産まれた、高速カッティングの応酬がスリリングだった。

 約50分の演奏で、いったん休憩。
 後半も構成は同じで、アコギのみで勝負をかける。鬼怒が抑え気味なのは後半も同じ。なんでだろう・・・。
 後半セットのほうがより楽しめた。どういうタイプの演奏か、やっと飲み込めたせいか。

 灰野はまずボトルネックを使う。
 だがいつのまにかはずしてしまい、高速ストロークでメロディアスなプレイに切り替えた。
 あいまで棒状のシェイカーを持ち出し、上下左右に振る。
 リズムの確保でなく、空気を鳴らすイメージ。パーカッション・ソロでみせるような、上半身全体を使ってシェイカーを使った。

 その間、もう一方の手は弦をパーカッシブに叩く。
 小節感は皆無だが、独特のグルーヴが生まれる。
 こういうところへ、鬼怒が自由にメロディで突っ込んで欲しかった。
 灰野の提示するリフへ同調し鬼怒もビートを保ち、さらに灰野はメロディを展開するパターンが目立った。

 後半は20分弱の曲が2つと、小品がひとつ。
 2曲目が始まる前、スタンドを灰野が動かす。そのときちらりと鬼怒のギターにあたり、鳴ってしまった。
 灰野が即座に「しまった」って顔で鬼怒を見る。鬼怒は笑いながら手を軽く振った。
 MC無しでひたすら音楽と対峙する進行だったため、このささいなシーンが微笑ましかった。

 2曲目の20分くらい演奏した曲が、今夜のベストか。
 始まってしばらくたつと灰野は鬼怒へ「ソロで」って合図を送り、ギターを交換する。鬼怒は爪弾きっぽい演奏で対応。
 やがてギターを構えなおすと、二人の即興はぐんぐん締まる。
 チョーキングを灰野が使ったのはこのあたりだったかな。
 
 唐突に咆える灰野。
 一瞬、鬼怒は身体を堅くさせたが、うつむいたままストロークへ没入する。
 
 アコギの響きが交錯し、灰野は太く高く声を絞り出す。
 鬼怒もギターをジャカジャカ鳴らしながら、太く吼えた。かれのシャウトはめったに聴けないから新鮮だ。
 灰野のようにヴォイスで雰囲気を膨らませるのでなく、ブルージーにリズムを取る格好で、数度声を吐き出し迫力を増した。

 高らかに灰野が「おしまい!」とゆったり歌う。
 しばし二人によるアコギが店内を駆け、コーダへ雪崩れた。

 時間を確認した鬼怒が「あと1曲」って、灰野へ合図を送る。
 鬼怒は12弦へ持ち替えた。
 灰野はアコギを爪弾きながら、美しく高らかに歌うメロディ。
 前回のライブと同様の展開だ。こういう演奏ももっと聴きたい。

 後半も50分くらい。時間的には短めだが、充実したライブだった。
 この編成でアルバムもリリースして欲しい。pere-furuとは違ったグルーヴが楽しめそう。

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