LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/12/29   新宿 リキッドルーム

   〜 PRESIDENTSECRETARY-GENERAL & BASS LINES 〜
出演:Date Course Pentagon Royal Garden
    (菊地成孔:Conduct,Organ,CDJ、津上研太:ss、後関好宏:ts,ss、大友良英:g、高井康生:g、
      坪口昌恭:Key、吉見征樹:Tabla、大儀見元:Per、栗原正己:b、芳垣安洋:ds、藤井信雄:ds
   +小幡光邦:tp、青木タイセイ:tb、関島岳郎:tuba)


 先日されたアルバム「DCPRG3/GRPCD2」発売パーティーは、リキッドルームで夜中の10時から始まった。
 風邪気味だし最初から参戦するのは諦める。
 DCPRGと大友良英の演奏にターゲットを絞って聴くことにした。

 菊地成孔のHPで発表されたタイスケは下記のとおり。

21:00 OPEN〜(DJ:TA-1)
21:30 THE FOX 30分
22:00 転換 15分
22:15 赤犬 60分
23:15 永田一直 30分(サブステージ)
23:45  大友良英×オオエタツヤ 40分(サブステージ)
0:25  パードン木村×某有名DJ(シークレット)30分(サブステージ)
0:55 DJ Quietstorm 30分(サブステージ)
1:25 DCPRG
4:15 タツヤオオエ 15分(サブステージ)
 
 ぼくがリキッドに入ったのは11時半前くらいか。
 もちろんロッカーは全てふさがり、ロビーは照明を暗くしてる。
 フロアを覗くとびっしりの人。ずいぶん入ったなぁ。

 ステージではちょうど赤犬の演奏真っ最中だった。彼らははじめて聴いたが、バカ騒ぎに盛り上がっていた。
 数人のホーン隊にバイオリンがいて、スカやバルカン風味の音を振り撒く。ボーカルのほかにサブボーカル(ダンサー?)も何人か。
 全員男だが、体操服にブルマー姿で観客をあおっていた。
 
 MCは大阪弁。普段は西で活動かな。最後の曲ではダンサーらが客席に雪崩れ込み、わさわさ騒ぐ。
 かれらも最初から聴いたら面白かったろうな。

 続いてDJの連打。この進行がしんどかった。ここで一気に疲れ、立ってるのが辛くなる。
 進行は当然押し、大友良英×オオエタツヤは0時を回ってた。

大友良英×オオエタツヤ

 まずはオオエがすごく間をとった音の断片を出す。ビート感は不明瞭。
 大友がターンテーブルで突っ込んだ。めっきりノイズよりで、レコードはノイズマシンとして使う。
 ステージを遠くから眺めてて、大友がどんなプレイをしてたか謎でした。間違ってたらご指摘くださると幸いです。

 オオエが出してるとおぼしきブツ切れフレーズを埋めるがごとく、各種ノイズを大友が引き出す。
 ターンテーブル横の机を叩いて低周波を響かせ、ピックアップへ叫んで歪んだ音を出した。
 ピックアップを振り回したり押し付けたり、ヘヴィなノイズも登場する。

 一つ一つのノイズはすごく気持ちいい。低音が空気を震わせ、甲高い音がスピーカーから轟く。
 数百人の観客がいっせいにノイズを出す大友を見てる、って構図が痛快だった。

 オオエの役割分担は中途半端で、最後まで控えめなまま終わった。
 もっと大友の演奏へ絡むか、いっそ大友の完全ソロのほうが面白かったのでは。

 大友は構成をさほど意識してない様子で淡々と各種の技を繰り返し、ランダムにノイズが現れる。
 聴く環境が最悪(深夜で、スタンディングで、超満員)のなか、45分間聴きつづけたせいで一気にしんどくなった。こういう音楽はゆったり聴きたい。

