LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
02/12/21 新所沢 スワン
出演:不破+川下+植村
(不破大輔:b、川下直広:ts,ss、植村昌弘:ds)
えらく冷える夜だった。雨が降ってて寒いったら。
ちょっと早めに店内に入ると、ミュージシャンたちは椅子に座って寛いでいた。なぜか佐々木彩子の姿が見えず。
もともとこの日のライブは佐々木が参加したユニット「イカシビレ」の予定。
おかしいなぁと思ってたら、ステージ冒頭に川下から「佐々木彩子は体調崩して欠席」と説明あり。あらま、なるほど。
そのため今夜は全てインスト。
フェダインの再現になるかな、と一瞬期待した。
植村の鋭くタイトなドラミングで、レパートリーを演奏したらものすごそう。
もっとも結論はそこまで激しくならず、あっさりめで終わってしまった。うーむ、残念。
だがこの3人だけの演奏は聴いたことないし、今後も可能性は低そう。
その意味では、怪我の功名といえる貴重なセッションだった。
そうそう。この夜はサウンド・チェックまで聴けて、ちょっと得した気分。
あれはステージが始まる40分前くらいかな。
不破がメンバーへ「ちょっと音出しましょうか」と声をかける。
ぼそぼそっと相談したあと、川下が「股旅」のテーマを吹いた。
リズム隊も無造作にあわせる。
川下はそのまま軽くソロへ入り、不破と植村は各々の音を聴きながら手数多く繰り出す。
演奏そのものはほんの数分。こういう気軽な演奏って新鮮だった。
<セットリスト>
0.股旅(sound check)
1.ナポリタン
2.ヨーロピアンズ
(休憩)
3.股旅
4.レイディズ・ブルーズ
5.ベサメ・ムーチョ
6. ?
7.至上の愛
(encore)
8.イマジン
6曲目は軽快なサンバのリズム。聴き覚えあるようなないような。曲名は思い浮かびませんでした。
都心から離れた店だし、おまけに雨降ったのがたたったか。観客はほんの7〜8人。
渋さ知らズは人気が加速して超満員ばかりらしいが、サブユニットはあいかわらずの動員なのかなぁ。謎だ。
演奏は8時過ぎに始まった。
川下がテナーをきいきい軋ませつつ、フリーなイントロを無伴奏で奏でる。
いつのまにかリズム隊が入ってた。
"ナポリタン"のメロディは断片が浮び、アドリブの揺らぎに溶けてゆく。
ひとしきり吹き倒して拍手の中、植村のドラム・ソロへ繋げた。
不破はウッド・ベースにもたれかかり、植村の演奏を眺める。
今夜の植村は、やたらめったら手数が多い。ブレイキーみたい。
テンポはキープするが、リズムを支える気はさらさらなさそう。
タムをこれでもかと鋭角的に連打し、まるでメトロノームが何十台もあるみたい。
不破のグルーヴィなウッドベースは二人の演奏に埋もれ気味。
唸りながらの早弾きこそなかったが、暖かい低音だった。
続けて演奏された"ヨーロピアンズ"が今夜のベストテイク。
時間も40分弱とたんまりプレイされた。
演奏もテンション高く、大満足。聴いてるだけで額に汗が滲んだ。
「"ヨーロピアンズ"やろう」と、川下と不破が相談。
タイトルは渋さのHPで見たことあるが、どの曲かピンとこなかった。
でも川下がテーマを吹きだして思い出した。
スロー気味でロマンティックなバラードの曲だ。今までにも聴いたことあるや。なるほど、これが"ヨーロピアンズ"か。
川下のソロは無伴奏に変わった。
上体を上下に揺らしつつ、熱っぽくテナーを攻め立てる。
ひとしきりソロを吹いた瞬間、絶妙のタイミングでリズム隊が滑り込んだ。
いくぶん早めになったテンポで、ドラムとベースのコンビネーションへ。
川下は座って、ソプラノサックスを引っ張り出した。
再びテナーのソロ。川下の額に汗が滲む。
いきなりテナーを右手で構え、ソプラノサックスをわしづかみ。
高らかに2本吹きのソロを聴かせてくれた。
とにかく"ヨーロピアンズ"は演奏してて終わりが見えない。
コンボ演奏になったと思ったら、再度テナーのソロに。
暖かいグルーヴが店内へ充満し、ソロはいくたびも挿入された。
ここでさすがに休憩。30分弱かな。
店内のBGMはSouliveから、なぜかクリムゾンの"レッド"へ。
観客がいっせいにスピーカー方面を眺めて苦笑する。
不破も「ジャズ喫茶でかかるなんて」と笑ってた。
後半は短めな曲を立て続けに演奏。その場で選曲してた様子。
耳なじみしやすい曲ばかりだったが、破天荒な構成を期待したぼくにはちと物足りない。
なんだかこじんまりまとまった印象だった。
どの曲も比較的テンポは速く演奏される。
"股旅"でスネアを連打するアレンジがかっこいい。
わざと拍の頭を植村がずらすから、奇妙なノリになっていた。
つづく"レイディーズ・ブルーズ"も、じわじわテンポアップ。バラードよりも、ブルーズっぽさを前面に出した。
不破がしみじみとウッドベースでソロをとったのは、この曲だったかな。
バッキングに徹した不破だったが、後半で聴かせた味わい深いメロディはさすがだった。
サンバの曲では、植村の叩きっぷりが面白い。
手数が多いから、パーカッションのパートまで引き受けてるように聴こえた。
ドラムソロの冒頭ではスティックをタムに押し付け、ピッチを変えながら叩くのが効果的。
リズムのキープは左足に任せきり。淡々とハイハットで刻んでる。
いっぽう両手とバスドラは、奔放に動きまくってた。
しょっちゅう拍の頭はズレ、多連符がやたらと登場。
タムへスティックはしこたま降りそそがれた。
第二セット最後は"至上の愛"。これは好みな演奏だった。
メンバー一丸となって雪崩れ込む。川下は最初から最後まで吹きっぱなし。ひたむきな演奏だった。
川下のメンバー紹介しても、拍手がやまない。
不破が「なにやろうか」と川下に相談してる。
観客はほとんどいないのに。ありがたいことにアンコールへこたえてくれた。
"I shall be released"やってくれないかな、と思ってたら。
"imagine"を持ってきた。もちろん、ジョンの曲だ。
ソプラノサックスに持ち替えた川下が、切々とメロディをなぞった。
トランペットを吹いてるかのように、高々とベルを持ち上げ吹く。
つねに優しさを含めたソロだった。
後半はアンコールをいれて約1時間。
のどかな雰囲気がどこか漂う。この顔ぶれでは珍しい演奏だった。
TOKIや海といった、激しい曲をはずしたせいかもしれない。
この面子で、火が出るようなフリージャズをいつか聴いてみたい。
店内に出ると、雨は小ぶりだが寒さが増している。
でも彼らの暖かい演奏のおかげで、ちょっとは身体が火照ってた。