LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/5/3   高円寺 SHOW BOAT
  
出演:灰野敬二 〜生誕記念 Live〜
 (灰野敬二:vo、g、ハーディガーディ、ブルガリー、ds、electronics)


 灰野敬二はバイオによれば1952年生まれ、今年で50歳。
 まったく年齢を感じさせない、パワフルなライブだった。

 店内にはズラリと椅子席。50人くらい入ったか。ほぼ席が埋まる盛況だ。
 とうぜん禁煙。ステージでは盛大にお香が焚かれる。

 ステージ中央奥にドラムセット。挟むようにアンプが2台ある。
 下手手前にはテーブルが二つ。下にはギターのエフェクターがずらりと並び、テーブルの上にはノイズマシンがやまほど置かれた。
 
 ドラムセットとテーブルの横にそれぞれマイクが立ち、声も拾えるセッティング。
 ステージ奥隅に、ちょこんとブルガリーがあった。

 さまざまな楽器を演奏するライブになりそう。
 期待が高まる。だがさすがに、今夜の怒涛のライブを予想できなかった。
 
 灰野が登場したのは20時ちょうどくらい。
 ステージは照明を絞られ、黒づくめな灰野がぼんやり見える程度。
 ギターを構えて、フルボリュームでかき鳴らす。

 始まって3秒で、盛大に耳鳴りがはじまった・・・。

(ステージ構成)
1.ギター(約30分)
2.ノイズDJ(約50分)
3.ボイス(約20分)
4.ハーディガーディ(約40分)
5.ブルガリー(約20分)
 (セットチェンジ)
6.ドラムス(約15分)<不失者?>
7.ギター(約20分)<不失者?>

 今夜はたぶん全てインプロ。経過時間は概算です。(6)以降でベーシストがステージに加わった。
 メンバー紹介なかったけど、不失者としてのライブかな。だとしたら小沢靖のはず。

 冒頭のギター・ソロから、もう打ちのめされた。
 灰野は客席へ背を向ける半身で、ステージ上を二三歩づつ前後しながら、ひたすら激しくストロークを繰り返す。
 
 ときおりエフェクターを踏むが、音の馬鹿でかく変化はさっぱりわからない。
 ゆったりした旋律が豪音の奥から断続的に産まれた気もするけど・・・ぼくの幻聴かも。自信ないな。

 常にアンプへギターを向ける位置で動き回る。もしかしたら灰野はフィードバックを操っていたのか。

 体全体を緩やかに動かしつつ、ひたすらギターのドローン・ノイズ。
 ほとんど展開なく、えんえん続いたから堪らない。すさまじいオープニングだった。

 ちなみに音を出し始めたところで、スネアの響き線が共鳴してノイズを出した。
 さっと手を伸ばし、音を止める灰野。
 豪音サウンドなのに、余分なノイズを消す繊細さが印象的だった。

 20分くらいたったところで、一瞬音が途切れる。
 すうっと一息ついた後、再び豪音へ。音の組み立てが面白い。
 
 困ったことに音が炸裂するあまり、灰野の手元と鳴る音の関連性がさっぱりわからない。
 激しくストロークしながらも、耳に突き刺さるのはわぁぁんと響く豪音。
 アクションとで音が一致しないアンバランスさもユニークだ。こちらは灰野が意図してない効果なはず。たぶん。

 さんざん豪音を引き出したあと、ドローンノイズ一つ残しギターを置く。
 ひっそりとステージ下手の椅子に座り、ノイズマシーンを操作し始めた。

 ここからしばらく、視覚的に単調なステージが続く。
 いかにも誕生日祭。観客へのサービス精神が皆無なステージングだ。

 詰め込まれた椅子席だから、席から立てない。ひたすら音との対峙を強いられる。
 MCはもちろんなし。
 ライブというより、灰野の実験室の光景を見学する趣だった。

 あちこち神経質につまみをいじり、音が微妙に微妙に変調される。
 うねりがえんえん継続されるだけ。一本のノイズの表情をかすかに変えつづけた。

 ノイズ系ミュージシャンにありがちなステージだが、他のミュージシャンと根本的に違うのは、灰野の場合「ノイズを出す」ことが目的ではないこと。
 たまたまノイズっぽい音を操ってるだけで、単純に音と戯れつづけてるような一貫性を感じる。
 以前パーカッション・ソロライブを聴いたときも感じたが、灰野の行動原理は音色とひたすら戯れるストイックさにあると思う。

 それにしても。音楽への集中力がすさまじい。
 これだけ長いステージでまったく休憩しないにもかかわらず、かけらもテンション下げず音を出しつづける精神力はさすが。

 ひとしきり電子ノイズを変調させ、横に置いた機械をいじる。
 リズムボックスかな?妙に引っかかりのあるビートが、提示された。

 リズムがループされるのに、さっぱりダンスを促されない。
 12/8拍子くらいだろうか。訛ったリズムが不自然さが効果的な、独特のビートだった。

 つねに己の肉体を意識した灰野の演奏だが、このノイズ・マシーンをいじるときだけは、視覚的に面白くも何ともない。
 ただつまみをあちこちいじってるだけなんだもん。こういう灰野は珍しい。最近よくやってる、DJの影響なのかな。