 そのあともDJコーナーは延々と続く。「某有名DJ」は誰かわかりませんでした。たぶんドレッド・ヘアな黒人DJのことだと思う。
 DJ Quietstormあたりでもう踊らせることを放棄し、ひたすらダークな音が振り撒かれる。
 いいかげん退屈してきたころあい。
 DCPRGは深夜2時ごろ、おもむろに登場した。

Date Course Pentagon Royal Garden

 フルメンバーが揃うのはひさびさ。しかしキーマンの一人な大友良英が今夜で脱退してしまうライブとなった。
 ゲストはハイブラス仕様で、ホーン隊が3人追加。
 菊地はキーボード2台とCD−Jを持ち込み、真っ黒なシャツを着て登場。トレードマークの赤シャツはやめたの?

 結論。
 これまでDCPRGを聴いた中で、最高のライブだった。

(セットリスト)
1.Catch 22
2. ?
3.Playmate at Hanoi
4.Catch 22
5.ステイン・アライブ
6.  ?
7.Circle/Line〜Hardcore Pace
8.Hey Joe
(encore)
9.S
10.Mirror Balls

 一曲目は恒例"Catch 22"から。大儀見のパーカッションに菊地がCDJでからむ。
 右手でスクラッチを軽く入れながら、左腕を一閃。
 重たいビートがフロアに零れた。

 ライブアルバムでのアレンジをさらに拡大。1曲あたり20分くらい、どれも長尺に膨らませた。
 (1)で、ぎしゃぎしゃかきむしる大友のギターが印象に残った。
 フィードバックを操り、ストラップからおろしてスピーカーへ押し付ける。 
 しまいに客席へほおりこむかの勢いで、ノイズをばら撒いた。

 今夜はライティングもうまい。
 菊地が数名の音を抜き出すハンドキューにあわせ、きれいにライトも切り替わっていた。
 
 (1)のエンディングから、いきなり熱狂が始まる。
 大友の鈍いギターをキーにして、素早く菊地の指が宙を切り裂き、バンド全体でクレイジーにフロアをあおる。
 幾度となく、振り下ろされる菊地の指。猛烈にかっこいい。
 フロア前方はダンスで、もうぐしゃぐしゃ。
 菊地は大笑いしながら、バンドの暴風雨を加速させた。

 たんまり(1)を演奏したあと、CDJで古いジャズを流す。
「エリントンだぜ?」
 菊地は不敵に笑い、ミキサーで少し音を変調。くるりと背を向け、次曲のサインを送った。

 (2)は曲名わからず。70年代マイルスを髣髴とさせる音。
 メロディが断片的だったが、あいまいな響きが面白い。
 トロンボーンやトランペットのソロを長く挿入したのも、確かこの曲。

 そして"Playmate at Hanoi"でまたもや盛り上がる。
 ライブアルバムの構成を意識しつつ、美味しい部分のリピートを増大したイメージだった。
 終盤できめるダンサブルなリフは、菊地もオルガンで弾く。坪口がボコーダーで厚みを出した。
 このあたりからフロアの温度が間違いなく上がった。
 藤井は腕がしびれたか、演奏中しきりにストレッチを繰り返す。

 (4)での"Catch 22"再演は、ハイブラス隊を前面に出した。
 ライブ・アルバムの"Catch 22(C)"と同じアレンジ。
 4/19のオンエア・イーストでは津上がブラス隊を指揮したが、今夜は菊地が対応した。
 
 鈍くきらめくホーンの和音を、指先でひょいひょいキューを送る。
 他の楽器を止め、じっくりこの不安定な和音を響かせた。
 演奏としては面白い。しかし体力が辛い。立ちっぱなしでしんどいなぁ、と思いかけていた。

 そんなだるい気持ちを吹き飛ばしたのが"ステイン・アライブ"。ビージーズだかのカバーです。
 DCPRG ver.で聴くのは一年ぶりくらい?
 ぐぐっとテンポを落とし、ロマンティックさを強調。

