LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
02/10/28 西荻窪アケタの店
出演:藤井郷子カルテット
(藤井郷子:p、田村夏樹:tp、早川岳晴:b、吉田達也ds)
11月の頭から約3週間のヨーロッパツアーへ出る。その直前の国内ライブは動員も好調で、店内は満席だった。
オーナーの明田川荘之も姿を見せ、休憩時間にはピアノの調律もしていた。
前半セットはとくにMCなしで、淡々と演奏が続いてゆく。
ぼくが座ったのは店内の奥、ピアノの対角線上。吉田達也のドラムと早川岳晴のベースがガンガン響き、その上をトランペットが駆け抜ける。
必然的にほっとんどピアノが聴こえない。
うーん、このバンドはきっちりPAないとつらいかも。
あまり藤井カルテットの曲を覚えておらず、今回はセットリストはわからずじまい。
1曲目からいきなりかっこよかった。
ドラムとベースによる変拍子リフからスタート。
ほぼ単音でぶっとい音をひねり出すベースの譜割りへ、吸い付くようにドラムが鳴る。
続く2曲目はフリーな始まりで、トランペットの極低音がイントロ。
ピアノの弦をはじく音が飾りになった。
バックで吉田がファルセット・ボイスで即興のメロディをかぶせた。
今回ボーカルはノーマイク。スネアに顔を押し付け、響き線で共鳴させたりも。
前半セットの4曲中、後半2曲は比較的静かな雰囲気だったと思う。
やはり吉田のリズム感に耳が行く。
3曲目でトランペットとピアノで4/4のリズムで演奏するときも、ドラムはまともに4ビートを叩かない。
小節のあっちこっちにアクセントを付けて、奇妙なノリを作った。
盛り上がって吉田が激しいビートを刻むとき、ときおりシンバルを鷲掴みにして連打するさまがむちゃくちゃきまってる。
前半最後の曲もトランペットとピアノによる静かなムードから、後半には怒涛の盛り上がりへ突き進む。
テンションたかいながらも、どこか全般的に硬質な雰囲気だった。
田村のトランペットはフリーよりなときも、どこか音の背筋が延びている。
高速フレーズを吹き鳴らすさまがスリリング。
ピアノはほとんど聴こえなかったものの、あまり派手さはない。着実に音を置いてゆく感じ。
したがってドラムとベース・・・いや、むしろ早川の存在が鍵かも知れないな、と聴いていた。
吉田のドラミングは独自の呼吸で突っ走り始めると、アンサンブルの方向性が拡散する。
音像をぐっと締めていたのがベース。
早川が吉田と絡むとグルーヴが生まれ、フリーに振るととたんにノリが多様化した。
ちなみに今夜の吉田は比較的控えめなドラミング。
手数はあいかわらず多いが、爆走は少なくリズムキープと連打をきっちり使い分けていた。
拡散アンサンブルの魅力が炸裂したのは、後半二曲目。
全員がてんでに楽器を連打し、ドシャメシャなビートがかたっぱしからあふれかえる。
ピアノやトランペットはもちろん、ドラムもずっとソロを取るかのよう。
唯一、早川のベースだけに小節感を感じた。
ぼくにとって、今夜のベストテイクがこの曲。
方向性がまったく見えない、混沌としたアンサンブルがすごく刺激的だった。
なんにせよ、今夜の後半セットは快演ばかり。
前半戦は眠くて目をこすっていたけど、後半の演奏が始まったとたんサウンドにひきつけられっぱなし。
まずは5分くらいの短い曲から。
ドラムとベースが複雑なビートをつるべ打ち。あまりソロもなく、あっさり終了してしまった。
で、前述したスリリングな曲からメドレーで演奏されたのが、"The
sun in a moonlight night"。
プログレかハードロックか。ゆったりしたリズムがドラマティックに響く。
その上で早川が思うさまベースソロを披露した。
エレキベースがぶいぶいうねり、次々迫力ある低音が溢れる。ひたすら続く圧倒的なソロを、夢中になって聴いていた。
いつのまにかベースはリフに回り、ピアノのソロへ。
これも美しいメロディがよかったなぁ。
後半セットも特に藤井のMCはない。
ところが4曲目に演奏された"Ninepin"の前。
「この曲はベースソロから始まります。その一環としてCD宣伝とメンバー紹介しようかな」と言い、先日リリースされた新譜の紹介を始めた。
同じく物販してた吉田のCDについても喋り始め、吉田が補足する。
藤井は「みんな喋り始めた〜」とピアノに突っ伏し笑ってた。
ひとしきり喋ったあと、早川のベースソロ。
そして怒涛のテーマへ突き進む。この曲はトランペットによる切れのいいフレーズが聴きもの。
後半では微妙に楽器のバランスが変わり、比較的ピアノの音がよく聴こえた。
エンディングから切れ目なしに、藤井がピアノを激しくひっぱたく。
"Junction"だ。
この2曲でテンションは上がりっぱなし。とびきりのひとときだった。
"Junction"での中盤、吉田のワイルドな変拍子リフが好き。
静謐なピアノソロとの対比が素晴らしい。
比較的早めに終わったこともあり、観客のアンコールの拍手が続く。
藤井だけがピアノの前へ戻ってきた。
「こんなうるさい音楽、まだ聴きたいですか〜?」と笑う。
「最後は音楽的にやりますね」とギャグを飛ばして、ピアノソロ。
今までとはがらりと変わり、静を強調した美しい音楽だった。
冒頭は鍵盤を弾きつつ、グランドピアノの中へ手を突っ込みピアノ線をはじく。
鍵盤の合間合間。ほぼ半々の比率で、ピアノ線が鳴った。
藤井のピアノはジャズよりもクラシックを連想する。ドビュッシーとかサティとか、あのへんの感じかな。
メロディよりも滴るようにメロディが積み重なり、塗り飾られた。
最初はフリーに聴こえたが、次第に音へグルーヴが産まれる。
だが黒っぽさは希薄。透明な音が揺れるさまが素晴らしい。この一曲だけでも、今夜の価値は十二分にある。
それくらい、充実した演奏だった。
前後半あわせてニ時間弱。CDよりも加速した音像がいっぱいだった。
このメンバーでのセカンド・アルバム、でないかな。長いライブツアーを経て、またサウンドは変わるんだろうか。