LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
02/6/10 渋谷 LA-MAMA
〜吉田達也、叩きっぱなし〜
出演:Ruins、藤井郷子カルテット、インプログレ?!、灰野敬二&吉田達也
本イベントもラママが20周年記念の一環企画。タイトル通り、最近の吉田達也の関連バンドをまとめて聴ける豪華な企画。
さぞかし混むと思っていたら、いちおう満席だが立ち見スペースはほんのりゆとりあり。これもワールド・カップ効果かな。
仕事の都合で開演ギリギリに滑り込む。入り口近くで聴くことになり、肝心のドラム演奏が見えづらいところを確保した。
演奏はだいたい見えるが、吉田の表情はよくわからず。
ライトが明るめなのは嬉しいが、シンバルに反射して眩しかった。
今夜のドラム・セットは、2タムに2フロアタムにシンバルを4枚くらい。
他の楽器は使わずドラムとボーカルのみ。ぴちっと張ったチューニングで叩いてた。
ハットを始終踏み、両手は猛スピードでタムの上を駆け抜ける。
片手でシンバルをミュートしつつ連打するプレイを多用、ひときわかっこよかった。
激しく踏むせいか開きっぱなしになるたハットを、演奏中に素早く何度も治してた。
Ruins(19:15〜20:00)
(吉田達也:ds、佐々木恒:b)
のっけからいきなりルインズ。何でトリにしないんだろ。一番ハードだから、最初なのかな。
まずは「ルインズです。ラ・ママ20周年おめでとうございます」と軽く挨拶、ライブが始まった。
ずっしり重たく、隙間の多い新曲からスタート。今までのルインズにないタイプの曲だ。
数分演奏して次の曲へ移るとき、佐々木のエフェクト・セッティングがうまく切り替わらずに間があく。
「もう一回頭からやります」
吉田が苦笑しながらお客に告げる。
「ルインズです。ラ・ママ20周年おめでとうございます」
と、律儀に冒頭のMCからやり直すもんでウケてしまった。
今夜は耳慣れないメロディばかり。ほとんど新譜からみたい。
ときおり聴き覚えある曲は、最近のライブで演奏してたからだと思う。
佐々木はアップルのシールを貼った5弦ベースを使用。
エフェクターを足元に並べ、複雑に使い分けていた。
中間にMCはまったくなし。それぞれ数曲をメドレーにし、4ブロックくらいに分ける。
新譜対応のルインズは、さらに音楽性が進化してた。
怪鳥ボーカルに高速変拍子リフで畳み込むルインズ節も健在ながら、冒頭みたいに間を活かした演奏も取り入れる。
佐々木のプレイはギター風要素が強くなり、サンプラーによるフレーズの多層化も積極的だった。
二人の対話もより手が込み、曲展開はさらに突拍子のなさが加速。
パワフルに聴き手を圧倒する迫力より、アンサンブルの複雑さを志向したようだ。
ループがスペイシーな「WANZHEMVERGG」が新鮮だったな。
終盤で「ISSIGHIRUDOH」を演奏。佐々木のベースリフがかっこいい。
以前ライブで聴いた気がするな、この曲。
複雑怪奇な曲展開を全て暗譜で押し通す、脅威のライブだった。
音量が小さめで、個々の音がきっちり聞分けられたのも嬉しい。
藤井郷子カルテット(20:05〜20:45)
(藤井郷子:p、田村夏樹:tp、吉田達也:ds、佐々木恒:b)
ルインズが終わって、セットチェンジ。
数分たっただけでいきなり客電が落ちる。
実際に演奏が始まるまでに、もう5分ほどかかったけど。
吉田はほとんど休憩も取らず叩くことになる。すごい体力だ。
先日、全米ツアーを成功させた藤井郷子カルテットだが、今夜はベースが佐々木の特別編成。(オリジナルメンバーは早川岳晴)
ちなみに早川岳晴は、今夜トリプル・ブッキング。アケタの緑化計画も欠席し、六ピでCOILのライブに出演してた。
藤井郷子カルテットを聴くのはかなり久しぶり。
グランドピアノにきっちりPAを通し、バランスは上々。むしろベースの方が聴こえづらかった。
藤井カルテットの特徴は、ジャズメン3人に「非ジャズ」の吉田達也が加わる面白さと思っていた。
ところがベースまで非ジャズ要素が加わったことで、さらに音楽がアヴァンギャルドへ移行する。ルインズ対ジャズメンの対比が強調された。
いや、むしろ吉田のリズムが「異物」にならず、音像に馴染んでたかも。
もっとも4ビートは刻まず、パーカッシブな連打中心だった。
冒頭は速いフレーズのユニゾンから。
ソロへ移行するが、佐々木はフレーズをランニングさせず、奔放に低音を提示した。もっとも最初は抑えてる感触だ。
自己主張始めたのは"Junction"前後かな。
田村はトランペットを吹かないときはキャップを目深にかぶり、うつむいたまますっくと立つ。
激しいビートが交錯する中、立ち尽くす構図が絵的にきまってる。
トランペットが鳴りピアノのバックアップが始まると、とたんにジャズへ風景が変わる。
そこへルインズ部隊が斬り込むスリリングさがいい。
2曲目の冒頭は、藤井がグランドピアノの弦を引っ掻く奏法がイントロ。吉田が声で攻める。
