LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/12/31   新宿 Pit-inn

出演:2002〜2003 ALL NIGHT CONCERT at Pit-Inn
 (板橋文夫 GROUP、南・菊地 UNIT、西尾健一GROUP、四丁目ばんど)


 年越しオールナイトライブは初体験。やっぱり混みますね。
 ぼくが店内についたのは11時を回ったころ。ちょうど渋谷毅オケが終わった頃合。客席は立ち見がびっしりで座れやしない。
 
 もっとも大晦日で電車が動いてるせいか、深夜3時くらいにも観客が増減するのが新鮮だった。普通オールナイトライブって、終電回ったら始発まで観客減らないからさ。
 だいぶ菊地目当ての客がいた模様。彼らの演奏が終わるまで超満員だったが、あとは立ち見がいるとはいえ空きぎみになった。

四丁目ばんど(23:30〜0:30)
(酒井俊:Vo、太田恵資:vln、関島岳郎:Tuba、黒田京子:p,accd)


 いわゆるジャズ・ボーカルスタイル。中盤では語りも入れ、ストーリー仕立てで歌うときも。ぼくはこの手のジャンルが苦手なので、ちと辛い。

 "Fairytale of New York"のカバーで始まった。ジャズだけでなく日本語の歌も織り込む。
 "チャタヌガ・チューチュー"もやってたな。
 "ヨイトマケ"を熱唱するあたりはかなりトゥー・マッチだった。

 紅白が終わって駆けつけた、という関島は淡々とチューバを吹くのみ。
 ホーメイ等も盛り込む太田のコミカルな音が、演奏にふくらみをつけていた。
 黒田京子の音ははじめて聴く。クラシカルで滑らかなピアノかな。中盤では犬の飾りがついた帽子をかぶり、ほのぼのとアコーディオンを弾いた。

 カウントダウンもこのバンドのとき。歌の合間に時間がきて、慌てて観客へクラッカーを撒き散らす。
 ところが時間連絡がうまく行かず、カウントダウンを何度もやり直す羽目になり、ほのぼのした雰囲気の年越し。 
 最後にちゃんとカウントダウンした時、太田はクラッカーの入ってたビニール袋を膨らませ、盛大に割った。

 オーラスは1月に発売予定のシングル曲。
 途中でマイクを起き、観客席へ歩み寄って店内中央で熱唱した。

西尾健一 GROUP (0:50〜1:50)
  (西尾健一:tp、加藤大輔:bs、関根彰良:g、奥村和彦:p、生沼邦夫:b、斉藤良:ds)


 彼らの音ははじめて聴く。たぶん全員20代かせいぜい30代前半。若手ジャズメンの演奏だ。
 音を出した瞬間、ぐっとファンキーなグルーヴを提示されてびっくりした。うまいなー。

 もっともスローだとリズムが甘くなるし、オリジナリティの面では疑問も残る。サウンドそのものも50年代バップに70年代フュージョン風味をふりかけたもの。今の時代に演奏する必然性を感じられななかった。
 ベテランがこういう演奏をするならまだしも、若いミュージシャンがこの手の演奏なぜするんだろう。よっぽど好きなんだろうか。だとしたらカバーも織り込み、立脚点を明確にしてくれた方がいい。
 ソロも手癖の域を越えるには、あと一歩必要だと感じた。

 それでも生き生きした演奏は楽しくて、一時間があっというま。
 全部で4曲ほど演奏したか。どれも西尾のオリジナル曲だった。
 ピアノとペットはきっちり足元の定まった音を出してたと思う。
 これからの活躍が楽しみ。また時間を置いて聴いてみたい。

南・菊地 UNIT(2:10〜3:10)
 (南博:p、菊地成孔:ts、水谷浩章:b、芳垣安洋:ds)


 セットチェンジは速やかに行われる。
 芳垣がシンバルのセットをする間、菊地はテナーを無造作に鳴らしていた。

<セットリスト>

1.ソフィスティケイティッド・レイディ
2.ラッシュ・ライフ
3.  ?
4.キャロリーヌ・シャンプティエ
5.チェルシー・ブリッジ

 選曲はすべて菊地。
 南の家へ集合しミーティング予定だったのに、菊地が遅刻したそう。「だからバンマスは菊地くん!」と南は決め付けていた。

 3曲目はモンクの曲だそう。タイトルは聴き取れませんでした。
 菊地のオリジナル(4)を除き、あとはすべてエリントンの曲。
 ライブでおなじみな選曲を持ってきた。

 今夜は南の毒舌が冴え渡り、菊地は苦笑し水谷や芳垣はバカウケしていた。
 けっこう酔ってたのかも。半分ろれつが回らなくなりつつ、ぼやき倒す。
 菊地が時間を気にして、焦りながら進行してて笑った。

 菊地のテナーは今夜もダンディに鳴る。
 (1)のバラードはまず、菊地と南のデュオから。テナーのアドリブへ変化し、おもむろにウッドベースとドラムがかぶさった。

 甘い音色で菊地はサックスとたわむれる。
 コーダは再び無伴奏ソロで吹ききった。

 次の(2)もバラード。ドラムがアクセントを強くシンバルを叩く。
 前曲と同様にピアノ+テナーのアンサンブルのあと、リズム隊が入るアレンジだった。 
 ドラムが鳴った瞬間、水谷は芳垣を見てニヤッと笑う。
 