 今夜は菊地のMCはさほどない。ただ音楽へ没入していた。
 "ステイン・アライブ"を始める前、再びCDJでしばしのエリントン・タイム。
 一息ついて優しい風景へ音を塗り替える。
 イントロは栗原と菊地のオルガンじゃなかったかな。

 ホーン隊がてんでなソロを取ったあと。
 ソプラノ・サックス二本で滑らかにメロディをなぞるアレンジに、背筋がぞくっとした。
 高井と大友の歪んだギターのデュオへ、するりと変化。
 ゆったり身体を揺らしつつ、爽快にザクザク刻む。

 続く(6)もタイトル不明。新曲かな?
 ホーン隊による単音リフが心地よい。拍の頭に、裏をときおり混ぜて吹く。
 テンポは重たいが、リズムをずらした不安定感が楽しいことといったら。
 "ステイン・アライブ"以降は最後まで、夢中で一気に聴いていた。

 いよいよ"Circle/Line"の投入。フロアの熱狂がピークに達する。
 テーマで大友が下降フレーズを閃かせた。
 問答無用でフロアが揺れた。演奏もばっちり。
 リズムはタイトだし、ホーン隊とのバランスも良好だ。ちょっとドラムの音が聞こえづらいくらい。
 栗原のベースが力強く駆け抜ける。

 "Hardcore Pace"へ変化し、"Hey Joe"に。幾度となくライブで聴いたが、いぎたないクラヴィネットの音色を聴くたびに昂揚する。
 フロア前方では、観客がミネラル・ウオーターのペット・ボトルを振り回す。
 それを見つけた大友が、自分のペット・ボトルに手を伸ばした。
 
 エンディング間際で大友は水を観客へびしゃびしゃ撒き、空ボトルを力いっぱいフロアへほおり投げた。
 菊地もシャンペンだかミネラルだかの瓶を客席へ飛び散らせる。一部は機材にもかかってた模様。
 耳鳴りで細かな音は聴き分けられない。フロアの歓声とリズムの骨格だけが耳へ飛び込む。

 エンディングは怒涛で。メンバーがステージから去る。この時点で約2時間半くらい演奏してたはず。
 
 アンコールで登場した菊地は盛大な声援に感謝したあと、
 「素敵なブーイングも聴きたいな。・・・こいつは今夜で最後なんだぜ!」
 と大友を指す。
 もちろん観客から、愛情のこもったブーイングがたんまり。

 「解散の理由は・・・音楽性の違いかな」と菊地がうそぶくと、大友や他のメンバーが苦笑。
 さっきの水で機材が壊れそうだ、って菊地がぼやくと、慌てたそぶりで大友が、袖を使い機材を拭いてみせる。

 ほのぼのしたところで、アンコールの始まり。演奏された曲に狂喜した。
 「新スパンクハッピーのテーマ」をDCPRG風にアレンジした「S」。
 ライブで聴くのはじめてだよ。

 高井がイントロのフレーズを爪弾く。
 無伴奏で数度重ねたあと、バンドが暖かく包み込んだ。
 津上のソプラノ・ソロがしっとり響く。
 
 「S」でチル・アウトさせ、間をおかずに"Mirror Balls"。
 後関がテナーで力強いソロを展開したのが印象に残ってる。
 コーダは菊地のオルガンへ収斂。
 ロマンティックにひとしきり弾いたのち、音がすっとやんだ。

 演奏終了は5時前。予告どおり、ほぼ3時間演奏しっぱなし。
 
 どの曲もボリュームたっぷり。アンサンブルもばっちり。文句のつけようがない名演だ。
 今夜のプレイこそノーカットでライブ盤へ仕立てて欲しい。
 
 フロアはTシャツ一枚でも平気なくらいの熱気。
 リキッドの階段をじりじり下りるとき、やっと外の冷気が感じられた。
 オールナイトで身体はしんどいのに。頭の奥が興奮で冴えている。
 とびきりの夜だった。

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