本セッションで吉田が声を使ったのはこのときだけ。あとはマイクスタンドを頭の後ろへ追いやり、ひたすら叩いてた。
がしがしに盛り上がりは"Junction"。吉田の猛烈なドラムリフを堪能できた。
ここまでで40分弱。ライブ予定を紹介したあと、「短めにね」を合言葉に、さくっと一曲演奏してセッションが終わり。
本日の各種バンドの中で、もっとも異色な音だな。
インプログレ?!(9:20〜9:45)
(ホッピー神山kb、ナスノミツルb、吉田達也ds)
セットチェンジに少々時間がかかる。
吉田はタオルを首に引っ掛け、ドリンク片手にフロアをうろついていた。
セッティングがほぼ完了しメンバーがステージへ。
ホッピー神山がシンセのサウンドチェックをする中、小刻みに吉田のハットが絡み、自然に演奏が始まった。
インプログレ?!名義では、今年1月のライブに続く二回目。
もともとは戸川純のバック・メンバーが、ライブ冒頭に行っていた即興をバンド名義へ昇華したもの。
コンセプトは「インプロのプログレ」。すなわち、インプログレってわけ。
ホッピーが朗々と歌い口火を切る。彼の即興歌はドイツ語風に響いた。
キーボードのフレーズにナスノや吉田が絡み、ぐいぐい盛り上がった。
今夜のホッピーはミニムーグ他各種キーボードを使用したセッティング。ムーグ特有のぶっとい音色が快感だ。もっと多用して欲しかったな〜。
一曲目でちらりと使ったくらいだろうか。
インプログレ?!はホッピーの構成力が今夜も耳を惹く。
混沌と盛り上がらず、繰り返しを意識した音作り。即興にありがちな散漫さがなく、聴き応えある演奏に仕上がった。
ナスノの演奏は地味ながら、サウンドをしっかり支える。
ホッピーも吉田も突っ走った時、ゆったりした低音でビートを明確にして、着地点をきちんと提示した。
互いが演奏を注意深く聴き、誰かのフレーズがきっかけで一気に突っ走るノリも爽快だ。
CDでじっくり聴きこみたいな。
20分ほどかけて一曲を演奏。
MCでホッピーがバンド名の由来を紹介したあとで「譜面どおりに演奏しようね〜」とおどける。
2曲目はシンセの静かなフレーズから。
途中ホッピーはグランドピアノへ移動し、最後まで弾ききった。
この辺りだったかなぁ。灰野敬二が店内へ登場し、楽屋へ消えてった。
ぼくの記憶便りだけど。サウンドそのものは前回のライブの方がまとまってたと思う。
とはいえ今夜も聴きどころ満載。いい演奏だった。
ホッピーの音が目立つ分、つい彼中心に聴いてたものの。
もちろん吉田のドラムはひたすらパワフル。ぜんぜんテンションが下がらない。
結局全2曲だっけ?わずか40分のライブだった。インプログレ?!でワンマンやってくれないかな。
ちなみにこの演奏と次の灰野とのセッションは、客席後方で佐々木がPCを使って録音してた。CD化するんだろうか?楽しみだ〜。
灰野敬二&吉田達也(21:55〜22:30)
(灰野敬二:ds,vo、吉田達也:ds,vo)
トリは灰野と吉田のセッション。このコンビも先日、中国ツアーを終わらせたばかり。
てっきりギターとドラムのバトルかと思いきや。意外なことにドラム・デュオだ。
いかな灰野とはいえ、吉田にドラムで挑むとは・・・。
セッティングに手間取ったものの、さほど待たせずライブの開始。
最初はさすがにペースを掴みづらいのか、お互い探りあうようだ。
音数で言えば吉田が圧倒的。かといって灰野も自己主張しないわけがない。
じきに吉田が一歩引き、盛り立て役を受け持った。
メゾピアノとフォルテを使い分け、吉田が野性的にタムを連打する。
ボリュームが変化する合間を縫って、奔放に灰野がタムを引っ叩いた。
轟然と二人が突っ込む瞬間が、ものすごくわくわくさせる。
灰野は当然リズムを刻もうとしない。上半身を激しく揺らし、倒れこむようにタムへスティックを叩きおろす。
先日のショーボートでのライブより手数は多く、ドラマーっぽい演奏だった。
二人のビートは決してかみ合わず、奇妙なポリリズムが生まれる。
日本の大太鼓を使った合奏みたいな、不思議にサウンドへ親近感をおぼえる。
灰野はシャウトも使用。最初こそマイクを使って絶叫してたが、しまいに屈みこみ、ドラム用にセットしたマイクを使って吼えた。
そこへ降り注ぐ吉田の連打。面白いぞ。
ふたたび灰野がドラムを叩き始めしばらく経過。ついに吉田は自分のビートで突っ走り始めた。
しまいにはてんでにドラムを乱打。リバーブのたっぷりかかった打音が激しく響き渡る。
最後は静かにエンディング。
灰野がボディアクション付でたっぷり間をおいてタムを叩き、吉田があわせる。
一音・・・一音・・・。そっと演奏が終わった。
すっと二人がステージを去る。アンコールは特になし。
最後まで見て、もっともドラミングが複雑だったのはやっぱりルインズ。
基本は激しいドラミングだが、バンドが変わるにつれ間を活かしたものに変化する。だからこそ、ルインズが冒頭なのかな。
なんにせよ。吉田達也ファンにはこたえられぬ、内容いっぱい盛りだくさんで充実のライブだった。