 水谷のソロが披露されたのは、アップテンポなブルーズ(3)になってから。
 せわしないリムショットで、芳垣がベースをあおった。
 菊地はリズムと微妙にノリをずらし、ほんのりゆったり吹いてるように聴こえた。
 アタック強くピアノも盛り上がる。
 
 "キャロリーヌ・シャンプティエ"を優雅に決め、"チェルシー・ブリッジ"で今夜のライブは終わり。
 この曲で再び、じっくりと水谷がソロを取った。芳垣のブラシがかっこよかったな。

 MCでどんなに毒を吐いても、さすが凄腕4人。
 音を出した瞬間、空気がふわっと柔らかくなる。深夜にぴったりなジャズだった。

板橋文夫 GROUP (3:40〜4:55)
 (板橋文夫:p、片山広明:ts、田村夏樹:tp、吉田隆一:bs、井野信義:b、小山彰太:ds、外山明:per)


 演奏開始に少し手間取ったが、いったん音を出し始めたらとまらない。
 破天荒な演奏は、ちょっと渋さ知らズを連想した。

 金髪をツンツンに立て、ライオンみたいな頭の板橋はピアノの前のマイクを引っつかむ。
 「最初はお正月ってことでインプロ、続いて"ハバリガニ(?)"」と言う曲をやります」
 言うなり鍵盤を引っ叩き始めた。

 セットリストを書きたかったが、とても無理。めまぐるしくメドレーで演奏が展開してた。

 おおらかなフリーをしばらく続けた後、だみ声でカウント。いきなりアップテンポに切り替わった。
 "ハバリガニ"はテーマの合間に「ハバリガニ!」と叫ぶ。
 途中で「明けましておめでとう!」と板橋が叫び、片山らが受けていた。

 とにかく演奏がせわしない。ひとしきりテーマを弾いたあとは、ちょっぱやのピアノソロ。鍵盤をがんがん叩きのめす。
 すぐさまホーン隊の同時進行ソロとなり、間をおかずに小山と外山のパーカッション・デュオに変化した。
 
 普段もこういうライブ進行なんだろか。 
 拍手を待たずに「次は"たそがれのリオ"」と言い放ち、演奏へ雪崩れ込む。
 この曲は素晴らしかった。

 フリーなピアノを間にはさみ、ホーン隊がブラジルっぽいきれいなアンサンブルを奏でる、組曲みたいに多彩なアレンジの曲。
 ベースソロは弓でキイキイとウッドベースを鳴らした。

 ここからあとはMC皆無。一曲を15分くらい演奏してたか。終わりがまったく見えない演奏だった。
 朗々とテーマを吹く片山。ひょうひょうと井野はベースを弾く。

 板橋のピアノはパワフルそのもの。
 腰を浮かせ、激しく鍵盤へ腕をぶちまけた。クラスターノイズっぽいが、ちゃんと和音が存在する。
 歯を食いしばって奔放なプレイをたっぷり聴かせた。中盤ではピアニカを吹きながらピアノと同時演奏も。

 5曲目くらいか。板橋は小太鼓を叩き、吉田のパワフルなバリトン・ソロが入る。
 三人のホーン隊がめまぐるしくソロ回しをし「そろそろ終わりかな」と思ったころ。
 小山が賑やかにドラムソロをはじめた。

 えんえん叩いてまったく終わる気配なし。外山がバックアップで加わった。
 アフリカっぽくフロアタムとスネアを連打し、両手で同じビートを出す。
 外山が胸にぶら下げたカウベルをせわしなく叩いた。

 このドラムソロが5分くらい続いたか。
 板橋がおもむろに鍵盤へ腕を振り下ろした。

 しばらく弾いて曲が終わったとき。拍手の中、
「アンコールです!」
 問答無用で板橋が言い放ち、即座にピアノを弾きだした。

 素晴らしい熱演だった。
 最初はロマンティックにピアノを弾いてたが、すぐにドシャメシャへ。
 さんざん盛り上がり倒したあと、口笛で静かにテーマ。
 板橋や片山がメロディをそっとなぞる。
 これで終わりかな?と思わせて、さらに曲が展開。ピアノソロからテナーのソロへ。
 演奏してたのは片山の「キャトル」に入った"For You"じゃないかな。
 テナーが高らかにソロを取った。
 
 やっとこさエンディングへたどり着いたときは、盛大な拍手が飛ぶ。
 このグループ、面白い!次もライブ聴きに行こう。

 途中で席に座れたが、さすがに窮屈な格好でえんえん聴き倒すとくたびれた。
 まだ真っ暗な中を駅へ歩く。
 正月だしちょっとは神妙な気持ちで歩きたい。しかし靖国通りはドンキホーテが賑やかに営業し、カラオケや居酒屋の前はおしゃべりや客引きですごく喧しい。
 正月の朝5時だってのに。さすが新宿。

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