 だが、次第に灰野の体が動いてきた。
 小さなコンクリブロックに足を乗せ、踏み鳴らす。体全体を使いつつ、指先でボタンを連打。
 リズムパッドも用意してたみたい。即興のフィルがリピートされる。
 ちなみに、この段階でも響く音は大音量。耳が休まるひまない。

 えんえん操作を続けた後、マイクへ手を伸ばした。
 機械の音を落とし、か細い声で唸り始める。
 まずはファルセットも混ぜた高音。続いて、低い声。
 口から出る音は言葉にならず、喉を震わせているだけ。

 リバーブを思い切り効かせ、唸る声をサンプリング・ループさせながらさらに声を重ねていく。
 最近よくやるプレイだが、ぼくはこの効果大好き。ここまで続いた豪音でくたびれてたが、集中力が戻ってきた。

 つづいて抱え込んだのはハーディガーディ。音を聴くのはもちろん、演奏風景も初めて見た。
 右手でぐるぐるつまみを回転させ、ひたすらドローンを引き出す。
 アンプへフルボリュームで通し、音が割れてがんがん耳へ突き刺さった。

 ときおり音程を微妙に変えながら、淡々と音に向き合う。
 いつしかぼおっとしてきた頃。
 灰野はマイクを引っ張り出し、ハーディガーディを伴奏に歌い始めた。

 日本語の歌詞だったが、詩を朗読するイメージ。
 メロディはほとんどなく、腹から声を絞り出す。

 ひとしきり言葉を吐露したあと、ふたたびハーディガーディをプレイ。
 今度はすこしメロディらしきものが浮び上がる。ときおり偶発的に現れる和音が、すばらしくスリリングだった。

 終盤で、銀紙を持ち出す。
 口で引きちぎり、ハーディガーディのドローン部分へ詰め込んだ。ミュートしてたのかな。
 キンキン鳴りつづける耳で聞き分けできないが、微妙に音が変わってたかもしれない。

 終りそうで終らない。なんどもハーディガーディを構えなおし、灰野は弾き続けた。
 ノイズDJのとき、横に置いたペットボトルで喉を湿らせてたけど。
 あとはなにも気を緩めない。ひとときも休まず、豪音を搾り出しつづける。

 続いて手にしたのはブルガリーだった。
 やはりリバーブをたんまり効かせたフルボリュームながら、高音中心の響きだからいくぶん耳に優しい。
 
 最初は三味線か琵琶のようにかき鳴らしつつ、唸り始めた。
 今度も日本語の歌詞。観念的な言葉が断片的に聞こえるが、これらも即興なのかな。
 ボイスの時と同様に、今度はブルガリーのフレーズをサンプリングして音を重ねていく。
 
 ふっと口を閉じ、ブルガリーのソロを始めた。べらぼうにうまい。
 ネック上をすばやく指が動き、味がある高速な旋律が溢れる。
 ギターの時はストロークこそ早いが、シンプルなフレーズを多用する灰野だけに、素早く旋律を操るさまは新鮮だった。

 ここでいったんセットチェンジ。やっと灰野も一休みかな。
 といっても、5分程度。
 のっそりとベースが登場し、セッティングを始めた。
 
 ふたたび灰野が現れ、ドラムセットに座った。
 バスドラにスネア、フロアタム、ハイハットにシンバル数枚。タムタムを付けない変則的なセットだ。

 上体を派手に揺らし、倒れこむようにスネアを叩く。
 激しく連打。リズム・パターンはない。パーカッションとしてスネアを叩き、同時にバスドラを踏み鳴らした。

 ベースはシンプルながら効果的。フレーズよりも響きを重視した演奏スタイルだった。
 灰野の動きを注視しながら、巧みに低音成分を積み重ねる。
 ここでもドラムを5秒くらいと長めにサンプリングし、さらに即興を重ねることで音を多層構造へ膨らましていた。

 ことさら灰野の動きが演劇的。フレーズの組み立てらしきものは特にない。
 猛烈なテンションでスネアを連打したかと思えば、、シンバルへ倒れこむようにスティックを叩きつけ、そのままスネアへ突き落とす。
 ぐいぐいテンションがあがっていった。
 
 振り乱す長い黒髪は、逆光のライティングで銀に輝く。

 鋭く連打するフレーズをサンプリング。
 ステージに響き渡る中、するりと灰野がドラムセットを降りた。
 ギターを構え、ステージ前方へやってくる。

 ベーシストと視線を交錯させ、ドラム・ループにのって再び豪音ギター。
 クライマックスにふさわしい、聴き応えある演奏だった。えんえんさまざまな楽器を弾きまくったあとなのに。この集中力は心底頭が下がる。

 シンプルなリフをベースが繰り返す。ゆったりとした硬質なグルーヴが心地よい。
 その上で、灰野が激しくギターをかき鳴らした。
 ドローンは控えめで、ひたすらストロークをぶちまけるハイテンション。
 
 ギターを弾きながらおもむろにドラムセットへ向かい、ドラム・ループのスイッチを足で切る。
 
 あとはギターとベースのみ。灰野が奔放に演奏する間へ、ベースが滑り込み盛り立てるパターンが多かったかな。

 アイコンタクトが飛び交い、エンディングへ。
 二人は深く一礼して、ステージを去った。

 実に3時間20分にわたる、ノンストップライブだった。
 緊張した音像が続き、聞くほうも精神力が必要。
 終演後はキンキンと耳が鳴りっぱなし。
 灰野の存在感に圧倒された、なんとも強烈な生誕ライブだった。

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